.
ads by microad

【 第38回みかんばワンドロ】「お風呂」

Publish to anyone 237views 1favs
2016-02-27 00:28:18

 先だって行われた不動行光の捜索は、その確保を以て無事終了した。しかしその傷跡は深く――主に資材の消費という意味で――現在、この本丸の殆どの面々は、その補填のためにあちこちへの遠征を命じられていた。
 そして、その遠征から帰ってくるのが夜遅くになることも珍しくなく、それら総勢十八振りもの刀剣が順に風呂に入るのを待てば、最後の一振りの番が深夜近くになることもまた、珍しくもない。
 なので今日もまた、他の刀剣男士が湯浴みを終え、日付も変わろうかという時刻を待ち、やっと山姥切国広は脱衣所に向かう。しかしその後ろから一つ、品よく床を踏む足音が追ってきて――誰何の声をかけるまでもなく、それが同じ部隊で遠征に出ていたはずの三日月宗近だと気付き、山姥切は小さく灯りが点けられただけの廊下で怪訝さに眉をしかめた。
「あんた、まだ入ってなかったのか」
「おお、山姥切の、お前も風呂か」
 そう言い近付いてきた男からは、自分と変わらぬ土埃の匂いと共に、鼻につく酒の匂いがする。それに宴席にでも捕まっていたのかと悟れば責める気も失せて、山姥切は軽く壁面に背を寄せて、仕草だけで先に入れと三日月を促した。
「なんだ、まだ他と入るのは嫌なのか」
「……悪かったな」
 山姥切は他人に姿を晒すことを望まない。それはもう顕現して一年以上経ち、見知った顔ばかりになった本丸の中だろうと変わらぬことで、当然風呂もできる限り一振りで入ることを好む。
 それに今更だろうになあ、と三日月が続ける言葉に山姥切はさらに眉をしかめる。うるさい酔っぱらい、と言い返してやっても堪える様子もなく、それどころかぐいとこちらの腕を引いて脱衣所へと向かおうとするのに、山姥切は身を捩ってその手を拒んだ。
「おい」
「湯船が違えば構わんだろう? 俺は奥のを使うから、お前も入れ」
「そういう問題じゃない!」
 言い争う声が深夜の廊下に虚しく響く。けれど随分と飲まされたらしい三日月の辞書からは遠慮という文字が消されていたようで、結局それに引きずられ、山姥切はずるずるとそのまま脱衣所へと連れ込まれてしまった。



 日頃から五十振り近くの刀剣男士が利用する風呂だ。その湯船は決して小さくはない。この本丸では総檜造りの立派なものがひとつ備え付けられていたのだが、最近、それだけでは物足りないと言い出したものがいた。
 それに何振りかが共同で誉の褒美として要求したのは、湯船の増設。とはいえ敷地面積には限りがあるので本当にこじんまりとしたものとなったのだが、それでもこだわりのある面々にとっては喜ばしいことだったらしい。山姥切自身は今の風呂に特に不満もなかったが、一番強く希望を出していた乱と加州の二振りがそこでなにやら風呂の湯に入れては楽しげにしているとの話は聞いていた。
 そしてどうやら三日月もそれが目当てだったのか、分けてもらったのだ、と言いながら手元の小袋を振る。
「月夜の香り、というものらしい」
 俺が好きそうだと言っていたぞと笑い、相好を崩す様を見てしまえば、今更出て行くとも出て行けとも言えず。仕方なしに汚れた服を脱ぎ捨て浴室に向かえば三日月もすぐあとに付いてきて、身を清めるのも早々に奥にある湯船へと向かっていった。
 増設された湯船は、元の湯船から更に奥まったところにある。個室のように気兼ねなく入れるようにという配慮からか、その合間は曇り硝子で出来た衝立で句切られていて、そこから伺える三日月の様子は随分と楽しそうだった。
 自分も身体を洗い終え、遠慮無く大風呂の方で足を伸ばしていれば、向こうからはおお、だの、綺麗だなあ、だのと浮かれた声が聞こえてくる。うるさい酔っぱらい、と先ほども思ったことを言ってやろうかと思ったが、それより何がそんなに楽しいのかとの興味が上回って、山姥切はこそりとその衝立の近くへと身を寄せた。しかし。
「どうした? お前も入るか?」
 曇り硝子ではその様子を隠しきれなかったのか、あっさりとそれも見つかってしまい。遠慮するなと腕を取られぐいぐいと引かれるままに湯船に引き込まれ、ぼちゃりと沈んだそこからは、胸のすくような鮮やかな木々の香りが漂っていた。
「……緑色?」
 そして、湯に着いている色は、やや青みがかった緑色。月夜と名が付いているからには目の前の男が纏うような青か黄色なのだろうとの予想が外れて、山姥切は首を傾げる。それを肩まで湯船に沈めて三日月は笑った。
「うむ、綺麗な翠だなあ」
「中身が間違っていたんじゃないのか」
 沈められた湯をさらさらと指の間に流してみても、そこにある色は間違いなく緑だ。香りも色にも月夜を連想させるものはなく、やはり間違いじゃないのかと益々眉をしかめれば、三日月は傍にあった小袋を山姥切へと寄越す。それに今更のように距離の近さを感じて居心地の悪さに更に眉根が寄ったが、そこに書かれていた品名を見れば、なるほど、と多少その表情が緩んだ。
「気分やすらぐ月夜の若草の香り」
「うむ」
「……月夜、関係なくないか」
「そうかもしれんなあ」
 山姥切が返す言葉には同意しつつも、三日月は変わらず楽しげな笑顔を浮かべている。そうして湯けむりでさえ遮れぬ距離で笑む男にじいと瞳を見つめられて、たまらず湯船の中で背を向ければ、綺麗な色だなあ、と男の声が風呂場に響く。
「気に入った」
 そう言いぱしゃぱしゃと響かせる音は、水面を撫でて遊ぶ音か。そのついでとばかりにこちらに湯をかけてくるのにやられっぱなしも癪だとかけ返してやって、まるで子供のようにじゃれあって。
 それにひどく三日月の頬が赤く見えたのは酔っていたせいだろうと思っていたのだが、実はもう一つ理由があったのだと山姥切が知るのは、まだ先の話となる。

------------------------------------------------------------

みかんば(38)回目の開催おめでとうございます。
お風呂ネタ大好きなので参戦させていただきました!
作中で出した商品、このあいだ見かけてつい買ってしまったのでネタにしてみました。
https://www.bathclin.co.jp/news/2014/0902_194/
パッケージに三日月が書いてあるだけで買いたくなるちょろい審神者です…。


ads by microad

You have to sign in to post a comment or to favorites.

Sign in with Twitter


藤井咲@迷子札160枠満了
@saki_f
Share this page

ads by microad


Theme change : 夜間モード
© 2018 Privatter All Rights Reserved.