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戦えない特務司書と転生系文豪達 13

全体公開 12137文字
2017-03-13 13:49:26

9割完成バージョン

Posted by @akirenge

【戦えない特務司書と転生系文豪達 13】

『Fact is stranger than fiction』
事実は小説よりも奇なり、と言う意味だ。英語なのは語源が英語であり、イギリスの詩人バイロンの『ドン・ジュアン』から引用された言葉だ。
特務司書の少女は加護者……利害の一致で協力してくれる邪悪なもの……からその言葉を聞いた。特務司書をやることになってからだ。
曰く、文豪は過去がそれだと。
国語の教科書やら関連本で載っているのはやんわりとしたうわべだけできちんと載せたら一般的には引くような者たちもかなり居るらしい。
色々とあるから、で、情報は加護者任せで本当に一部の文豪しか自発的に調べていない。
生活してきた場所が場所だったからか、暗黙の了解になれきってしまっているところが自分にはある。

「倒れはしないんだけど、今日は心労がかなり来ている気がするんだよ」

飲食可能な部屋でテーブルを囲んで彼女は昼食の弁当を食べていた。デザートは後だ。用意してくれたのは小林多喜二達である。
徳田秋声が気付く前に彼等が準備を頼んだらしい。
お昼ご飯はオムそばめしだ。焼きそばとご飯を共に炒めたソバめしをオムライスの容量で薄焼き卵で包んであり食べやすいサイズになっている。
オムそばめしを見た文豪達はこれはなんだとなっていたが、日本人が得意なアレンジ料理、いつの間にか原型は謎の一種だと説明しておいた。
サラダもついていて食べきれそうだが、食後は運動をしたいところだった。

「体調の方はいいようだな」

「お陰様で。体の方は十二分に……体の方は」

「司書さん……かなり参っているようですね」

部屋は先ほど有碍書の潜書をしていた森鴎外と夏目漱石、中島敦と食堂で食事を終えていた徳田秋声が居る。森に問われて左手のスプーンを持ちながら答えた。
中島が気遣ってくれている。テーブルの上には自分の昼食の他にも堀辰雄が焼いたリンゴのケーキ……リンゴをバターなどでフライパンで焼いてからホットケーキミックスを流し込んだもの……や、
いつの間にか置かれていたメロンパンやらシュークリームや最中や団子がある。帝国図書館の外にある店のものだ。
前に買いに言ったことがある。加護者が用意したものだろうがそれにしては手当たり次第すぎる。

「知ってる? 中島さん、あれで谷崎さんかなり抑えている方なんだよ……? 耗弱状態とかもっと凄いよ? 文学愛は分かるけどその足を出して踏んでくださいとか……

「速攻で佐藤さんが止めに来ていたが……

あれでと着いているが谷崎潤一郎はあれでも抑えてはいるのだ。性癖とか色々と。文学書を穢す侵蝕者との戦いで自身も侵蝕されていくと状態によっては耗弱になる。
気持ちが強く侵蝕されている状態だ。
秋声がその時のことを想い出していたが、アレはちょっとしたホラーだったと言うか、佐藤春夫が谷崎を押さえつけて本に洋墨をとなったのでかけておいたが、
文学愛については谷崎はとても強い。性癖とかで見えづらいのだが、強いのだ。
加護者が言うには谷崎は晩年、右手が麻痺したが動かないならばと口述を行うようになったそうだ。加護者はいくつも文豪達の逸話を知っているが小出しにしてくれている。

「佐藤さんも谷崎さんを、――任せているけど太宰さんも面倒を見てくれるみたいに言ってたな……

……司書さん……その谷崎さんが苦手なら……

「押しつけてるのはもうみんな分かってると想うよ。君」

中島が言うと秋声が咎めた。
様子を見に行っていたら図書館は静かにがルールのハズなのに騒ぎになっていたりしていた。北原と谷崎と織田作と太宰と佐藤が居たが谷崎が何なら北原もやればいいとか
促していたりとか見ていたら止めるための武器が欲しくなって加護者に頼んだけど出してくれなかったので……加護者の本来の能力はそれなのだが……
森のサーベルを盗りにいったら中島の裏に止められてた。
今は落ち着いている。今は。
あちらの方は収まってくれるといいと言うか、正岡子規と吉川英治も行ったので何とかなるだろう。

