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エルジョとノアテオ(途中)

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2017-01-22 12:09:45

※実際の軍隊で人材交流なんてするのかどうかは知りません
※設定も適当言ってますので公式との齟齬があったらごめんねするしかない



 灰色の空が重苦しい。列車から駅のホームへ降り立って正面から風を受け、第一声。
「……寒いな」
 青年はコートの前をかき寄せると溜め息をひとつ吐いた。南寄りの中央区で生まれ育った彼には、北方の空気は少々冷たい。隣に立つもう一人は風を抱く淡い色の髪に氷のような目をしていたため、青年の琥珀色の目がそこだけ温かげな色をしていた。
 青年の名をジョエル・ランツ、もう一人の名をエルウィン・クライネルトという。二人とも中央軍情報部所属の少尉であり、人材交流の一環として北方軍へ派遣されてきたのだ。普段の仕事を見学する他、一ヶ月後に控えた演習へ参加することになっている。
 北方はシャデリアとの緊張状態だというのもあり、中央とはまた違う方向での精鋭が集められている。出世欲が旺盛な、軍部の構造改革に手をつけたいとまで思っているジョエルとしてはこの出向は見聞を広めるのにもってこいだった。……つまり、今回の出向は本人のたっての希望でもあったのだ。勉強になるのは勿論だが、最前線における通信設備がどのようなものかにも非常に興味があった。
 一方のエルウィンについては、士官学校を卒業してからそれほど経っていない彼に経験を積ませるという上の意図があったが、二人での出向となったのは彼らがバディ関係を結んでいるからである。また、それなりに実務経験の多いジョエルとの出向であれば、より有意義な交流が出来るだろうと判断されたのだ。
「……ジョエル、これを。特に貴方は喉を冷やさない方がいいでしょう」
 冷たい風に肩を竦めていたジョエルに、エルウィンが自分の巻いていたマフラーを外して差し出した。少し迷ってからそれを受け取り、まだ残る他人の体温を厭う素振りすら見せずに首へ巻いた彼の琥珀色の目が、ほんの少しだけ細められる。
「悪いな」
「いえ」
 行きましょうか、と連れだって歩き出した彼らの密やかな関係を(バディというだけでないそれを)、誰も知らない。


  ※  ※  ※


「……それでは、一ヶ月という短い期間ではありますがよろしくお願いします」
 情報部周りへの挨拶を終え、一旦辞する。廊下を行き交う軍人たちに一人も見知った顔がいないのは不思議な気分だ。次に顔を出すべき場所のことを考えながら周囲を見回すと、この場所においておそらく唯一の顔馴染みである彼を見付けた。
「エルウィン」
 呼び掛けると振り返ったエルウィンは、すぐにこちらへと歩み寄ってくる。……そのあおい目を見てなんとなく安心したような気持ちになったのは、無自覚に緊張していたからだろうか。
「挨拶は終わったんですか」
「ああ、……いや、あとは兵士部にも一応顔を出そうと思ってる。そっちは? 中尉には会ったか?」
「ええ、まあ。問題ありません」
 この淡々とした喋り口に違和感を覚える人間はいないだろう。本人も態度に出しているつもりはないと思う。が。
 歯切れが悪い。
 私は恐らくエルウィンが挨拶した後に中尉……テオ・アロンソ中尉に会っているが別段おかしな人物ではなかった。少し話をしたが、極端に思考の偏った人物ではないように見えたし、部下にも寛容そうに見えた。
 私の相棒は人見知りではないし、仮に人見知りだったとしても個人的な好悪で態度を変えるような男ではない。いや、その変わった態度に私だけが気付く程度の些細な変化だから気にするほどのことではないのかもしれないし、単に体調が悪いとか機嫌を損ねているだけかもしれないのだが、後でそれとなく中尉側に探りを入れようか。
 軽く指でこめかみを掻いてから、エルウィンの様子を窺う。ほとんど表情を変えないまま、少しだけ目を細めてこちらを見ている。
「……お前も来るか? とりあえずは、今度の演習でサポートに入るラーゲルブラード班にだけ挨拶しようと思っているんだが」
「そうですね……はい、ぼくも一緒に行きます」


 兵士部は情報部の次に馴染みがある部署だ。特に通信指令班は指令執行班と現場とを繋ぐ糸なのだから、どちらとも良好な関係を築いておかなければならない。……とはいえここは北方であり、同じ兵士部とはいえ中央と雰囲気はまったく違ってどこか居心地が悪かった。
 見慣れない顔をちらちらと見られている気がする。囁き交わされる声の中にエルウィンの外見に関するものがあって、内心で舌打ちをする。当の本人は全く気にしていないどころか聞こえてすらいないかもしれないというのに。
 現場執行班所属、ラーゲルブラード班。彼らがいると教えられた場所へ向かうと、恐らく班長であろう男が、私がなにか見えない彼のテリトリーに踏み込んだらしい瞬間顔を上げてこちらを見た。
 青いトルマリン。まず飛び込んできたのはそれだった。その瞳から思わず目を逸らすと、紫がかった夜明けの色をした髪に遮られる。長い足を折りたたむようにして椅子へ腰掛けていた男は、興味無さげに(あるいは面倒くさそうに)ゆっくりと瞬きをした。
「中央軍、情報部通信指令班から派遣されてきました、ジョエル・ランツ少尉です」
 敬礼をしてから斜め後ろに控えていたエルウィンを見ると、静かに一歩進み出る。私と同じ仕草の筈なのに、敬礼する姿がひどく洗練されて見える。指先まですらりとしていたからかもしれないし、きらきらと髪が揺れたからかもしれない。
「同じく指令執行班から派遣されてきました、エルウィン・クライネルト少尉です」
「……一ヶ月後の演習でラーゲルブラード班のサポートに入らせて頂きます。ご指導ご鞭撻のほど、」
「そういうのいいから」
 ひら、とぞんざいに紙束を振って興味なさげにこちらから目線を外した少佐はもうそれ以上話題を広げるつもりもないらしく、当然エルウィンも名乗り以降黙っており、……ああ、うん。ある意味相性はよさそうだ。
 愛想を母親の胎内にでも置いてきた性質の人間は身近に(というかすぐ隣に)いる。特に何かを思うことも無い。
 ――ノア・ラーゲルブラード。何年も前に南方から北方へ異動したという話だが、こうして相対してみると冬の風が似合う男に見えた。寒々しく乾いた、肌を切る風。


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新矢 晋@企画用 @sin_niya_b
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