カルみと 太った話
シナリオネタバレあり
@popo_trpg_ss
ようやく手に入れた逢瀬の夜、神無三十一と縞斑狩魔はベッドの上に正座をして神妙な表情を浮かべていた。
普段二人の間に流れる甘い空気とは程遠いそれに神無が居心地悪く俯いていると、やがて縞斑が意を決した様子で口火を切る。
「……神無ちゃん」
「な、なに……?」
「俺は君と対等で居たいと思ってる。だから正直に答えてほしい」
びくりと神無の肩が飛び跳ねた。
分かりやすく動揺している彼の瞳がおずおずと持ち上がって自分を捉えたことを確かめると、縞斑はゆっくりと言い聞かせるように言葉を続ける。
「…………太ったよね?」
部屋に沈黙が流れ、神無がうろうろと視線を泳がせた。
その反応だけで答えとしては明確だったが、神無の口から聞きたいと縞斑が根気強く待ち続ければ、ついに白状した神無はぽそぽそと口を開く。
「に……2キロ、くらい……?」
「なる……ほど?」
探るような声色になった縞斑が、神無の体へ視線を落とした。
頭の先からつま先までをじっと観察するような眼差しに耐えかねて、涙目の神無がシャツで自身の体を隠しながら抗議の声を上げる。
「今ちょっとサバ読んだなコイツって思っただろ!?」
「いやそこまでは、」
「間違ってないし!小数点以下切り捨てしたら約2キロだもん!!」
「切り捨てにした時点で四捨五入したら3キロになるって白状してることになるけど大丈夫そう?」
「うぐ……」
自ら墓穴を掘ってしまったことに気がついた神無が、苦しげな呻き声を上げて口籠った。
彼はしばらく俯いて自分の体を見下ろしていたけれど、やがて目に涙を浮かべて困り果てた様子で呟く。
「やっぱり見て分かる……?」
「いや?目視ではまったく」
「じゃあなんで……」
神無は元々標準体型よりも痩せ型だ。本人が筋肉の付き難い自身の体質を気にしているとおり、トレーニングを積んでも小鹿のような体つきをしている。
彼の軽やかな剣術はその肉体由来であるため、縞斑を含む周囲の人間としては、その体質を生かした鍛錬を積んだ方が良いと考えていた。
神無も自分の武器やないものねだりを理解はしているようだが、男としてたくましい体に憧れるのは当然のことである。
そんな細身の神無が多少体に肉を蓄えたところで、せいぜい標準体型に近づいた程度だろう。そう深く気にしていなかった縞斑は、どこで気がついたのか怯えた様子の神無に言葉を続けた。
「最近妙に甘いものへの食いつきが悪いなーと思って」
「そ、そうかな?」
「それに、サングラスでカロリー計算してるでしょ。サラダ食べたがったり、カロリー低めのスイーツ探したり」
「…………うん」
「で、極めつけには『服着たままセックスしたい』だからね。さすがに分かると思うよ」
「たしかに…………」
聞けば聞くほど分かりやすいと納得した神無は、気まずそうに頷いてシャツの裾をぐいと引っ張って体を隠す。
着衣での行為については縞斑もやぶさかではなかったが、言質だとはしゃいでいる場合ではないと踏みとどまったのである。
「で、どこに肉ついたの?腹とか?」
「んーん、どっちかっていうと腕……ちょっとぷにっとしてきた気がする……」
「なるほど……少し触っていい?」
「ん…………」
観念した様子で頷く神無の二の腕に触れた縞斑だが、少しふっくらしただろうかという微かな印象の変化しか抱かない。おそらく、太ったという話を聞かされていなかったら疑問を抱くことなく抱きしめていただろう。
「うーん……確かにちょっと触り心地良くなったかな、くらいの感覚だけど」
「急に気遣ってくれるじゃん……いつもはデリカシーなんてないくせに……」
「あれ?なんで俺貶されたんだ?」
頭を抱えてうんうんと唸る神無を慰めるように頭を撫でた縞斑は、必要以上に深刻に事態を受け止めている彼にゆっくりと語り掛けた。
「俺としては無理に痩せなくてもいいんじゃない?と思うけど、神無ちゃんが痩せたいと思うなら止めないよ」
「うー……」
「ただし無茶なことしたらせっかくついた筋肉から落ちるから、そのあたりのメニューはちゃんと計画的にね」
「……うん。このまま太ったらいやだし、先輩に重いって思われたらぜんぜん立ち直れないから、前の体重まで戻す」
周りがどれだけ気にならないと言っても、神無本人が気にしているのであればある程度は好きにさせようと縞斑は彼の決意を受け入れる。
これだけ伝えておけば彼も無理なことはしないだろうし、相棒であるディーノがそのあたりはきっちり管理してくれることだろう。
「じゃあお土産はしばらく控えたほうがいいね」
「…………あぁ……」
神無に会うときは頻繁にスイーツを買っていく縞斑だが、ダイエット中は足枷にならないように持ち込みを控えるべきだ。
神無も縞斑の気遣いを理解しているのか、悲しげな声を漏らして後ろ髪を引かれる様子で冷蔵庫に眠っている本日のお土産のプリンを振り返る。
「ダイエット終えたら好きなもの食べに行こう」
「……うん。速攻で痩せるから、待ってて」
涙目で頷く神無を労った縞斑は、さて、とその場の空気を切り替えるように神無の肩を軽く叩いて顔を覗き込んだ。
「一応聞くけど、ほんとに服着たままするの?」
「う……い、いや…………ぐちゃぐちゃになるからなぁ……」
縞斑に太ったことが露見した今、熱がこもっていつもより何も考えられなくなるシチュエーションを自ら望む必要はなくなった。
ぐちゃぐちゃになるのは服を着ていようが着ていまいが同じことだとは思うが、落ち込んでいる神無に漬け込むのはさすがの縞斑も気が引ける。
「じゃあ脱がせてもいい?」
「……お願いします」
神妙な顔で頷く神無の相変わらず細い華奢な体を、縞斑はいつものように抱き寄せた。
身を委ねようとした神無は、しばらくは縞斑にもたれるの躊躇っていたが、やがて意を決した様子で縞斑の胸に飛び込む。
言われなければ全く気にならない程度である上に、このくらいで根を上げるほど半端なトレーニングはしていない。
何も言わずに神無を受け止めた縞斑が笑えば、ぐぬぬと悔しそうに小さく唸った神無が顔を上げてキスをする。
揶揄ったつもりはなかったが、今はもう少しだけ仕返しと言う名の彼からの積極的な行動に身を任せようと縞斑はひっそり笑みを浮かべるのだった。
終