「悪い人では無いんだけどね。あれで精神が安定……アレだからか」

文豪達で心底嫌う者は居ない。苦手とか余り関わりたくないとかは居るが、特務司書である以上は指示とかもしないといけないところもあるので、
事務的にしたり、まだ苦手ではない文豪に間に入って貰う。その辺りは審神者時代と変わらない。
使えるものを使って行くが方針と言うか気持ちとしては侵蝕者と戦ってくれてありがとう文豪の皆さんだ。特務司書は文豪あってこそのものである。
審神者も一緒だ。
精神が安定とは侵蝕者に攻撃されたときに耗弱状態にやりやすいかやなりづらいかを五段階に分けて決めたものだ。
我が道を突き進み続けているから安定に入っているのだろう。
回想してみるが今日の騒動の原因の四割ぐらいは谷崎が起こしている。

「もう一人の私のことも司書さんは嫌っていませんよね。周囲がそう言っているんですが」

「付き合いやすいよ。アイツ。借金苦もそうだけど話しやすいから」

借金苦こと石川啄木とは会話はする方だが中島の裏とは余り話さない。ただ、話すとなるとかなり話しやすい。中島の表は裏の会話が聞こえないため、周囲判断だ。

「話しやすいと言うと、正岡とは話しやすそうですが、森や私は苦手ですか?」

リンゴのケーキを食べていた夏目に聞かれた。夏目漱石と森鴎外と正岡子規は余裕派と呼ばれている派閥だ。
派閥にしろ名乗ったものはなくて後で勝手に呼んだのもあるけれど、とは加護者の言葉で、余裕派とは何かと言えば正岡子規の写生文からスタートした夏目漱石一派の派閥で
”初期の頃の偉い人達”と覚えろとは言われた。簡単に教わっている。
自分からすると外見からしても大人な方だ。夏目漱石と森鴎外は生前関わり合いがそこまでなかったし、とか話出したので要点だけ聞いた。

「夏目さんは知り合いを思い出すだけで苦手ではないです。……森さんには色々と丸投げしているところがありますので相談役系で」

知り合いと呼んでいるが其の知り合いは刀剣男士の三日月宗近のことだ。天下五剣の一振りであり、かつて四十四本しか実装されていなかった頃、最後に来た刀剣男士だ。
彼よりも声は低めというか似ているが完全に同じではない。夏目の方が聞いていると落ち着く。
マイペースなところも似ていた。
森については医者だからとかで相談役になって貰っていて何かあれば正岡がそれとなく伝えてくれるし、危険そうだったら館長に事案は言ってくれとなっている。
何せ、文豪は酒と薬と女と金でどうにかなるところがあるとか言われたし、覚醒剤は駄目絶対だが、睡眠薬は判断に困るところがある。
薬なんてどれも用途と使用量を間違えたら危険なのだが。

「相談役系……

「あたしだと相談役になれないところはあるしさ(それに相談内容によるけど小娘に相談するってのもね……)。相談されても困ることあるし」

森や館長に投げておいた方が良いのは自分は彼等の相談役になれないところはあるからだ。男だしとか、大人とかあるし、それなら出来そうな人に任せる。
館長もそれでいいとは言ってくれていた。
審神者時代もそうだが無理なところは別の人に任せるは一貫している。
秋声が呟いているが、織田作と秋声と自分を中心にしたとしたら信用などの問題で色々回らないので外部委託して何かあったら話がくるのを待つのだ。

「例えば……

「薬とか金とか酒とか女の話されても無理っていうか、うん。……無理。よくわからないし判断はどうにかするけど、させないほうが身のため」

文豪と言えば、と前に聞いたら加護者が面倒そうに教えてくれた。人間としても必要だそうだが故郷の諺では酒と煙草と女は男を堕落させるとある。
が、必要と言えば必要ならば無理には言えない。

「それは無理だな」

「辞めた方が良いですね」

中島が聞いたので、答えておくが、文豪に必要なものについてはよく分からないが正しい。必要ではあるが、文献で判断などはするし、危ないのはさせたくないが、
必要ならばというか若山牧水なんてアル中なところがあるんだがアレは生前の逸話関係もある。
秋声と中島が同意する。

