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ゼアルで千本桜パロあらすじ

全体公開 遊戯王ZEXAL(Pixiv未UP) 11 20091文字
2016-04-12 10:16:28

千本桜パロという名の大正異聞オリジナルパロディ



ここは、青の薄墨桜の咲き誇る地
青く散る桜の花びらよ、舞え
その地に滴る血痕を、覆い尽くして赤く染まれ


「風流だねえ」
ケタケタと嗤う影は孤影。
黒の異形の翼が、嘲笑と共にゆっくりと広げられたさまを。
見守るものは、誰もいなかった。


「なぁ、今日も璃緒に会っちゃダメなのか?」
白木の床を、素足で小さく駆ける。
ちいさな足先は冷たくかじかんで、少し桃色に色付く。
「なりません、坊っちゃま」
「なぁばあや、ちょっとだけ。いいだろ」
「璃緒様は珠玉のくにつ宝に御座ございますゆえ。ましてや、御年十おんとしとおを数えまするの大事な禊ぎの時に、異性を瞳に映すことまかりなりませぬ」
「どうせ璃緒はいつもみたいに封じ紐で目隠ししてるだろ。なあ、いつもみたいに、ちょっとだけ遠くから見るだけだから」

ねだる子供は白袴に素足を晒して、結い紐で括りあげた紫苑の髪を揺らして老婆の裾を引いた。
「なあ、お願いだって。稽古だってもっと頑張るし、勉強ももう逃げねえから、な、ちょっとだけ」
老婆は困ったように、子供を止める手を緩めて、その隙に子供は駆け出した。子供は長い廊下の角を曲がると、足音が追ってこないのを聞き取って、足取りを緩めてポツリと冷たい廊下に呟きを落とした。

……璃緒のやつ、可哀想だ。あんな所に閉じ込められて。俺よりほんの少し魔力が高かっただけなのに。あそこにいたのは俺だったのに」
まぶたの裏に思い浮かべたのは、がんぜない妹の無邪気な笑顔だ。もうすぐとおになる妹は、魔力が強すぎていつもほとんど幽閉されるように座敷の奥で暮らしている。いつも目を封じの紐で目隠しして、穢れを目に移さないようにして。だから。
「だから、だから、俺が守ってやらなきゃ」

とと、と木晒しの渡り廊下を走って、一番奥へ歩みを進める。
「璃緒?」
いつもの鈴を転がしたような嬉しげな返事がなくて、シン……と静まりかえっていた。 
「璃緒? 寝てるのか? 入るぞ?」
襖をそおっと開いた。

刹那、ビチャッと頬に生暖かい液体が掛かった。


黒い翼が血塗れに滴って
バサリと弾かれた血が襖にビチャリとこびりついた。
高笑いが耳に響いた。

「呆気なかったなァおい。もうちょっと愉しませてくれたって良かったんだぜェ?」

そこは、血溜まりに沈んだ
陰惨な殺害現場だった。

「当代一の能力者だっていうから期待したってのに。やっぱ餓鬼は駄目だなあ、てんでお話になりゃしねえ」

仕える人間も、みんな血溜まりの中。


「何だ。まだ一匹残ってやがった」
ニタァと広がった不気味な笑みに、凌牙は震え上がった。


バサッと黒い翼が広がって
長い爪が凌牙の首を抑え付ける。
「か、はっ」
「つまんね、死んどけ」

ギラリと爪が、凌牙の腹を引き裂いた。
赤い血が、畳の上にまき散らされた。

「あー、つまんねえ。次の獲物はもう少しマシだといいが」
黒い翼の異形は欠伸一つ残して、空に飛び上がった。
凌牙は、それを、口から流れる血を吐き出しながら、愕然と見ていた。
「り、お……?」

もがいた拍子に
ぴちゃ、と
赤い水たまりが音を立てた。

「璃緒、りお
ずる、と滑る血溜まり畳の上を這って、必死に近づく。
ようやく触れた指先は生ぬるくて、投げ出された腕はちっとも動かない。
胸から、どく、どく、と流れる血が、璃緒の白の着物を真っ赤に染めていた。もう、黒くなり始めている。
「どうして!」
握った指先が生ぬるい。
周りにいる大勢の大人からは一切の音がしなくて、みな息絶えているのが分かった。
「璃緒、りお……?」
かは、と血の塊を吐き出した凌牙は、凌牙の血を浴びて、璃緒のまぶたが、震えるのが分かった。
「りお……?」
必死に体を引きずって、妹の胸に手を当てた。どくん、とかすかな鼓動で指先が揺れた。
「生きてる……!」
涙で目の前がかすんで、妹の胸から命が流れ落ちていくのが分かった。

「おれの、おれのぶん、やるから、だから、」

凌牙は、妹の胸に縋り付いて、必死になって手を握った。
握った手のひらが、ポウ、と蛍火で光った。

「りお!」
体が熱くなって、全身に針を刺されたみたいに激痛が走って
そこから先のことは、もう何も覚えていない。




※璃緒の禊の儀の時に、ベクター(バリアン体)が神代一族を襲撃して皆殺しに。
致命傷を負った璃緒に凌牙が魔力を渡して、凌牙が穢れを全部引き受けて、凌牙は「穢れ喰い」になった。

家族を黒い翼の化物ベクターに皆殺しにされて、天涯孤独で生き残った凌牙は、当てもなく、野良犬のように、時に泥水を啜り、飢えに木の根を噛み、辛うじて生きていた。
それは、凌牙に生きる気力が無かったからだった。凌牙は、死にたかった。思い切る気力も、無かっただけで。

そんな時、町から外れた山中で、一人の男に凌牙は拾われる。軍服に死臭を纏わせた、顔の半分をまだ新しい血の染みる包帯で覆ったくがねの髪と紅の目を持つ男。Ⅳに。

くがねの前髪に赤銅色の後ろ髪を持つ男は、顔を負傷していて、焚き火の小屋で二人は無言で雨をしのぐことになる。


◇ ◇ ◇


パチン、パチン
薪が燃えて、木の皮が弾ける音がする。

差し出されたパンと水を、凌牙は食べなかった。
「どうした、食わねえのか」
……殺すんじゃねえのか」
「はあ? なんでンなことしなきゃならねえんだ。だったら何でこんなところに連れてきたと思ってんだよ」
「内臓だろ。子どもの臓腑は高く売れる」
「サラッとド重なこと言ってんじゃねえよ」

