X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

新しい勇者との出会いのお話。

全体公開 1 3576文字
2016-12-12 01:45:03

囚獄の勇者と妄信の勇者のお話。

 尋の魔王のサーカスにお世話になってそろそろ一か月。多少は周りにも馴染めてきたのかな、と思い始めた頃。公演の合間に休憩で立ち寄ったとある街で、一つの声が響き渡った。

「アンタ、いいかげん堪忍せえ! おとなしくつかまれっちゅうに!」

 街の路地裏から訛りの強い声と、その声から逃げるようにせわしない足音が響き渡ってくる。何事かとつかんでいた食べ物を一度ベンチに起き、静かに腰をあげ路地裏につながる入り口を注視する。路地裏から出てきたのは、いかにもガラの悪そうな男。胸元にバッグを持ち、必死の形相であたりを見渡している。

「くっそ、見た目に似合わず逃げ足の早いやつやな!」

 訛りの強い声の持ち主が近づいてくる。ガラの悪い男は、息を荒げながら走り出した。よくバッグを見てみると、男の見た目にはとてもではないが似合わない、キュートな女性もののバッグだった。口調から、何かしらの悪い組織のいたちごっこかと思ったが、おそらくはガラの悪い男性がひったくりかなにかで、訛りの強い男が正義感か、それとも報酬目当てかで追いかけているのだろう。逃げているほうが実はいい側の人間で、なまりの強い男が悪事を働いているのならば、と思い傍観していたが、この分ならばおそらく自分が関与しても問題ないだろう。
 そう思った僕は、軽く能力を発動させる。男を地面から数センチほど浮かし、身動きをとれなくしたのだ。

「な、なんじゃこりゃ!? だれだ、誰がこんなことを! おい、出てこい!」

 宙に浮かされジタバタともがくガラの悪い男。腕を激しく振り動かした反動からか、バッグが男の腕から外れて空に舞った。そのバッグにも意識を向け、男と同じく宙に浮いた状態で確保する。

「よっしゃ、どこのどいつか知らんが助かるわ!」

 その後ろから訛りの強い男が走ってくる。170cmほどの、良く引き締まった身体に明るめの髪色をした男は、なぜか目元にサングラスをかけていた。サングラスのせいで。とても、怪しい。

「あれ、これは首を突っ込んではいけないものに突っ込んでしまったのでは……。」

 双方の怪しい風貌に、早まった選択をしたか、と、がっくりと肩を落としながらも。一度かかわった以上は最後まで見届けたほうがいいか、と、浮かした腰をもう一度ベンチに落ちつけて、ガラの悪い男とバッグを目から外さないように、そして下手に力を持ってることをばれないように、さりげない風を装い続けることにした。

 街の自警団のような存在に明るい髪の男がいかつい男を引き渡す。ずっといかつい男を視線から外さないようにしていたからか、少し疲れた。ふぅ、と息を履きながら手元のよくわからないけれどもおいしい食べ物を頬張る。少し食べ進め、ふと顔をあげると明るい髪色の男があたりをきょろきょろと見渡していた。その視線はだんだんと自分の座っているベンチのほうへと近づいてくる。いやな予感がして、目をそらそうとしたとき、まだもう少しは猶予があるだろうと思っていた彼の顔が、ぐるん、とこちらを向く。目が、あった。目が合った瞬間、男はにっこりとした笑みをうかべて手を大きく左右に振る。理由はわからないが、すっかり僕がさっきの件にかかわった存在だと察知されたみたいだ。

「いやー、さっきはホンマたすかったわ。まさかあそこでしぶとく逃げるとは思わんくてなー。アンタのフォローがなければもうちょいめんどくさい事になってたかもしれん。おおきにな。」

 快活に笑う男は、自身を囚獄の勇者と名乗った。聖界の各地を旅しながら、いろいろな依頼にかかわっているらしい。

「さっきのは依頼でもなんでもないねんけどな。ただ、ちょいと近くで女性の悲鳴が聞こえて、なんやと思うて駆けつけたら。女性がバッグを男にぬすまれていたっちゅう単純なわけで。」

 そのあとしばらく追いかけっこを続け、僕が少しばかり手を貸したあの場面になったらしい。

「まさか急にあの男が宙に浮かぶとはおもわんかったなー。そんで、多分ここらへんに自分と同じ勇者がいるんやないか、と思ってあたりを探してたんやけど。いやー、アンタだけ明らかに此処の街の人たちと恰好が違ったから、ピーンときたわ。ホンマ助かった。ひとまずお礼させてもらいたいねんけど。」