(太宰さんもそういえば……無頼派は薬漬けだからとか言っていたな、アイツ)

無頼派は坂口安吾や太宰治や織田作之助のことだが、太宰は薬の問題がある。ちゃんと寝るには食生活と運動だが……侵蝕者との戦いは運動になるのだろうか。
自分は運動に戦闘も含めるタイプだ。
話ながら食べていたらオムそばめしは半分以上平らげていた。



森鴎外からすると特務司書の少女は乾いているところがある者だった。
転生したとき、少しの会話をしてから、高瀬舟なら知ってます、昔も今も問題は変わらないって想った、と話していた。高瀬舟は自身の著作だ。
囚人を護送する船に乗る男と囚人の話である。侵蝕者との戦いは特務司書の少女が倒れやすいのもあり、無理をしすぎず、を方針に進めていた。
倒れやすい原因は森でも分からないのだ。
彼女は責任感が無いわけでは内が保証出来ないものの責任は持たないのだ。無理なものは無理としている。
今日の指示担当は志賀直哉だったが有碍書の潜書中は専ら、浄化作業を行いつつ、特務司書の少女についての話だった。
中島敦の裏の方は彼女を怪物と想っていると話した。柔らかな態度も明るい笑顔も全て自分が怪物であることを知られないもので
出来る限りなら戦闘面では相手にしたくないを言っていた。

(その辛辣も、受け入れるのだろうが……

そう言っていた割に彼女を止めたのは中島の裏の方というか自分しか止められなかったというのはあったのだろう。
実際、彼が止めなければサーベルは奪われていた。

「食べ終わったら国木田を出すんだぞ」

「誰も連れてこないといいな」

誰も連れてこないというのは有魂書の潜書の仕組みではありえないことではあるが、意味合いとしては”この図書館にいない文豪が来なければいい”だ。
中島の裏が言うには彼女は視線に気がつきやすいが敵意が無いとすれば受け流すが、かと言って観察されていると気付くと気付かないフリをして対処するという
その手のことになれているようなことをやるそうだ。
館長の遠い親類とか身内とか聞いているが過去についてはろくに知らない。
未成年とは聞いている。アルケミストの能力を持っていたために特務司書となったので、司書については素人だそうだ。
それでもこの図書館が図書館として運営が出来ているのは話題になっている妖がいるからだろう。
特務司書の少女は倒れやすい。
今日の体調はいいようだ。オムそばめしを食べきっていて、デザートとしてテーブルの上にいつの間にか置いてあった小さめのシュークリームを手に取る。

「今の甘いものも美味しいです」

「夏目さんはいっぱい食べていいと想います」

「龍之介君の弟子である堀君はおやつ作りが上手ですね。ケーキはとても美味しかったですよ」

堀辰雄の作ったリンゴのケーキの他にも羊羹やら団子やらとにかくありったけの甘いものを買ったような状態だ。飲み物も置かれている。
夏目に対して彼女は笑顔を見せているが、前に話したときに生前食べられなかった。胃に病を抱えているため、甘いものは控えるように言われていたし、
入院しているときがそうだったから出来る限り甘いものは食べた方が良いと特務司書の少女は言っていたが食べすぎも良くない。

「羊羹もありますね」

「中野さんのところは羊羹を冬に食べるって聞いたけど、いつ食べてもいいよね」

美味しいところのだ、と彼女は言う。中野重治の出身は福井県だったか、そこだと冬に羊羹を食べる風習があるようだ。
シュークリームを彼女は頬張る。

「司書さん、左手の手首の方ですが……もう一人の私がずっと握っていたようですが痛くなかったですか」

「あれは互いに察しつつ計算していたから」

中島に心配されているが彼女は得に気にしていない様子だった。中島は裏が出ているときは記憶がなくなるため、周囲の会話で判断をするしか無い。

……そんなこと、出来るのか?」

「? 出来るよ?」

先ほどから観察しているが、彼女は戦闘をしてきたところがある。
気配を抑えたり消したりすることにも長けていて、動きも体調が良ければ速い。先ほども森が気付くよりも中島の裏が気付くのが早かったが、
彼が間に入っていなければサーベルが奪われてソレを持って彼女は騒いでいる者たちの処へいき手加減はするだろうが攻撃していただろう。
有碍書の潜書の最前線に立ち、侵蝕者を屠り続ける秋声だが戦闘に関しては素人というか化け物と人間通しの戦いは違う。
彼女はやがて、何かに気がついたかのように、

