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パペットバフカ(仮)

全体公開 2530文字
2014-03-19 22:42:33

ナルル≫初代ヒュッテと二代目マルクの話

一言で表現するなら、それはボロ布だった。
故郷の歌なんだろう、耳馴染みのない鼻歌を歌いながら縫い物のような事をやっているらしい妻のヒュッテには悪いが、ノーマンにはそうとしか思えなかった。
だが、その感想をそのまま言ってしまうのがマズいのは分かる。
……それに楽しそうな様子が可愛いので、とりあえず見守る事を決めた。
本格的な失敗になりそうなら止めればいい話だ。
「ヒュッテ」
「なぁに? ノーマンさん」
「このミルクティー、貰っていいか」
「もちろん。構いませんよ♪」
「あぁ」
ヒュッテが作業の共にしていたのであろうミルクティーを口実に、ノーマンは向かい側の席についた。
既に温いが柔らかな味にホッとしつつ、妻の手元の物体を観察する。
物体は鍋つかみのようなサイズで、殆どはロークのスカート類の端切れを利用したらしい、茶色の短冊状の布で覆われている。ただ、天辺の4布だけは黄色かった。
……じっくり観察してもさっぱり分からない。一体、この
「そのボロい布切れなに?」
いつの間にか隣に来ていた1才の息子のマルクが、ノーマンの思考を言葉にした。
(あぁ、やっぱりそう見えるよな。)
ノーマンは吹き出しそうになった感情と言葉を、口ごと手で抑える事でやり過ごす。
そんな夫の仕草を見ていないらしく、ヒュッテはマルクだけを嗜めた。
「マルクくん、これはボロじゃないです」
真剣な顔のヒュッテは、左手に付けていたボロ布じゃないらしい茶色の物体を向ける。すると、これまで死角で見えなかった、目が姿を現した。
……手袋型のパペットだったらしい。
「何それ?」
人形(おもちゃ)らしいと思った途端目を輝かせるマルクに、それを見て取ったヒュッテが自慢気に正体を告げた。
「バフカです」
「へぇ!」
ノーマンは今度こそ吹き出した。
きょとんとした母子がノーマンを見る。
「マルク、違うぞ。これはバフカじゃない」
「え?」
「何を言いますかノーマンさん。これはバフカですよ」
「バフカは茶色くないぞ」
「う。そ、それは黄色い布地がなかったから仕方ないんです。
 故郷から持ってきたハンカチ位しかなかったから……
 でも茶色いだけで、ちゃんと見た事のある私が作ってますから、間違いないですよ!」
その主張を強調するように、ヒュッテは左手のバフカ(仮)をフリフリと動かす。
「見たことあるんだ?」
「ええ、そうですよマルクくん。
 お母さんは昔、エルグ長してましたから。
 エルグ長はバフカを出迎える場にいるものなんですよ。
 だからお父さんよりバフカに詳しいんです!」
「ふーん、じゃあ、バフカってこんななんだ?」
「そうなんです! ……《ワタクシハ、バフカデスゾー》」
「バフカってまんまる目玉なんだー」
……。《ソウデスゾー》」
このまま母子で人形遊びを開始しそうである。
ノーマンは一息つく。息子は気付いてないのだろうが、一応釘を刺して置かねば。
「ヒュッテ」
「なんでしょう?」
「外でやるんじゃないぞ?」
「えっ、お人形遊びは外ではしませんよ?」
……。ならいい」
バフカの目と言えば、“見えないが在る物”の比喩に使われる。
在るものだから否定する訳にもいかない気がしたノーマンは、その目のように表に出なければいいか、と妥協する事にしたのだった。


********


結婚式が終わってもその日の行事はそれだけではなく、マルクは王配として議会に参加した後、夜に行われた儀式のためテト海岸に来ていた。
儀式は先程滞りなく終了し、参加者は皆帰途に着いている所だ。
今日の行事が全て終わった事に安堵したマルクは、さっきまで見ていた神獣バフカの姿に、幼い頃の記憶を思い出したのだった。
「どうしたの? 教えて頂戴」
不意に小さく笑いだした配偶者を不思議がって、現女王のグンドゥラが声を掛けてくる。
「ああ、バフカの目は見えないんだなって」
「? 当たり前の事じゃ」
「マルクくん!! ……いえ、殿下!
 それ覚えていたんですか!?」
女王とその夫の会話に乗り込んで来たのは、儀式の参加者の一人。今年はロークエルグ長をやっているヒュッテだ。
グンドゥラはおかしな回答と予想外の横やりに、一瞬戸惑う。
が、横やりを入れてきた相手は親友である。声色であっさり感情を読み取ると、愉しげに微笑んだ。
「面白そうな話がありそうね。ヒュッテ、話して貰える?」
そう聞かれた母親がぴ、と不思議な悲鳴を上げたのを見て、マルクはようやく言うべきじゃ無かったのか?と考えた。
「寝所に戻ったら、オレが教えるよ」
「そう言ってるけど、アナタ言う気無くしたでしょ?
 でもヒュッテなら教えてくれるって信じれるのよ」
グンドゥラはマルクの提案をばっさりと切り捨てる。双方と付き合いが深いだけあって、ヒュッテとマルクの母子のどちらが与し易いかも判っているからだ。
(だろうな。)
マルクもそれを分かっていたとは言え、ため息をつく。
「そうか……お袋、嫉妬していいか?」
「ダメです! 嫌ですよ!?」
「フフ。拗ねないの」
拒否反応を示すヒュッテをそっちのけにして、グンドゥラがマルクの顔の方に手を伸ばしてきた。
その様子に内心安堵の息をつきながら、応じてマルクは背を屈める。さり気なくグンドゥラの背中に手を回し、抱き寄せる事で足のバランスを取りづらくして直ぐには追えないようにする。それで彼なりに母親が逃げる隙を作った。
……つもりだったのだが。
マルクがちらりと伺い見た母は、ずいぶんと興奮した様子で声にならない悲鳴を上げているようだった。
(いや、親指立てるな。足音立てないように去れよ。)
この母の善くない趣味には、デバガメなんて言うものがあった事を思い出し、マルクは呆れながらも空いてる方の手で指示を出す。
ヒュッテは首を横に振った。
(ああ、これは駄目だな。)
胸でグンドゥラがそろそろ放して、と合図送ってきた。それに従って、マルクは心身ともに両手を上げたのだった。

結局、グンドゥラ女王の個人的な所有物に茶色いヘンテコパペットが加わった事を知る人は、幸いにも多くない。


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