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恭二誕生日おめでとう翼鷹小咄【前編】

全体公開 4152文字
2017-02-18 21:57:53

支部に上げるときは色々修正入るかもしれません。叩き台です。

針がカチコチと一秒一秒を丁寧に指しながら、時計盤の上を歩いている。
あと10秒。たった10秒が、こんなにもどかしい。

カチ、カチ、

時計に熱視線を送るのは、二組の双眸。
かたや、飼い犬が餌の時間を、あるいは散歩の時間を待ち望んでいるかのようなキラキラとしたまなざしで。
かたや、気恥ずかしそうに、それでも嬉しさが隠しきれず眦に朱を浮かべたまなざしで。

翼と恭二は、机を挟んで相対しながら、壁にかかる時計を見つめていた。
机の上には、シャンパンにグラス、おつまみ程度の生ハムにチーズ、取り皿、そして中央にどんと鎮座する、ホールケーキ。

カチリ、

「恭二くん、」
分針がようやく動いたのを受けて恭二が翼の方を振り返るのと、翼が恭二に声をかけたのはほぼ同時であった。
2月2日 午前0:00。
21歳を迎えた恭二の真正面には、彼が姿勢を戻すよりも早く、視線を恭二へと戻していた翼がいる。その瞳はまっすぐでやわらかで、それでいてキラキラと輝いていた。
「お誕生日おめでとう。」


最大幸福論


大人然としてシャンパンが注がれたグラスを掲げるが、気が急いているのが隠しきれていなくて、恭二は思わずふふっと笑いを零した。
「?」
「そんな焦んなくても、ケーキ逃げないすよ。」
目の前の食いしん坊が、自分より4つも歳上だっていうんだから驚きだ。だいたい、今日はあんたじゃなくて俺の誕生日なのに。
「そうじゃなくて、」
♪〜
翼が言いかけたところで、恭二の携帯が、メールが届いたことを告げる。
「どうぞ。」
恭二がちらりと同席者を見やると、見てもいいと許可が返された。むしろ、来ることは分かっていたみたいだ。

「あ、みのりさん
『恭二、お誕生日おめでとう!』
一言書かれたメールが届いたのは、2/2 0:00ジャスト。添付のアニメーションでは、ネコとイヌがクラッカーを持ちながらケーキを囲んで「HAPPY BIRTHDAY!」と言っていた。
「ね、恭二くんに一番におめでとうって言うの、大変なんですから。」
なるほど、とやっぱり笑いが零れる。
筋金入りのアイドルオタクのみのりさんは、メンバーの誕生日にはとりわけ敏感だ。
あんたも大変だな、と言葉をかけると、乾杯しましょ、とグラスを持つよう促された。
シャンパンがパチパチと輝きを弾けさせているグラスを受け取る。

「お誕生日おめでとう、恭二くん。」
…………っ、」

翼が仕切り直すと、恭二は言葉を詰まらせた。
ふわふわしたもみあげからチラリと見える上耳は赤く染まっている。
「あ……あ、りがと、っす」
チン、とグラスとグラスを合わせる。
翼がシャンパンに軽く口を付けるのと、恭二がぐいとグラスの中を飲み干すのはほぼ同時だった。
「きょ、恭二くんどうかした?」
「え?」
「シャンパン。」
グラスが空になってると指し示されて、ようやくそのことに気付いた。
「顔真っ赤だよ。」
「あ…………、一気に、飲んじまったからかも、」
翼はこれは違うな、と思いながら、アルコールちょっと高かったですしね、と返した。
「もうやめとく?」
…………や、もちょっと……、今度はちゃんと飲みたいっす」
せっかく翼さんが買ってきてくれたのに、味分かんなかったとこぼしながらグラスを差し向けてきたので、翼は空っぽになったそこへボトルの注ぎ口を向けた。
しゅわしゅわと注がれるシャンパンから新しく星が散る。
「ケーキ、分けましょうか。」
「翼さんがそのまま食べたいんならそれでもいいすよ。」
「えへへ、夢のようですね。でも今日はちょっと試したいことがあってあつつ、」
翼は湯気の立つぬれぶきんで包丁を拭くと、その刃先をホールケーキに入れた。
……翼さん、上手いすね。」
感心しておもわず声をあげると、この間荘一郎くんにコツを教えてもらったんです、と得意気な声が返ってきた。以前2人でケーキを食べたときは、包丁にケーキがつきまくって、勿体ない、どうしよう、食べちゃおうか、などと正直マナーの悪い食べ方をしたものだった。まぁ、実家を出て久しく、誰に気を使うような必要も無いけれど。

