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【七海用】~とある3人の邂逅譚~

@miraclegumi
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2016-09-27 11:08:46

七海PCと、PTMの出会いのお話になります。前の話は http://privatter.net/p/1726241 こちら。
PTMの参考イラストは http://privatter.net/p/1857490 こちら。
作中にPTM外のPCさんもお借りしました。最下部に謝辞を載せてあります。

【テリメイン:穏やかな海《セルリアン》】

 既に陽も殆ど水平線へと落ち、海岸にうっすらと藍と橙の美しいコントラストを彩りその灯りに映し出される港街の建物たち。
ここは探索者用に海底探索協会が大きく拓いた、探索者向けの群島都市の一つだ。

 海底探索協会が多くの探索者たちを海底遺跡へと旅立たせるため拠点を置く、七つの海の一つ《セルリアン》。
 他の超常的な気候や環境と比べ、名が示す通りその海域や気候は多くの人が集い探索の旅立ちに活かすには非常に適した海となっている。
 探索者、人が集まればそこには物と需要が集まり、物と需要が集まればそこには生活と経済が産まれ大きくなる。
 自然とセルリアンに浮かぶ数少ない島々には、人々が生活し暮らす規模の街や施設が数を増やし、探索者を受け入れるようになっていた。
 海へと潜り探索するための必需品、戦うための武具、そして寝食を賄うための宿や食事処。求められる設備や施設はいくらでもある。

 既に窓からはランプの灯りが漏れ、家路についた者たちの賑わう声が建物の中から聞こえてくる頃合い。
 その中の一つ。海水と潮でも蝕まれにくい、切り出した岩で造られた2階建ての宿屋で、これから一つの出来事が起ころうとしている。
 仕事を終えた、陽に焼けた水夫や男たちが酒を交わしに集い、探索者も食事や宿泊のために部屋を借りるなど、海底探索協会のサポートもあり今この酒場も例外ではなく大変な賑わいを見せていた。

 スイングドアを開けば中からは人の熱気と酒の臭い、そして喧騒が満席になったテーブルのどこからも響き渡っている。
 給仕の可愛らしい娘が焼けた小麦色の肌を大胆に見せた制服で慌ただしくトレイを両手に飛び回り、酒と食べ物が気前よく運ばれる。
 隅の席では男たちが酒を片手に煽りながら、テーブルにカードを広げ賭博に興じ、またどこかの席では何やら得体も知れぬ男たちが、ひそひそと小さな声で密約と商談を取引している。
 酒と肴を交えてテーブルでする事など十人十色。そんな中、入り口から一番奥の、丸テーブルに向かい合ってカードを広げる男女の姿が些か他の客たちとは異なる色を放っていた。


「はい、ボクの役はストレートフラッシュね。サキおねえちゃんは良くてツーペアでしょ? 今回はもうイカサマなんてさせないよ」

 テーブルを挟んで座る片一方、脇に置かれた葡萄酒を木のグラスに注いで口に運ぶ褐色肌の少年が、勝ち誇ったように手札を公開して椅子へとふんぞり返るように座って脚を組んだ。
 烏色の黒髪を乱雑に後ろで結び、頭の天辺と両側に3対の真紅の角を生やした、褐色肌の少年であった。見た目からは到底飲酒の出来るような年齢には見えないが、当たり前のように葡萄酒をそのまま飲み干していく。
 どうやら、ドローポーカーを二人で興じている様子。サキおねえちゃん、と呼ばれた濃紺の修道女服に身を包む金髪の少女は、口角を小さく釣り上げて不敵に笑って応えてみせた。

「な、なにさ。ハッタリかましたってそうはいかないよ? ツーペアはストレートフラッシュよりも弱い役、そこはいくらなんでも間違いないでしょ」
「ええ、そうですねハークくん。確かにツーペアはストレートよりも弱いです。が」

「私の役がいつツーペアだと言いました? 御覧ください私の役は、ほら!」

 サキが片手を大きく開き、自らの手札を木のテーブルへと反転させ優雅に拡げて見せた。そこに現れたカードは、


 2、2、J、J、K       K。


「トリプルペア、私の勝ちですねハークくん」
「ちょっと待ったぁ!! なんでサキおねえちゃんカード6枚持ってるのねえ!? ドローポーカーのルール知ってる? 5枚の手札で役を作るんだよ、ねえ知ってるかな?」

