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ヤツのせいで風呂に入れない

@nat_zki
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2016-02-25 15:21:12

#性癖読解ゲーム

 幼なじみの気持ち悪い根暗野郎が死んだ。青信号で横断歩道を渡っているときに、信号無視の車にはねられたそうだ。即死だったらしい。
 それは別にいい。いや、ぜんぜんよくないけど、まだ理解できる。ちなみに納得はできていない。コイツ簡単に死にそうだなーと思っていたら、ほんとうにあっさり死んでしまうなんて。信じられなかった。三歳のころから十四年間、不本意ながらずっとそばにいた人間が、ほんの一瞬でこの世から消えてしまう。そんなオカルトめいたことがあっていいのだろうか。
 でも、理解も納得もできないことが、正真正銘のオカルト現象が、現在進行形で私の身に起きていた。
 死んだ根暗野郎は晴れて幽霊となり、化けて出るようになったのだ。それも、入浴中に。
 私が裸になって風呂場に入った瞬間、ヤツは浴槽に現れる。半透明ではあるものの、生前と変わりない姿で。制服のブレザーもきちんと着こんでいる。
 私はすっぽんぽんなのに、ヤツは着衣。理不尽である。もちろん、全裸の幽霊のほうが嫌だけど。
「鹿野さぁ……」
 私はタオルで胸と股間を隠しながら、幽霊――鹿野に声をかける。
 鹿野は長めの前髪越しに私を見上げ、にやりと口の端を吊りあげた。相変わらず腹を殴りたくなる笑顔だ。
「やっと俺と話す気になったんだ。一週間ずっと無視してきたくせに」
 若干鼻が詰まっていそうな声も、生前となんら変わりない。ちゃんと鼓膜が震えて、物理的な音として認識している感じがする。
 私は露骨に眉をしかめた。
「今日は家族がいないから。風呂場であんたと話していても、親に心配されたりしないんだよ」
「なるほど、この家には俺とおまえしかいないってわけか」
「そういう言い方やめてくれない? あと、鹿野は幽霊だから、いてもいないようなもんでしょ」
「学校でもそうだったしね。生きてるときから幽霊みたいなもんだった」
「あ、うん……」
 私は言葉に詰まってしまう。鹿野はそこはかとなく気持ち悪い性格をしていることからわかるように、高校では友だちがいなかった。前髪の長ささえなんとかすれば顔はそんなに気持ち悪くないけど、斜に構えた態度がちょっと気持ち悪いからだ。根暗のくせに、私に対して舐めた態度をとってくる内弁慶なところも気持ち悪い。スケベさを隠そうとして隠し切れていないところは、もっと気持ち悪い。
「で、俺になにを言いたいわけ?」
 鹿野に促され、私は少しイラッとした。
「あんたがいるせいで風呂に入れないんだけど」
「じゃあ風呂から出るよ」
 鹿野は音もなく立ちあがると、「よっこらしょ」と浴槽をまたいで私の隣に立った。水しぶきは一滴も跳ねなかった。制服も乾いたままだった。濡れたカッターシャツが肌にはりついていたら気持ち悪いから、それでいい。
「ほら、栗本、入って」
 鹿野はだれもいない浴槽を指さした。
 私は「無茶言うな!」と鹿野の頭を引っ叩こうとして……叩けなかった。鹿野の身体は実体がなくて、私の手は宙を掻いただけだった。
「気持ち悪……」
 思わず自分のてのひらをまじまじと見てしまった。目の前にいるのは幽霊なんだ、と今まで以上に強い実感がわいてくる。
「入らないの?」
 鹿野が不思議そうに訊いてきた
 私は鹿野を叩こうとして叩けなかった手を下ろし、鹿野をにらんだ。
「……あんたが見てたら、落ち着いてお風呂に入れないんだけど」
「幽霊なんて気にするなよ。どうせ幻なんだし」
「それじゃあ、あんたという幻が見えてる私の頭がおかしいみたいじゃない。……って、もしかして、実際におかしいのかな」
 なんだか自信がなくなってきた。幽霊ってこんなにもはっきりと見えて、軽口をたたけるものなのだろうか。身近な人間の死に対応しきれていない私の脳が見せる、幻なのではなかろうか。
 鹿野は視線をさまよわせた。
「栗本の頭がおかしいのかはわからないけど……。風呂に入ってもらわないと困る」
「どうしてよ?」
「おまえが入ったあとの風呂のお湯を飲まないと、俺は成仏できないんだよ」
「気持ち悪っ!」
 一瞬、「人間でも出汁がとれるのかな?」と思ったけど、今はそんなのはどうでもいい。
「と、とんだ罰ゲームね……」
 そもそも肉体がないのに、風呂の残り湯を飲めるのだろうか。枕元に水の入ったコップを置いて寝ると、朝起きたときに水が減っている……という話はよくあるけれど。
 鹿野は私に視線を戻した。真顔だった。
「いや、むしろボーナスステージ」
「はあ!?」
「俺さ、実はまだ死ぬはずじゃなかったらしいんだよ。なんか現場のひとというか神が間違えたらしい」
「急に話が嘘くさくなったね」
「俺も冗談だろ?って思った。実際はどうなんだろ。適当にごまかされたのかも」
 話している内容とは裏腹に、鹿野はまったく笑っていなかった。
「とにかく、神さまは俺に『予定よりもずっと早く死なせてしまったから、お詫びになにかひとつ願いを叶えてあげよう』って言われたんだよ。ちなみに、鹿野航佑として生き返るのは無理だって言われた」
「まあ、それができたらすでにやってるよね」
「だから、俺はおまえに嫌がらせをしてから逝こうと思った」
「なんで?」
 私は目をむいた。ただでさえ現実離れした話をしているのに、急展開すぎた。
