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十四一版深夜の創作60分一本勝負 第10回

くろひつじ@執行済
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2016-02-27 17:24:47

お題「雪」「雪解け」

闇松兄さんと、それより色々黒そうな十四松さんです。

その日は、朝からどんよりとした雲が空を覆っていて、そこから降ってきたものは紛うことなき雪であった。
ふわふわと柔らかく降り積もるとか、そういうものではなく、ここは確か関東ではなかったか?と現在地を疑ってしまうレベルであった。
雪と風が街中に吹きすさび、これはドカ雪というのか吹雪というのか、そんなしょうもない言い争いを兄弟たちがしていたのを、一松はぼんやりと眺めていた。
この荒天で心配なのは、仲良くしている野良猫達の安否だ。身を案じて家を飛び出す度胸などない。
――上手く凌げていればいいけど。
窓の外は白い雪の悪魔が轟々とうなりを上げて舞い踊っているばかり。
――雪がやんだら、みんなに会いに行こう。
結露で霞む窓の向こうに想いをはせながら、室内の暖かさにうとうとと眠りに落ちた。

**

次の日。空は綺麗に晴れて、太陽が眩むほどに白々しい。
「わーーーい!!」
真っ先に飛び出したのは、十四松だった。
まだ雪が大量に積もっている屋外に、パーカーとハーフパンツで飛び出すのだから、こいつは多分、寒いというものがまるで分かっていない。
「待て、十四松」
「なにー?一松兄さん!」
「……せめてマフラーくらいはしろよ」
「あいあい!」
そう言って十四松がこちらに頭のてっぺんを向けたので、一松はこの寒さなど知らぬ存ぜぬの男の首にぐるぐると紫色のマフラーを巻いてやる。自分のものだし、首元が寒くなるけど、上着のを首元まで閉めればいいだけだ。
雪の中こいつと出かけて、こいつが風邪をひいて帰ってきたら、兄や弟達にじくじくと言われてしまう。そんな面倒はゴメンだ。
一松に巻いてもらったマフラーに視線を落として、十四松が満足そうにえへへと笑う。
「で、一松兄さん」
「なに?」
「どこ行くんすか?」
「……猫んとこ」
「らじゃーっす!」

街へ出ると、あちらこちらで雪かきをしていた。それなりに積もったし、雪を取り除かなければ普段の生活もままならない。
我が家でも誰が雪かきをするのかという骨肉の争いが行われていた。生憎スコップは2つしかなく、重い雪をなんとかできるのが十四松とカラ松だけだろうという、おそ松の独断と偏見で二人が雪かきをしていた。
雪かきが終わったら一緒に出かけようと、一松が十四松に告げたところ、嬉しそうに頷いて大ハッスルし、ほぼ1人で雪かきを終えてしまっていた。
ちなみに、雪かきを任されたもう一人はというと、雪で己の雪像をつくって遊んでいるところを他の兄弟達に見つかり、フルボッコにされていた。

いつも通る道は除雪機が入ったのか、ほぼ雪も氷もなく、歩くのになんの問題もなかった。
よく晴れているとはいえ、風も気温も冷たく、一松は上着のポケットに手を入れた。
寒い。
猫たちは、あの雪でも無事だったのだろうか。
お腹を空かせているのではないかと、いつもより多めに猫缶を買った。
気が滅入る。
みんな、あの寒さで死んでしまっているのではないだろうか。
俯いていると、暗い考えばかりがよぎる。
野良猫なんだ。時々餌をやって可愛がる程度。とても卑怯な愛し方だというのは分かってる。
「いちまつにいさん?」
「わっ」
視界にぬるりと十四松の顔が入ってきて、思わず声が出た。
「猫のこと、しんぱい?」
「……うん。まぁ」
「大丈夫だよ、きっと」
にっこりと、十四松が笑う。
ああ、こいつは、ネガティブなものを知らないんだ。
白い、雪のように。
全てを白で覆い尽くして、わからなくしてしまうんだ。その白が、恐ろしいものだと知らずに。
「……みんな死んでたら、おれも死にたいな」
「えー?」
生きる理由が見つからない。
好きなモノがなくなったら、その世界に居たい理由がない。
雪が溶けて消えるみたいに、同じように死ねたら幸せなのに。
「ダメだよ、兄さん」
歩みを止めて、十四松がこちらを見る。
「兄さんは俺のモノだから、勝手にどこかに行かないで?」
「……え」
「勝手に死ぬとか、そういうのさせないよ?」
口はいつものように笑った形で開いたまま、目は少し怒っているようなそんな色をしている。
「俺のいないどこかに行くなら、兄さんのこと、また閉じ込めちゃうからね?」
そう言って、十四松が一松の視界をその伸びきった袖で覆い隠す。
黒。
真っ暗。
遠い昔の、何かの記憶が、一瞬だけチカリと光った。
なんだろう。
記憶を探ろうとして、不意に視界がひらけた。
「さ、行こう?兄さん!」
開けた視界に、にこやかに笑う十四松の顔があった。
「……うん」
ああ、そうだ。
猫たちに会わなければ。
死ぬとか死なないとか、会ってから決めればいいのだ。
一松はふぅ、とひとつ息をはいた。
それから、遠い記憶へ馳せた気持ちにフタをして、雪の溶けた道を、いつもの場所へ向かって歩き始めた。

<了>


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