 当たり前のように6枚手札を公開するサキに思わず飲みかけていた葡萄酒を盛大に噎せ込み、ハークは抗議するようにグラスをテーブルに叩きつけた。
 激昂する褐色肌の少年司祭に、至って当然と言ったようにサキは両手を合わせて言葉を返す。

「創造主アドバンテージです」
「そんなルール、今までボク聞いたこと無いよ? 前回は自分の手札だけ全部スペードのAで"ロイヤリティファイブ・ジ・エース"とか訳の分からない役創ってたし、真面目に勝負する気あるの!?」
「勝ちは勝ちですよ。はいハークくんのチーズとポテト頂きますね」
「ああぁ、理不尽、理不尽すぎないかなこのポーカー……」

 ひょいひょい、とサキは相手側の方に積まれた、豪快に粗挽き黒胡椒が振りかけられた芋に、チーズが載せられどろっどろに溶けるまでオーブンで焼かれたチーズポテトの皿を自分の方へと引き寄せ手早く自分の口元へと運んでいく。
 頼んだ料理と酒がチップ代わりのようだ。貴重な自分の夕飯を創造主に略奪され、竜の角を下向きに曲げながら黒髪の少年は力なくテーブルをどんどんと叩いて悔しさと抗議を主張するばかりであった。



「カード勝負してるのはいいけど、いい加減そろそろ当初の目的をなんとかしないといけないんじゃない、サキおねえちゃん」
「ふぁい? ふぁんのこふぉふぇひたっけ」
「口の中のポテト全部食べきってから答えていいから。なんだか海底探索協会からは探索者は3人小隊を組んで探索することを推奨する、って言われたから現地人を捕まえようって昼に言ったじゃない」
「……ああ、そのこと」

 口元に付いたチーズをナプキンで拭き取りながら、サキは満足そうに腹を修道服の上から擦ると酒場の隅のテーブルから様子を一瞥する。
 テリメインに多くの水着の可愛い女の子や美女やイケメンが集うから来よう、とバカンスに訪れたサキとハークだったが、そこで探索者が行うという海底探索もついでだし参加してみようか、と登録を行ったのだ。
 そこで協会から通達されたのが『最大3人までのグループを作り探索を行うことが出来る』という協会の規定である。

 海底での探索は単独行動は非常に危険である。
 海底での活動や、戦闘を助けるために海底探索協会が支給しているスキルストーンも、一人一人が使える容量や手段には限りがあるため、それを補い合ったり、探索活動で各々特化した目的を作り活動したり、と、パーティーを作ることを協会は推奨しているらしい。

「本当はボクら、周りの目をガン無視して活動していいならそれこそ魔法なり、サキおねえちゃんが何かいい道具なり創って遺跡なんて即解決、だろうけども……」
「そういうコトするために来たワケじゃありませんからね。宝探しに水着の眩しいヒトビトの観賞、チーズポテトよりも眩しい肢体に柔らかな肌はさぞ甘美で……嗚呼、昼に見た少年少女たちがビーチバレーに励む姿は大変良かった……♪」
「サキおねえちゃん、涎出てるけどその涎は何由来?」
「勿論人間由来ですよ、私は人間大好きですから」

 口元に流れる唾液をナプキンで拭き取りながら、サキは昼間の情景に身を悶えさせながら、うっとりと頬を染めて酒場の面々を品定めする目つきで眺めている。

「なるべく私たちの存在も、目立たないようにゆっくり海でのバカンスを楽しみたいですからね。現地の人間と接触して仲良くなれれば都合がいいかな、と思ったんですが」
「仲良くなれば、ねえ……その意見にはボクも確かに賛成だけど、さ」

 サキの目元と送られる視線の先を見比べてハークは深く溜息を吐く。
 この修道服の金髪少女、サキは文字通りの『人間大好き』少女であった。
 何かとあれば愛を語り人類の素晴らしさを説き、己の人へのイデアとアガペに酔いしれ恍惚とした表情を浮かべるのだ。
 その割にハークへの風当たり、待遇の悪さは非常に目立つが、その理由はここでは割愛することにする。