男はあきれたように嘆息した。

「つまりテメェは、わざわざ助けてやったこのオレを、ガキの内臓を売りさばく人非人だと思ってたわけだ」
「違うのか」
「ちげえよ!」

「じゃあ何で助けた」

男は、包帯に覆われてない方の紅の瞳を
やんわりと、苦笑の形に細めた。
……惚れた女に似てた、から、かな」

ああ、そういう。
凌牙は腑に落ちて、水を一気に煽ると、パンの切れ端を少しだけ噛みちぎって飲み込んだ。

奇特な男だと思った。
凌牙に水と、毛布と、火で炙った柔らかいパンを与えて
他には凌牙から何も奪わなかった。


ともすれば、善良な男に見えたけれど、纏っている隊服に、染み込んだ血の気配が混ざっていたから。
やはり、真っ当な道の男では無いのだろうな、と凌牙は思った。
そんな男が、気まぐれに寄越した、親切だったのかもしれないし、後から気が変わってはらわたを捌かれても、別に構わないと思った。
それは、凌牙が別に命がもう惜しくなかったからでもあったし、それとは別に、この男になら、どうせ野端に捨てる気の臓腑の一つや二つ、日銭代わりにくれてやっても構わないと思ったからだった。
思惑がどうでも、屋根と壁が揃っていて、火のそばで温かさに包まれて水を飲んだのも、誰かと火を囲んで会話したのも本当に久しぶりだった。
凌牙は自分が野良犬ではなく人間だったことを久方ぶりに思い出した。


深夜、火のそばで、男が抱いて眠るサーベルに目を惹かれたのは。
それが金で出来た上物の細工だったからでも、武器として鍛えられた業物だったからでもない。
それが、よく切れそうで、ひと思いに死ぬには良さそうだ、と思いついたからだった。

凌牙は、自分が野良犬で無いことを思い出した。だから、この先もまた野良犬に戻って泥をすすって生きていくのは辛かった。
だから、武器に手を伸ばした。
今なら、もしかしたら、朝冷たくなっていれば、運が良ければ、弔うとまでいかなくても、人間らしく墓穴くらいは掘ってもらえるかもしれない、と思いついたのだ。

それは、とても良い思いつきに思えた。この男の手で土の中で眠る想像は、凌牙を楽にした。久方ぶりに安堵さえ覚えた。
凌牙は、剣の一振りに、ゆっくり、手を伸ばした。男は金色の睫毛を閉じて眠っていた。


「ダメだ」
眠っていたかに見えた男は、
眠気の欠片も無いような鋭い声で凌牙を制した。
凌牙は、びくり、と肩を震わせた。
「これは、父さんに貰った剣だ。他の物ならやる。だが、こいつはやれない」

硬い声だった。拒絶の声だ。
凌牙は、胸が詰まって、息ができなくなった。
物乞いや盗人だと思われただろうか。凌牙は動けなくなった。

「日銭が欲しかったら、革袋に銀貨が入ってる。それを持っていけ。革ごと持っていっても構わねえ。だが、こいつはダメだ」

男は、凌牙には目もくれず、顔も上げずに、傍に背負ったずだ袋から包みを一つ放り投げて凌牙に寄越した。
凌牙は、床に放られたそれを、石のように固まって見ていて、縋るような思いで、首を横に振ることしか出来なかった。
体が、カタカタと震えた。死ぬことももう恐いと思わなかったのに、見ず知らずの男に盗人と罵られる、ただそれだけのことがどうしようもなく怖かった。


「ち、が、」
歯の根が合わない状態で絞り出せたのは、それが限界だった。

棒立ちになって震える凌牙を憐れに思ったのだろうか、男は、顔を上げて、いささか眉を下げたようだった。
「別に、叩っ斬ろうとか思ってねえし。座れよ」

もう、凌牙は、
その男に、首を刎ねられる想像で安らぐことは出来なかった。
身内からの品だというその剣を、穢れを吸った自分の血で汚す事を罪過に思った。

凌牙は、結局、最後まで男に墓穴を掘って貰うようには頼まなかった。




結局男は、凌牙が出て行くまで、やはり凌牙に人間らしいものを与えただけだった。

小屋には三日居た。

せめてもの礼に、男の傷に色濃く残った穢れを喰ってから行こう思った。
今は亡き神代の家で修行した凌牙に唯一できる、今となっては他に役に立たないことだった。
順当に考えて寿命は縮むだろうし、もしかしたら喰った時点でもがき死ぬかもしれないと思ったが、それでも別に構わなかった。死ぬ手間が省けてかえって楽だ。
熱にうなされている男の包帯に手を入れて、解いた下には、頬をぱっくりと縦に裂くような瘴気で膿んだ傷があった。凌牙は触れるのを躊躇わなかった。
眠る男の穢れを自分に移して、そのまま自分が動けなくなったらそこらの狐か山犬にでも死骸を食わせようと思って小屋を出た。男は目を覚まさなかった。

その後、男の居る小屋には戻らなかった。
残念ながら、死ぬのには失敗した。
なぜか、男の穢れを喰ったら、意に反してかえって体調が持ち直してしまったからだった。
男の名前を聞くのを忘れたことだけ、残念に思った。







数年後、凌牙は町に流れ着いて、この遊郭街の用心棒に収まっていた。
死ぬ予定だったのにしぶとく生き残ってしまった凌牙は、ここの番頭と奇妙な縁あって身を置くことになり、荒くれ者たちを相手にしながら日銭を稼いでいた。

だから、あの男が現れたときは、本当に驚いた。


「凌牙!」

男は肩で息をして駆けて来ると、破顔一笑した。
「生きてやがったのか!」

向けられた邪気の無い喜びの声は、凌牙の懸念を吹き飛ばした。
あれから幾年も経って見目もずいぶん変わっているのに、一目で凌牙をあの時の子供と断じた男は、凌牙を忘れてはいなかったらしい。
見目に鮮やかなくがねと赤銅色の髪は、陽の下では、もっと輝いて見えた。つ国の物に相違無いけれど、これほど見事にきらめくものを凌牙は他に見たことがなかった。
あの頃よりも外の世界を知るようになった今でさえ。

