@YanagiSousaku
白の悪魔とも恐れられるリリックは今、重大な決断を迫られていた。
笑顔を取るか命を取るか。
それはそれは重大な決断だった。
数分前、リリックは城内の警備中に執務がひと段落したらしい王を廊下の先に見つけた。
端に寄り最敬礼して待つと、王がにこやかに声をかける。
「やぁ、リリック。お疲れさま。様子はどうだい?」
「は。異常ありません」
あろうものなら即潰す、と目を光らせるリリックに、白の王ーースノーは笑み混じりに小さく嘆息した。
「頼もしい限りだ。もう少し肩の力を抜いてもいいとは思うが」
「そんな…とんでもない!王の平穏を守るのに気を抜くなど!」
リリックは王の言葉を否定する事に些か心理的な抵抗があったものの、譲れない、譲ってはならない気持ちが勝った。王には万が一も事があってはならないんですと熱く主張すると、スノーはならば耳を貸せ、と顔を寄せた。
リリックはさっと顔を赤らめながら周囲を確認する。スノーが話し始める前から、リリックの脳みそはフル稼働していた。
(ごっご尊顔が近い!でなくて内密な話なら周囲に聞かれるわけにはいかない。聞こえそうな範囲には誰もいないな、不用意に話しかけて来そうな奴もいない。王が近い!嬉しい…でなく俺が王の言葉に集中しても不意を突いて害をなそうとする不穏な気配もないな、よし)
「実は今からお忍びで城下の甘味屋に行こうと思っていたんだ。そこまで言うなら付いてきて俺を守ってくれ」
「は。…は!?」
「一音なのにそこまで違う意味を込められるのはなかなか表現力があるな」
スノーの守ってくれ発言に反射的に了承したリリックだが、聞き捨てならない文言に目を見開いてスノーを見る。
スノーは悪戯成功、とでも言うようににんまりと了承したな、などとのたまっているが、リリックはそれどころではない。
「いやいやいやいやお待ちください王」
「なんだ?」
「なんだじゃありませんお言葉を返すようですが…その …」
胸の中で様々な言葉が去来しているリリックは何から言うか、どう言えば不敬でないか、そもそも反論が不敬ではとぐるぐるしだしてそこで言葉に詰まってしまう。
(危ないことはお止め下さいと臣下として止めるべきか力量を買っていただいて光栄と思うべきかお忍びの随伴を許可されるほど信頼をいただいたと喜ぶべきかというかこれデートで、はぁぁぁ!?で、でデート!?い、いやまさか王にそんな意図はないだろう落ち着け、落ち着け俺!俺は王を愛しているけど王は俺に友達になってくださると仰ったんだ…まさか友達として誘って下さった!?とか待て待て待て待てただの護衛だから!護衛としてだから!そもそも王の言葉に反論とか不敬にもほどがある黙って従うのが筋だろうでも王を危険に曝すわけには(以下ループ))
このまま大人しく承諾して王の笑顔を取るか。自身の変な期待と、なにより大事な王の危険を塵芥の可能性も残さず消すか。
リリックにとって、それは重大すぎる判断だった。
もごもごしていたと思ったら眉尻が下がりきってしまったリリックを見て、スノーは表情を改めて誠実な眼差しで名を呼ぶ。
「リリック、俺はね、俺を思ってくれる臣下の忠誠を汲んで、新たな友との交友を深めるために、『お前と一緒に』お忍びを楽しみたいんだ」
見ようによっては冷たく見えるアイスブルーの瞳が、この時ばかりは暖かく柔らかい光をもってリリックへ届いた。
言葉も共にストンとリリックの胸に落ち、体は自然と胸に手を当てた一礼の姿勢を取る。
「…御意。どこまでもお供し、お守り致します」
「うーん…友達相手にする返事にしては固いんだよなぁ」
上げた顔は晴れたもののその返答に、スノーは少し苦笑してみせるのだった。