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ふたりきりの時間はご褒美に

全体公開 ヌヴィリオ 1 3 2172文字
2026-07-18 21:25:45

みんなで海水浴を楽しみつつ、こっそり恋人の時間も楽しんでいるヌヴィリオの話

Posted by @otroom0v0

 からっとした日差しの下、メリュジーヌたちが浜辺を駆けまわり、楽しそうに海を泳いでいる。そんなのどかな景色の中に、軽装の最高審判官ヌヴィレットが混じる、なんとも不思議な状況……水着にシャツを一枚羽織ったリオセスリは、持参したビーチチェアに体を預けて、彼らを眺めていた。気になっていた童話集を読むはずが、それよりも面白いことが目の前で繰り広げられている。
 ――こうして見ると、父親って感じがするな。
 シグウィンと連れ歩く姿もそうだが、メリュジーヌと過ごしているヌヴィレットは、父性を滲ませている。大きく包み込むような慈愛を感じて、リオセスリまで穏やかな気分になった。
「ねぇヌヴィレット様、一緒に泳ごうよ!」
「だめ! 私たちと一緒に、素敵な貝殻を集めるの!」
「こらこら、みんな落ち着いて。ヌヴィレットさんが困っちゃうのよ」
 メリュジーヌに囲まれて、両手を引かれるヌヴィレットは、眉を下げながらも嬉しそうに笑っていた。とりなすシグウィンも、いつもより浮かれているように見える。
 ――なんかいいな、こういうの。
 子供の頃、手に入れることのできなかったものが、ここにある。
 リオセスリはゆったりと足を組んで、童話集のページを開いた。挿絵付きで、有名なものからあまり知られていないものまで、幅広く収録されている。
 心地よい波の音と、メリュジーヌたちの賑やかな声を聞きながら、リオセスリはしばし読書に耽った。物語の世界に飛び込んで、主人公と共に歩いていく。
 そうして、どのくらい経っただろうか。ふと影が差して顔を上げると、いつの間にかパラソルが立てられていた。角度を調整しているヌヴィレットの姿に、顔が綻ぶ。
「ありがとう、ヌヴィレットさん」
「ずっと日に当たると、肌が焼けてしまうからな」
 言われて足を見る。幸い、わずかに皮膚が赤くなっただけで、痛みはなかった。ヌヴィレットが気を遣ってくれなければ、こんがりと肌が焼けて、シグウィンに軟膏を貰うことになっただろう。
 パラソルを立て終わったヌヴィレットが、隣に腰を下ろす。彼のビーチチェアも用意するべきか、と本を閉じた時。腕に手を添えられて「このままで構わない」と言われた。そんなヌヴィレットに、ほんの少しだけ身を寄せてみる。
「メリュジーヌたちの相手はいいのかい?」
「彼女たちは今、水中で貝殻探しをしている。シグウィンに任せて、私は休憩させてもらった」
 それを聞いて、ビーチチェアの横に置いていたバスケットに手を伸ばす。ヌヴィレットのために用意していた水のボトルを取り出すと、彼に差し出した。
「ほら、水分補給」
「ありがとう」
 受け取ったヌヴィレットが、心地よさそうに目を細めて水を飲む。そんな彼の額には、汗ひとつ浮かんでいない。水の龍王ともなると、人間の姿をしていても、体の仕組みが違うのだろうか。
 などと考えていると、ヌヴィレットと目が合った。水を飲み終えた彼が、静かに息をついて、リオセスリの手を握る。ひんやりとしたヌヴィレットの手が気持ちよくて、リオセスリは指を絡めながら、自らの頬へ導いた。
……あんたとこうして海水浴を楽しむなんて、少し前の俺にはきっと、想像も出来なかっただろうな」
 くくっと笑った後、ヌヴィレットの手に口づける。メリュジーヌがいる間は何とも思わなかったのに、こうしてふたりきりになると、デートをしているような気分になった。
 もっと彼に触れて、キスもしたかったが、いつ見られるかも分からない。せめてもの慰めに、ヌヴィレットの手に頬ずりをして息をついた。そうして離れようとした時、彼がリオセスリに覆い被さって、銀のカーテンが下りてくる。何かを言うよりも先に、ヌヴィレットと唇を重ねていた。しっとりと触れる感触に、リオセスリは静かに目を閉じる。緩やかな動きで互いに唇を食み、そっと舌を絡めるたびに、のぼせ上がったような心地になった。
 ――こんな格好だと、変な気分になるな。
 ヌヴィレットの手が、リオセスリの首筋を撫でる。焦らすようにゆっくりと触れた後、その指先が胸元へと滑った。素肌に触れられると、艶めいた夜を思い出しそうになる。
 そろそろ離れなければ、と思った時。ヌヴィレットの手がリオセスリの腰を撫でて、咄嗟に掴んで止めた。肩を押して強引に離れると、やや不満げな顔をした恋人の顔がある。
……そんな顔をしても、今はダメだぞ」
 表情の変化に乏しいヌヴィレットだが、明らかに落ち込んだ様子で「そうか」と引き下がった。そんな彼に噴き出しそうになり、咳払いで誤魔化した後。リオセスリは「でも」と言葉を続けた。
「いい子に待てたら、後でご褒美をあげてもいい」
「本当か?」
「ああ。だから今は、メリュジーヌたちのことを優先してやってくれ。俺との時間は、その後でいい」
 するとたちまち、ヌヴィレットの表情が明るくなる。彼は立ち上がって「では、様子を見てこよう」と軽い足取りで浜辺を歩き、海の中へ潜っていった。
 そんな恋人を見送ると、リオセスリは触れられた唇の感触を思い出し、ふっと笑う。
 ――俺だって我慢してるんだ。対等じゃなきゃフェアじゃない。
 今夜は眠れないな、と覚悟を決めた後、リオセスリはつかの間の昼寝を楽しむことにした。


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