「『鮫』を名乗ってる二丁拳銃の流れ者がいるって聞いて、もしかしてとは思ったが」

人相書きを見てきたんだ、と男は言った。
凌牙は片眉を怪訝に跳ね上げた。
それはすなわち、この煌びやかな花街を差し置いて、凌牙に会いに来たのだと言っているに等しかった。

「なあ、凌牙。お前、あのときオレの傷に何かしたか」
……さあ、知らねえな。何の話だ」

いきなり本質に切り込んできた男に、凌牙は何も言わなかった。
凌牙が『穢れ食い』であることは隠し通すべきだったし、あのときは死ぬ気だったから後先を考えていなかった。
どう切り抜けるべきか内心警戒したが、男はじっと凌牙をみると、ふっと表情を和らげて、いや、と首を振った。
「知らねえならいい。また会えるとは思ってなかった。それだけでいい」

男は数年経ってもあの時のまま、お人好しのままであったらしかった。

男は凌牙の肩を組んで、機嫌よく一丁先の暖簾に誘った。
強い日本酒を昼から二人で煽って、他愛無い話をした。それだけだった。

「で? 惚れた女は抱けたのかよ」
「うるせえ、マセガキ」

機嫌よく赤く酔った顔のまま、まんざらでもない様子で男が笑ったので、なるほどコイツは、凌牙に似ていたらしい想い人とは、そう悪くない関係らしかった。

「で? 似てんのか」
「いや、こうして見るとそんなに似てないかもな。昔は細っこかったし、かがり火の中じゃあ似て見えたけど」
「何だよそれ。無駄骨だったんじゃねえか」
凌牙は鼻で笑った。

「いや、そうでもなかった」
日の下の往来で、男は腰のサーベルに手を添えながら空を仰いで笑った。
くがねの髪に日が乱反射して、男の破顔を照らす。
「そうでも、なかったよ」

凌牙は、陽を避けるように帽子のツバを下ろした。

思い返すほど
この男に拾われて良かった


「女将、勘定」
「あいよ」

金払いよく銭を投げて、暖簾をくぐった男は、機嫌よく酔ったまま破顔した。

「お前、この花街の用心棒なんだって?」
「まあな」
「なら、また会うかもしれねえな」
「目当ての女でもいんのか」
「まあな。しばらく通うわ」

この時間に来て帰るということは、一見お断りの高い店の馴染みになろうとしているということだった。
どんな金持ちも最初は茶代だけ払って返されるのがこの街のしきたりだ。

「次会ったら、女に受けそうな甘味の美味い店でも教えてくれ。じゃあな」
「なあ。お前、名前は?」
「ああ、そうか、そういや前も名乗らなかったか。なんだ、お前、オレのこと知らなかったのかよ。道理で」

男は破顔した。
「陸軍魍魎もうりょう討伐部隊第四師団少尉、Ⅳだ。また来るぜ、凌牙」






【prologue:新月の夜に】はじまり、はじまり。


「ふふーん、ふんふんふーん。」

下手くそな鼻歌を歌いながら、足を宙でブラブラ揺らしていた。
撫でる膝の上には、小さく丸くなったトラ柄の猫のようなもの。夜に子守歌を奏でながら、その赤い服の子供は無数の小さなものたちに囲まれていた。

月の無い夜。星の瞬く新月に。
ソレは、無数のうごめく物達を従えて、呑気な歌と共に、笑っていた。
「ふーん、ふふっん、ふーん??アレ?」

きょとんと瞬いた子供は、ようやくコチラに気が付いて、
胸に掲げた金のペンダントをキラリと光らせて
赤くてまんまるな瞳をさらに丸くして、きょとん、きょとんと目をパチパチした。
「あれ?だれ?お前いつからいたんだ?」

こちらは、ニィッと、口角を上げた。

「アラアラぁ、こぉんな夜に百鬼夜行もビックリの怪性けしょうがいると思ったんだが。おっかしいなぁ?こんな夜更けに餓鬼が何をしてるんですかぁ?」
「むむー!しっつれいしちゃうなぁ!おれガキじゃないぜ!元服だってもうすぐなんだからな!」

ぷぅっと頬を膨らませた子供の周りには、埋め尽くすような無数の蠢く有象無象たち。
動き回る小さな茶碗や破れた傘、一つ目玉の小鬼に、手足の生えた毛玉、猫又らしき子猫に小さなぬいぐるみ。
月の無い夜にブラブラ足を揺らしながら屋根の上で鼻歌を歌っていた子供は、赤い動きやすそうな衣を纏って、計り知れない量の化け物達を従えてそこに居た。
こちらが歩き寄ってそいつらを蹴り落とそうとすれば、子供は「わわわ!やめろって!こいつら悪いヤツらじゃねえんだ!」と慌てて腕を伸ばして抱え込んだ。
そいつは、近くで見ても、人間に相違なかった。有象無象の百鬼夜行の中心にいたのは、何の変哲も無いはずの子供だった。

「アレレェ?人は魔獣を怖がるものだと思ってたんだが。魔獣を従える人間たぁ珍しい」
「こいつらそんなんじゃねえって!魔獣っていうか、そんな悪さするような力無えよこいつら。別に従えたってわけでもねえっていうかなんか気付いたら勝手に居座っちまったっていうかぞろぞろ増えてたっつーか

頭を掻いた子供は、肩に頭にもそもそと好き勝手にチビ達を乗せさせながら、手慰みのようにそいつらを撫でていた。
「外は強くて人を襲う魔獣がウロウロしてるだろ?だから、襲われないように、こいつらみんな一か所に集まってんじゃねえかなぁよくわかんねーけど」
「へー?で、そんな危ない夜更けに、キミは屋根の上で何をしてるんですかぁ?」
「なにって、うーん、眠れなくって。お月見?みたいな?」
「おかしなコトを言いますねえ。今日は新月じゃないですかぁ」
「おれ、新月が好きなんだ」
にかっと笑った子供はいたずらめいて無邪気に笑った。
だって、星がよく見えるんだ、と足をプラプラさせながら、月の無い夜に月見をするおかしな珍客だった。

