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闇との邂逅

@qra9e
海月揺
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2017-01-05 04:55:23

「ねぇ、死にたいの?」

 どこからともなく、降ってきた声に振り返る。かわいらしい女の子の声。そこにあったのは深く重く立ち込める闇だけ。辺りを見回しても、人の気配はない。

「私は暗闇ちゃん。あなたの名前は?」

 やはりその闇の向こうから聞こえた気がして、私はそこへもう一度目を凝らした。突然、その闇から溶け出すようにして、人影が現れた。声の持ち主らしいやはりかわいらしい女の子だった。女子高生なのか、黒い制服を着ている。その髪も、瞳も、闇を映したように黒い。

「暗闇ちゃん?」
「そう、暗闇の概念、暗闇ちゃん」

 鸚鵡返しに問うと、滑らかな声が返ってくる。私が首をかしげると、彼女も首をかしげた。だって、それ以外に説明のしようがない、と言っているように見えた。これほど近くにいるのに、彼女からは人の気配がしない。疲れてるのかな、とこっそり思うと、目の前の彼女がちょっと拗ねたように唇を尖らせた。

「それでも私はいるの、ここに」

 踏み込んできた彼女が、私の顔を覗き込む。その勢いに圧されて、私はちょっとたじろいでしまった。

「私が、死にたがってるように見えた?」
「ううん、見えるんじゃなくて、貴女が死にたがってる」

 断定する言葉に、こちらはやはり首をかしげるしかない。死にたい、というのはどこか違う気がするのだけれど、たしかに言われてみればこの気分は死にたい、という気持ちなのかもしれない。

「貴女、自分の気持ちに気づいてないのね」

 落ち着いているのに明るく美しい彼女の声は、私の中にすとんと入り込んできて、そしてなんだか一気に力が抜けてしまった。
 私ではなく、人で作り上げた血溜まりの中で、疲れた私はナイフを拭いて懐にしまった。ああ拭いたところで意味がなかった。私は全身返り血でどろどろだったから。

「そっか、私、死にたかったのか」

思わず笑みが零れた。女の子がまた来るねと言って再び闇へと消えた。あっけないそれに、きっとまたすぐ会えるのだろうという確信があった。
闇はもうすでに、"黒猫"と呼ばれる私の過ごす場所であり、一部になっているから。きっと暗闇ちゃんとは友達になれる気がする。

なんとなくすっきりとした気分になって、早く帰ろうと重い身体をゆっくりと血の海から引き上げた。


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