@36wipe
電車での移動時間で何か新しい小説を読みたくなりいいものはないか探していたところに、短編集であることとそしてタイトルに惹かれて瞬間的に手を取った作品。
星が絡む話はとても好きなんですが「星座を盗む」というタイトルにロマンを感じずにはいられませんでした。
読み進めるのがとても楽しく、平均往復二~三時間の移動時間がとても短く感じられました。
さて、それでは早速簡単なレビューを。ネタバレはありません。
1. 本の概要
ミステリ短編集です。著者は北山猛邦さん、他の作品は読んだことありませんでしたがこれを機に興味を持ちました。
書き下ろしを含め全五編『恋煩い』『妖精の学校』『噓つき紳士』『終の童話』『私たちが星座を盗んだ理由』を収録。
帯に書いてあったラストでのどんでん返しがとても気になったので購入。『恋煩い』を読み終え次の作品に移ると、どの作品もラストでの転覆が気になり、気づいたら物語の世界と北山さんの世界観に引き込まれています。
2. 作品概要
『恋煩い』……話したことのない先輩に片思いをしている主人公は、友人から聞いた恋のおまじないを試す。気づくと様々なおまじないにのめりこんでいき……。
『妖精の学校』……目を覚ますと記憶を失っていた主人公は、そこが見知らぬ土地であることに気付く。そこの住人らによるとそこは妖精を育てる学校だそうだ。不思議だらけの島の謎とは……?
『噓つき紳士』……借金返済に追われる主人公が拾った携帯電話は直前に交通事故で亡くなった男のものだった。恋人からうまくお金を騙し取ろうする主人公が迎えた結末とは……?
『終の童話』……触れた人間を石に変えてしまう「石食い」に襲われた辺境の村、そこで主人公の片想いの幼馴染が騒動の最中石にされてしまう……。一連の事件の結末で主人公がとった行動は……。
『私たちが星座を盗んだ理由』……主人公と病弱な姉、「夕兄ちゃん」の三角関係を描いた作品。ある日夕兄ちゃんは主人公に「七夕の夜に星座を盗む」と宣言する……。
3. 雑多な感想をレビューと呼びたい
3.1. 恋煩い
五作品の中で一番「ミステリ」だったと思います。トリックを知ったときは思わず感嘆の声が漏れました(注:電車の中)。
誰もがきっと一度は経験したことがある、「自分の好きなあの人は別の人が好き」というお話です。ほろ苦い物語?甘酸っぱい物語?予想しながら読んだ結末に度肝を抜かれました。まったく予想できませんでした。
ハッピーエンドとはなりませんがミステリ的余韻(?)が個人的にとても心地よく「これだよこれ」となりました。結末も――物語の上とはいえ――誰もが一度はそう願ったことがあるのではないでしょうかというものでした。青春ですね。
3.2. 妖精の学校
語り口調が変わり、世界観が変わります。島での平穏さと語り部の丁寧な口調とが演出になっているのか、とても雰囲気が出ます。しかし物語が一転し結末へ加速するときには逆にこの口調が未知性というか、不安を煽るような、そのような口調に感じられます。
そしてこの物語の魅力は何といっても「再読性」にあると思います。一読では結末の意味が分からずグーグル先生にお世話になりました。なるほど、と声が漏れ、そしてなんとなく島に対して抱いていた「既視感」かつ「違和感」に納得。島の秘密を「物語の外で知った」わたしたちは再読を余儀なくされます。あちこちにちりばめられている島の秘密とそしてその正体に驚きが止まりません。
正直「この作品が一番微妙でわけがわからなかった」という一読しての評価から「この物語が一番リアルだった」という評価に変わりました。ぜひご自分の目で。
3.3. 嘘つき紳士
一番気に入った作品です。主人公が悪いことをしているのにも関わらず次第に感情移入をするようになります。良い意味でも悪い意味でも「人が人たる作品」のような気がします。そしてラストのリフレインによる余韻がとても心地よかったです。悪いことはうまくいきませんね、とだけ一言。
3.4. 終の童話
ファンタジー作品。自分の弱さに対する苦悩と人の欲と愛の美しさと、そして平穏が持つ二つの側面と、ファンタジーとはいえそこにはたしかにリアルな世界がありました。
ここまで三作品を読み終えていたので「そろそろ結末を予想しよう」と読み進めます。しかし……。この作品の終わりはきっと読み手によってさまざまな解釈が生まれるのではないでしょうか。どこか鴎外の『高瀬舟』が思い出されます。
個人的に、ですがモヤっとした終わりは好きではないので『恋煩い』『嘘つき紳士』で綺麗に事件の結末を明かしてきた作品と比べてしまうとやはりどこか苦い思いがします。「物語は行間に続く」でしたっけ、そういったキャッチコピーが書かれていたように思いますがこれでは行間に書かれすぎなように思います。あくまでも個人的に。
いくつか終わりに関して言いましたが、「結末を議論する」のもこの作品の面白さだとも思うので是非読書が好きなご友人にでも勧めて結末を議論してみてください。
3.5. 私たちが星座を盗んだ理由
表題作。期待に胸を躍らせながら読みました。
結論から言うと上の四作品と比べてインパクトが薄いです。私「たち」とある通りなので夕兄ちゃんのほかにも星座を盗んだ人がいる(主人公か?)と思って読んでいて、その示す意味がわかったときはなるほど、と思いましたが、正直それ以上のインパクトがなかったように思えます。ラストの蛇足感とそして途中にあった伏線で結末が微妙に見えてしまっていることが個人的に残念でした。
しかし作品中のひとつひとつのエピソードがとても綺麗に絡み合っていて、とてもきれいにまとめ上げられています。ラストの蛇足感と言いましたが、やはりこのラストでの結末の転覆と主人公の絶望感があってこその作品のような気がします。
なんだかんだ言いましたが「他の作品と」比べると多少劣るように感じられるだけであって作品単体で見るととてもよくできていると思います。はじめに書きましたが星空の話が好きなのでとても満足できました。
3.6. 全体的に
とても面白かったです。謎解きというよりは、一連の出来事の裏の事実であったり苦悩の結末を突きつけて、「さあこの後の物語は?」と読者に想像させる作品が多く、余韻に浸るのがとても心地よいです。ハッピーエンドは一つもありませんが。物語が「物語の外」で続く感じ、個人的にはとても好きなので他の作品も読んでみようと思いました。これだからミステリはってやつは……(良い意味)
個人的に気に入ったのは『恋煩い』『嘘つき紳士』で、『嘘つき紳士』は一番好き。西尾維新さんの『恋物語』の貝木が思い出されます。ああいう「悪い人」から覗く良心が好きなのかもしれません。
4. 最後に
駄文でしたがここまで読んでくださってありがとうございました。今後も気が向けばレビュー的な何かをしようと思っています。よろしければお付き合いください。それこそ電車での移動のお供とか。
Thank you!