「おれ、九十九遊馬!明日から養成学校の一年生なんだ!お前は?」

……そうだな、いや、そうですね。良かれと思って ボクは、真月零と申します!」

どうも、退屈しのぎにはなりそうだ。


【しんげつにこぼれた】


◇ ◇ ◇

【九十九遊馬】主人公
二輪車転がすハイカラ見習い祓い師
霊障の蔓延る都の養成機関で祓い師の勉強中。座学は苦手だけど実技はかっとビングするぜ!
悪霊退治で人を助ける事を目指して祓い師の勉強をしているが、実際は、悪霊も霊力ある物も人も絆もあらゆる物を惹き付ける超霊媒体質。なんでもホイホイ。
心優しいので祓おうとしては失敗して懐かれた結果、百鬼夜行もビックリの付喪神だらけの家になった。ある日突然降って来て遊馬に憑いたアストラルはどうやら都に蔓延る化け物達とは違うようだが
二輪車やハイカラな持ち物は外交官の一馬パパのお土産。遊馬を祓い師の道に導いたのは遊馬の霊媒体質を見越して自力で自分の身を守れるようにとの狙いのようだ。父は現在外国で消息不明。少し前に、ならず者上がりの用心棒のシャークと仲良くなった。

【真月零】
祓い師養成寮で遊馬と同居人。うっかり者ですけど僕がんばるから置いてかないでよ!
成績は中の下、特に実技が苦手らしい。一方の座学が壊滅的で実技に定評がある遊馬と組んでは、うっかり者コンビとして名を馳せている。遊馬がしょっちゅう低級の無害な付喪神を部屋に連れてくるのでいつも朝は部屋で潰されている。人の好い性格が遊馬と合うようだ。
視る力があまり無いので零能力などと学校で揶揄われるが、周囲との人間関係は庇い庇われ良好。甘い物が好きで甘味屋の一人娘の小鳥の所に入り浸っては、遊馬と小鳥の拙い恋模様を良かれと思って引っ掻き回しては応援している。団子は常備品。
しかし、遊馬以外の『人間』には見えない筈のアストラルを、たびたび振り返っているのは気のせいだろうか?


「良かれと思って、今日も小鳥さんのお店行きましょう!」
「真月お前ほんと団子好きだなあ」
「何呑気な事言ってるんですか遊馬くん。取られちゃいますよっ」
「オレは別にもう腹一杯だし」
「やだなぁ遊馬くん」
唇をぺろり。
「団子じゃありませんよ」
「へ?………!!!」
「良かれと!思って!」



【神代凌牙】 物語の主役。不幸の運命に魅入られたキーパーソン。
・喰らい付いたら離さない「鮫」のあだ名で揶揄される、二丁拳銃使いの凄腕用心棒。
天涯孤独のならず者として荒れていた所を遊馬と出会い、シャークとあだ名を付けられてから人間らしい感情を取り戻した。
現在、番頭の海都カイトに腕を買われて、吉原の用心棒を務めている。霊力は全く無い。
・吉原の最上級遊女である璃緒がたびたび下女に扮しては小鳥の甘味屋に出掛けたがるのを案内しては、見守っている。最近Ⅳが彼女を気にしているのが気に気わず、ことあるごとに理不尽にⅣに向けて発砲している。
・Ⅳとは、現在は友人関係といっていい腐れ縁に落ち着いた。荒れていた頃にたびたびⅣと剣を交えて、いつの間にか付き合いが古くなった。良い酒飲み仲間(現在、数え年で元服の15才、と本人は主張している)。ザル。
・口の悪い凌牙にとっては、Ⅳは罵詈雑言を浴びせる良い鬱憤ばらしの相手兼、たびたび何かと気に掛けられて軍の情報を回して貰える必須の仕事相手であり、最愛の妹を託せると思った最も気を許せる悪友。仕事名は『鮫』で通しているが、Ⅳには本名である『凌牙』で呼ばれている。凌牙にとってとても重い本名を呼ばせるくらいには、信用していた。このまま共に歩けると思っていた。
いずれ重い過去と復讐の運命の不運がこの二人を敵対させる事になるのだが、それはまだ誰も知らない話。

【過去編】
本名『神代』の名が示す通り、神道系の名家の嫡男であり、本来この国の守りを背負うほどの霊力を持つ後継ぎとなるはずだった。
ある新月の夜に一族郎党皆殺しにされ、血を浴び大量の穢れを浴びて、国の形代かたしろ(身代わり)となるべき役目を失った。
そのとき巫女であった双子の妹を護るために、生命に必須の分まで全ての『祓い』の力を妹に譲り渡してしまったので、人ならざる『あらゆる穢れカオスをその身に受け入れる体』と化してしまった。
もう『神代凌牙』は死んだ、と自分に言い聞かせながら体に大量の穢れカオスを溜め込んで、ドブの中を漂うように、泥水をすする暮らしをして生き延びた。これだけ穢れを体に溜め込めば自殺せずともそう遠くない内に死ぬと思いながら生き延びて来たのだが、一向に死ぬ気配がないどころか、穢れを喰らえば喰らうほど傷の治りが早くなる異常体質になっていった。
言うなれば、徐々にナッシュ化している。人間から片足踏み外してギリギリのライン。もうすぐ街にあふれる化け物側に堕ちるだろう。強大な力を持つ皇として。

【璃緒とⅣと凌牙の三角関係】
人間関係の軸はⅣ→璃緒→凌牙
璃緒は遊郭に囲われた際に記憶を失っていて、凌牙が実の兄だと知らない。このため自分を身を挺して守ってくれる凌牙に淡い恋心を抱くのだが、凌牙は自分達が兄妹だと知っていたのでずっと知らないフリを続けていた。
そこに凌牙の仕事仲間で腐れ縁のⅣが絡み始め、璃緒に片恋をして、将校の立場で花魁道中を行ったり来たり通い出す。三人は小鳥の甘味屋で穏やかな時間を重ねながら、やがて寄り添うように幸せな友人関係を築いていた。そのうち、璃緒はⅣの優しさにも触れて心が揺れ始める。太夫である璃緒をただの女の子として扱うのが、この二人だけだったからだった。この二人の前でだけ、璃緒は息が出来たのだ。
当初は璃緒に絡むⅣを徹底的に邪魔していた凌牙だったが、やがて自分亡き後本当に璃緒を託せるのはこいつだけかもしれないと思うようになり、都に巣食う魔物に腹を貫かれて重傷を負ったその時に、Ⅳに自分が璃緒の実の兄である事を明かして璃緒を託した。血塗れで慟哭する友の腕の中で、友と妹が幸せに笑う未来を夢見ながら、ドブを歩いた自分にしては随分幸せな死に方だったなと、笑いながら。

