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shoot a person a glance.

全体公開 4631文字
2017-03-09 19:59:46

一度はやってみたいモブ視点BL

Posted by @smbrfubuki


 留学に来て知ったことは、私が意外と、男の人に関して面食いだということだ。
 白人至上主義というのとはまたちがう。黒人でもアジア系でも雰囲気のある美形というのはいるし、目で見る分には人種なんてあまり関係なく、美は絶対的ですらあった。悲しいくらいに男の人の顔ばっかり見て、勉強はどうしたのかと言われてしまいそうだけど、ここフランクフルトはヨーロッパの玄関口とも言える巨大なハブ空港を抱えていて、いろんな人種の美形を並べて見られる天国みたいなところでもあった。

 午前の授業が終わると、私は決まってカフェへ行く。安いシアトル系のチェーン店だけど、Wi-Fi(こっちではWLANという)が無料で使えて、いくら長居をしても怒られなくて、怖い雰囲気もない。そしてひっきりなしに美形男子が通り過ぎる。さして印象に残らない東洋人の地味な女が心の中にこんな獣を飼い慣らしていると知られたら事だろうが、こちらも素人ではない。美男子同士の睦み合いを愛でて十数年、心得ていることは無数にあるのだ。

 今日はアールグレイを注文してみた。いちばん安いし、サイズは現地仕様で大容量。日本人的にはこちらの食品の提供サイズの分量が多いのはコストパフォーマンスが高くて嬉しい。少食な人には万事辛いだろうけど。
 ティーバッグで入れられた無難な風味のアールグレイを二口ほど含んだ時、開け放しのテラス席に1人の男性が座った。いや、あれは男性か? なんかよくわからないけど、なかなか自然界ではお目にかかれないようなもんのすごい美形が座った。
 私は銀髪っていうのを生で見るのがそもそも初めてだった。光の当たり具合によって色調の変わる見事な銀髪、今は昼下がりの太陽を浴びてただただ煌びやかなその少し癖のある髪、加えてこれまた滅多にお目にかかれない宝石みたいな色の紫の瞳。なんだあれ。もう一度言うけどなんだあれ。私はしばらくその綺麗な生き物の顔に見とれていたけど、服装から確実に男性だなと思い直し、余計虜になった。危ない、アールグレイ吹くとこだった。
 その綺麗な男性はテラス席で眩しそうに太陽を見上げ、色味の薄いサングラスを取り出した。日本ではガ○ト様くらいしかかけてるのを見たことがない、あれだ。形状はレイバンの少し下がり調子なあれ。意味がわからない、美しい。
 そして重そうな荷物を足元に置き、すぐ近くのカウンターへコーヒーを買いにいく。一人分。おお、1人なんだ。謎の感動を覚えてしまった。あんな美しい生き物が1人で、コーヒー飲もうとしてる。そんなの逆ナン待った無しじゃないのか。いやナンパもある。全然ある。私が男なら声かけてる。
 すぐに出てくるやっすいコーヒーを受け取ってテーブルに置き、その人は携帯を取り出した。若い子らしく入力は速い。そしてメッセージを送ったのか、携帯はすぐポケットにしまわれる。店内に売ってる地元紙、ここは一応大都市だから地元紙が全国紙だったりする……を追加で買って、ぼうっとしながら流し読みしていた。私はと言うと、紅茶を飲むふりをしながら完全に見とれて、漸くこの感動を誰かに伝えなければと携帯を取り出した始末だった。

『やばい。くそイケメンがいる』

 すでに大学を出てしまった大学時代の同期にそんなメッセージを送りつける。日本との時差は8時間、いや今はサマータイム期間だから7時間か。終業後まもないであろう友人はすぐさま既読をつけたし、言葉より先にスタンプを送ってきた。相変わらずなのはお互い様である。

