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みほまほ同棲1

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2016-05-22 13:00:07

まったりペースで。

「おはよう、お姉ちゃん」
「おはよう。よく眠れたか?」
「うん」

 そうか、とお姉ちゃんが微笑んで暖かいカフェオレを手渡してくれる。お礼を言ってマグカップに口を付けると、優しいミルクと珈琲の香ばしさの中にほっとするようなとろける甘さが広がった。まるでお姉ちゃんみたい。
「それを飲んだら、顔を洗ってくると良い。じきに朝食も出来る」
「うん」
 頷いてカウンターキッチン越しにお姉ちゃんの後ろ姿を眺める。エプロンをつけて、台所に立つお姉ちゃんというのは、今までに見た事が無かったからやっぱりまだ不思議な感じ。お姉ちゃんは料理が出来るわけでは全然なくて、辛うじて焼いたり捌いたりが出来るくらい。黒森峰でやった野営訓練の賜物だった。林檎の皮を剥く手付きも危なげない。そういえば、中学生の頃には夏休みにナイフ一本だけで1週間過ごすサバイバル訓練をした事もあったっけ。あの時は大変だったなぁ。
 寝惚けた頭で取り留めもなく考えながら、マグカップの底が見えた所で洗面台へと席を立つ。閑静な住宅街の2DK。窓の外には爽やかな朝日と鳥の鳴き声。少しだけ覗いていた桜の木も、今はもうすっかり萌黄色の若葉を茂らせていた。顔を洗い、華さんに教えて貰ってから飾るようになった、窓辺の花の水を変える。今年の春から始まった、大洗を離れてのお姉ちゃんと二人暮らしはまだ少し慣れなくて、朝起きてからも夢の続きのような心地がする。
 みほは大学生になった。


1


 進路について悩んでいた。
 大洗戦車道での活躍もあって、色々な大学からの誘いもあったけど、ただ自分の戦車道を続けられれば良いという思いもあり、強豪校にはそれ程興味を惹かれなかった。将来の事はまだ漠然としていて、進路調査を前に幾つかの選択肢は考えたけれど、そのどれもが強豪校でなければならない理由もなく、皆が行く大学へ一緒に行って、その中で探せたらと先延ばしにする事も考えていた。
 だけど、その事を話したら優花里さんが滅多に見せない厳しい顔をしてそんなのは駄目ですと声をあげた。西住殿と一緒に戦車道を続けられたら嬉しいです、一緒に居たいと考えて頂けるのも。だけど、西住殿は、もっとご自分の能力にあった場所で活躍するべきです。私はもっと、西住殿が輝くところが見たいです。…そんな事を話してくれた。あんこうチームのみんなも、優しくそれを後押しして、迷った末に、誘いのあったうちのある大学を選ぶことにした。そこは図らずも、お姉ちゃんのいる大学だった。
「みほ。今日は1限からだったか?」
「うん」
 トーストと目玉焼き。それからシャキシャキのサラダ。デザートにヨーグルトと林檎。シンプルだけど立派な朝ごはん。お姉ちゃんは先に食べ終えて、珈琲を片手にノートに書付をしている。栄養バランスのチェックの為につけているノートだった。
「送っていこう」
「歩いて行けるから、大丈夫だよ」
「私も用事がある。そのついでだよ」
 遠慮する事はない。そうお姉ちゃんは微笑むけど、その用事も大して中身のないものだというのは、もう丸分かりだった。つい曖昧な顔をしてしまっていると、それを察したお姉ちゃんは「私がそうしたいだけだ」と苦笑した。
「まだみほといられる事に舞い上がっているらしい。すまないが、姉の我儘と思って付き合ってくれ」
 始終そんな調子で、言葉通り、お姉ちゃんはみほが同じ大学へ行くと聞いて、とても喜んでいた。ちょっとだけ胸がちくりと痛む。勿論、自分で選んだことに後悔はしていないけど、黒森峰でお姉ちゃんを残してきてしまった事には飲み込めない罪悪感があったから。実のところ、蟠りも大分解消されたとはいえまだ少し、距離感を測りかねている部分もあった。お姉ちゃんの後ろには、いつもお母さんの姿があったからだろうと思っていたけど、それとも少し、違う気がする。一緒に住もうと提案された時には、そんな違和感を少しずつでも無くせたらと思ったけど、まだまだ時間は掛かりそうだ。
 わたしは、どうだろう。トーストをさくりと齧りながら、みほは自分自身に問いかける。また憧れていたお姉ちゃんと戦車道を出来るのは嬉しい。肩を並べられる事は、誇らしくもある。お姉ちゃんといれるのは嬉しい。だけど。
 何かもやもやとしたものを抱えながら朝食を終え、お姉ちゃんの車で大学へ向かった。お姉ちゃんの角張ったダークイエローの愛車には、いつの間にか『II号戦車』の愛称がついていた。


