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幕間 看取の天使

全体公開 ムゲンWARS 1 1521文字
2016-09-16 08:51:00

災さんの使命について。かんしゅのてんし。或いは渡し守。

Posted by @san_ph7

 
 星空は昼は見えないものだ。星とは、夜に輝くもの。陽の光に照らされては見えぬもの。彼の名前は、昼と夜の境目を意味するものでもあった。
 ふたつの世界でそれぞれ夜へ向かった魂は、一旦は誰のものでもない状態になった後、仕分けされ、また二柱の神々の元へ戻った。再び生まれ来るために。
 ウィリデルクスは今日もそこに立っていた。波打つ白い床の向こうに聖界が見える。魂の輝きが星のようだった。それ自体はとても美しい。彼は夜空を見たことがない。彼が友達の名前の意味を問うたとき、女神は彼に一度だけそれを見せてくれた。夜空に輝く宝石、アルビレオ。
 ため息をつく。美しさから感慨にひたったのではない。友の今を想い少し憂いた。そうして、星々の儚さを悼んだ。星はときたま天に向かって落ちるのだ。にわかに、彼の足元から光がふわりと浮かび上がった。
……おかえり」
 落ち星を拾う。嫌な、仕事だなと、思わないでもない。彼の使命は還ってきた魂を迎えることにあった。肉体が滅び、行き場を失った魂をこの場所へと導く。その光に触れた。その魂が何を下で記録してきたか、それを視る。様々な映像が頭の中へ流れこんだ。彼は努めて、それを何とも思わないようにした。日にそれを何度も繰り返すのだ。ひとつひとつに思いを寄せ過ぎたら、つらくなってしまう。幸せな人生だったか、そうでないかは、死してなおその本人にも分からない。それを彼が判断することや、何か思うことを、彼は自身に許したくなかった。彼の使命は「全てが終わった」後から始まるのだ。過去を偲び感情を抱くことは、それまでの魂の記録の何かを変えたりはしなかった。
 ひとつの人生を終えると、魂に刻まれた記録が指向性を持ち、その性質を変えることがある。未来が書き換わる。大体は元いた場所へ戻るが、聖界から魔界へ、或いは魔界から聖界へと魂の移動が行われることもあった。そうした魂は女神へ送られ、女神から邪神へと受け渡される。性質が変わることは、そう不思議なことではなかった。二柱の神々の力は、そもそもひとつのものだったのだから。
 僕の魂も、変わることがあるだろうか。
 そんなことを思う。魂を導き、記録を読み取り、送るべき魂を然るべき場所へ送る。
 転生というシステムは、何なのだろうな、と思う。魂の輝きを惜しみ、それを愛したからこそ、もう一度、と彼女は願ったのだろうか。
 僕も彼女なら、きっとそう思うだろう。
 だからこそ、愛おしいと思うからこそ、感情を伴わないことは困難で、すでに終わった後の彼の使命というのは、ひどく悲しかった。
 それを見る。足元に輝く夜空を。天に向かって降る星を。燃え上がる魂の輝きは、確かに美しい。暖かい光は何にも代えがたく思える。星を拾いながら、悲しい最期を迎えた記録を読みながら、もしこの手で救えたら、何かが変わるだろうかと、感じてしまう。思ってしまう。
 でも彼は、誰も救うことができなかった。
 
 あなたは今まで誰を幸せにできたというの?

 今のままでは、何もできない。
 足元からは次々と魂の光が浮かび上がる。それらひとつひとつに触れながら、選別をする。もう一度その魂に肉体を授けるのは女神の仕事だ。彼ができるのは、読むことだけ。彼女の元に送ることだけ。
 魂が、変わることがあるなら。
 天使という魂の楔を越えて、力を手にすることができたなら。
 彼の名前は夜の始まりを告げる、緑の閃光。始まりと終わりの境界線。
 魂の終着地から次の転生を見届けるその使命を負う天使を、誰かが呼んだ。
 看取の天使、と。
 ため息をつく。
 浮かび上がる魂たちを引き連れて、その場を後にした。




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