 ともあれ、ハークがサキの視線を目で追えばその蒼の瞳に映る物は、
 給仕の若々しいそばかすが目立つが、乳と尻に肉のついた発育のいい赤毛の女性……が、豪快に巨大なお盆に巨大な魚……を下半身に持つ、豊満な女性を抱えて厨房へと運ぼうとしているのを、上でジタバタと暴れて抵抗しようとしている。
 他の仲間と思しき人間が引き留めようとしているが、そもそも食用に適しているのだろうか、そもそも魚なのだろうか? 疑問は尽きない。
 仕事帰りでむさ苦しい汗を流す、筋骨隆々で頭を剃った豪快な水夫が、濃紺の水着姿で全身濡れ鼠の幼い娘に絡んでいる。何故あの少女は酒場の中でも水着なのだろうか? 水着と同じ色のとんがり帽がやたら目立つ。
 テーブルの隅で、ガラの悪い男たちに囲まれてポーカーに熱中している鮮やかな髪色をした肌の露出の多い少女。賭け事もハークやサキ以外にも行っているらしい…。
 角と羽根を頭に生やした、青白い髪の少女と褐色の肌の白髪の男、そして大きく胸元を曝け出した褐色の肌をした女がテーブルを挟み何やら口論を交わしている。
 人間以外の種族も、この酒場には随分と居るようだ。ハークは椅子の背もたれに深く腰を落としながら一人頷きながら視線を少女、女性、美女、下半身魚の女性へと走らせる……主に女性ばかりに視線が向かっているのは気のせいではないだろう。

「なるほどね、テリメイン。本当に素晴らしい場所だね」
「ハークくん、人類の素晴らしさが最近はよく分かってくれているようで私はうれしいです」
「水着最高」
「ナイスバディなわがままな身体」

『この世界は守られなくてはならない』

 先ほどのポーカーのわだかまりもどこへやら、竜神の少年と創造主の少女は力強く握手を交わしながら何か成し遂げたような笑顔で頷いていた。


「でも、それとこれとは別として、いい加減まともな同行者を探す方法考えない? サキおねえちゃん」

 再び席に着き食事をとりながら、行儀悪く指先でテーブルをリズムよく叩きながらハークは眉を八の字に曲げて小さく唸るような声をあげている。
 かつて黒竜として名を馳せた頃の、灼熱の毒息を纏った唸り声に比べれば、今の子供が悩んでうなされているような声は随分と可愛らしくなったものである。

「何を言ってるんですか。今日も私は精力的に勧誘に勤しんでいましたよ、隣で見ていたハークくんならわかるでしょう」
「その勧誘方法だけども『貴方は神を信じますか? 今なら凄く幸せになれてイイコトがある主を信じる教えがあるのですけど路地裏でじっくり話を聞いてはもらえません?』って……10回試して10人逃げられたよね」

 笑顔で手を合わせるサキは自分の行いに一切の疑問を感じていないようだ。
 そう、彼女は新興宗教まがいの勧誘を修道服と司祭の法衣を着た少年少女がにこやかに近づき路地裏へと誘ってくるという、怪しいこと極まりない手段を延々と繰り返していたのだ。
 健常な精神と思考を持つ人間であれば間違いなく疑うであろうし、子供を利用した犯罪か何かと誤解されてもおかしくはないだろう。

「何もおかしいことは言っていないんですけどね? だって悪質な宗教勧誘や詐欺と違って私を信じれば本当に幸せになれるし完璧な未来が約束されているんですよ」
「言ってることは事実だけどね! 普通は疑うものなんだよそういう事は! ああ、こんな調子で、探索開始日までに誰か見つけられるのかなぁ……」

 サキが腕を組んで自慢げに胸を反らす……そこそこ大きさがある……のを、ハークは頬杖をついて呆れた様子で見つめている。
 何か手頃な人材はいないものだろうか。ふと、そう思った時酒場の奥から聞こえた怒号とテーブルを叩く音で、サキとハークは同時に顔を上げそちらへと視線を移した。




「てめえ、いくらなんでも10回連続で私の負けはおかしいだろ!? このポーカー何かズルでもしてるんじゃねえのか!」

 先ほど、酒場の隅でドローポーカーのテーブルを開いていた少女一人と、それを囲う水夫姿の人相の悪い男たち数人。

 傍から見れば……娼婦か何かだろうか?
 背の程は特に高くもなく低くもなく。だが女性らしいというべきか、胸元が人一倍豊満さをアピールするスタイルのいい体つきは、喧噪の中心になった彼女を目で追うギャラリーたちの視線を一転に釘付けにしている。
 さらに体の殆ど肌色を隠しもせず、必要最低限程度の布が引っ掛かった位の過激な衣装を着ているため、少し激しく動けば布きれはハラリと落ちてしまうのではないかという程に際どい恰好をしている。
 娼婦街で客引きでもしていても何ら違和感もない、むしろ往来にいては危ない程の恰好…といっても言い過ぎではないはずだ。
 そして目に毒な衣装と同じくらいに目を引く、鮮やかに紫から黄へと彩りが美しい髪の少女……そんな彼女が、水夫の男一人の胸ぐらを掴んで激昂していた。
 その表情は、遠目に見ても怒りと、そして焦りが入り混じったモノだと容易に判断できる。頬を伝う汗は恐らく暑さによるモノではないだろう。
 一方、掴まれた水夫風の大柄の男は対照的に少女を窘めるように両手を顔の横に上げてにやにやと脂ぎった笑みを浮かべている。

