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十四一ワンライ*夜に歩けば

くろひつじ@執行済
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2016-10-02 00:40:31

十四一ワンライ
お題「ナイトウォーク」

 夜の散歩は好きだ。
 昼間と違って眩しくないし、暑くないし、人もいない。
 しんと静まり返った住宅街の裏道なんて、特に。
 深夜も零時を回る頃だと、実は案外猫達も寝静まっていて、生き物の音が何も無い。
 無機質な屋外機がヴーンと唸る音や、遠くを走る救急車のサイレン、そして、おれの足元で響くサンダルの音だけ。
 世界中の人間が死んでしまって、自分一人が取り残されたような、不思議な感覚になる。
 朝も夜も関係ないおれ達なので、時々こうして一人きり、深夜徘徊ならぬ深夜の散歩に出ることがある。
 そんな日はたいてい、嫌なことがあった日。
 もうこのままどこかに行ってしまいたいとか、夜の闇に溶けてなくなりたいとか、そんな気分で外に出る。
 あてもなくフラフラと。
 でも、消えてしまう根性なんてありはしないので、ひとしきり歩いたら、コンビニに寄って帰るだけ。
 ーー我ながら女々しい。
 はぁ、と小さくため息をはいて、帰ろう、と家から近いコンビニに向かって歩き出す。
 ほどなくしてコンビニの灯りが見えたところで、おれは、え? と立ち止まる。
「あ、一松にーさん!」
 コンビニの前で立っていたのは、黄色いパーカーの一つ下の弟。
「……十四松。何してんの?」
「一松にーさん待ってた!」
 口をぱかっと大きく開けて、十四松がにっこり笑う。
「え、なんで……」
「兄さん元気なさそうだったから!」
「べ、べつに」
 そんなことない、と言おうとして、ぐっと口をつぐむ。
 十四松がこういうことをする時は、たいてい何もかもお見通しだからだ。
「さ、行こう、兄さん!」
「え、どこ……」
「おさんぽ!」
 十四松はそう言っておれの手を取ると、ひっぱるように暗い夜道の方へ歩いていく。
「おれもう、行ってきたんだけど」
 そんな言葉など知らないとばかりに、十四松はぐんぐん進む。辺りが暗いせいか、十四松の黄色いパーカーがなんだか光ってるように見えた。
 十四松は住宅街を抜けて、川沿いの方へと足を向ける。
 川が流れていく先の方は大きなビル街があるのだが、今は黒い山のようになっていて、ところどころに灯りが付いている。黄色い灯りや車のテールランプのものらしい赤い灯り、それらあちこちに散らばって、真っ黒な世界広がっていた。
「キレイっすなぁ」
「……せやなぁ」
 遠い夜景を眺めながら、十四松と二人川沿いにある、土手の上を歩く。
「なんで、おれがあのコンビニ行くって分かったの?」
 歩きながら、謎の待ち伏せについて聞いてみた。
「一松兄さんは、やなことあるといっつも散歩に行って、帰りにあそこのコンビニ寄るって知ってたから!」
「……なんで」
「兄さんのことなら何でも知ってるよー」
 隣を歩く十四松はニコニコと笑っていた。
「今日はどんな一日だった?」
「べつに、ふつう」
「……トド松に余計なこと言って怒らせちゃってたけど、きっとトド松はそんなに怒ってないよ」
 足が止まる。
 そう、昼間、トド松が出掛ける前。
 新しい服にしたんだーと見せびらかせにきたのを、似合わないとか、女みたいとか、色々余計なことを言ってしまった。
 兄達も調子を合わせて言うもんだから、いい気になって言っていた。
 涙を浮かべて怒り出して、兄達は軽くごめんって言ってたのに、おれだけは言えなくて。
 おれは俯いたまま、紫色のパーカーの裾を、ぎゅっと握りしめる。
 十四松の言うとおり、きっとトド松は気にしちゃいない。でも、おれがイヤなのはそこじゃなくて、
「一松兄さんは、謝れなかったのが、イヤなんだよね?」
 はっとして顔を上げる。
「大丈夫だよ。明日一緒に謝ろう?」
 十四松はいつもなら大きく開けている口を閉じていて、にっこり優しく笑っていた。
「……うん」
「さっすが兄さん!」
 頷くと、十四松がいつものように大きく口を開けていた。
 我ながら、情けない兄貴だと思う。
 でも、十四松はそんなおれでも、こうして笑ってくれるのだ。
「そろそろ帰ろ!」
「……うん」
 十四松がおれの手を取って歩き出す。
 うっくつした気持ちが、夜の闇に溶けていくみたいに、静かに消えていく。
 ふと空を見ると、少ないけれど星がぽつぽつと輝いていたことに気付く。
 夜は思ったより、明るいのかもしれないな。
 そう思いながら、家路についた。


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