「西住殿!」
 講義室へ着くと、真ん中より少し後ろの席で優花里さんが手を振っていた。ちなみにお姉ちゃんの事は、隊長殿と呼んでいる。
「おはよう、優花里さん」
「おはようございます」
 隣に座りながら挨拶を交わす。優花里さんは、みほにこの大学を勧めたあの日から何か決心がついたようで、猛勉強の末に一般入試で同じ大学に入学した。元々、機甲戦理論で受けたい教授がいたけれど学力的に無理と諦めていたらしい。西住殿のお陰で受かる事が出来ましたと合否の日に明かされたけど、優花里さんの頑張った成果だ。あんこうチームのみんなとは全員離れ離れになるものとばかり思っていたから、また一緒に戦車に乗れる事はやっぱり嬉しかった。
「優花里さん。午後休みだよね? 今日の練習までの時間、空いてるかな」
 筆記具を取り出しながら尋ねると、空いてますがと優花里さんはちょっと首を傾げて、何のご用でしょうか、と尋ねた。
「うん。買い物に付き合って欲しくて」
「勿論、お供しますよ。何を買われるんです?」
「来週、お姉ちゃんの誕生日なんだ」
「来週というと、西部戦役の侵攻が始まった日でありますね!」
 間髪入れずにそう答え、流石は隊長殿です、と目を輝かせる優花里さん。そのあたりの感性はよく分からないけれど、お姉ちゃんらしい事は確かだった。


 今日の講義を終え、優花里さんを待つ間に携帯を開くと、ケイさんからのLINEが届いた。そろそろまほの誕生日だから、サプライズパーティーをしよう、と云う事らしい。サンダース大学に進んだケイさんを始め、隊長をしていた馴染み深い面々は、学校は違えどお姉ちゃんと同じく大学選抜チームに所属した事でより親交が深まったらしい。了承の意を返すと、早速日時や場所についての相談が始まる。練習場にほど近い小さなお店を貸し切ってのパーティーを考えているそうだ。ケイさんのことだから、きっと賑やかになることだろう。楽しい想像に少し頰を緩ませ、喜んで牽引役を引き受けた。
 そうしてやって来た優花里さんとお買い物をして訓練を終えると、前から気になっていたお店で買った美味しそうなドーナッツを片手に家路に着く。ロードワークを終えたお姉ちゃんが戻る前には、夕飯の準備も終えられるだろう。
 鞄に隠したプレゼントを渡した時のお姉ちゃんの顔を思い浮かべながら歩く帰り道は、スキップでも踏んでしまいそうな程に弾んでいた。


2


 ケイさんとの約束の日。練習後に行きたい場所があると言って、今日の主役のお姉ちゃんを連れ出す。パーティーは皆の都合と曜日の兼ね合いで、誕生日の3日前に行われる事になっていた。お姉ちゃんの事だから、もうある程度目論見はバレているかも知れない。だとしても、お姉ちゃんを驚かせようという試みは子供の頃の悪戯みたいで、知らない振りをするのはくすぐったく、やっぱりわくわくするものだった。適当な場所で少しの間の時間を潰して、ケイさんからの準備完了の連絡が届くのを待ってから、お姉ちゃんの車で指定のお店へと向かった。