「自分で前に言ってたけど忘れてたけど、森さんとか裏とか吉川さんじゃない限り余り運動とか他の戦闘関連はしないよね」

「あの、戦闘と運動が同じになっていませんか」

……違うか」

「違うだろう!!」

性分、なのだろう。

「君は暴力は好きか」

質問を森は放り投げた。彼女は半分ほど大きめのシュークリームを食べ終えていた。

「好きじゃないですけど、振るわないと行けないときは決めて振るいますよ。……線引きは一応してます」

「一応だよな」

中島の裏が言うと半目で睨んでくる。一応にはしているのだろうが怒ったら殴るぐらいのことはするのだろう。それはまだいい。
まだいいになると他の基準になってしまうが、継続的に振るうとかではないからだ。中島はすぐに表に戻る。
森が想うに彼女は怪物と称しているようで、まともだ。達観しているところがある。

「出来ないときもあるんだよ」

「外はどうなっているんだろうな」

「収まって欲し……収まるまで放っておくんだよ。手を出したら危ないことは理解した」

真顔で答えながら、嵐の収まりを待っているように喋る実際そうなのだろう。外がどうなっているかは森も気になったが、
結論が放置になったので止めるのを止めた。

「分かるのですね」

「妖の仕業か。君とはどういう関係なんだ」

聞けるときに聞いてみる。質問に対しては余裕を持って答えてくれることはあるが、自分が聞くとたまに嫌がる。国木田独歩や島村藤村など取材好きな面子も
答えははぐらかされるとあった。

「利害の一致で協力してるというかアイツが居ないと図書館の運営が出来ないんだよね。司書業務はほぼ任せてるし、レファレンスも無理」

司書業務とは図書館司書の方だろう。特務司書は特殊能力者アルケミストに国が与えた役職で、司書とは別だ。本を扱う者を広義的には司書という。
簡単に答えていた。

「レファレンスというと……

「この本が欲しいとかこんな内容の本が見たいとか言ったら教えたり提供してくれるサービス。調べ物案内だね」

中島が聞けば彼女が言う。
正式にはレファレンスサービス、と言うと彼女は言う。日本語にすれば調べ物案内だ。
知りたいことを図書館が手助けして教えてくれるというものである。特務司書の少女が言うには読むべき本はアイツが渡してくるらしい。
おすすめ本もそうだがかなり渡すのだそうだ。
国定図書館分館は近代文学を中心とした本を集めた分館という名目になっているが、実体は有碍書の浄化や有魂書の潜書を行っている場所だが、
図書館なのだ。
シュークリームを食べ終わってから彼女は飲み物として用意された中島が入れたそこそこに冷めた棒ほうじ茶を飲む。

「いつの間にか吉川さんと歴史談義をする時に読みたいと想っていた本が置いてあったりしましたが、その妖さんが用意してくれていたんですね」

「仕事はしてるんだよ。アイツ。特務司書になったときに図書館の管理は全部任せたし、あたしは特務の方に集中出来るから……アイツ居ないと無理だね」

たまに言われたことはしている、と付け足す。
喋るネコもいるので妖がいてもおかしくはないだろうとはある。特務は、浄化のことだ。文豪達の補修も文豪達を転生させるのも、アルケミストで無ければ出来ないし、
特務司書もアルケミストを本に関わらせるために用意した役職だ。

「アルケミスト……特務司書ととしてなりたたないのか?」

「特務司書の仕事は出来ることには出来るけど、文豪関連は、知識も著作も殆ど知らないよ。教わってた。秋声さんについては”知らなくても仕方が無いわね、地味だから”
って言ってたけど」

「妖にまで地味と言われていたのか……

徳田が落ち込んでいる。皮肉屋だから気にしなくてもいいよ、と彼女は言うがそんな彼女も徳田は地味と言っているので補佐になっているようでなっていない。

「文豪が転生したら資料が置かれているが、それも妖か」

「そうですね。……先ほども話したけどあたしじゃ処理しきれないところもあるので」

聞けば彼女は思案後、答えたというか、やったことを信用していると言うところがある。置かれる資料は淡々としたものだ。文豪達の生前の経歴やあるだけの関係などが、
纏められている。

