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風邪ひき張宿@北甲国(井宿・張宿)

全体公開 11 1589文字
2016-10-06 22:35:22

数年前の、フォロワーさんの呟きに触発されて湧いてきた話のようです。原稿で迷子になったので、ちょっと人称の使い方の練習を。

Posted by @satomi8429

「井宿さん、どこに向かっているんですか」
 張宿はいぶかしみながら前に座る井宿に問いかけた。
 数人ずつ組になって神座宝を探しに出たのはつい今しがた。しかし井宿は宿屋の連なる一角に馬を誘導していた。神座宝の情報を得るには旅人の多い宿屋が良さそうということなのだろうか。どちらかと言うとよそ者よりも土着の者のほうが情報を持っていそうな気がするが。そんなことを思いながら首をかしげていると、井宿が何食わぬ顔で言った。
「ちょっと休んでいくのだ」
 宿屋に寄るということだろうか。そんな悠長な。
「でも、早く探しに行かないと」
 日が暮れたら移動もままならなくなる。ただでさえ日の短くなる季節だ。
「だめなのだ。そのためにオイラは張宿と組んだのだ」
「え、それはさっき僕が子供だからって……
「張宿具合が悪いのだ。もうオイラしかいないから、隠さなくていいのだ」
 馬を降りながら、単刀直入に井宿が言う。
「みんなの前で気づかれないようにしていたのは知ってるのだ。みんなに知られたくないと張宿が思っているならと思ってああ言ったのだ。……そうなのだ?」
 さあ、と出された井宿の手と鞍とに掴まりながら馬を降りると、じっと見つめる糸目と目が合ってしまった。隠していた失敗を見つかってしまった子供のようにしどろもどろになる。
……だって……ただでさえ足手まといなのにそんな……。大丈夫です、このくらい平気です」
「だめなのだ。皆に知られたくなかったら、今、オイラとふたりのうちに治すのだ」
……
 にべもない。口をつぐむ以外に何ができたろう。
「このまま行っても、軫宿に知られるのは時間の問題なのだ」
 軫宿に知られて、 能力で治してもらうのは本意ではないだろう?井宿の目がそう語っていた。
 足手まといになりたくない一心の張宿に、その言葉はぐさりと刺さった。
「それに、刻一刻と悪化してるのは、顔を見ていればオイラだってわかるのだ。今だって」
 井宿は張宿の目線の高さまで姿勢を落とすと、額を額にそっと当てた。
「こんなに熱いのに張宿はたぶん寒いのだ」
 ご名答。背筋を駆け上がる悪寒に、奥歯をかみ殺しても隠し切れない震える唇を見破られている。
 
 大きな目をさらに見開いた張宿に、井宿は自分の指摘が妥当だったことを知り、ひとつ息をついた。寒いだろう、と言ったのははったりだったが、表情を見る限り、当たりだったようだ。
 上着を着ているからか、掴んだ肩からは震えも熱さも伝わってこない。しかしいつもより白い顔色、額を合わせた時の息の熱さと、そのたびにわずかに上下する肩が異常を物語っていた。すごく熱いわけではない。ただ、ほうっておけば熱は確実に上がってくるだろう。
 馬を小屋につなぎ、宿屋の主人に声をかける。張宿はというと、観念したのか両肘を抱いて俯き加減で後ろからついてきた。
 軫宿の手にかかれば一瞬で治るのかもしれない。しかし、能力を使うことによる軫宿自身の体力の消耗を考えると、能力の無駄遣いはできないのが現実だ。それに、張宿の不調が疲労から来ているのであれば軫宿の能力を使うことはあまり得策ではないと井宿は考えていた。
 井宿は軫宿のように専門家ではないから、少し寝たくらいで治るものかどうかなんてわからない。が、休息が必要なことは明らかだ。最終的には軫宿を頼ることになるかもしれないが、なにより自分でなんとかしたいという張宿の意志をまずは尊重してやりたかった。
 「空いていてよかったのだ」
 「はい……すみません」
 振り返るとどんよりした返答。井宿は内心苦笑した。まったく。
 「オイラが一回り見てくるのだ。その間、張宿は留守番頼まれてくれるのだ?」
 振り返り、明るい調子で細い栗色の前髪をかきあげる。見上げる大きな瞳の上の、しかめた眉がほっと開いた。




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