ムゲンWARS。災の魔王様と囚獄の勇者。
災の魔王様(さんてんりーださん)のツイートを受けて。
Prisonerの、Personの、Plasticの、Potential、のPositiveの、Passionの、P。
@chuchuhakokaina
***
天使というのがどういう思考をする生き物なのか、囚獄の勇者……カイはいまいち計りかねることが多い。といっても、天使の知人など2人しかいないのだが。片方の青い翼の天使も優しい口調と愛らしい風貌ながらどこか浮世離れした雰囲気があって、初めて天使を見た興奮でついミーハーに話しかけたら困らせてしまったし、もう片方の彼女が探しているのだというこの黒い羽の天使はといえば、ときおり会って話すことがあると、途中でなぜか機嫌を損ねてつねったり突いたりしてくる。
「君は、人間かい?」
この唐突な問いの意味も、カイにはよくわからなかった。からかっているのかと思えば、顔をみあげればごく真面目な問いだとわかる。あまりに、唐突だった。カイは請け負った「人助け」を終えた直後だった。不運にも好戦的な魔界との自然発生的なゲートと隣接してしまったがために魔族の略奪に常に脅かされてきた村が、収穫期を無事に越すため、護衛を依頼してきた。案の定数日の滞在の後、収穫祭の直前に多くの魔物が襲来した。カイは依頼に忠実に、村の人々と作物を護って、多くの魔物を殺し、自分も幾つか傷を負って、死体を処分しながらようやく一休みしていたのだ。並の冒険者と変わらない仕事だ。それでも、首のチョーカーを得るまでは、ひとりではこなせなかっただろう仕事だ。
死して、燃やされ、なかったことにされている魔物の死体の山を前に、問われたこの質問には、どんな意味があるのだろうか。
「どうありたいか、ってわりと大事だと思うねん。おれ」
迷いながらも、カイは口を開いた。
「おかんもおとんも村のみんなもめっちゃおれに良くしてくれてん、人間ってええなって思うし。しんどい言うてる人が、なんでしんどいかとか、どうしたらしんどくなくなるかとか、あんま強い生き物だと、わからなくなると思うねん。だから強い魔王とか偉い天使様よりも、たいした力もない人間でおれたらええなって思う。そうあろうとしてるおれは、人間や。胸張っておれは人間やで、っていえる」
黒い翼の天使が、ふわりと地面に降り立つ。羽をたたみ、地面を踏みしめて、座って休んでいるカイの隣に立った。カイが訥々と言葉を選んで、話したいことを語りきれていない様子を見下ろしながら、それで?と先を促す。
「おれ、だれだってそんなもんやって思うわ。アンタだって、もし天使が嫌やったら人間であろうとしたらええし、魔王になったってええやん。アンタが何であっても誰も責めん。なんやたまにしんどそうな顔しとるのも、青い翼の天使様に会いにいかれへんのも、ワケありなんやろうけど。自分が何者であるかってことが、幸せに生きるのを邪魔するのなら、どうあろうとすれば幸せなのか考えたらええやろ。誰だって、なんにでもなれる」
氏より育ちっていうやん、と煙のたつ死体を眺めて、カイは立ち上がった。隣に立つ天使の目線は、わずかに高い。顔を合わせてにっとカイが笑ってみせると、天使はいーっと口の端を引いて、顔をしかめた。その顔が面白くてカイは小さく噴き出す。魔物の爪でついた傷がずきりと痛む。それをみていよいよ天使は嫌そうな顔をする。
「……きみはこれだから!」
「なんて?」
「なんでもない!」
でこぴんが1つ。またもやなんでか怒らせてしまった。なんや難しい人やなぁ、と思いつつ、でもええ人や、と嬉しくなる。天使の問いかけにはただの人間にはわからないような深淵な意味があるにせよ、仕事が終わって色々な意味でちょっとくたびれていたこちらを、同じく色々な意味で休憩させてくれようという意図くらいは当然含まれているに決まっているのだ。
END