「ソイツ、アルケミストじゃねえのか」

「違うよ。……呼ぶとしたら加護者、かな。悪意たっぷりの皮肉屋だしろくでもないけどね。でも、アイツが居なかったら――

中島の裏が言い、彼女が答えて、目が細められる。皮肉屋とかろくでもない、とか良い言葉を聞かない。
彼女が言いかけたとき、何かに気がついたかのように目を目を見開いた。

「どうしたんだい?」

……あれ? まさか……

あり得ないというような声を彼女は出す。その声に一同は彼女の方に視線を向けた。



徳田秋声は特務司書の少女と共に有魂書の潜書室へと向かう。潜書に行った国木田独歩を起こさないといけないからだ。それには特務司書の少女の力が必要だが、

(僕は彼女のことを殆ど何も、知らないな……

「アイツが出てくるなんて。珍しい……

アイツと呼ばれたのは加護者と彼女が呼んだ存在だ。
前々から殆どの文豪達は気がついていたようだが、知らない間に求めている本が落ちてきたり、騒がしい文豪の上に置物が落ちてきたり、
それを行っていたのが、特務司書の少女とそれなりの付き合いを持つ加護者だったのだ。
見た目だけで判断すると十代ぐらいで、黒い髪と黒い瞳を持ち、ドレスを着ていた。特務司書の少女が言うにはゴシックロリータという衣装らしい。

……珍しいのかい?」

「暗躍タイプなんだよ。……みんなと何の話をするのかな……独歩さん、急いで出さなきゃ」

暗躍タイプの一言で片付けられていたが、彼女が驚いていたところからして、加護者と呼ばれる存在がこうして自分達の前に出てくる方が、
言うならば彼女と関わる者の前に出てくる方が珍しいのだ。

「加護者から僕達の、文豪の知識を貰っていたのかい」

「そうだよ。知らないことばっかりだし、秋声さんとか佐藤さんとか誰!? 状態だから」

知っている者と知らない者の差が激しい。歩きながら秋声はもう一つ、気になっていたことを聞く。

「夕方、面倒なことになるって、言っていたような」

「知らせとかじゃないのかな。嫌な意味での……その時に話せることはみんな話すよ」

話せること、と彼女は纏めたが、自分自身のことだろうか。加護者は明るく言っていたのだが、特務司書の少女は抑えていたものの、
嫌そうな顔をしていた。
有魂書の潜書室に二人で入る。ここの空気はとても澄み切っている。

「あんな小さな子が……

「こっちだからこう出てるだけで本来はもっと大きいよ。秋声さんと一緒ぐらいかな……

大きい。大人びていると言うことだろうか。台の上に一冊の有魂書が置かれていて、彼女がそれに触れる。有魂書に触れると本が淡く輝き、独歩が出て来た。

「ただいま。……誰も連れてくるなって言ったが、連れてきちまった。秋声の関係者じゃねえぞ」

現れた国木田独歩はそう告げる。
誰も連れてくるな、と言うのは正確に言えば”居る文豪を連れてこい”と言うことになる。有魂書の潜書では必ず、文豪と出会う。
転生出来る文豪は一文豪一人だけだ。仮に有魂書の潜書で徳田秋声が連れてこられたとしたら、アイテムに替わる。
独歩が言っているのは、つまり、

「新しい文豪か。太宰さんに続いて二人目だ、ね」

言いながら彼女は有魂書にもう一度触れた。
文豪が、転生する。
淡い光の中で出て来たのは外見は十代後半ほどの、黒髪を短髪にした緑色の軍服のようなものを着た青年だった。