……恭二くん、お酒、美味しい?」
切り分けながら、翼がふと恭二に尋ねた。
予想外の質問に一瞬戸惑うが、改めてシャンパンを少し口に含み味をみる。
「ん……うまい、っす。ちょっと甘いけど甘すぎなくて、」
「もうちょっと出会うのが早かったら、お酒飲めない恭二くんに会えたんですよねぇ。」
「え?」
二等分にしたケーキを、向きを変えてもう半分にする。
「んー……なんですかね、好奇心……興味、かな。20歳になる前の恭二くんにも、会ってみたかったなぁって。」
「面白くもなんともないすよ。」
きょとんとした恭二は思ったことをそのまま口にした。今と別にさほど変わらない。いや、境遇は違うけれど。髪も染める前かもしれないけど。
「うーん……なんだろ、上手く言えないな、思っただけです。」
翼にしては珍しく歯切れが悪く、居心地が悪い。
「????」
「えー……っと、」
恭二の頭に疑問符がいっぱい浮かぶ。
もしかしたら、顔を顰めて見つめてしまっていたかもしれない。
翼はバツが悪そうに視線を泳がせながらケーキをそれぞれのお皿に取り分けた。
「恭二くんと最初にお酒飲んだ人が……羨ましいな、なん、て…………、」
言いにくそうに消えていく語尾の代わりに、あはは、と困り笑いが出てきて、さすがの恭二も何となく察した。
同じ男だ。男というのは、とかく「初めて」が好きで、新雪に足跡を残せるとなればわくわくしてしまう生き物で。つまりはそういうこと。
「ふはっ。」
「あぁっ!笑わないでくださいよ。」
ケーキを取り分け終わって座り直した翼が、椅子を引きながら抗議の声をあげた。
「いや、そんなことかと思って
まるでヤキモチでも焼いてるみたいで、でも目の前の相手はそんなのとは縁遠そうで驚くよりも、そんなこともあるのかと思わず笑いが零れてしまった。
「くだらないですよね、でも
「あぁ、本当にくだらないな。俺にお酒教えてくれたのは、他でもないあんただろ。」

座り直して申し訳なさそうに言った翼にかけられたのは辛辣な言葉で。
でも、その声音も、自分をまっすぐに見つめる眼差しも柔らかで。
翼は、言葉の真意を把握すると、目をつぶり幸福の味わいを噛み締めた。
いまは、目の前の相手の誕生日を祝福し、ケーキを食べる時間だ。
テーブルの上に置かれた相手の手を取り、精一杯の愛情を込めて、優しくその手の側面に口付けを落とす。

「さ、食べましょうか、恭二くん。」
……?あ、あぁ……。」


「ん〜〜美味しいですね♡」
目の前の翼が幸せそうな声をあげる。
まったく、どっちが誕生日なんだか、と見てると笑いが出てくるが、柔らかな生クリームに小さなフォークを差し入れて口に運ぶと、自分でも美味い以外の言葉がどこかへ行ってしまってやっぱり笑えてきた。

「にしてもあれっすね。ずっと起きっぱなしで祝ってもらったから、まだ2/1みたいな誕生日って実感、あんま湧かないっすね。」
「えぇっ!?」
幸せそうな表情から一転、信頼していた相棒から電気ショックを受けたみたいな顔を翼が見せたものだから、恭二はぽつりと言った自分の言葉が適切でないことを悟った。
「あ……いや……、」
「あ、じゃあ、明日の夜もう一度お祝いしましょう!ケーキの残り半分食べながら、ね!」
入れようとしたフォローは、満面の笑みと提案で吹き飛ばされる。
「ふはっ、……あんたのそういうトコ、ほんとすごいな。翼さん、明日の夜までケーキ我慢できるんすか?」
「う〜ん、なかなかハードル高いですけど、明日も恭二くんのお祝いできるなら!」
「じゃあ、明日の夜も祝ってください。」
「あ、もう今日の夜ですね。」
「あー……ややこしいな、今日の夜?えっと、明日は日中レッスンだけだから2/2の、18:00以降、な。」
「あはは、めんどくさいこと言っちゃってすみません。明日も恭二くんとケーキ食べれるんですね。楽しみだなぁ。」
「俺も楽しみスよ。」
ケーキを口にし、シャンパンで喉を潤しながら和やかに会話をする。

……でも、この後も、ちゃんと祝わせてくださいね。」

机の上に置かれた恭二の手にするりと伸ばされた手。
確かに一秒前までは他愛ない話をしていたはずなのに。
翼の長くてしっかりした指が、恭二の指と指の隙間に潜り込む。
……っ、」
完全に隙を突かれ、翼のペースに巻き込まれ、雰囲気に呑まれる。
指の側面をなぞり、谷間をつつき、恭二の手の感触を楽しむように指を、手を包み込む翼は、とても楽しそうだ。
「明日もあるからほどほどにな。」
込み上がってくる、というよりも込み上げさせられる何かをぐっと抑えて、苦笑いしながら恭二は返した。
「禁欲生活送ってたんで、さすがのオレもちょっとわかんないです。」
「なんだよそれ、逆効果じゃねぇか。」
どちらからともなく言い出した約束。
セカンドライブを控えているから、あまりシないようにしよう。
別に厳しくストイックなものではなく、単純にライブの練習がハードなのもあるので回数を抑えよう、程度のものであった。
2人とも元々セックスに積極的な方でもなかったし、さほど苦にはならなかった。
が、それがここに来てとんだ牙を向けてきている。
現に詰る恭二だって。
この後のことなど何も考えていなかったのに、急に変な期待を抱いてしまい、顔が赤くなる。
翼が手を触ってくることすら、何かの隠喩のようで。
「恭二くん、オレとシたくないですか?」
申し訳なさそうな《素ぶり》で言ってくるのが、本当に白々しい。
優しく細められた向こうから、熱を帯びたまなざしが確実に恭二を狙ってくる。
…………。」
恭二は微かに頭を振った。酒に浮かされても、その言葉はまだ言えなかった。
…………あんたの好きに、していいぜ。」
自分の声が熱を帯びていることに気付いて、なおのこと恥ずかしかった。


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