@exo0821xoxo
#ニョルド
#ギョンス視点only
「…グスッ…お母さん…グスッ…」
『あらあら…どうしたの?』
「僕の…グスッ…僕の靴が無くて…探しても無くて…グスッ…ごめんなさい…グスッ…」
『…ふふっ、大丈夫!実は今日お母さんギョンスに新しい靴を買ってきたの!』
「え…?」
『ほら!すごいでしょ?お母さんエスパーなのよ?』
「グスッ…」
『もう泣かないで…?ギョンス…笑って?』
「…?」
『人間はね、楽しかったり嬉しいから笑うんじゃないの…笑うから幸せなことが起こるのよ…?ほら、お母さんの大好きなギョンス…笑って?』
「…うん…ふふっ…」
『そう、それでいいの…大丈夫大丈夫…』
大好きな母さん。
僕がいじめられて帰ってくる度に、大丈夫大丈夫…と抱きしめてくれた母さん。
父さんと離婚してからどんなに辛くても泣かなかった母さん。
母さんの笑顔にいつも安心していた。僕の居場所はちゃんとここにある…っていう証だった。
そんな母さんは僕が小学校を卒業する年に癌で死んでしまった。
全く知らなかった。母さんは変わらず笑っていた。1番近くにいたのに気づけなかった。
ものすごく痛かったでしょう?
ものすごく苦しかったでしょう?
僕の居場所はちゃんとある…その証がなくなってしまった。
母さんの笑顔の裏にあった痛みや苦しみに気づけなかった。僕に残ったのはそれだけだった。
笑えないよ…母さん…
大丈夫大丈夫…って抱きしめてよ…
母さんが死んで僕は田舎の祖母と暮らすようになった。
母さんが生きてた頃以上に人と接するのが苦手になり、そういうタイプの人間はいじめのターゲットにはもってこいだった。
でもこの前までランドセルを背負ってた中学生のいじめなんて可愛いもので。何をされてもあまり気にしなくなった。
人間は自分より弱い者をいじめ蔑む事で自分の地位を確認する。世の中にはそんな汚い人間の方が多くいるんだろう。そう考えるとどんどん人が嫌いになった。
祖母は腫れ物のように僕に接した。祖母なりの気遣いだったのかもしれないけど思春期真っ只中の僕には逆効果だった。
そんな日々を過ごすうちに僕は無意識に1人の世界に入るようになった。友達は元々いなかったしいらなかった。誰かと無理して一緒にいるくらいなら1人でよかった。
3年にもなればみんな高校受験で自分の事で精一杯になる。僕にちょっかいを出すこともなくなった。
ほら、結局人間って自分の事ばっかり。
特に思い入れもない中学を卒業した。みんなが泣きながら写真を撮るのを横目に中学を後にした。
桜が咲き高校生になった。
新しい制服を身にまとい、新しい道を通る。普通ならこれから始まる新しい生活に胸踊らせるものなのだろうが僕にはなんのときめきもない。学校は勉強する為のもの。それ以上でもそれ以下でもなかった。
風が吹くたびに落ちてくる桜の花びらでさえ僕にはなんの色味もなかった。
自分のクラスを確認して教室に入る。みんな友達作りに必死のようだった。騒がしい教室の中を器用にすり抜け自分の椅子に座る。
先生が来るまで誰にも話しかけられないように…と小説を取り出した。
『はじめまして!俺、パクチャニョル!よろしく!』
誰かが僕の前に立ちとんでもなく大きな声でそう言った。驚いて顔を確認しようと視線を上げる。
そこには見上げる程の大きな身長に整った顔で爽やかな笑顔を見せる1人の男。何がそんなに楽しくて笑ってるんだろう。どちらかと言わなくても僕の嫌いなタイプだった。
「よろしく…」
視線を小説に戻してそう一言だけ残した。
チャニョルとかいう奴はこんなに素っ気なくされたのに、むしろ聞こえるか聞こえないか位の声で言ったのに満足そうに頷いて自分の席に戻っていった。
こういう何を考えてるか分かんない奴が1番苦手なんだ。
そう思ってたのに……
次の日から毎日、チャニョルは僕に話しかけてきた。
授業が終わる度に僕の席に来て、何読んでるの?とか聞いてもいないのに、腹減ったー!とか叫んでた。移動教室の時もうざったい位ついてきたし、ひどい時には他の誘いを断って僕の席で購買のパンを大量に食べ始める始末。
どんなに僕が素っ気なくしても、時には睨みつけてもチャニョルは笑ってた。それが逆にムカついてチャニョルの話を全部無視した事もあった。
「なんなの?そんなに僕に付きまとって楽しい?」
新学期も終わりに近づいた頃、我慢の限界だった僕は睨みながらそうチャニョルに言った。
『何でそんなに人と関わることを避けるの?』
僕の質問の答えになっていない。
呆れたようにため息をつく僕の目をのぞき込みチャニョルは続けた。
『ギョンスってさ、色んなこと最初から諦めてない?でもみんなが嫌がる仕事を嫌な顔せずにやるよね?』
「それが?誰かがやらなきゃいけないんだから別に嫌な顔することでもないだろ…」
『なんで?なんでみんなと仲良くなろうとしないの?』
「そんな事チャニョルには関係ないだろ!僕は自分で選んで1人でいるんだ!何も知らないくせに人の心に土足で入ってくるな!」
なんでなんでとしつこいチャニョルに僕は最終的に怒鳴っていた。こんな無神経なやつにわかってたまるか。
「もうほっといてくれよ!お前みたいなのが1番嫌いなんだ!」
そう言ってまたチャニョルを睨みつける。チャニョルは少し悲しそうな顔をしたがすぐに優しく笑って僕を抱きしめた。
「ちょっ…何してんだよ…」
『大丈夫大丈夫……』
その一言に僕の思考は完全に停止した。
"母さん……?"