「突然でスイマセン! 自分は三好達治ッス。あの、朔先生……来てないスか?」

「ごめんなさい。来てません。始めまして。この図書館の特務司書です」

転生した文豪は三好達治というようだ。朔先生は萩原朔太郎のことだろう。秋声も転生確認リストを見ている。萩原朔太郎はまだこの図書館には居ない。

「今はどんな状況なんだ?」

「僕は食事を終えてから太宰が志賀さんと揉めそうになっていたら谷崎さんが小説を書いたのを見て欲しいと言ってそれを読んでいたら、皆が動揺したんだ」

「あたしと織田作さんと秋声さんをモデルにした小説でね。多喜二さんとかも出ていたの」

「で、森さんたちの補修に向かってからさらに図書館が騒がしくなったりしてる」

端折ってしまったがこんな感じだ。特務司書の少女が途中で怒るに怒ったりしていたが図書館が騒がしかったせいだったり、加護者という存在も表に出て来たが、
それは省いた。独歩は知りたがるだろうが転生したばかりの三好も居る。

「谷崎さんが白さんにあたしをモデルにして詩を作るなりとか言っていたんだよ」

「白さんって北原さんのことッスか? あの人は古くさい詩を書く過去の人ッス!!」

「三好君、朔太郎さんにものすごい影響を受けているんだって聞いてる」

「朔先生の詩は素晴らしいんッスよ」

古くさい過去の人と北原のことを表現しているがそれを聞いたら北原は怒るだろう。特務司書の少女は微笑を見せるが、困ったような笑顔だ。
見分け慣れていないとただ笑っているようにしか見えない。

「君、詩の方は……

「高村さんとかは読んだよ。白さんのはこれから一緒に読むつもりだった。小説を優先していたから。……さっきまで太宰さんの『女生徒』読んでた」

優先はしていたと言うが読むペースは遅めだ。文体が読み慣れていないせいもあると言う。高村は高村光太郎だ。

「オレの小説も読んでくれよ」

……好きなのを読めって佐藤さんが言っていたからまず女生徒からね」

独歩が進めてくるが、司書は苦笑いをする。読もうにも読み切れていないのだろう。佐藤さんは佐藤春夫だが、彼が何かのアドバイスでもしたのだろうか。

「詩とかは読まないんッスか? 司書さん。北原さんの詩よりも朔先生の詩を優先するべきッスよ!! 孤独が光ってるんッス」

「鏡花を、想い出す……

秋声は呟いていた。
泉鏡花、転生したばかりの自分と逢って、別れた兄弟子だ。彼は師である尾崎紅葉を敬愛して、神のように崇めていた。自分とは違う。
自分にとって師である尾崎は越えるべき存在だ。
前にそのことを特務司書の少女に話したら”秋声さんにとって紅葉さんはぶち壊す壁なんだね!”と言われた。頷いた後でさすがにツッコんだ。
乗り越えるでは無くて、ぶち壊す。
彼女らしいと言えば彼女らしいのだが。

……鏡花さん、紅葉さんのこと凄い尊敬と言うか崇拝してるもんね……って、あれ?」

「どうしたんだい。また……

二度目のやりとりの気がする。彼女が首を傾げるときは、加護者のことのようだ。先ほども、そうだったし。

「解説が途切れた……

……解説?」

「さっき言ったでしょう。アイツから知識を貰ってるって……さっきまで大量に話してたのに」

彼女は自身の耳を軽く叩いていた。アイツとは加護者のことで、秋声には聞こえていないようだったが、ずっと聞いていたらしい。

「どう聞いていたんだい」

「ふつーに声が耳元というかそこで聞こえるの。あたしは心中で会話するから凄いやりとり自体は早いんだけど」

困惑している。
そういえば、彼女は文豪達に対する知識は殆ど無い状態だったのだ。能力採用だと自身で言っていたこともあるし、後からになっているが勉強はしている。
しているようだが、追いつかないので補填を入れていたようだが、それが途切れたようだ。

「何の会話してるんだよ」

独歩が聞く。奇妙な様子にしか見えない。
壊れたラジオを相手にするかのように彼女は困っていた。秋声は彼女の心中の声なんて聞こえないため、どんな会話をしていたかは知らない。
扉が開く音がした。

「三好が来たんだってな」

「おう。邪魔するぞ」

「犀星さんと若山さん」

有魂書の潜書室に来たのは、室生犀星と若山牧水だ。二人とも本を何冊か持っている。

……犀星さん、ッスか」

「そうだよ。室生犀星だ。こっちが若山牧水」

「紹介忘れてた! 三好君、秋声さん、徳田秋声さんね」

「今更だね、君!?」

すっ飛ばされてしまったのだが、徳田秋声は三好達治に名乗っていなかった。独歩は恐らく、連れてくる際に名乗ったりはしているだろう。
室生犀星と三好達治は詩人通しでどこかで交流があったようだ。犀星は明るく話している。