「ハッピーバースディ、まほ!」

 扉を開けるなり、沢山のクラッカーが弾けた。
 予想していた筈だったけど、重なり合う破裂音に一緒に入った横で思わず身を竦ませて目を白黒させてしまう。砲撃ならこんなに吃驚する事もないんだけど。残響と鼓膜の痺れが収まると、後に残るのは火薬の匂いと色とりどりの細い紙テープと紙吹雪。それらを頭から盛大に纏ってちょっと面白いことになっているお姉ちゃんは、はにかむように苦笑して「ありがとう」と答えていた。作戦は成功らしい。拍手やざわめきで堰を切ったように賑やかになる室内。誰かが指笛を吹いて囃し立てている。みほが見知った顔の他にも、何人か面識の無い人もいるようだった。多分、選抜チームのメンバーだろう。お姉ちゃんがケイさんやアンチョビさんに左右を固められ、肩を抱かれながら店の奥へ入っていくのを見送り、みほも遅れてカチューシャさんやノンナさんに手を引かれて奥の席へと誘われる。後ろを振り向くと、黒いエプロン姿のお店の人が本日貸切の看板を改めて表に出している所だった。

 昼はカフェで、夜はバーになるらしいこのお店は橙色の照明に照らされて、暖かく落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「Heyまほ! どれ飲む? 色々揃ってるよ」
「20歳だもんなぁ、良いよなぁ。西住、先ずはスプマンテからだな!」
「今日は車で来ているのだが」
「No problem! 送り迎えと代行は任せておいて。折角のPartyだもの、楽しまなきゃ勿体無いわ!」
「そうだぞ! ここまで来たら、あとはノリと勢いだ!」
 一番奥の大きなテーブルには既にお姉ちゃんが座らされていて、左右からケイさんとアンチョビさんが広げたメニューを見せ合いながらああでもないこうでもないと話しているようだ。みほはそこから少し離れた場所に座り、カチューシャさんの勧めるウォトカを丁重に断った。
 飲み物を頼んでお店を少し見渡してみる。カウンターの上の方には、照明を受けてきらきらと光る逆さまのワイングラス。その向こうの棚には、端正に面を揃えた同じくらいの規格のボトルが沢山あった。かと思えば、また隣の棚には背の高いのっぽの瓶や太っちょの瓶、括れた瓶や、小柄な瓶と個性豊かなお酒の瓶がずらりと並んでいる。インテリアも何だかお洒落で、ちょっと大人っぽい。カウンター席の隅に見つけたダージリンさんは、美人な見た目もあってまるで調度品の一部のようにすっきりと風景に収まっていた。馴染みすぎていて、危うく見過ごしてしまうところだった。慣れないお店の雰囲気に最初はどきどきしていたけど、戦車道で知り合った皆さんと話すうちにリラックスして、それも段々と気にならなくなる。
「すみません、遅くなりました」
「姐さぁーん! お久しぶりっす!」
 暫くして逸見さんとペパロニさんがやって来た。意外な組み合わせだった。「バカね、こういう時は先ずは主賓に挨拶しなさいよ」「あ〜、賢いっすね!」「それとこれとは関係ないでしょう」と小突き合っているのを見ると、随分と仲が良いようだった。同じ大学に入ったのかな。
「よぉーし、皆揃ったな! それじゃ、我らが西住まほの生誕を祝してぇー!」
 椅子の上に登り、グラスを掲げて仁王立ちになったアンチョビさんの音頭で、賑やかなパーティーが始まった。