しかし、そうは問屋が下ろさなかった。凌牙の腹を貫いた傷はⅣの目の前で瞬く間に治っていき、凌牙が『穢れ食い』であること、出生が稀代の名家『神代』であった事が発覚。Ⅳは絶望する。
「なんでなんでお前が『神代』なんだ!それさえなきゃ!」

Ⅳと凌牙の運命は、既に回り出していた。

【トーマス・アークライト(Ⅳ)】所属:軍の将校
軍の英雄バイロンの次男。霊力『ろの二』のエリートである。
父トロンの霊障を治せる可能性のある生贄である『神代』をずっと探していた。
父と共に天城家に復讐する機会を窺いながら、求めていた生贄の『神代』が璃緒と凌牙であった事を知り絶望する。


【攫って】
街で害を為す異形ナッシュと化した凌牙に、璃緒は決意を秘めてⅣと相対する。
「私を攫って。私を"外"へ連れ出して」
「お前を買えと?身を滅ぼす程の大金で。
太夫と駆け落ちたぁロマンだが。どちらにせよ、身の破滅だな」
「無茶は分かってるわ。でも、行かせて、お願い」
「分かってんのか?オレに買われるってのは、」
顎をくいっと手に取って、視線が寄せられる。
「俺のモノに、なるってことだぜ」

紅に視線が絡め取られて、情欲に濡れた瞳が捕食者の如く璃緒を捕らえた。
すくんで身を震わせた璃緒に、Ⅳは肩を強く抱いて離さない。
身動ぎ一つ取れない中で、璃緒は、深く息を吸い込むと、瞳を真っ直ぐに見つめ返して、
Ⅳの胸に触れたままの両手で、体重を、かけた。

腕の中にしなやかに委ねられた身に、Ⅳは瞳をしならせて、璃緒の腰をぐっと強引に引き寄せられた。
「目ぇ、閉じろよ」
瞼が震えた。瞳を落として、暗幕に落ちた世界で、熱い息が頬に触れて
ぐっと、距離、が、首の後ろに指が回されて、

ちくり

首の後ろに鋭い痛みが、走った。
「ぇ?」

璃緒は膝から崩れ落ちた。
くたりと弛緩してくずおれた璃緒は、腰をすくい上げられて、
指一本動かせずに、
静かに璃緒を見つめる凪いだ瞳に、かち合う。

「悪いな璃緒」

Ⅳの手に、麻酔針。

「お前を連れては行けねえよ。凌牙にお前を髪一筋だって傷付けさせるわけにはいかねえ、あいつが人に戻れなくなっちまう。
────それは、オレの役目だ」

「あなた、最初からそのつもりで!」
自由にならない体で、もがこうとして、でも痺れたみたいに自由が利かなかった。
急激に眠気が襲ってきて、瞼が重くなる。だめ、ここで眠ったら。

璃緒は辛うじて口を開いて、拙く舌を出した。
勢い良く噛んだのに、噛み付いたのはねじ込まれたⅣの指だった。
口の中に目の前の人の血の味を感じて、思わず歯を緩める。
目の前の人は、指から血を流しながら、切なく目を細めて璃緒を見下ろした。

「お前の心が誰にあるか知ってる」

璃緒は息を呑んだ。
もう霞んで良く見えない視界で、哀しい決意を乗せた瞳が滲む。

もう声も出ない。
伝えたかった声は、

(ちが、うわたし、あな、た、が……)


暗い眠りに引きずり込まれて
瞼を落として、動かなくなった璃緒に
Ⅳは、コートを脱いでバサリと掛けた。横抱きにした璃緒の動かない瞼に、Ⅳは、顔を歪めて、壊れ物を扱うように長椅子に横たえた。

一転して眦を鋭く殺気を撒き散らしたⅣが襟元を正した。
その服の下は、正装の戦闘軍服。
大量殺人鬼シリアルキラーに相応しい、血塗れの忌み服だ。

「今からオレは、お前の最愛の家族を斬りに行く」
カチャリ、と携えた愛刀が鳴る。
獅子の細工に額を寄せて、祈るように目を閉じた。

「赦さなくていい、どうか、ずっと恨んでいて欲しい。オレが愚かな夢を見ずに済むように」

閉じた瞼の裏に蘇る幸せな日々。
璃緒も、凌牙も、自分も、馬鹿みたいにずっと笑っていた。あの、陽だまりの中で。
華やぐように振り返った笑顔を、今も

────海が 見たいの

血の滲んだ指をそっと持ち上げて
唇を落とした。

「結局、オレはお前の王子様には、なれなかったよ。元々、柄じゃなかったんだ。最初から」




【末路】
Ⅳに残された道は、父を救う為に凌牙か璃緒を犠牲にするか、穢れを溜め込み過ぎて人間を踏み外した凌牙を人間に引き戻す為に父を諦めるかの二択であった。
Ⅳはどちらも選べず、自分の抱える運命を凌牙に告げないまま、父の指示のままに、凌牙に剣を向けて殺しにかかる。勝てば凌牙を人である内に殺して止めてやれる。負ければ父を裏切らずに済む。結局凌牙を切れなかったⅣは凌牙に撃たれる事になるのだが、糸の切れたマリオネットは友を見つめて笑って倒れていった。最後の刹那に、弟すりー、そしてその友人の遊馬に、友を託す祈りを乗せて。
一方の凌牙も、友を撃てずに致命傷を避けてしまった。この為Ⅳは辛うじて永らえたが、凌牙は既に半分人ではなかった為、Ⅳはナッシュからの霊障を受けて目覚めなくなった。

【階級】
この世界では、都に蔓延る化け物達と穢れに対する耐性から、人々は三つの階級に区分される。
上から順に『い』『ろ』『は』。
ほぼ化け物に抵抗する術のない一般人が『は』で、
『ろ』の人間は軍人レベルのエリート。
そして『い』は国を支える程の雲の上の幻の存在である。
『は』の一般人の中から、比較的祓い師の才能のある人間を集めて養成するのが、遊馬と真月の居る養成学校。『ろ』の人間はほぼ軍人。そして「神代」の嫡男は、本来『い』であった。