「司書関連の話が纏まるまで来るなってさ。その間に、これでも読んでようや」

「あたしの話?」

……司書さ、あの真っ黒いのの説明、ああいうのずっと聞いていて、すすめられたもんとか読んでたりとかしてたわけ?」

「そうだよ」

どうかした? という風に彼女が言う。犀星がため息をついた。

「お前さんが聞いてる説明はあってはいるが、濃すぎるし、詰め込みすぎだ。詩にしろ何にしろ、そこまで肩肘張らなくてもいい。
萩原の詩や三好の詩の本は持ってきたから、しばらくは読書だ」

「若山さん、朔太郎さんと知り合いなの?」

「生前はたびたび逢ってたんだがな。アイツの家を訪ねていったら俺とは思われなくて追い返されたりもしたんだ」

……そうだね。若山さんは何も言われないとただの酒を飲んでいるニート系陶芸家みたいな感じだし」

「君、今のは転生している姿だからね」

説明を引き継いだのは若山だ。特務司書は納得しているようだがその納得はズレている。
若山が三好に自己紹介をしながら、萩原の話題も混ぜつつ、持ってきた本について話してている。犀星が小声で教えてくれた。

「真っ黒いの、三好が転生したこととか分かって司書の声が聞こえたらしくて色々と説明してたんだが、春夫とか志賀とかアレだと不味いってなったんだよ。
好きとか嫌いとか無くてただ覚えたとかになって欲しくないから教育関連は交渉に入った」

「おいおい。オレが潜書をしている間にまたなんか来たのか?」

「来たんだよ。全部のまとめの話は夕方としてもさ、有碍書の浄化よりも司書の読書関連について、ってなったんだ。今の状態じゃ楽しくないしな」

アレだと不味いと佐藤や志賀直哉が判断するようなことがあったのだろう。ただ覚えた……と聞いて秋声は考える。彼女は自分と読書をしているときは
楽しんでいるようだったが、覚えなければ、となっていくと義務になっていく。

「夕方か……夕方だな」

独歩は何かに納得したかのような表情を見せていた。



話し合いをするから、と短い加護者の声を特務司書の少女は聞いた。何の話し合いだとなる。若山が何冊か持ってきた本を台の上に置いた。
文庫本の『月と吠える』や『測量船』もあるがそれよりも名詩選集というのが気になる。萩原朔太郎とか、室生犀星とか書かれている。

「こういうの、出てるんッスね……

「分かりやすい解説本ってヤツだ。難しいことは考えずにまずは読んでみろ。声に出して良いから」

若山が笑っている。
詩については、加護者が教えてくれた。文明開化で西洋文学が入ってきて、詩は小説よりも十年遅く、近代化が始まったと言う。
渡された本は萩原朔太郎の他に佐藤春夫とも書いてあった。佐藤も北原並に何でもやっていた。
ページをめくる。

「詩の表現の目的は単に情調のための情調を表現することではない。幻覚のための幻覚を描くことでもない。同時にまたある種の思想を宣伝演繹することのためでもない。
詩の本来の目的はむしろそれらの者を通じて、人心の内部に煽動するところの感情そのものの本質を凝視し、かつ感情を盛んに流路させることでえある」

「月に吠えるの序文ッスね」

「詩とは感情の神経を掴んだものである。生きて働く心理学である」

いつもならば加護者が解説を入れてくれるところではあるのだが、人間の心の中にある感情を詩の表現という武器を使って本質を見つめながら感情を動かして、
神経を掴んだりする。と言うことのようだ。
詩とは言葉が限られている。句もそうだがいかにして風景を圧縮し言葉で表現していくのかというのが詩だ。

「とにかく読んでけ。どんな感想を持っても怒らねえし、これがいいとか思うのはどんなもんでも、お前さんのもんだ」

安心させるように若山が言う。何だか、気が抜けた。

「分かったんだよ。ぼっさん」

「のんびりやろうや。話し合いは長引きそうだしな」

ここから出るべきではないだろうと特務司書の少女は思う。どうも外は、やっぱり騒がしいようなのだ。


【続く】


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