「いやいや、俺の運が良かっただけだって、偶然偶然! それにスー、お前だって役がボロボロじゃないか。そんなゴミカードばかり来て今日はツイてねえみたいだな?」
「チクショウ、最初の数回は私が勝ってたってのになんで急に負けが込んできやがった…!」
「それに、仮に俺が何かしたっていうならその証拠はあるのかよ? 言いがかり付けるだけなら勘弁してくれよな」
「ク…ッ!」

 スー、と呼ばれた短髪の娘は、不機嫌そうにどっかりと自分の椅子に座り直すと舌打ちして自分の手札を押し返した。
 男とその取り巻き……恐らくこの水夫の仲間だろう。男たちは、再び山札を切りながらカードを配り始める。

「にしても、財布をスられて有り金0になったから食うものにも困って路頭で唸ってるのを見掛けて、仕方ないから金を貸してやって賭けで金を増やさせてやるチャンスをあげたってのによお」
「イカサマだのっていちゃもんつけられたら堪ったもんじゃねえよなあ」
「路銀も無しに、路頭に迷って夜の港町の路地で寝る羽目になるよりはマシだろ? まあ財布スられるような間抜けにはカードの賭けなんて10年早かったかな?」
「スられた事はどうでもいいだろ! くそっ、あんなど田舎でのたれ死ぬくらいならって、セルリアンまで来たら一旗あげてやろうって思ったのに……街に来たそばからスリだのなんだのって、都会ってのはどこもこうなのか……?」

 感情が露骨に言葉と顔に出ている。
 しかめっ面で悪態をつきながら、スーは配られた手札を睨みつけると、突如露骨に表情をにやり、と不敵に笑みを浮かべて周囲の男たちを一瞥した。
 水夫や取り巻きたちが、手札で隠した口元の下で、下卑た表情を浮かべている事も知らずに。
娼婦然とした娘が、脇に置いてあるカラフルなチップを一気に手で運んで自分の目の前に突き出した。

「オーケー、オールインだ。やっと流れが私のほうに乗ってきたみたいだなぁ!」
「へえ、強気じゃないかスー。そんな露骨にコロコロと顔を変えてたら、ポーカーは勝てないぞ?」
「うるせえ、こういうのは度胸と押し時が大事なんだよ! で、どうする? コレに乗って私が勝てば、今日の勝負分の負債は全部チャラな上にお釣りまで来るぞ!」
「そこまで言われたら乗ってやるしかないよなぁ? ……いいぜ、同額賭けてやるよ」
「ただし、コレで負けたらもう負債額もシャレになってないのも分かってるよな? きっちり返してもらうぜ」

 言いながら、ほかの男たちも、硬貨のぶつかり合う音を響かせながら乱雑に目の前へとチップをかき集めてベットしていく。
 少女は自分の手札を見ながら、己の逆転を疑わない確信めいた表情を浮かべているのであった。




「ねえ、見ましたかハークくん」
「ええ、見ましたよサキおねえちゃん」

 ポーカーのテーブルから大きく離れて逆方向の隅。
 喧噪と人だかりで多くの観客が壁を作っている後ろで、サキとハークはひそひそと顔を近づけながらまるで奥の様子が見えているかのように話を続けている。

「あの子、完全にイカサマされてるのに気が付いていませんね。あれ他の男たちの手札が出来上がっててコレで素寒貧になるまで絞るつもりですよ」
「そっちの話? あのスーって名前のおねえちゃん、絶対Fはあるよ。なんでか知らないけどブラつけてないから、寄せて上げたらすごいことになりそうだし歩いたらすっごい揺れそうって話じゃなくて?」
「そっちの話も非常に重要ですしハークくんあとでじっくり詳しく聞かせるように。創造主命令です。しかし今重要なのはそれではありません」