「えっと……お礼、、ですか……?」

「そ、お礼。どうや? そこらへんで飯でも。」

 明るい人だ。とても明るい。

「えーっと……申し訳ないんですが、先ほどご飯を食べてしまいまして……。もうしわけないんですが、囚獄様お誘いには……。」

「いややーもう、様付けなんてせーへんといてーな。囚獄さんで大丈夫やってー。もー。」

 目の前で問題が起きて、すぐに人のことを助けようとすることができるだなんて。

「で、ですが……ごめんなさい。癖、というか、なんというか……。」

「癖? えらい癖もっとるなーアンタ。んんー……アンタ、どこ出身なん?」

 まずったかもしれない。なぁなぁですませてしまおうとおもったのに、踏み込まれてしまった。だけど、今この状態で急に席を立つと不信感を抱かれてしまうかもしれない。少しだけ、話すか。

「えっと……自分は、北のほうにある地下国家から来たんですけれども。」

「地下国家!? あそこめちゃくちゃ閉鎖的なところやんけ。アンタよくそこから出てこれたな!?」

「えっと……いまから一か月ぐらい前の話なんですが。急に夢の中で女神様に出会って、勇者に任命されたんです。ちょっとその時に、いろいろ……ありましたが。それで、勇者に任命されて、外世界への調査を命じられたんです。なので、今こうやってここにいる感じですね。それで、地下国家ではずっと赤市民……ごめんなさい、わからないですね。地下国家には階級制度がありまして、赤が一番小さいんです。勇者として選ばれるまではずっと赤市民で……それが原因で、人にたいして様付けすることが身体にすりこまれちゃってるというか……。」

 乾いた笑いを発しながら、長々とごめんなさい、と謝る。いや、大丈夫やで、と言いながら、囚様は僕にこんな提案をしてきた。

「聞いた限り、アンタ勇者になったばかりやろ? おれもとある勇者に教わった内容なんやけど、それ丸ごとアンタに教えたる。先輩は後輩に教えるもんやで。」

ここで話すのも何だから、と。囚獄様が寝泊まりに使っている宿屋に案内される。部屋に入り、椅子に腰かけるように言われた後、まず第一に勇者とは、と彼は語り始める。

「魔王を討伐して平和をもたらす為に選ばれた人間の総称が勇者、と言われとる。10歳から35際程度の人間から新しく勇者が選ぶんやね。そんで、勇者は死なない。死なないというか、死んでも魂が女神の間に戻って肉体が再生成されるらしいんや。まあそこらへんは俺も死んだことがないからわからないんやけどな。そんで、勇者の証を使うと女神の間にいける。女神の場所がどんな場所かって話なんやけど、アンタ、女神が出てきたときの場所覚えてるか? あそこが女神の間や。あそこにはトレーニングしたり娯楽にふけったりできる場所や、魔界につながるゲートと聖界各地へつながるゲートがある部屋があったり、あとは道具を生産する女神ファクトリーなんて場所もあるらしい。」

 魔王を倒して……。なぜだ? なんで魔王を倒さなければならないだろうか。僕を拾ってくれた尋の魔王はとてもいい人なのに。だめだ。わからない。ぽつりと、胸に疑問の芽が出てきた。それがどうなるかは、解らないけれども。

「えーと……ごめんなさい、急に言われても実感がわかないというか……。よければ、なんですけど、一度いってみたいかな、なんて。」

「女神の間の生き方? 簡単簡単。カッとしてドーンッてやるんや。」

……え?」

「ん? わからへんか? えーと、ぎゅっとしてどっかーん、やったらどうや。」

…………???」

……あれ、こまったな。伝わらん。おかしいな、これでちゃんと伝わると思ったんやけどなぁ……。」

「えっと、ごめんなさい。まだ地下国家からでてきたばかりで、言葉とかよくわかってなくて……。」

「あー、そりゃしゃーないな。そしたら……ビフリオテカっつう国があるんやけど。そこに書館の勇者っつう物知りな勇者がいてな? そいつに合わせたる。」

「い、いや、申し訳ないですよ。」

「そんなことは気にしないでええねん。ほないくで。善は急げや!」

 腕をがっしりつかまれ、そのままぐいっと身体を持ち上げられる。

「なんやアンタ。かっるいなー。もっと飯がっつり食ったほうがええで!」

 これが、僕と囚獄様との、初めての出会いであった。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.