@_kana_5
「グクの馬鹿っ。」
顔を思いっきりしかめながら、
目の前で冷ややかな表情を浮かべるグクに言い放つ。
「別れるっ。もう、グクと別れるっ!!」
もちろん、本気で別れるなんて、これっぽっちも思っていない。
最初は、ちょっとした口論になっても
常に冷静で、私を軽くあしらう態度のグクが
少しくらい焦ればいい、
そう思って言い出した台詞。
初めてこの台詞を吐いた時は、
どうだ、焦ったか。
なんて鼻の穴を膨らませたものだが。
眉一つ動かさないグクに、ほんの少し心が折れた。
もう、今となっては喧嘩した時…、というより
私がキリキリ怒った時に放つ常套句のようになってしまっている。
ふぅ、と息を漏らし肩をすくめるグク。
くーっ!!
本当に出て行ってやろうか!?
しかし、そのまま放置されそうで怖い。
グクなら、やりかねない。
絶対、私の方が ”好き度” が大きい。
なんで、恋人同士なのに同じくらいじゃないんだろう。
ちょうど半分こでいいじゃない?
今の私達の好き度の割合は、私が99%くらい占めているに違いない。
グクの携帯が、着信を知らせる。
「…本当に出て行くんだから。」
眉をひそめる私を尻目に、
『はい。』
グクは平気な顔をして電話を受ける。
なんだよ。
無視かよ。
「グクの馬鹿。別れるんだから。」
さすがに声のボリュームは下げるが、
なおも言い続ける私をチラリと一瞥し、
『いや、元カノですよ。さっき、別れるって言われちゃったんで。』
電話の相手にそう話すグク。
え!?
グクの中では、もう終わりってこと!?
さすがに付き合いきれないと呆れられたのか。
口を噤み、肩を落とす。
言わなければ良かったと後悔してみるも、時すでに遅し。
そっか。
グクは、別れる気満々だから、何も言わなかったんだ。
グズグズ言いながら、寝室へ行って布団にくるまる。
『今度は、何してるんですか?』
電話を終えたのか、寝室へと入ってきたグクに素っ気なく訊ねられる。
『出て行くんじゃないんですか?』
え、本気なの?
いつものイジメじゃなくて?
『…荷物まとめるの、手伝いましょうか?』
本気なんだ。
ここまで言われた事ない。
出て行けって言いたいんだ。
むくりと起き上がり、
「いい。1人で出来る。」
小さく呟き、旅行用の大きなバッグを押し入れから取り出す。
ギシッと、ベッドの端に腰掛ける音がするが、そっちを見ないようにして、自分の洋服をバッグに詰め込む。
再び、ギシッと音がしたかと思うと、
『ヌナ。』
私の横にしゃがみこんで顔を覗き込んできたグクが、私の髪の毛を耳にかけ、
『ひどい顔。』
小さく笑い声を上げる。
彼の方を見ずに唇を噛む私に、
『僕だって、少しは傷つくんですよ。』
溜め息混じりに話す。
「元カノ、って、言った。」
ようやく言葉にする私に、
『ヌナがそうなる事は一生ないので安心してください。』
『ほら、…もう泣かないで。』
ポロポロと泣く私の頬を、優しく撫でる。
結局、いつもみたいにグクに軽くあしらわれてるだけじゃん…。
グクに腕をとられ、
あぐらをかくグクの足の間に彼と向かい合うように座らされる。
目を細めながら、両手で私の頬を包むグク。
『いくら泣いても喚いてもいいです。』
頬に手を添えたまま、親指で私の涙を拭う。
『でも、別れるって言葉は、もう言わないでください。』
「………うん。」
私が頷くと、グクはそっとキスを落とす。
『ヌナを元カノにする気はないですから。』
悪戯っぽく微笑んで、再び唇を合わせる。
いつも、そう。
年上のはずの私が、グクに上手く扱われる。
でも、私の方が99%だと思っていた好き度は、
本当は半分ずつくらいなのかもしれない、
なんて思いながらグクの胸に頬を寄せた。
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