 創造主アーカイブに今の情報を正確に保存しながら、サキは人だかりの方を指差している。

「あのスーという子、ちらっとど田舎からセルリアンに、と言っていましたよ。つまり別の位相や次元から来た子ではない、ということです。つまり」
「現地人だね。そして今すごく困っている、というか賭けでハメられて大ピンチ、と……これはつまり」


『チャンスだね?』

 肩を並べ寄り添い人だかりを見つめていた、凸凹くらいの身長差の少女と少年は、顔を見合わせると笑顔を浮かべる。
 先ほどの人相の悪い水夫たちより、余程質の悪い含みを持った笑顔を。




「わたしはもうチェンジする必要も無いなコレは。勝ったも同然だろ、今のうちに抜けておいてもいいんだぜ、ゲイヴのオッサン」
「随分と自信十分じゃねえか、へへへ……こっちは何枚か変えさせて貰うぜ」

 娼婦然とした格好の少女が胸を張るように椅子に腕を掛け、脚を組んで座りながら片手で手札を見ながら笑みを浮かべている。
 彼女の手の中にある札はスートはバラバラではあったが、数字は4から8までの連番、ストレートという比較的ポーカーの中では強い役となっている。
 偶然揃う役の中では、これ以上の物はそうそう来ないだろう。スーはそう確信しきっていた。
 スーがゲイヴのオッサン、と呼んだのはポーカーの元締めと思われる水夫風の男。
 相変わらずニタニタと品のない表情で、スーの崩れぬ表情から細い首筋、そしてその下の男なら視線を逸らす事も難しい豊満な肢体を山札へと手を伸ばしながらじっくりと見ている。
 まるで、彼女を品定めするかのように。その視線に少女は一瞬得も知れぬ嫌悪感を覚えゾクリ、と背筋に何かが走ったが小さく首を横に振る。

「気持ち悪い笑い方はやめろよオッサン。それで、本当にいいんだな? 後悔しても知らねえぞ」
「勿論だぜ、なあお前ら? マルコフ、ヒューストン、どうする」

 ゲイヴが左右で手札を見つめる男に目配せをすると、二人も小さく頷いてから手札を交換し始める。

「スーの嬢ちゃんの大勝負なんだ、受けてやらねえとなぁ。ヒヒヒ」
「しゃあねえなあ、俺はおっかねえから降りておくかね。ゲイヴの旦那、頑張ってくだせえ」
「へっ、腰抜けのマルコフめ。そんだけ自信があるなら余計なお世話かもしれんが、負けた時は覚悟しておけよ、スー?」

 他の男たちも、各々チップを出し、ある者はカードを投げ勝負を降り全員確認を終える。
 そして、スーが手札をテーブルに勢い良く叩きつけて見せようとしたその時、


「ああっ。こんな所にいたんだね! どこに行ったかと思って探したんだよ、もう!」

 テーブルの方へと大声で叫ぶ人物に、スーとゲイヴを初め四人は一斉に振り返った。
 先程の軽いいちゃもん騒ぎで盛り上がっていた野次馬は既に数を減らし、人だかりもまばらになっていた隙間を縫うようにして、二人の人物……

「確かに酒場で集合とは言いましたが、先に一人で来て賭け事に興じているだなんて聞いていませんでしたよ」

 皺の一つもない美しい濃紺の修道服に身を包み、両手の指を絡め握り穏やかな笑みを浮かべる金髪碧眼の少女と、

「こっちは土地勘ないからココに来るのにも時間がかかったっていうのにね。来てるならもう少し周りの席も探してほしかったよ」

 そのシスターの肩を借りるように腕を伸ばし、ゆっくりと脚を引きずるようにして歩く褐色肌の少年の姿があった。
 よく見ると短く結んだ髪の中から、深紅の角が上へと伸びている。亜人かなにかの種族だろうか……?
 引きずる脚を見てみれば、純白の法衣と合わせた靴から包帯が幾重にも巻かれているのが見える、怪我でもしているのかもしれない。

「なんだあスー、お前の知り合いか? お前こっちに来たばかりなんじゃなかったのかよ」
「……えっ? あ、ああ。わたしも全然知ら」
「私たちこの度海底探索協会の招集で来た探索者なのですよー! それで、テリメインの現地人に地元の案内をお願いして、この人に頼んだんですよ、ね?」
「えっ何それ全然知」
「ですよね?」
「だから知らな」
「いいから」

