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雨宿り【山姥切国広】

@ktbkch1tosh1
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2016-11-12 00:54:00

うち本丸設定での一応刀さに(山姥切国広編)2016年3月に友人に投げつけたメールより

雨宿り【山姥切国広編】

「これで全てか?」
 山姥切国広の問いに審神者は手にしたメモを確認する。
 「うん、大丈夫」
 短刀の子達と一緒に眠ると言った審神者が、その日に体調を崩し、そのまま約束を反故にし続けている現状の、せめてものお詫びにおやつを作ろうかと思い立ち、材料を買いに出るところに見付けた近侍の山姥切国広を巻き込んだ、ある日の午後。
 買い物を済ませて万屋を出ると、雨が降り出した。
 「あれ?雨なんて言ってたかな」
 「通り雨か」
 等と話している間に雨粒はみるみる大きく強くなる。
 「げ、げりら豪雨」
 「げりら豪雨?」
 間一髪、付近の店の軒先に逃げ込み、いよいよ本格的に降り出した雨を見ながら呟いた審神者の言葉を、隣に立つ山姥切国広が鸚鵡返しにする。
 「何か、こう、急激に天候が悪くなって、雨がわーっ、と降って……」
 その後に来るものを思い出してさぁっと血の気が引いた。
 「主?」
 (ゲリラ豪雨とか夕立って、夏じゃないの?夏じゃないの!?今春先だよ!?)
 と、彼女が己の考えを否定した矢先。
 ゴロゴロ、と遠くで低く轟く音が始まった。
 「雷か」
 「っ!」
 その言葉に審神者は身を竦める。
 「ああ、そういえば、あんた雷が……」
 審神者がそれを苦手だったことを山姥切国広は思い出し、声を掛けようとして、しかし口から出たのは違う言葉だった。
 「――おい」
 やめろ、俺を屋根から出すな、と抗議の声があがるが、審神者は追い出したいのではなく、安心安全の場所――山姥切国広の後ろ――に隠れたいだけだった。
 「――そんなに嫌なら、どこか店にでも入るか?」
 通り雨であるなら、お茶を飲むくらいで凌げるだろうと提案する。
 「そ、んなことしたら、帰るの、遅くなる……」
 確りと山姥切国広の布を握り締めたまま、気丈にもと言うか無謀にも近侍の助け船をさっさと蹴る。
 「国広と、お茶とか飲んだら、お茶菓子まで頂いて、ゆっくり、しちゃう……!」
 ……どう受け取ったら良いのか難しい返答だ。
 そんなやり取りの間にも、遠雷が聞こえる。ひょっとしたら、近付いているとか言わないだろうな、と遠くの雲を見るが、生憎、山姥切国広の視力でもその判断は出来ない。
 前方には、降り続く雨。後方には、今にも泣き出しそうな雷嫌いの審神者。
 手近な茶屋に入る手段は潰えている。
 「主」
 「はいぃ」
 返事がそろそろおかしい。
 「あんた、早く帰りたいんだろ?」
 そもそも短刀たちとおやつを作る、が目的だった。それもあって、自分たちだけ雨宿りを兼ねて美味しいものを頂くのに抵抗があるのだろう。
 それならば、自分に出来るのは。
 「これとこれ、持ってくれ」
 これ(今買ったおやつの材料)とこれ(本体)を渡して審神者がそれを抱える間に自分は頭から被る白い布の、肩口にある紐を解く。
 「これを――……俺がやるか」
 外した布を渡そうとして、審神者の手がいっぱいなのに気が付いて、それを、頭から被せ、紐を結ぶ。
 「え、あの、ちょ、国広?」
 審神者の思考が追い付かない。ついでに前もよく見えない。
 気が付けばてるてる坊主のようにされて、手には山姥切国広の持っていたものが渡されていて――――。
 「待っ!」
 「あんたは荷物が落ちないように大人しくしてろ」
 制止の言葉を掛ける前に、山姥切国広が審神者の身体を抱え上げた。
 「――――――っ!」
 以前、審神者がごく軽く指を怪我して血が出た際に、慌てふためいた山姥切国広は、審神者を担いで薬研藤四郎の部屋に駆け込んだことがあった。
 その後、方々からクレームがあったのか、抱え方を改めたようだった。
 横抱きだ。詰まるところ、お姫様抱っこというやつだ。
 尤も、この後に起こるであろう嫌な予感の方が強すぎて、審神者はそれどころではない。
 ついでに言うと視界はほぼ布しか見えていない。
 「やめよう!それはやめよう!」
 「さっさと帰りたいんだろ」
 訴えは即却下された。審神者、主なのに!
 「だ、大体これ国広濡れるよね!?」
 「本丸に戻れば風呂がある」
 実に潔い返答だ。
 脳筋な近侍の決意は固い。
 「主」
 顔は見えない。上から降ってくる低くきっぱりと話す声だけが、今の審神者に分かる山姥切国広の存在だ。
 「荷物をしっかり持って、舌を噛むなよ」
 怖すぎる。
 「転ばないでね!?」
 根負けのGOサイン兼注意喚起に、山姥切国広は、ふん、と鼻を鳴らす。
 「あんたを抱えてて転ぶ訳がないだろ」
 完全に臨戦態勢入っている空気に、審神者は再び嫌な予感を覚えて、しっかりと荷物を抱え、布越しに山姥切国広のジャケットを掴んだ。
 「参る!」
 低く、けれどはっきりとそう言って、山姥切国広は雨の中、駆け出した。

 そして。
 当然のようにふたりびしょ濡れで帰り、燭台切光忠を筆頭に、歌仙兼定、堀川国広などの面々にこっぴどく叱られ、直ぐ様風呂場直行となり、上がってからもう一度お説教をされた。
 散々である。当然、お菓子作りなど延期だ。
 説教が終わり解放され、ふたりになったとき、山姥切国広はまず審神者に謝った。
 「結局あんたまで濡れさせて、悪かったな」
 「まあ、濡れるよね。君の布、防水性じゃないし」
 「次は、上着も被せることにするか」
 「いや!いや、もうそしたら次にこんなことあったら、諦めてお茶飲もう!」
 「そうか」
 「?」
 審神者の目に、少し、山姥切国広が笑ったように見えた。
 「あぁ、でもね、国広」
 ひとつだけ、感謝すべきことがある。
 「なんだ?」
 「お陰で、雷どころじゃなかったよ」
 あはは、と審神者が笑うと、彼女の近侍はただ一言。
 「そうか」
 と、答えた。

 審神者と近侍は山あり谷あり雨あり雷あり。
 けれど、君と共になら。


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