@akirenge
【さらわれる】
帝国図書館の敷地内は徐々に春めいていて、特務司書の少女は休日の朝早く、明るい色のロングワンピースを着て散歩をしていた。
三月十二日は日曜日だ。安息日と木曜日は特務司書としての仕事は休むことにしているため、一日オフである。
休むときは休んで、仕事をするときは仕事をする。
今日の予定は決めているのだ。
「おはよう。司書さん」
「高村さん」
散歩をしていると高村光太郎と会った。柔らかな微笑みを浮かべている。個性溢れる文豪達の中でも高村は付き合いやすいし、話しやすい方だ。
「朝早くから、散歩かな」
そうだ、と聞きたかったことを特務司書の少女は彼に聞くことにした。
「はい。……そうだ。高村さん、誕生日、何が欲しいですか?」
「誕生日……」
「明日は高村さんの誕生日なので。お祝いです。プレゼントは何が良いかなって」
本人に聞いてみることにしたのは自分で選ぶと彫刻刀とか彫刻用の石とかになってしまいそうだからだ。高村は詩人であるが芸術家の面も強い。
彫刻家でもあるのだ。説明をすると高村は微笑を見せた。
「祝ってくれるのかい。ありがとう。明日が楽しみだよ。ねえ、司書さんの誕生日は……」
「七月二十五日です」
「夏生まれなんだね。分かった。二人で祝おうか」
「はい! 楽しみにしてます。まだまだ先ですけど」
七月二十五日が自分の誕生日なのは本当だ。
四ヶ月は先である。先のことは不透明すぎるが、祝ってくれることは覚えておくことにする。前に志賀直哉の誕生日を祝ったときにも志賀は自分の
誕生日を祝ってくれると行ってくれた。特務司書の少女にとって志賀直哉は兄のようなものだ。
「プレゼントだけど、僕も考えていたんだ。明後日は、ホワイトデーだろう」
「そうですね。ノルマで返してって白さんに言ったら凄い困惑されましたけど……」
三月十四日はホワイトデーだ。二月十四日のバレンタインデーの対の日で、おかえしをあげる日である。これは日本特有だ。
マシュマロとかホワイトチョコレートがメインではある。バレンタインデーの時はチョコレートを配った。白さんこと北原白秋に礼は何が良いと聞かれて、
ノルマで良いですと言った。自分は特務司書であるが研究よりも任務のノリで有碍書の浄化を文豪達と一緒にしていた方が好きなのだ。
「館長が自分も研究に集中したいって、手伝いを頼むって言っていたね」
「そろそろかなーとは。それまでは休んでおかないと。でも、高村さんのプレゼントも買わなきゃって」
「贈り物だけど、僕は司書さんにホワイトデーのお返しを考えていて、司書さんは僕に誕生日のプレゼントを考えているんだよね。それなら、一緒に選ばないかな。
お互いに選んだ方が良いだろうから」
高村の提案について考える。
出かけてお互いに選ぶならば失敗はない。欲しいものをそれぞれで選んで買ってもらうのだ。
「確かにそれなら失敗しませんね! 選びましょう。でも、こんなに速くだとお店、開いてない……」
非常に早いのだ。元の世界だと日曜日の特撮ものも始まっていないような時間である。
「開くまで、ゆっくりしていよう。早めに朝食を取って出かけたりするのも良いし」
「散歩をしてからご飯で、それから外に出かけましょう。……春とは言ってもまだ、桜、咲いてませんね」
帝国図書館の敷地内は非常に広い。桜の木や桜並木もあったが、まだ桜は咲いていなかった。桜が咲いたらお花見がしたい。
「木蓮や沈丁花の花は咲いているよ。それに、山桜も。――おいで、案内しよう」
高村が手をさしのべてきた。自分は、その手を掴む。
「桜に攫われるっての聞いたことがあります。お前は自力で帰ってきそうだって言われましたけど」
「帰ってきてくれるよね。僕の元に」
「勿論です。でも、今は高村さんに攫われちゃった感じです」
「今日一日は……誕生日が終わるまでは返したくは無いかな。僕は、欲張りだよ」
微笑を浮かべられていて、目を見開く。いつも高村は微笑んでいるが今日はいつもと違っているように見えた。
自分も、笑い返す。
「――欲張りですね。誕生日とかホワイトデーとか日曜日だからで良いです。特別です」
引き寄せられて、隣に立って。
行こうか、と腕を引かれる。
今日一日、明日も、ずっと幸せで居られる気がした。
【Fin】
『ねえ、アイツ等付き合ってないんだけど、どう見てもアレだし北原白秋とか見たら高村光太郎が暗殺されそうな感じがするんだけど殺される本人は暗殺理由が浮かんでないとかありえそうよね』
『……もう付き合ってるってことで、いいんじゃないか?』