 スーをやや強引に椅子に座ったまま肩を引き寄せ、少年……ハークは耳元で小さく呟いた。

「話合わせて。おねえさんそいつらイカサマしてるよ?」
「な…っ!? おい、それどういうコトだ……!」
「いいから、話を合わせて」

 目を見開いて黒髪の少年に問い正す露出過多の少女にひそひそと言葉を返すハークだったが、その様子を無精髭の男、ゲイヴは訝しげに睨みながら顎を擦っている。

「なんだか知らねえが嬢ちゃんと坊主、今そこのスーは賭けの真っ最中でな。もしかして勝負の最中にとんずら決めようってなら、俺たちもそれは認められねえなあ」
「そんなそんな、滅相もありません。約束事は人と人とを結びつける大切な絆、それに首を突っ込むつもりはありません。ですが、私たちも大事な道案内がこのまま賭けにドハマりしてしまうのも困ります。そこで……」

 ゲイヴの問い掛けに修道服の少女、サキは首を横に振ってから小さな麻袋を取り出した。
 袋の結び目を解き、テーブルの前まで来て中身をひっくり返す。すると中からは耳障りの良い金属音と共に、艶やかな黄金色……純金硬貨が十数枚程テーブルの上に積み上がった。
 銀貨に換算して凡そ二~三百枚程度だろうか。これだけあれば丸一月豪遊しても足りるかという程の金額に思わずゲイヴを初め、マルコフとヒューストンも思わず目を丸くしてテーブルの金貨とサキを交互に見比べる。

「こ、これは……どういうコトだよ。嬢ちゃん!?」
「いえ別に? スーさんに依頼料として支払う予定だった依頼金と、私たちの路銀全部です。ここから賭けの負け分を支払いますので、スーさんの身柄はここで引き取らせて頂けませんか?」
「負け分キッチリ支払えば問題無いよね? その勝負の勝ち負けはまだ見てないけど、それくらい払っておけば問題ないかなと思ったんだけど」

 目の前に転がり出た戸惑う水夫たちと、両手を合わせて三人の様子を見つめる修道服の少女。
 ……どこかしら、瞳の奥に爛々とした陶酔した色が浮かんでいるのを横から覗き込み、隣にいるハークは溜息をつくと男たちの返答を待った。しかし、

「……いやあ、これじゃあ足りねえな。スーには貸しでポーカーのチップを出してるんだ、あと金貨十枚程出してもらわないと、スーの負け分の支払いには足りないんだ」
「なんだと…!? おい、明らかにわたしが借りた額と違うだろうが! 足元見てるんじゃねえぞ!」

 スーがテーブルを小さく叩いて噛み付くが、ゲイヴはどこ吹く風といった様子で腕を組んでサキとスーを見ながらにやにやと笑い掛ける。二人を見る目は、明らかに男として、商品を見るような値踏みする視線だ。

「利息だよ利息、借りたカネにはちゃんと利子つけて返すのが礼儀ってもんだろうが、それに、賭けを中断して帰るってなら違約金くらい出してもらわねえとな。それとも何か別の方法で払ってもいいんだぜ?」
「この修道服の姉ちゃん、有り金全部って今言ってただろ! 無理なコト分かって吹っ掛けやがって……!」
「そうですか、金貨十枚ですね? ではこちらでどうぞ」
「そうそう、無理なんだから諦めて……なんだと?」

 サキがテーブルの上に右手をかざすと、彼女の下に向けられた掌の影からジャラジャラと音を立てて金貨が生まれ、テーブルの上へと転がり落ちる。
 丁度その数、金貨十枚分。ゲイヴがあんぐりと口を開いて、間の抜けた顔でサキを見上げると金髪碧眼の美少女は頬の横で手を合わせ目を輝かせた。

「そうです、その顔です。人知の及ばぬ超常に心動かされる人々の表情、それは何とも愛おしく……こほん」

 わざとらしく小さく咳払いを一つ、表情を笑顔に切り替えて。

「凛々しいお顔が台無しですよおじさま? 路銀は先程ので全てと言いましたが手持ちの全てとは言っていません。コレでよろしいでしょうか」
「……あ、ああ……ヒューストン、マルコフ。賭けは終わりだ、切り上げるぞ」
「でもゲイヴ、この勝負まだ終わって……」
「キッチリ金まで出されてこれ以上食い下がったら流石にガキ相手に面目丸潰れだろうが! 帰るぞ!」