「ああ、あの子? 同じ大学よ。受かったは良いんだけど、申請が遅れて寮に入れなくなったらしいのよ。かといって下宿するお金も無いから助けてくれって顔見知りの私が泣きつかれて、仕方なく間借りさせてるの」
 間借りといっても、殆ど私が払っているんだけど。そう話すのはプレゼントを渡し終え、他の人にお姉ちゃんを譲った逸見さん。丁度、カチューシャさんが紅茶友達のダージリンさんと話しに立って空いていた隣の席を勧めると、逸見さんは未使用のグラスを選んでテーブルのボトルからビールを注いで腰掛けた。そうして、グラスに口を付けた所を見計らい気になっていた事を尋ねると、返ってきたのは先の答えだった。
「そうなんだ。逸見さん、優しいね」
「そうでもないわ。家事全般をやらせてるもの。それに騒がしいったら。でもまぁ、意外と気は利くみたいだし、料理は美味しいから、良い拾い物だったかも知れないわね」
 まるで、犬か猫のような言い回しだ。黒森峰では1、2年生は2人部屋が基本だから、ある程度の慣れもあるのだろう。みほ自身は副隊長就任が決まると同時に早々に1人部屋に移されてしまったが、中学時代の寮生活では2段ベッドが2つ並んだ4人部屋を使っていた。スペースの都合というよりは、それが黒森峰の伝統だったから。逸見さんは「やっぱりビールは黒森峰の方が美味しかったわね」とグラスを煽る。注いだ瓶のラベルにノンアルコールの文字は見えないけど、口を出すのは辞めておこう。副隊長になった時に覚えた逸見さんのプロフィールを思い出すまでもなく、誕生日はまだまだ先なのは確かだった。
「そういう貴女はどうなのかしら」
「何が?」
「隊長と、上手くやれてるの」
「どうして?」
「どうしてって……」
 二人は姉妹だ。はたから見ても、仲は良い方だとも思う。だから、逸見さんがどうしてそう尋ねるのかの方が気になった。逸見さんは少しの間逡巡して、考える時間を稼ぐようにまたグラスを一口煽る。それから「何もないなら良いの。気にしないでくれる?」と薄く笑った。大学生になった逸見さんとは今日初めて会うけど、何だか前より大人びてかっこよくなった。
「それより、いつまでその呼び方続けるつもり?」
「え?」
「エリカで良いって言ったでしょ。 良い加減にしないと、私も傷つくわ」
「あ、ごめん。いつ……エリカさん」
 呼ぶと、エリカさんは「それで良いわ」と満足そうに微笑した。少し持ち上げたグラスで改めて乾杯をしたところで、カチューシャさんが戻ってきた。「エリーシャ、久しぶりね!」と嬉しそうに満面の笑顔を浮かべるその顔は、お酒で真っ赤に染まっていて、年上の人に失礼ではあるけれど、屈託ない小さい子のようで可愛かった。後ろのノンナさんとダージリンさんの表情から、何となく経緯が察せられた。


 ペパロニさんとアンチョビさんによる、お店のキッチンを借りて振舞われたイタリア料理に舌鼓を打ち、わいわいと騒いでいるとあっという間に時間が過ぎる。
 どれも美味しくてすっかり膨れてしまったお腹を抱えながら、服を脱ぎ始めた女の人の側から大爆笑をしていたルミさんの「西住妹ぉ、隊長をぉー任せたぁ!」と呂律の回らない声を受けながら愛里寿ちゃんを遠ざける。ちらりと振り向くと素面のケイさんが慌てて止めに入り、背後からアズミさんが捕まえて頭を叩いていたけど、会話から察するに、下着姿のその人はどうやらメグミさんらしい。以前お姉ちゃんを挟んで少しお話しした時には、落ち着いたしっかりした人の印象が強かったから、記憶の中の人と本当に同じ人なのか自信が無くなってしまった。戦車乗りは血の気の多い人が多いと思っていたけど、お酒好きの人も多いらしい。いつの間にこんなことになったのか、部屋を移動するのには床に転がった幾つもの瓶を踏まないように気をつけなければならなかった。辿り着いた部屋の隅で、愛里寿ちゃんと並んでジュースを飲む。相変わらずの喧騒の中でボコの話に華を咲かせていると、そろそろお開きという雰囲気になってくる。

「じゃあナオミ、任せたわよ」
「OK. エスコートは得意なんだ」
 ナオミさんの車で、お酒を飲んでしまったお姉ちゃんと家まで送って貰う。お姉ちゃんの車はホストであるところのケイさんが運んでくれるそうで、車のキーを預けていた。何人かの人は二次会に行く流れらしい。当然お姉ちゃんも誘われたけど、断っていた。
「さぁ、お姫様方。どちらまで?」
 後部座席に乗り込むとナオミさんがハンドルを片手にそう尋ねる。髪が短い事も手伝って、何だか男の人みたいだ。お姉ちゃんはまだ服に付いていたクラッカーの紙吹雪を指先で摘み小さく笑った。
「ガラスの靴は、生憎と持ち合わせがない」
「OK. 魔法が解ける前に届けよう」
 見た目以上にお姉ちゃんは酔っているようだった。