『銀髪で、紫目で、1人』
『天使かな?』
『天使も裸足で逃げ出すレベル。男前なのに、ああ、ああっ、ああああっ、細マッチョ』

 ふと新聞を捲る腕の太さや、身のこなしや、薄着のシャツから窺いしれる身体的特徴に私は感嘆詞をちりばめる羽目になった。興奮すると文字でも発言している時と同じくらい思考レベルが低下してしまうらしい。私はスーハーと深呼吸を繰り返して友人へ震える指で続投した。

『写真撮って送ってあげたい!』
『訴えられるぞ』

 友人が冷静で助かった。とにかく自分は落ち着くべきだ。私は動揺しながらアールグレイを飲み干してしまった。ホットを一気飲み。正気か。アイスティーじゃないんだぞ。
 動揺も収まらぬまま今一度コーヒーを買いに立つ。今度はあまったるいキャラメルマキアート。甘いもので落ち着こうと思ったのだ、まさかその後、そのイケメンが甘くなるだなんて思いもしなかったから。
 暫く観察を続けていると、電話が鳴った。なんとその美しい銀髪の青年ではないか。iPhone7、同機種だ……そんなことはどうでもいい。
 
「はい、もしもし? もう来てるけど」

 流暢なドイツ語だった。でも現地人じゃない。私とてドイツ語を学び始めてはや3年、ネイティブとそうでない人間の発音の違いくらいはわかるようになっていた。多分フランス語圏の人かな。大方、恋人がドイツ人とかそう言う口だろう。ああ私もドイツ人の彼氏欲しい。今の所予定ないけど。

「えー。まだ? どれだけ待たせるんだよ」

 待ち人は遅れてくるらしい。甘えた声音も可愛かった。そして私の腐った本能が嗅ぎとる。相手は年上だ……男かどうかはまだわからないが、この目の前の青年は、自分が年下であることを最大限利用しているような気がした。そうでないとこんなに甘えた声音は出ないだろう。

「そっちが言ったんだろ。今日は早く終わるからデートしようって」

 美人は機嫌を損ねても可愛いなあ、私は味のわからないキャラメルマキアートに口をつけながらニマニマと緩む口元を隠した。寄せられた眉根、端正に整った眉の形も愛らしい。もう相手が男でも女でも驚かないし、ここまでの美形に駄々をこねられるのだ、きっと相手もなかなかのものだろう。
 遅れるのかあ、じゃあさすがに来るまで待つのは無理かな……

「できない約束始めからすんなよ」

 あ、泣きそう。ちょっと泣きそうになってる。どれだけ相手のこと好きなのーーー可愛すぎかな?
 紫水晶みたいな大きな目がウルウルに蕩けて、買ったばっかりの新聞紙に落ちそうになってる。ちょっと恋人さん早く来た方がいい。こんなの放っておいたら大変なことになりますよ。

「泣いてねえから、早く仕事終わらせて来てよ……

 ううっ。健気だし、可愛いし、理想。理想すぎる。白旗あげます。
 私は名前も知らない彼が小さく肩を震わせるのを見ていることしかできないけど、今自分が慈愛に満ちた聖母並みの表情をしていることはわかった。鏡なんか見なくてもわかる。きっとここから広場に向かってまっすぐ歩いた先にある大聖堂で似たような顔の聖母像があった。大聖堂なんて来てすぐにちらっといったくらいだけど確かに見た! あれと同じ。この世の全てを許す顔だ。あああ。世の中が眩しい、彼を愛し慈しむ全てに幸福あれ、そして恋人さん早く来るべき……ッ!