 命拾いしたな、スー。吐き捨てるように、ゲイヴは立ち上がりながらスーを見下ろし一瞥する。
 残りの二人も慌ててカードを回収して、ゲイヴについていくようにして酒場の出口へと走り去っていった。

「……ああそうだ、ゲイヴって言ったっけ、おじさん?」
「なんだよ坊主、まだ何か用でもあるのか」

 スイングドアに手を掛けた時、サキの肩に捕まりながら立ち上がったハークが水夫の男の腰元を見てから、

「そのズボン、右ポケットのところに小さな裂け目があってしきりに勝負中触ってたね。気になるなら早めに縫っておいた方がいいんじゃない?」
「……チッ、随分とカンのいいガキだなお前は。そっちのスーよりは利口そうだ」
「はあ!? わたしより利口そうってどういう事だよオッサン!」
「そこのガキよりもお前のほうがバカだって言ってるんだ、じゃあな!」

 訳も分からずバカにされ、スーは腹を立てるが既にゲイヴたちは居らず酒場のドアが余韻を残して揺れるばかりであった。

「なんなんだよ、もう……勝負は無しにされるわバカ扱いされるわ……」
「いやあ……イカサマに気が付かず全財産持って行かれるよりはずっといいんじゃないかな」
「……そうだよ。イカサマってどういう事だよわたし全く気が付かなかったぞ!? それに、アンタたちは一体何者……」

 そこまで言ったところで、突然ハークはスーの肩を掴み、飛び乗るようにして彼女の座っている上へと腰を降ろして向かい合った。
 目と鼻の先で視線が向かい合う体勢になり、至近距離で顔をいきなり合わせる。
 それも目を逸らさず瞳を覗き込んで来る少年の様子に、思わずスーは面食らって目を逸らそうと……することが出来ない。

「な……んだよ、目が動かねえ。おい、アンタ一体何者……」
「細かい事はさておいて、さっきのボクたちの話を思い出して。ほら、さっきの。ね?」

 左眼に縦に傷を負った、深い深い紅の瞳に湖面のように己の姿が映し出される。
 酒場の喧騒や声は、ゆっくりと遠ざかっていく。
 気が付けばハークの言葉と己の鼓動以外、耳も、そして彼女の認知出来る5感全ては己と目の前に抱きかかえる少年以外を認識出来なくなっていた。
 自分は先程まで酒場で座っていた、ような気がする。そうだったろうか、何故今目の前で少年を膝の上に座らせて目の前に抱えているのだろうか。
 紅い瞳を覗いていると思考が曖昧になっていくような気がする……思考が曖昧とはなんだろうか……そもそも、思考とはなんだろうか。
 吐息が肌で感じそうな距離で、鼻先を合わせながら目を見つめ瞳の光がぼんやりと鈍るスーの耳に、いくつか言葉が流れ込んでくる。


『ボクの名前はハーク、アーガ=ダ=ハークだ』
「アーガ、ダ、ハーク……」
『サキおねえちゃんと一緒に、テリメインに遊びにきたけど、仲間が足りなくて困ってるんだよね』
「仲間……」
『だから、酒場で見つけたスーおねえちゃんに、テリメインの案内も兼ねて、一緒に仲間になろうってお願いして、今日は飲みに来てたんだよ。分かった?』
「なか、ま……」

 首に手を回され動きも取れず、言葉だけが体の中へと流れ込み蝕み渡り、記憶の奥底へと幾重にもピースがはめ込まれる。
 少年の言葉を反芻するように呟きながら、首の据わらない赤子のようにぼんやりと、だが瞳だけは一分たりとも逸らさずに見つめ合いながら、ゆっくりと見つめ合う距離が近づき、そして、



「おはよう、スーおねえちゃん。もう飲み潰れた?」

 スーは突然がば、と顔を上げると、頭を振って目を覚まそうとする。
 辺りを見回せば、探索協会本部から直行した酒場のテーブルで酔い潰れていたらしい……。
 テーブルと右側と左側から、心配そうにサキとハークが覗き込み……片方は全く心配している様子では無かった。

「酒に溺れ酒に身を委ねアルコールを恋人とする、それもまた人の運命。スーさん、今あなたはとても人として輝いていますよ。さあもっと飲みましょう?」
「うえ、いやいいから、というか飲み潰れて人として輝いているとか嫌味にしか聞こえねえよ! あんた聖職者なら少しくらい酒も止める側じゃないのか!?」
「いやボクらの宗教別に禁酒とか節制とは無縁だしね……で、本当に大丈夫? 疲れてない?」
「どうだろうな、疲れもたたってたのかもしれないから、早めに休んでおくかね……泊まる場所は?」

