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【R15】秘密は花びらの下に【#BLタイトルと帯 https://shindanmaker.com/ より】

服部匠@次回ちょこっとブックカフェ委託
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2016-10-18 21:51:02

R15ですが直接的表現無し/診断メーカーのお題でBL掌編/花街で春を売る「彼」と恋人の「僕」/優男攻め?/ポエム成分高め/帯のフレーズは【真綿で首を絞めるような愛】です

 彼が怯えていると分かったのは、肩を抱いた時だった。華奢な筈の肩がやたらと固い。
 色白の肌に、朝露で濡れたような漆黒の髪。見るもの全てを切り付ける、鋭利な刃物のような目。丹精込めて作られた刀が具現化したような彼の唇は、何故か熟れた果実のように紅く、濡れている。
 触れたら己が身に傷がつく事は理解しているのに、彼に触れたがる人間が後を絶たない事を実感する。
「俺は”なにか”の代わりなんだ」
暗闇の中、ソファにもたれかかる僕と彼。肩を抱かれたまま、彼は僕を見ずに呟く。
「別れた恋人、空想の中の女、乱暴に扱える玩具……支配欲の行きつく先がセックスってのが、ばかばかしくて仕方ない。知ってるか? 俺を抱いた後、 奴らは、大概泣きじゃくりながら謝るんだ。ごめんよ、ごめんよ、痛かっただろうって。おかしくて、毎回笑いをこらえるのが辛いくらいだ。あれだけ乱暴にしておいて、謝ってハイおしまいだなんて。なにかの喜劇にしか見えないね」
 普段よりも饒舌な彼のおしゃべり。固まってしまうのではないかと思うほど、どんどん委縮する彼の身体。おそらくまた客の男にひどく痛めつけられ、あられもないことをされたのだ。恐怖をかき消すために、彼はしゃべり続ける。
 ――彼の職業は春を売る事。この花街の中でも、一二を争う人気の「花」である。この街に訪れる人間の殆どは何かにつけて疲れた人間ばかりだ。憂さ晴らしのために、花は必要以上に売られ、乱暴に手折られ、無惨に玩ばれ、最後は花弁を散らされ捨てられる。
 そんな花の中、彼は傷だらけになりながらも、捨てられずにこの街に留まっていた。刃で出来た花弁は、たやすく散ることは無いらしい。
 彼に許しを請う男は、きっと刃に傷付けられたのだろう。彼の刃に映り込む、己の狂暴性に傷付けられて。
 それでも触らずにはいられない、蠱惑的な存在なのだ、彼は。


 しゃべり続ける彼の、未だほどけぬ肩の力がなんとも不憫に思えて、優しくさする。すると彼はびくり、と肩を震わせて、言葉を切った。
「どうしたの」
「……あんたは変わってる。俺を乱暴に扱うことはしない」
 戸惑いの色を滲ませた声で、彼が言った。それでも、僕の顔を見ることはしなかった。
「手つきはいくらだって優しくできるよ」
「心はどうか分からない、って?」
「君はまるで刃みたいだからね。きちんと扱わないと、怪我してしまう。君を抱いた男たちのように。僕は、痛いのは嫌いだから」
「痛いのが嫌いなの」
「痛いのは嫌いだし、痛がっているのを見るのも趣味じゃない。だから、好きな人には優しくしたい」
 我ながら遠回りな愛情の示し方だと思う。少しでもその刃を、鞘にしまってくれることを期待して。――痛みと快楽に飲み込まれ、雄たけびを上げ、甘く喘ぐ彼の姿など見てしまったら。
 自分の心的外傷が飛び出してしまいそうだ、という、とても自分勝手な理由を飲み込んで。これが愛情だと言えるのか、という自問自答は常に僕の後ろをヒタヒタと歩いてついてくるけれど、今はその足音を聞きたくはなかった。
 過去の自分と、花を売る彼が重なるのだ。かつては僕も、花を売っていたから。
 ふと、彼の肩の力が抜けた。
 彼はするりと猫のように身体をひねり、僕の膝の上に乗ってきた。ぎし、とソファが軋む音が響く。
「……あんたがそうでも、俺は」
 顔を寄せて、紅い唇が近づく。まだ、駄目だ。
 人差し指を彼の紅い唇に当てて、動きを止めた。
「優しく、扱わせてくれないか。――ただ、手を握らせてくれるだけで、良いんだ」





 あいつは優しい。
 あいつは俺を簡単に抱いたりしない。口づけすらしない。乱暴にしない。俺の事を労わる言葉をかけ、痛む身体を癒すように撫でる。そこに、俺を買う男のような欲望は感じられない。
 乱暴な客とのセックスはいつだって恐怖だ。良いように玩ばれる度に、心が粉々にされる。でももっと嫌なのは、そんな身体をあいつに優しく触られることだ。労わられることだ。
 ああいっそのこと、あいつが俺を抱いてくれたら。
 ――俺「が」あんた「に」抱かれたいと恋い焦がれている事を知ったら、どう思うんだろう? 
 口づけさえ許さない優しい恋人。その奥には何が隠れてるんだ?


 やさしさが、真綿のように心を絞めつける。


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