「泣いてるじゃないか」
「えっ」
 
 え。
 私は目の前の光景に思わず瞬きした。

「毎回こういうのに本気で突っかかられるから俺としては罪悪感が湧くんだが」
「まっ……またかよ!!! あんた、ほんと、何考えてんだっ」
「またって言うか、2回目なんだけどな。3年ぶりだと流石に引っかかるってことか?」
「何回もそう言うことすんなって言ってんだよ! 普通に来いよ、普通に!」

 うん、私の腐センサーは間違ってなかった。現れたのはグレーのスーツの年上、高身長男性だった。歳をとると金髪はだんだん色褪せると言うけれど、決して若くはない顔立ちの造形とは裏腹にそのベリーショートの金髪は見事なまでに眩い。きっと隣に立つのがあの銀髪じゃなかったら私だって二度見してた。
 ひえええまさかの彼氏登場か……半泣きで突っかかる美青年の美味しさよ…… 
 私はすでに語る言語を失って友人に「尊い」スタンプを連打していた。

「必ず行くって言っただろ」
「普通に来いって言ってんだよ。ただでさえ、あんたの仕事の邪魔したくねえのに……
「お前が最優先だってずっと言ってる」
「だから。どうせ帰る家一緒なんだから、無理はすんなってば……もう、俺何に怒ってんの?!」
「さあなあ。コーヒー買って来るから、おとなしく待っててくれよ。もう頼んだのか?」
「1杯目からっぽ! キャラメルマキアート!」
「はいはい」

 彼氏さんの包容力は半端なかった。カウンターへ向かう前に、あの豊かな銀髪をサクッと撫でて行くし。美人も黙っちゃうし。そりゃ、ねえ。遅刻しただけで涙ぐんじゃうくらい好きな人に、あんなからかわれ方したら、そうなるよねえ。私もキャラメルマキアートからっぽだ。でも後半の味なんて一切覚えてない。ダメだ。全然ダメ。歯が立たなかった。甘すぎた。

「機嫌直してくれよ」
「やだ」
「どうすれば直してくれる?」
……その目、やめて」

 彼氏さんは緑色の目をしてた。案外、多いようで少ない色なのだと言う。すげえ、私初めて見た。美しすぎて目が潰れそう。2人揃って実在? 本当に存在してるの? ちょっと混乱して来た。意味がわからない……

「眼鏡取ればいいのか?」
「逆効果だろそれじゃ。俺のことそんな目で見ないで」
「じゃあ、どう言う風に見ればいい? 俺がシャルルを見てる限りそう言う目になるんだけど」
「レンさんそういうこと言う人だったっけ」

 私は思いがけず耳にしてしまった彼らの名前を、震える手でスマホに入力した。
 送れない。送ってもどうしようもない。でも、文字にしてみると何と、彼らの外観に相応しい名称だろう!
 私は感動していた。そして空のマグカップを前に項垂れた。この店の返却カウンターはどこだったっけ。そう思っていると、ニコニコと愛想のいい店員さんが、私の空のマグを回収しながら目配せしてくれた。

「あいつらいつもああだからな。ごめんな」
「はっ?」
「お嬢さん、見惚れてただろう。綺麗な顔だもんなあ、わかるよ」

 否定はしなかったが、店員さんはやたら優しかった。まあ普通に考えたら、そう見えるよなあ。
 私は腐っているのであってそう言う目で見ていたわけではない、あんな美人の隣に立つとなるとそれはそれで怖い……まあ、素敵だなとは、思うんだけど。
 その時、彼氏から目をそらした美青年、シャルルと呼ばれていた方と目が合った。私はすぐにそらしてしまったが、あんな綺麗な目、向けられたら死ぬ。まともに見つめ合ったら死んでしまう。

 私はそそくさと晴れ渡る街中で歩き出した。あああ、今日の思い出を胸に、一生生きていけるきがする。世界は眩く、美しく、愛に溢れていて……彼らの幸せを祈るしか能がなかった。永遠にやっててください。でも彼氏さんはその人泣かせるの勘弁してあげてね。綺麗すぎて周りが死にます。



「シャルル? どうした?」
「いや……もしかしてずっと見られてたのかなって」
「は」
「こっちの話……は? 何でレンが不機嫌になってんの? つまんない小細工したのそっちじゃん」
……勝手なもんでな」
「ほんとだよ。今日は奢ってもらうから。全部奢ってもらうから」
「お安い御用だ。何だ、もう見てもいいのか?」
「ま、まだだめ! 見んなって、そんな目で……!」


END


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