 スーは気怠い身体を起こして頭を押さえながらハークに問いかけると、法衣姿の少年は天井、酒場の二階を指差した。

「サキおねえちゃんがもうここの宿に2部屋取っておいてくれてるよ。部屋割りは……ボクとスーおねえちゃんで寝る?」
「いやどう考えてもわたしとサキが同室だろ、このマセガキ」
「本当にサキおねえちゃんと一緒でいいの!? 安全は保証しないよ!?」
「どういう事だよ! ああもう先に寝てるから勝手にしてくれ! ハーク、サキ、明日からよろしくな」

 酒が抜けきっていない頭で少々ふらつきながら、スーは酒場のカウンターまで歩くとチップを店主の前に置こうとして

「……あれ、金が無えな…?」
「スーおねえちゃん、財布忘れてる!」
「おおっと、悪いなハーク。足悪いのに無理させて」
「大丈夫、支えがあれば普通に歩けるからね」

 ハークが、椅子とカウンター、テーブルを掴み支え代わりにしながらのたのたと歩いて追いつくと、麻袋をスーへと手渡す。
 スーが袋を受け取ると、そこから数枚硬貨をチップに支払ってから、おやすみと一言残して二階へと消えていった。 



「……問題なさそうだけど、どうだろ?」
「大丈夫じゃないですかね? 記憶に齟齬もなさそうだし、明日からはスーさんとよろしくやっていくことにしましょう」

 瞳に宿った魔力で相手の記憶と意識に干渉する。
 いわゆる洗脳……に近い術を施した、仲間という事になった少女の背を見送ってハークとサキは小さな声で言葉を交わしていた。

「最初からハークくんこうやっておけば良かったじゃないですか」
「嫌だよテリメインでは極力そういう力は使いたくないもの。なんでもし放題じゃあっという間にクリアできちゃう、って言ったじゃない」
「それもそうですね。今後も出来る限り、探索では私達の能力は濫用禁止、ということで……ところで」

 再び二人だけになったテーブル。サキは2人分の食べ物を脇に避けて空間を作ると、再びトランプを取り出した。

「先程スーさんがFからGはあると言っていましたね。酔って寝ているスーさんと相部屋になって起きるまで好きなだけ確かめる権利はポーカーで決めるというのはどうでしょう?」
「乗った。絶対負けないしコレは魔法も透視もイカサマも何してもいいよね?」
「いいですけど創造主ルールで私は先に山札から5枚好きなカードを引いてから開始しますね」
「なにそのルール!?」



 結局、数時間に及ぶポーカーの死闘が繰り広げられ寝床に付いた時、既にスーは一人部屋の方で寝ておりハークとサキが相部屋になったのであった。




 End.


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■『自殺志願の』スー


スー・ロックサイド
年齢:10から先は数え忘れた
種族:人間(少なくとも本人は人間だと思っている)
バックストーリーなどは特に考え無し。
刹那的な生き方、享楽的な生き方を好み、考え無しの行動を良く起こす。
地元から身一つで飛び出してきた。

大金とはいかずとも、何かお宝をチョロまかせばしばらく食っていけるだろうと甘い考えで参戦したはいいが・・・


非処女



■補足■

・竜眼:ハークの紅い両眼の事。純粋なマナの塊を直視することになるため、ヒトや生物に与える影響は非常に大きい。主な効果は、精神干渉、混乱、暗示など。

・"創る"力:サキの力の事。サキが知っており、イメージできる範囲であらゆる物、事、現象を創る力。モノを創り、魔法を創り、ルールを創り出す。創られたモノは全て当然のモノとして認識される。


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PTメンバー外の、姿だけですが作中でお借りした方々。許可を頂いた方はイラストURLを貼らせて頂いております。
また、もりのかえるさんが配布していらっしゃる七海向けキャラクターシートのテンプレートが使われております。
感謝をここで述べさせて頂きます。

・シイ(PL:鏡水リトさん)
http://www.fastpic.jp/images.php?file=6687777546.png
・メロディ(PL:雪名さん)


・ヨハンさん(PL:つっきーさん)
https://gyazo.com/a14b2140068e9f2bbcebb0723e66fa73
・サラサさん(PL:かなでんさん)
・カーミャさん(PL:あいろ兄さん)


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雨宮さん
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