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手紙と少尉、上等兵と少尉

@sin_niya_b
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2016-05-27 15:08:22

※よそ様のキャラをお借りしているため、設定の齟齬などある可能性があります。お気付きの点があればそっと指摘して下さい。




 拝啓

 中央では花水木の咲く頃でしょうか。こちらは相変わらずです。
 こちらの空気は案外性に合っているらしく、落ちた体重がすぐに戻ったどころか、少し太ってしまったくらいです。
 職務にも少しずつ慣れてきましたが、うまく兵卒と意思疏通ができなかったりと難しい場面もあり、まだまだ兄には敵わないなと身が引き締まる思いです。
 ご家族はお元気ですか? 挨拶もせずにそちらを離れてしまったことが心残りです。

 一緒に送ったのは新ロゼです。少し甘口ですが、ご賞味頂ければ幸いです。

 敬具


 真面目に勉学を励んできた者らしい、整った文字。書き終えると一度読み返し、インク取り紙で軽く押さえてから畳んで封筒へ入れた。中央軍にいた時代の恩師宛てである。
 そしてメリアドールは肩掛けの大きな鞄(キャンバスでも入りそうな)と小包も持って部屋を出、郵便係へ向かうと小包と手紙を預けて、その足で次の目的地へと向かった。
 ……使用申請を出しておいた作戦室には、椅子に座ったまま眠っている青年がいた。
 それはとりあえず置いておいて、鞄から地図、木製の駒と、筆記用具、その他作戦資料を取り出して大きな机に並べてゆく。一通り準備が終わってから、メリアドールは青年に近付いた。
「……ヴァンキッシュ上等兵」
 そっと肩を揺すると、がくんと頭が下がってから勢いよく上げられる。苺のような目がメリアドールを見た。
「少尉! おはようございます!」
「うん、おはよう」
 青年……メルデン・ヴァンキッシュは兵站班所属の上等兵である。メリアドールの直属ではないが、時々こうして『補習』が行われる間柄だった。
 膝の上に手を置いて真剣に話を聞いている(ように見える)メルデンに、メリアドールは真面目な顔で地図と資料を使い今度の作戦についての説明を始める。
「……この補給路は極めて重要で、断たれると前線のほぼ全員が飢える。それはもちろん相手だってわかっているから、なんらかの工作が仕掛けられる可能性が高い。だから今回は執行班と兵站班が合同で……こら」
 が、そう時間も経たないうちにうとうとし始めたメルデンの頭を丸めた書類ではたく。まったく悪びれない様子で、もう一度お願いします!と言い放つ彼にメリアドールはしばらく迷った後、地図の上に書かれた線を指でなぞった。
「つまり、ここが切られると、死ぬ。わかる?」
「はい!」
 本当にわかっているのだろうかと思いながらも言及せず、なるべく平易な言葉で説明を試みるが実際どの程度響いているのかも判断できなくて、最終的には、
「……なるべく、執行班から離れないこと。いい?」
「わかりました!」
 ……と、説明の意味があったのかなかったのかわからない結論に到達した。
「ヴァンキッシュ上等兵、私の話、わかりにくい?」
「うーん、難しいであります!」
「そう……」
 メリアドールは、なんとかしないとな、と考えながら広げていたものを片付け鞄に入れて肩にかけなおす。それから退室の許可を出し立ち去ろうとして、ふと足を止める。
「そうだ、これ」
 ごそごそと物入れを探り、手のひらに乗るくらいの紙包みを取り出してメルデンへと差し出すメリアドール。
「貰い物なんだけど、食べきれないから、あげる」
「わあい! ありがとうございます!」
 中身も聞かずに喜んで受け取った相手に少しだけ笑って、メリアドールはその場を去った。
 メルデンの手で開かれた紙包みの中には、きらきらした砂糖のまぶされた飴玉が、みっつ。


《幕》


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新矢 晋@企画用
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