気づいたら僕の頬には涙が流れていた。いつから泣いていたのか分からない。最後に泣いたのはいつだったかな。それすらも思い出せない。
『ギョンス…?人間は楽しかったり嬉しいから笑うんじゃないんだよ…?笑うから幸せな事が起こるんだ…』
なんだよそれ。
なんにも知らないくせに。
たった一言で僕の心の中に入ってきて。
ムカつくのにこんな奴嫌いなはずなのに。
なんで涙が止まらないんだよ。
チャニョルの胸で子どものように泣きながら母さんを思い出していた。チャニョルの温もりを母さんと重ね合わせていた。
大好きだった母さんの笑顔。
母さんが笑うだけでその場の空気が温かくなった。
大丈夫大丈夫…そう言って抱きしめてくれた母さん。
いっぱいだった思い出の箱に無理矢理フタをしていた。そうする事でしかあの時の僕が崩れずにいられる方法が分からなかった。
そんなフタがチャニョルの一言で簡単に空いてしまった。1つ2つと自分でも忘れていたほどの思い出が溢れ出してもう流れる涙を拭うことも出来なかった。
落ち着いた頃チャニョルは僕の顔をのぞき込んで優しく笑った。
『今は笑えなくても、俺が笑えるようにするから…大丈夫…』
「なんなのお前ほんとに…」
『俺?俺はギョンスの友だち第一号!』
そう言って笑うチャニョルが前ほど嫌じゃなかった。
それからチャニョルのおかげで少しずつ友だちが出来た。今まで友だちがいなかった僕は人との接し方が分からなくて、でも必ずチャニョルが隣にいてくれて助けてくれた。
変わらずチャニョルは僕に付きまとった。そんなチャニョルに冷めた態度を取りながらも心の中では少しだけ安心していた。
いつも購買でパンを買ってくるチャニョルにお弁当を作って行った時は笑いながら泣いてた。泣くか笑うかどっちかにしろって言ったら、これは嬉し泣きだからいいんだ!ってわけの分からないこと言ってて思わず笑ってしまった。
笑った僕を見てチャニョルは教壇の前で学校中に聞こえるんじゃないか?と思うほど大声でガッツポーズをして笑った。
クラスのみんなもそんなチャニョルを見て笑ってたし僕もびっくりしてまた吹き出してしまった。
クラスの空気が一瞬で1つになり温かかった。
どんな僕でもチャニョルは笑って受け入れてくれた。ちゃんと僕の事を見てくれる人は母さんだけじゃなかった。
高校を卒業する頃にはどちらかともなく恋人同士になっていた。自分に恋人が出来るなんてまして、それが男だなんて夢にも思わなかった。
でもたった一言で僕の心に入ってきたあの一瞬でチャニョルに恋をしていたのかもしれない。
高校を卒業し僕はチャニョルと一緒に住むことになった。
「お婆ちゃん…行ってくるよ…」
『ギョンス…これ…母さんから預かってたんだ…』
そう言って渡された1枚の手紙。恐る恐る開くとそこには懐かしい文字が並んでいた。
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ギョンスへ
ギョンスがこの手紙を読んでいるということは大切な誰かを見つけたんだね…
最後まで頑張れなかった母さんを許して下さい。最後までギョンスに本当の事を言えなかった母さんを許して下さい。
でもね、母さんすごく幸せだった。
ギョンスの為ならどんな事も乗り越えられた。
大切な誰かを見つけたギョンスならもう分かるでしょ?
人間はね、1人で頑張るには限界があるの。でも大切な人の為なら1人の時以上に頑張る事ができる。それが「愛」なのよ。
きっとギョンスは誰よりも人に優しく出来るはず。大丈夫大丈夫…。幸せはいつも笑顔の隣にあるものよ。
これから先どんなに苦しい事があっても、ギョンスが見つけた大切な人と支え合って生きていけますように。
いつまでも母さんの可愛い可愛いギョンス…笑って?
母より
▲
「…グスッ…母さん…グスッ…」
『ギョンス…お婆ちゃんギョンスにどう接したらいいかわからなくて…ごめんね…グスッ…』
「大丈夫…お婆ちゃん…僕もう1人じゃないから…」
『いつでも帰っておいでね…』
「ありがとう…お世話になりました…」
母さんの手紙を手に家を出た。空は綺麗な青色がどこまでも続いていた。お日様の光に照らされて顔を上げ母さんに向けて笑ってみせた。
母さん…大丈夫…笑えるよ僕…
大学へ入学し、大切な人と一緒にかけがえのない時間を過ごした。
嬉しい時も楽しい時も
苦しい時も悲しい時も
隣にはチャニョルがいた。
僕が笑うと僕以上に幸せそうに笑うそんなチャニョルが大好きで幸せだった。
大学1年のクリスマス、お揃いのリングをサプライズで用意してくれたのに僕の指のサイズを間違える…大事な時に空回りしてしまうチャニョルに涙が出るほど笑った。
「ねぇ、チャニョル?僕今すごく幸せだよ…?」
『言ったでしょ…?俺が笑わせてやるって。明日も明後日もその次もおじいちゃんになっても俺がギョンスを笑わせてあげるからね?』
"健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?"
"ふふっ、誓います。"
~ end ~