<side.K>
一度でも感情が芽生えてしまえば、それを引きずって生きていくしかない。
昔から、ゆのは快活で可愛い子だ。今も昔もショートヘアーで、背は小さめ。童顔で笑顔が眩しくて、思いやりがあって優しい子だ。そんなゆのと私は幼馴染みで、手を繋いで帰ったり、食べさせあったりなんかも普通にしちゃう位仲が良かった。
だから、昔芽生えた感情は、 だった。あのとき芽生えた感情は、嫉妬とかいう言葉では片付けられないものだった。
両親が旅行でいないからという理由で、ゆのに泊まりに来てもらった日
ゆのを監禁した。
抵抗できないように後ろ手で縛り、首輪をつけ、足首をきつく拘束した。
私が手を振り上げる度に、ゆのは小さく悲鳴を上げた。初めは泣きながら痛い、やめて、と身を捩り叫んでいたが、それを無視して殴り続けてる内に無言になり、途中から呻いて涙を流すだけになった。私は殴り続けている内に息を荒らげていたが、それは疲れたからではないことに気が付いた。
興奮、していたのだ。普段明るくて、元気一杯で、優しくて、笑顔が可愛くて、友達思いのゆのが、監禁され、身動きが取れないまま息も絶え絶えに、ぼろぼろになっている。その状況に、異常なまでに興奮したからだ。ゆのは私の手のひらの上だという征服感が、麻薬のように脳の奥を痺れさせる。惰性で次を、求めてしまう。
いけないことだとわかっている。でも、止められなかった。全てが終わったとき、そこにいたのは、元気なときの面影も残っていない、か細い呼吸をして横たわる、虚ろな目をした少女だった。
「……かりん、ちゃん」
……あぁでも、こんなになってもまだ、ゆのは私をかりんちゃんと呼んでくれるのか。
愛しい……愛しいよゆの。
愛しい。愛しい。愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい。
壊してしまいたい程に。
「ゆのぉ……ゆのぉ……」
「かりんちゃ……んむっ」
衝動を抑えきれず、思わずゆのに覆い被さってしまい――そして、した。
熱かった。ゆののは柔らかくて、同じ体の部位とは思えなくて、背徳的で、思わずぞくりとした。
「ふは、はははは……」
思わず、笑いが込み上げてくる。だって胸を満たすのは圧倒的な支配感と、そして、
「は、ははは、あはははははははははははは!」
虚しさ、だったから。
全てを台無しにしてしまった。もう二度と、ゆのと笑い合う日常には戻れない。
何も手にしていない。ただ壊しただけで、それが望みだったはずなのに、そこが抜けたバケツのように、満たされているはずなのに満たされない。
だから、これは幻覚なのだろう。歪んだ視界の中で、捉えたゆのの表情は――
笑っている様に見えた。
<side.Y>
何となく、わかっていた。わかっていたから、嬉しかった。多分私も、かりんちゃんと同じ様に想っていたから。
『いつか』が来るのを、楽しみにしていた。かりんちゃんはへたれなところがあるから、いつになるかわからないけど、今よりもっと仲良くなって、何年後でもいいからって、考えていた。
だから、意外だった。まさか、こんなことになるなんて。
正直、抵抗できずに殴られるというのはこわかった。痛いし、庇えないし。でも、救いだったのは私が『わかっていた』ことだ。暴力に体が生理的な反応を示しても、心は違った。
満たされていた。ただただ、幸せだった。だって、愛してもらっているのだから。
私に手を上げながら、かりんちゃんはうわ言のように「あんな男に渡すものか」と繰り返していて、それってつまりそういうことでしょう? 嬉しい。本当に嬉しい。
……でも、かりんちゃんはちょっとおっちょこちょいだなぁ。「あの人はお兄ちゃんだよ?」って教えてあげたら、一体どんな反応するのかな?
唇が触れ合ったとき
「……ね、ぇ……かりんちゃん」
あぁ、かりんちゃんが笑っている。笑いながら、泣いている。もう、泣かなくたっていいんだよ? だって私ね、
「――」
……あぁ、だめだ。何だか瞼がとても重たくて、ちゃんと言えたかどうかもわからない。
……お願いだよかりんちゃん、泣かないで?
だよ。私も、かりんちゃんのことが――