『い・ろ・は』は霊力、つまり言ってみれば化け物に対する攻撃力を示す。
『は』の人間は才能ある一部が訓練に訓練を重ねてようやく退魔の術を得るが、『ろ』の人間は格の違う攻撃を繰り出せる。『い』は使い方を誤れば本人も周りも下手をすれば国まで一瞬で消し飛ぶ程の強大な力である。

一方、「一、二、三」とは、霊障の受けにくさ。言ってみれば防御力。
『は』の人間は大抵「三」、『ろ』の人間は大抵「二」。
幻の存在である「いの一」を除けば、世界は一握りの「ろの二」と、大半の「はの三」で構成されている。ちなみに採血で判定できる。

例外は二つ。「スペシャル」と「ゼロ」である。
・スペシャルというのは、一般人の「は」なのに何故か霊障を全く受けない幸運の持ち主、「はの一」のこと。小鳥がそう。力無い人間に与えられた神の祝福。これは一般人の中にたまに居る。ただし「ろの一」は「い」並みに珍しいとされる。
なので、九十九神をぞろぞろ提げて歩く遊馬と居ても、小鳥は全く霊障を受けない。なのでよく首を突っ込んでくる。お似合いの二人。
ところで、遊馬が無謀に敵陣に突っ込んでも『スペシャル』並みに霊障を受けにくいので、遊馬君も「はの一」なんですね!と真月がよく言うのだが、実は違う。そこが物語の最後の鍵である。
・ゼロというのは、文字通り霊障に対する耐性が生まれ付きゼロである不遇のこと。別名「吸魂」あるいは「穢れ食い」といい、少し霊障に触れるだけでありとあらゆる穢れを吸い込む体質。この人間は短命であり、この体質のハルトの命を護ろうとしたことが、天城家とアークライト家の復讐の因果を産んだ。
霊障を溜め込んだ人間の末路は、主に二つに分かれる。ほとんどは短命で死に至る。そしてごく一部は、逆に命を永らえる代わりに人間で無くなる。凌牙はこちらであり、そしてトロンもこちらである。
『ゼロ』の体質であるハルトの穢れを、丸ごと移されて半分人間で無くなってしまったのが、英雄バイロン、改めトロンなのだ。

【III】
『い・ろ・は』は殆ど血統で決まる。なので『ろの二』だったバイロンの息子のⅣもVも『ろの二』で軍人だったのだが、IIIちゃんは『はの三』の一般人だった。なのでIIIちゃんは自分のことを「できそこない」と言っている。
それでも何とかマトモに戦えるようになりたくて、養成学校に入って、遊馬と出会う。この物語のベースは『曲:魔法使いの弟子』
遊馬と過ごす時間は楽しくて、幸せで。けれど、その時間には終わりがやってくる。
IIIは目覚めなくなって、そこから遊馬はトロンと天城家の復讐の因果を断つために飛び出すのだ。凌牙Ⅳ璃緒・遊馬真月・天城家とアークライト家の三つの物語は、ここから、交わる。三つの物語を重ねる役目がすりー。

【天城家とアークライト家の因果】
天城家は花魁の総元締め。広大な遊郭は全て天城家のもの。
その実態は、霊障を溜め込み続けるハルトを永らえさせるために、祓い師や一時的な身代わりになるゼロの体質に近い者を掻き集めるために、人間を掻き集めた鋼の檻である。
父フェイカーがアルプス生まれの外来人、母が日本人で、金髪の海都カイトはハーフ。フェイカーが日本人の母に惚れ込んで帰化した。

一方、バイロンは『ろ』の中でも段違いに強い退魔の軍部の英雄で、フェイカーは友人だった。しかしハルトが『ゼロ』であったために、フェイカーは禁忌である穢れ移しを行い、バイロンは穢れを負って人間で無くなった。このため心優しかったバイロンはトロンを名乗って復讐の悪鬼と化し、息子達を軍部に引き込む傍ら、天城家の破滅のために行動を始める。
しかし、実はフェイカーは既にトロンよりも多くの穢れをハルトから引き受けており、 もう虫の息。このことを知っていたら、トロンは復讐を選ばなかったかもしれない。
そしてフェイカーに寿命が縮む穢れ移しを教えたのはベクターなのだが……さて、真月改めベクターの正体は?目的は?裏にいるのはだぁれ?

【遊郭総元締め着流しカイト】武器:鉄扇
カイトが番頭として一手に遊郭を引き受けているのは動けない父の代わりである。
カイトはハルトのために真っ先に穢れ移しの対象になることを望んだのだが、実はカイトは『ろの一』で、ハルトの霊障を全て跳ね返してしまう体質だった。このため、ハルトの霊障を引き受けることが出来なかった。
他の者を遊郭に引き込み人生を歪めている代償がいつか来る。それでもハルトを守りたかった。
遊女達には優しく、厳しく、頼りにされる番頭だが、それすら欺瞞だと感じていて、言い寄られても誰も抱かず、仕事だと割り切るスタンスがかえって女をさらに引き込んでいるのだが、その自覚はカイトには無いようだ。
遊女たち、特に璃緒の右足から太股にかけて肌にビッシリと呪術を書き込んで逃さないようにしていたりと、脈々と続く遊郭のルールはそれなりに非道。
その一方で、カイトが後ろ暗い過去の多い凌牙を遊郭の用心棒として受け入れて外界の干渉から庇ってやったり、最重要の駒であるはずの璃緒が凌牙と共に抜け出すのを容認したりしているのは、やはり非情になり切れない罪悪感があるからであろうか。

璃緒を、最上級の遊女である太夫として囲ったのは、『神代』ゆえ千金に値する貴重な『い』で、ハルトの霊障を祓える可能性のある少女であるため。しかし、璃緒は凌牙の霊力を移されたため、カイトと同じで全く霊障を受けない体質と化していた。その身は凌牙と自分の『いの二』の霊力を二人分宿しており、そのために後天的に、確率的にあり得ない筈の幻の擬似的な『いの一』になった。
このためハルトの穢れを引き受けては居ない。しかし天城家は、璃緒を守る凌牙の霊力を剥がそうと躍起になっている。

