@not_Sleepss
「そういえば例の件どうなってる」
――出た。
ウィリアムに訊ねられ、エリゼオは顔をひきつらせた。
こんな真面目な顔をして兄は「ドラゴンとフェンリルはいそうか」と訊いているのだ。
ドラゴンとフェンリルは、大陸で伝説の存在である。
ここ五百年、目撃情報はなく、いずれもその姿をはっきりと捉えられた者はいない。文献にも記されている。
何真面目に訊いてきているんだ、この人……。と思っているが、口には出せない。基本的に、エリゼオはこの兄を怒らせないよう、常に細心の注意をはらっている。
ことの発端は、この家の全員が可愛がる末っ子・シリルの無邪気な一言だ。
シュルディアルとガニエへ行く前に「フェンリルとドラゴン見たいな~! どっかで見れるかな?」とジルベールに訊いていた。その瞬間、ウィリアムとクロード、アルベルクの目の色が変わった。
ちなみにジルベールは「そんなのを見つけてしまったら、シリル様が大変なんですよ」と、肯定も否定もしていなかった。
「いそうな場所があったら買ってもいいぞ」
「土地を?」
「ああ」
仕事をしながら、ウィリアムは頷いた。
――何言ってんだ、この人。
「予算は気にしなくていい。見つかり次第、呼んでくれ」
――そんで倒す気じゃん、この人。
エリゼオももちろんシリルが可愛いし、可愛くて可愛くて、できることは何でもしてあげたいと思っているが、ドラゴンとフェンリルは難易度が高い。
この家は無駄に力があり、その力をふるうことに一切の躊躇がないせいで不可能を可能にしてしまうことが多いから、麻痺している。
最初はうまくはぐらかしていたのだが、最近は訊かれる頻度が高くなってきた。
同じく転移魔術が使え、さらに研究者肌のアルベルクは真面目に(しかも自主的に)探していた。「今、生き残ってる魔物の生態系と特徴、分布をみると存在している可能性が高い」などと言って希望も見出していた。最近はこの研究で忙しいらしい。何してるんだよ。
しかし最近はエリゼオも真面目に探している。兄の機嫌が悪いのだ。
無理もない。まだ子どもの、可愛いシリルが成人前に親元を離れ、治安や麻薬汚染が心配されるシュルディアルとガニエへ行くことになった。すべて王家のいざこざのせいだ。
ウィリアムは実のところ、王家に対し、無茶苦茶怒っている。クロードもそうだ。同行予定はなかったが、押し切って、自分が守ると出て行った。
ウィリアムも行きたかっただろう。
シリルの成長を見守り、ずっと守ってきた。母から「大事に、この子は特によく見てあげて」と言われていた。母はこうなることを知っていたのだろうか。
できる限り希望を叶えてあげたいと思っているのはそんな事情もある。
クロードがシリルについていってしまったので、ウィリアムは王都を離れられない。フラストレーションも溜まっている。
「王家を使ってもいい」
「いや、流石にそれは……」
「シリルが見たいと言っているのに?」
「さすがにうちが本気でドラゴンやフェンリルを探しだそうとしてたら、王家も自由にさせておかないんじゃない?」
ウィリアムは鼻で笑った。
「俺とクロードを押さえつけるだけの力があるなら、殿下にシリルをやっても良いんだがな」
ーーー
ジルベールは期待感を上げてがっかりさせるのも嫌だし否定されて嫌われるのも嫌なので、このあたりは濁します笑
レオンは知ったら自分も探そうとします。
シリルは前世の記憶で「異世界ならドラゴンとフェンリルいるはず」と思って言ってるだけです。