X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

キミに弱い。(FF7クラエア)

全体公開 FF7(クラエア) 2417文字
2016-12-09 00:21:03

FF7:クラエアSS

Posted by @tomo27vt


エアリスはよく、歌を歌う。

例えば、一晩の寝床を作ったり夕食の準備をしたり、野営の準備をしている時。
例えば、人の行き交う街中をのんびりと歩いている時。
例えば、宿屋でほっと一息ついている時。

歌うと言っても、鼻唄程度のもので、それも、大方が曲の調べをハミングするだけだ。
それでも、透明感を感じさせるあの声での歌は、妙に耳に残る。
不快なわけではなく、むしろもっと聞いていたいと思ってしまうほどに心地良い。

だからだろうか。
誰に聞かせるでもなく、口遊まれた歌の多くが同じものであると気付いたのは。



「その歌、よく歌っているな」



買い出しに出ている今もまた、エアリスは歌っていた。
ポーションなどの消耗するアイテムに始まり、保存可能な食材など、長旅には何かと物が入り用だ。
物資が不足すると、ダンジョンの中は勿論、街と街の間の野営がなかなかに厳しい。
ただ、無制限に持てるわけでもないし、所持金との兼ね合いもあるから加減が難しく、面倒だ。

シドやユフィは露骨に面倒臭がる買い出しの間だというのに、鼻歌を歌うくらいなのだから、エアリスの機嫌は良いように見える。彼女が不快感を露にすることは、それこそ神羅の連中の前くらいのものだが。

俺の言葉に、エアリスはエーテルの棚の前で彷徨っていた目線を、身体ごとこちらに向ける。
緑色の丸い目を瞬かせて、こくりと首を傾げていた。



「歌?」
「よく歌っているだろ。違っていたか」
「んー……うん。そう。何か歌っちゃう。軽やかな感じが好きなの」
「確かに、明るい調子の曲だな。何ていう歌なんだ」
「知らないんだ。残念だけど」



今度は俺が目を瞬かせる。
意識し出してから、旅の間で何度か歌っていると感じるくらいだから、相当に好きだと思っていた。
俺が軽いながらに驚いていることを感じたのだろう、エアリスはふふ、と小さく笑う。


「テレビで流れてるの、聞いただけだから。スラムのテレビ、ノイズ酷い時多くて。
メロディはわかるけど、誰が歌ってるかもわからないし、歌詞もよく聞こえなくて」
「そういえば、ニュースも聞き取り辛かったな……
「でしょ。六番街はそんなことないんだけど。伍番街は環境、あんまりよくなかったみたい」



エアリスが手に取るエーテルを受け取って、買い物カゴに入れながら、スラム街の様子を思い返す。
スラム街はどこも劣悪な環境ではあったが、中でも伍番街はほとんどの建物が廃材で組み立てられているなど、かなり悪い部類に入った。テレビの映りが悪かったのは魔晄炉爆破の影響だと思っていたが、そうでもないらしい。
エアリスの家とその周辺はかなり綺麗だったが、あの環境を作るには相当な努力が必要だったろう。
陽の光が入る好条件があっても、それを活かせなければどうにもならないのだから。



「クラウドはないの?好きな歌」
「歌……特にはない、な」
「ないんだ」
「ソルジャーになった頃にはさすがにテレビくらい見てるはずなんだが……覚えていない」
「たくさん頑張ってたんだ」



えらいえらい、なんて言いながら、頭を撫でようとする手を制した。
どうもエアリスは子どものような扱いをすることがままある。
俺だけに限った話ではないし、実際エアリスは俺よりも年上だ。それほど歳が離れているわけではないし、女性にそんな扱いを受けるのは、照れもあり矜持を軽んじられているようでもあり、どうも複雑だ。



「そういえば、クラウド、鼻唄とかあんまり歌わないね」
「よく知らないんだ。興味もない」
「ふぅん」



正直に言えば、歌の好き嫌いを考えたことなんて、なかった。
様々な方面での知識を深めはしたが、歌のような娯楽にはとんと疎い。
故郷を出て、神羅に兵として勤め出した頃はとにかく生計を立てることに必死だった。
ソルジャーになったからと言ってそれが楽になった覚えもないから、娯楽に現を抜かす余裕などなかった。

そのままを伝えたのだが、応えるエアリスの横顔が何処か残念そうに曇って見えて。
何となく、居心地が悪いものだから、つい、要らないことまで口から出るのを止められなくなる。



「ああ、でも」
「ん?」
「アンタの歌は、悪くないな」



瞬間、パッと明るくなって、満面の笑みを湛えて、うふふと小さく笑う。
随分と達観して物事を見ているかと思えば、何でもない言葉にすぐ嬉しそうにするものだから、エアリスは色々と忙しい。
笑顔を見て、よかった、なんて思ってしまうのは、くるくると変わる表情が微笑ましいからなのだろう。



「じゃあね。旅が終わったら、どんな歌か、頑張って調べるから、一緒に聞かない?」
「は?」
「テレビで流れてたくらいだもの。きっと、有名だよ。
その人、他にもいろいろ歌ってるかもしれないし、クラウドが気に入る曲、あるかも」
「それは、知らないが」
「ダメ?」



かくりと首を軽く傾げて、覗き込むようにしてこちらを見上げてくる。
まっすぐに見つめるその瞳は、純粋な疑問符を浮かべていて、子どものような無垢さを感じるほどだ。
この人は本当に俺よりも年上なのかと、何度目か知れないことを感じた。
何度も見ているというのに、その瞳で見られると、どうにも、駄目なのだ。



「駄目とは、言ってない」
「じゃあ、約束!」
「アンタはすぐに約束するな。飛空艇の次は歌か」
「楽しいこと、ある方が頑張れる、でしょ」



確かにな、と軽く同意すれば、また嬉しそうに微笑む。
笑顔もまた、幼子のように純粋無垢なものに見えて、だから弱いのだろうか、と頭の隅で思う。
エアリスが笑顔でないと調子が狂うのも事実なのだから、弱いものは弱いまま、変える気もなかった。





キミに弱い。
(アンタの歌う歌が良いのだと気付いたのは、もっと後のこと)


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.