海都カイトが、凌牙を引き抜いたのはそうと知らず偶然目に止まったからなのだが、結果的には最大の混乱と最上の救済を得る結果になる。

遊馬が、純粋に人を助ける為に動くのと関わってから、その生き様に惹かれており、この鋼の檻に一番囚われているのは自分だと深く自覚しより一層自嘲するようになった。

最後、ハルトの穢れは全て遊馬が引き受けた為、遊馬は恩人となった。
「奴の障害は、全てオレが除こう。その為ならばオレの命は好きに使え。家族の為にとうに捨てるはずだったものだ」




【遊馬の秘密】
実は遊馬はゼロ。霊障が全く出ないゼロ。
全ての霊障をバキューム並みに吸い込む幻の存在で、その本態は本物の天性の『いの一』である。
知られていないことだが、『い』かつ『一』ほど強大な霊力を持っていると、自動的にそれが互いに打ち消しあってゼロになる。だから本来なら、『いの二』か『ろの一』までしか存在しないのだ。
『いの一』改め『ゼロ』は本来なら短命、あるいは人間で無くなる『失敗作』と化すが、
本当に稀に、ゼロ(0)が二つ重なり無限大(∞)の永久機関が生まれる。
『浄化』
という作用が生まれて、吸い取ったカオス(穢れ)を光に変える力を得る。それが遊馬であり、遊馬は一度の器の許容量を超えるまでは、永久に吸い取ったカオス(穢れ)を浄化し続ける事ができる全ての救世主となり得る存在だった。誰かを犠牲にしなくてもハルトを救えるたった一つの力であり、凌牙が溜め込み続けたカオスを吸い取って人間に戻せる力であり、そして真月改めベクターが最も憎むべき力であった。

ベクターはコレを見つけて壊す為にドンサウザンドに遣わされた元人間、元ゼロ、そして『いの一』のなり損ないであり、遥か数百年前に本当に人間から魔獣に成り果てた、平和の象徴になり損ねた皇子だった。
現在はすっかり歪んで、自分がなり損ねた『いの一』を壊す享楽の為に生きている快楽主義者の魔獣である。心臓をドンサウザンドに食われているのでいざという時には逆らえないが、基本は自由に人間を壊し回って楽しんで生きている。新月の夜に神代家を虐殺したのはベクターである。歳を取らない。

「『い』も『ろ』も良かれと思って皆殺しにしちゃえばいいんですよ。
おんなじ『は』の遊馬くんだったら、分かってくれるでしょう?」

璃緒が『いの一』と聞いて人間に紛れて最も絶望に陥れられる瞬間を演出していたのだが、本当の『いの一』が遊馬だということにはずっと気付かなかった。だから遊馬との友情は本物だったが、遊馬が『いの一』と発覚した瞬間、裏切られた気持ちになって遊馬に牙を剥く。
遊馬が、自分が『ゼロ』だと気付いて、ハルトとフェイカーとトロンと凌牙の穢れを全て一気に吸い込んで自壊しかけたその時、壊れるくらいなら自分で壊すとベクターは遊馬の首に手をかけるのだが、
遊馬の殺そうとしたその瞬間、遊馬が「いいぜ」と笑ったので、ベクターは耐え切れなくなって遊馬の首筋に噛み付いて直接穢れを吸い取って遊馬を助けた。反逆したベクターはそのままドン千に心臓を握り潰されてしまうのだが、それでもベクターは満足げだった。いつの間にか、友情ごっこは本物になってしまっていたらしい。
ちなみに、真月はほぼキャラ作りだったが、小鳥の甘味屋の団子が好きだったのはマジ。

異形の正体を現したベクターは、倒れると人の形に還っていった。もう動かない真月に遊馬が泣き叫んだ時に、アストラルが皇の鍵からふわりと現れて遊馬に微笑みかけるのだ。

「大丈夫。彼を生き返らせることができるよ」


わたしは、わたしたちは、つくも。
愛され心を持った、九十九年の魂だから。

【アストラルの正体】
アストラルの正体は、遊馬の胸のペンダントが心を持った付喪神。
一馬パパが古美術品を輸入した時に、3才だった遊馬が一目惚れしてはしゃいで手放さなくなった金細工のペンダント。
高名な細工師が切り出した物で、
astro-light(アスト・ライト=星の光:人は死んだら星になる、という逸話から)と名前が付けられた芸術品であった。
3才だった遊馬がそれをぽやっと聞いて、「あすとりゃ?あすとりゃる?ほしい!とうちゃん、ちょーだい!おねがい!」と頼み込んで譲って貰った物。
一馬パパが遊馬に苦笑しながらそれを譲ってやったところ、遊馬は飛び上がって喜んで、抱き締めて「やったぁ!ずっといっしょだからな!あすとらる!」と頬ずりした。
子供のひたむきな愛に触れたastro-lightは、一瞬だけきらりと輝いて
それを見て取った父一馬は、それに既に付喪神の片鱗を見て取っていて、
「そうか。じゃあ、遊馬をよろしくな」と微笑んで一撫でした。
その日からその鍵は、『アストラル』になった。アストラルは、そこから十年、遊馬と片時も離れず、遊馬を見守っていた。遊馬の半身に等しい愛を遊馬に注がれながら、遊馬の全てを、見てきた。

「遊馬、どうして君の名前が『99』と書くか知っているか」
微笑んだアストラルは、涙を流す頬にそっと触れて、触れない涙を優しく拭った。遊馬の頬から、雫が光をはらんで流れ落ちる。
「遊馬、人はな、君たちが思っているよりずっと、不可思議な生き物なのだ。人の手で作られた物は、百年経つと異形に落ちる、と言われている。街にあふれた異形達を見ただろう。だからな、人は、古い慣わしで、九十九年経った物を、壊すのだ。」
「えっ!?」
遊馬は、壊す、と聞いた途端、衝撃的な事を聞いたような顔をして目を剥いた。
それにアストラルは微笑んで、ゆるく発光する。それはアストラルの感情を移し込んで、ゆるゆる、ゆるゆる、淡く点滅した。
「つくもの子、私たちの愛しい子。君はいつだってそうだったな。人も、物も、等しく愛して、何も手放さない。捨てることも壊すことも考え付かない優しい子。だから我らは、君を愛するのだ。」
「お前が、アストラルがつくも神?かみさま?」