 鹿野は眉間にしわを寄せる。
「おまえのことを考えてたら、車に突っ込まれて死んでたから。それがすごくムカついた。どうせなら、もっと別の有意義なものについて考えているときに死にたかった」
「いろんな意味で理不尽な話ね……」
「だから、俺はおまえに嫌がらせをするために、おまえが入ったあとの風呂の湯を飲めば成仏する幽霊にしてもらったんだ。ちなみに俺が化けて出る条件は、おまえが裸で風呂場にいること」
 鹿野は得意気に口元を歪めた。どことなくうれしそうだった。
 目の前でやけにきらきらとしている幽霊に、私は肩を落とす。生前はいつも死んだ魚のような目をしていたくせに。なんで、今さらになって、過去最高に生き生きとしでいるのだろうか。
「……嫌がらせにしてはささやかすぎない?」
 そもそも、風呂の残り湯を飲むのは嫌がらせになるのだろうか。ただの気持ち悪い変態行為ではないだろうか。でも、変態行為をする相手が私では、鹿野の変態性欲は満たせないような気がする。だから、きっと、嫌がらせのつもりなのだろう。
 鹿野は鼻を鳴らす。
「でも、記憶には残るだろ。俺に風呂のお湯を飲まれてしまったという心の傷を抱えながら、俺のいない人生を歩んでいくがいい」
 鹿野の言葉選びに怖気がした。いつもなら、顔中に気持ち悪い笑みをたたえながら言うような台詞。なのに、鹿野の表情は浮かなかった。
「……鹿野のいない人生、ね」
 私は急にいたたまれなくなって、視線をつま先に落とした。私の裸体と鹿野の制服姿が同時に視界に入って、ますますいたたまれない気持ちになる。
「もっと、別のことをお願いすればよかったのに」
「たとえば?」
「ハイスペックな超絶イケメンに転生して、女の子にモテまくりたい……とか」
 いかにもなたとえを口にできてしまう自分に悲しくなってきた。このままうつむいていたらますますテンションが落ちてしまいそうな気がして、顔をあげて、鹿野と向き合う。
「あんたそういうの好きでしょ?」
「別に好きじゃねーよ。それに、生まれ変わっちゃったら、もう俺は俺じゃなくなっちゃうだろ」
「……うん?」
 相手が言わんとしていることがよくわからなかった。
 鹿野は首の付根をがしがしと乱暴に掻いて、「俺に未練がないとでも思ったのか?」と目を細めた。
「俺じゃなくなっちゃったら、もう、意味がないんだよ。もし生まれ変わって別人になっちゃったら、俺が持ってたもの、ぜんぶなくなっちゃうんだよ」
 怒っているような、あるいは泣き出しそうな、湿った声だった。顔はわざとらしいまでの無表情。
 私は「……うん」としか応えられなかった。
 鹿野はまだ、鹿野として生きたかった。
 そんな当たり前のことがわかっただけで、針の塊を飲まされたように喉の奥が熱くなった。今なら血を吐けそうな気がする。
 鹿野は友だちがいなくて気持ち悪い性格をしている以外、特に大きな問題は抱えていなかった……と思う。生きていれば友だちだって何人かできただろうし、大人になれば性格の気持ち悪さも緩和されたかもしれない。
 なのに、鹿野の可能性は閉ざされてしまった。「私の入った風呂の残り湯を飲まないと成仏できない」なんて、どうしようもなさすぎる設定つきの幽霊になってしまった。
 鹿野の死後の選択が頭悪すぎて、悲しみたくても悲しめないのが逆に悲しい。つまり悲しい。手の施しようもなく悲しい。
 私が黙りこんでいると、鹿野は大げさなため息をついた。何事もなかったかのように、浴槽に目をやる。
「だから、俺を追い払いたければ、風呂に入」
「今日はシャワーだけでいいや」
 私はシャワーの栓を勢いよくひねった。滝のような水で、辛気臭い空気を洗い流してしまいたい。
 身体を隠していたタオルをつっかえ棒にひっかけ、風呂イスに腰かけて、頭からシャワーをかぶる。冷たい。でも、構わない。
 鹿野がなにかを言っているような気がしたけど、聞こえないふりをした。
「……死ぬ直前まで、私はぜったいにお風呂には入らない」
 激しい水音のなかで誓う。
「成仏なんて、させてやらないんだから」
 恨み言だった。
 互いに文句を言いながらも、鹿野とはずっといっしょにいるのだと思っていた。
 なんだかんだで同じ大学に入って、別々の場所で就職して、だれかと結婚して、子どもが生まれて、年をとって、よぼよぼになって、どちらかがボケて。それでも、腐れ縁は続く予定だった。
 私だって、鹿野に嫌がらせをしてもいいはずだ。鹿野が先に死んでしまったせいで、私の人生計画は大きく狂ってしまったのだから。鹿野がいない人生なんて、気持ち悪い。
 冷たいシャワーを浴びながらうつむいていると、背中になにか温かなものが触れたような気がした。


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カブ @kabbu223

解答です。
「仲をこじらせた男女幼馴染」「高二病男子」「友達のいない根暗」(ここまでは昔聞いた記憶があります)
「性的魅力の誇張されない女性」「腐れ縁」
後半部分にまったく自信がないですがこれでよろしくお願いします……。

2016-02-27 21:42:16
真空中 @sinkuutyuu

幼馴染男女/しかも関係が微妙に捻くれている/サービスカットでしょうか/片方が変態ちっく/それでいて情緒あふれるこのラスト 性癖読解というか感想になりました

2016-02-27 23:53:05

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