 家に着いて、ナオミさんの車で戻るケイさんにお礼を言って見送った。代わりばんこにお風呂に入ってからは、リビングのソファでお姉ちゃんとだらだらと過ごす。其々に本を読んだり、テレビを観たり。ぽつぽつと今日のことを話し合っては、楽しかった時間の余韻に浸る。
「みほ」
 そうしていたら、お姉ちゃんが手元の本に目を落としたままに声をかける。珍しいな、と思いながら「なに?」と応える。お酒はもう殆ど抜けているようだった。
「来春からプロリーグが本格的に立ち上がる。内々に打診があった。今はまだ良いが、年明けには私も忙しくなるだろう」
「大学はどうするの?」
「中退する事になるな」
「そっか」
「この家にも、あまり居られなくなる」
 お姉ちゃんは一息にそう話すと、サイドテーブルの珈琲を取り上げて唇を湿らせた。
「みほは…プロになる気はないか」
お姉ちゃんの言いたい事はよく分かった。でも、みほはかぶりを振る。
「ならない…かな」
 大洗では経験者としてチームメイトに戦車道について教えたりもしたけど、本当のところは逆に教えられることばかりだった。戦車道の楽しさは、みんなに教えて貰った中でも、最も大切な宝物で、みほの戦車道の始まりでもあった。大洗と大学選抜チームとの試合ではより広がりをみせて、試合通じて戦車が人と人とを繋ぎ合わせる事を知った。みほ自身が高校時代に得た経験や掛け替えのない想いを、もっと色んな人にも知って貰いたい。その中でみほ自身の戦車道も磨かれるだろうという確信があった。そんな事が出来たらきっと、素敵だと思う。そうして互いに教え合い、強くなる皆の戦車道。そしてそれは、プロとは違う視点であるように思う。みほの戦車道は、恐らくそこにはない。
「…そうか」
「お姉ちゃん…わたし、」
「みほが決めたことだ。私は、それを応援するよ」
 お姉ちゃんはそう穏やかに話しているのに、傷付いた子供のような、繊細で心細そうな印象がついて回る。隠しきれない落胆や寂しさが、指先や頰に滲んでいた。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「そっちに行っても良い?」
「ああ」
 お姉ちゃんがふわりと微笑む。
「おいで、みほ」
 手招かれて、カーペットの上に座っていた腰を上げてお姉ちゃんがいる二人掛けのソファに座る。肩を抱かれ、暖かい手で頭を撫でて貰うと安心した。お風呂上がりの、お姉ちゃんの匂いがする。
「みほには、あまり姉らしい事をしてやれていなかったな」
 黒森峰にいた頃の事だろう。あの頃は、隊長と副隊長という立場で、お姉ちゃんも表立って動けなかったから。
「そんなことないよ」
 そんなことは、お互いに分かってる。自分を不甲斐なく思っても、お姉ちゃんに不満を抱くことなんて無かった。お姉ちゃんだって、きっとそれは分かってる。
「プロになったら、お姉ちゃんとこうする時間も減っちゃうんだね」
「…いつかは来たことだ」
「お姉ちゃんは、それで良いの?」
 プロリーグはこの上なくお姉ちゃんに合った選択肢の筈だった。だけど、お姉ちゃんの心の隙間を探すように、ついそんなことを尋ねてしまった。お姉ちゃんは、そんなみほの心を知ってか知らずか、撫でる手を止めないまま当たり前のように言葉を紡いだ。

「 進むべき道が目の前にあるのなら、私はただ突き進むだけだ。喩え戦車に乗っていなくとも、戦車道は、私の生き方そのものだよ」

 日付けが変わった。明日、お姉ちゃんは20歳になる。











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ハブ山@いんちょ @habuyama2000 2016-05-22 19:08:20
最高です…続きをありがとうございます…

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そろそろひなたぼっこしたいbot㌠
@crownclowncos
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