アストラルは肯定するようにふわりと逆さに遊馬の頭を抱いて、透けた青の水晶の手を頬に撫ぜた。逆さまになったアストラルの慈愛に満ちた瞳と、遊馬の涙をはらんで濡れた瞳が、見つめ合って光を交わし合う。

「でも、おれ、何も、何もしてないぜ!おれまだたった13才で、99年なんて、足りねえよ!」
「そんなことは無い。大切に磨いて、頬を寄せて、名前を付けて愛してくれた。」
「そんな!そんなの、当たり前だろ!」
「いいや。それが、その些細が、ひどく大切なのだ。
君は愛しいな、それを当たり前とする心が、本当に愛しい。
器に愛が満ちるのに、本当は時など関係が無いのだ。私ももう産まれてから107年経っているしな。
君が私を見つけて、名を呼んでくれてから、もう十の季節が流れた。あまりに愛しい日々だった。君の成長を見届けられたことを、心から、喜ばしく思う。君が私たちを大切にしてくれたから、我々は人の世に、人の側に留まることを選んだ。力を得て異形となる百年目を放棄して、九十九年のまま時を刻んで人とあることを決められた」


「我々付喪神は、何の変哲も無い物だった。
人に作られ、人と同じ時を過ごし、人に愛を注がれて命を持った、たましい。
欠けた茶碗、ほつれた人形、穴の空いた鍋に、古く立て付けの悪い棚。わたしたちは、そんな、あふれ返る愛しい無数の品物に過ぎなくて、けれど、人が九十九年愛してくれたから、堕ちずに済んだ心の残り香だ。
たくさん見てきただろう?街にあふれる異形たちを。どうか許してやって欲しい、アレは、愛を受け取れなかっただけなのだ。我らの同胞は、ただ、寂しかっただけだ。許してやってくれ、もう己でも、自分の求めるものを知らないだけなのだ。

「忘れるな、遊馬。君のかっとビングを。君の心を。
君は君のままであってくれ。どうか、憶えていてほしい。

どんなものも、『愛されれば、心を持つのだ』と、いうことを
我らの器に満ちた愛を、君に返そう」

「さよならだ、遊馬」
微笑んだ先は、指先をほどいて


「付喪の子、私たちの愛しい子。
大丈夫、また、産まれてくるよ」


「見えなくても、そばにいるよ。私は星の光消えても、壊れても、空から見ている。君が寂しいときには、抱きしめるから、だから、泣かないで。笑ってくれ、わたしの愛しい子」

【エンディング】
そうして、ベクターは目覚めて、トロンとフェイカー、ハルトは助かり、凌牙も人に戻った。そして、心臓に霊障の突き刺さったⅣもまた。



遊馬とアストラルが触れ合って光を放つ世界のなか
茫然と見つめたナッシュは、腰の銃が、熱を持つ事に、気付く。

凌牙の二丁銃、ドレイクとバイス。
「バイス?」
膝をついたまま唖然と
そうして。
倒れ伏したままのⅣの刀身から、現れた弦楽器の人形
それはつかの間Ⅳの横に浮いていて、遊馬の元へ吸い込まれる様にその場を離れた。初めて見るその姿に、けれど、名は、すぐに判った。Ⅳの、愛刀。
「ヘブンズ・ストリングス?」
その弦人形は、応えることなく光の中に溶けていった。
光はいよいよ増して、凌牙とⅣを包む。紫に変色した指先が、解けていく。
茫然と、人に還っていく自分の手のひらを見つめながら
時間の流れのわからぬ光の川に包まれた刹那に、「ん」とうめき声がして、凌牙は、息を忘れた。
「Ⅳ?」
「ぁ?」
薄っすらとまぶたを押し上げた紅い瞳に、
ゆるり、またたいた、先。
Ⅳの胸の黒く突き刺さった爪が光の中で崩れ消えて
光をはらんだ綺麗な紅いガラス玉の向こうに、自分の、泣きそうな、人の姿が、映っていた。
りょ
「Ⅳッ!!お前!!」



目覚めて帰って来たⅣに、璃緒は駆け付けて。
璃緒は兄と生きて再会して、もうハルトが治った今カイトは璃緒を縛らない。遊女達を解放することを決めた。
理由はどうあれ凌牙を本気で殺そうとしていたⅣは、璃緒から足を引いて
「違う、そんなんじゃない、オレは、お前の兄貴を、それにお前は凌牙が、」
と死にそうな顔で、璃緒から後ずさるⅣに、
「ええい、まどろっこしいですわ!」
一同の目の前で、璃緒は襟首を引っ付かんで、口付ける。
きゃあっと湧く一同の前で、がっつり襟首を固定されて押さえつけられたまま、Ⅳの声は呑み込まれて、深いキスは交わされて
Ⅳは解放された途端、真っ赤な顔でへたり込んだ。璃緒はそんなⅣに妖艶な流し目などくれて、「あら、腰が砕けました?」などと紅引いた唇をペロリと舐める。
へたり込んだⅣは、パクパクと鯉のように口を開け閉めした。

「おまっ おま、なに、なんで」
「あら、そこまで言わせますの? 野暮ですわよ」

身を寄せた璃緒が美しく微笑む。
「ねぇ、さらって。海を見せてくださるんでしょう?」

衝動が、燃えた。
Ⅳが堪らず、泣きそうになりながら璃緒の腰を取った途端、Ⅳは背中がゾクッと寒くなって後ろを振り向いてゴリッと頭に銃を押し当てられる。
後ろには、凄い顔をした凌牙が
「もういっぺん死ね」
「オレ!? この状況でオレ!? 待て待て待て早まるな凌牙話せばわかぎゃあああ」




そうして。
目覚めたベクターから、街にあふれる化け物には、ドンサウザンドが大元で絡んでいる事を知った遊馬は、ベクター、凌牙、Ⅳ、璃緒、カイト、V、Ⅲ、トロン、みんなで戦いへと飛び出すのだ。
これで本当に〆。物語は光の中に完結。
遊馬を中心に、
各々の武器を構えて好戦的に一斉に飛び降りる一同で、ラスト。

【その断頭台を飛び降りて】
【さあ光線銃を撃ちまくれ】
エンディングロール。









【エピローグ:愛されれば、心が】ここまで!


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