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Mon Lapin

全体公開 1 2647文字
2017-03-19 15:17:54

タイトルは「私のうさぎちゃん」(恋人に対するフランス語の呼びかけ)です レンシャルレン

Posted by @smbrfubuki

 モン・ラパン


 ドイツのイースターはウサギが卵を隠すらしい。
 俺も初めてそれを知った時は、ずいぶん可愛らしい風習だと思った。自分の国でもイースターは親が子供のために卵を隠すが、それをウサギがやると言うのはなんともメルヘンな話で、あのごつい恋人もそんな風にして育ったのかと思うとなんだか愛らしかった。
 ウサギは春の動物だ。そして恋多き動物でもある。発情期に至ると、一日何度でも事に及んで飼い主を辟易させる。なにせアメリカの某有名雑誌のロゴにウサギが採用されているのは、それが由来という話もあるくらいで。

「イースターからこんなことしてバカみたいだ」
「シャルルはカトリックだったっけ」
「んなわけないだろ。教会なんてバザーくらいしか足を運ばない」
 鬱血痕だらけの体躯で寝返りを打つ。シーツに擦れるだけでもぞもぞと妙な気分になるのは、ずいぶんと火照らされてしまったからだ。こんなに燃えたのは久々だった。大人気ないともいう。
 トップで3回、ボトムで2回、散々愛し合った体はもう暫くは懲り懲りだと思わせるような倦怠感に包まれていて、何もやる気が起きない。水さえいらない。ただ喉はカラカラなので、相手の唾液を啜るようにはしたないキスをした。セックスの後で下品な振る舞いをするのは好きだ。より堕落していて、退廃的で、どうしようもない気がしてそそる。とてもじゃないが親には見せられない姿だ。まあ親なんていないけど。
「れん、めがね、外して」
「なんで?」
「キスすんのに邪魔……なんでさっきまで外してたのにまたかけるの。寝るんだろ」
「よく見えないんだ。本当に目が悪いんだよ。加えて最近老眼も始まってきた」
「うわーオッサンじゃん」
「おっさんだよ。初めからわかってただろ」
 遠近両用メガネ、という宣伝は俺には全く無縁だと思っていたが、そろそろ恋人が世話になる年頃かと思うとちょっとゾッとした。いつまでも若々しくて愛しい恋人だけど、季節が変わり年が改まるように自分たちも確実に年をとっていて、そのうち俺もこの無造作に伸ばした銀の髪をかつての父親のように小ざっぱりとさせる事になるのかもしれない。
 レンといるといつまでも自分が若いような錯覚に陥るが、俺だってもういい年だ。少なくとも同世代のやつはみんな結婚して、家庭を持ってるやつだっていて、父親になる準備をしている。
 愛したのが男だったから未成熟なんてあるはずがない。頭ではわかっていても、なんとなくそういうのを聞くと焦る。
「なーレン」
「ん?」
「前言ってた件。考えてくれた?」
「ええと。なんだっけ、デンマーク旅行の件?」
「違うよ。戸籍、どうするかって話」
 俺は実は夏頃からじんわりと入籍の話をほのめかしていた。ここドイツでは、同性カップルの結婚は「結婚」という形ではなく、「ライフパートナーシップ登録法」という少し変わった形で受理される。が、フランスだと「同性婚」という形で家族になることができる。俺の国籍はフランスだから、現住所はフランクフルトでも届をあちらで出すことができたし、あとは平たい話、本人の意思次第だ。
「お前の遺産には興味ないからいいって言っただろ」
「すぐそういう話する。あのさ、言ったじゃん。お互い病気したり怪我したりした時に、病室も入れないってなったら嫌だろ?」
「お前はそんなヘマしないさ」
「レンが入院したらどうするんだよ」
「俺の場合は姉貴がいる。姉貴も似たような立場だから、お前にはよく話してくれるよ」
「お姉さんだって奥さんと登録してんだろ?」
「シャルル。何も俺は結婚したくないわけじゃない。でもよく考えろ、12以上年の離れた男と付き合って、俺の面倒ごとを全部お前にふっかけて死ねっていうのか。そんなの無理だ。俺が嫌だ。法的な根拠はいらない。お前と離れるときは俺が死ぬときだ」
「だからそれで終わるの嫌なんだってば」
「俺が普段どんな仕事してるか知ってるだろ? 死んだ人間の借金やローンを引き継ぐのは酷だぞ。中には大損した取引を妻に隠してた男なんてのもいる。厄介ごとは残されるだけ面倒なんだ」
「レンはそんなことしないだろ。してるか?」
 いつも堂々巡りの議論になるこの話を、しかし俺もレンも絶対に途中で投げたりはしないのだった。
 入籍は、すべてじゃない。結婚が全てのゴールじゃない。それでも俺は、根気よく働きかける。
……現状じゃ養子も取れないからな」
「ああ。え、じゃあ」
「養子が取れるように法改正されたら。そのニュースを聞いた足で役所に行ってもいい」
「な、なんで?!」
「俺がいなくなってもシャルルがひとりじゃないからだよ。お前、本当に後を追いかねないからな。カトリックじゃないって聞いて余計にそう思った。しれっと自殺しそうだ」
……ぐうの音も出ない」
 レンは俯いた俺の唇をのしかかって奪う。体重が乗って、抱きとめる形になって、シーツに縫い付けられて呼吸を奪われる。どのくらいそうしていただろう。頭の奥が痺れそうな長いキスに、俺は生意気な口がきけなくなっていた。
「ふうふじゃなくて家族にならいつだってなりたい」
……この、さみしがり。なんで女じゃなくて俺だったんだよ」
「お前しかだめだから。ああ、ほんと……お前がここに、俺の子供、宿してくれたらいいのに」
「レンが産むでもいいんじゃない?」
「俺は高齢出産だからダメだな。運動不足だし、鍛えてるお前の方がいいよ」
 そう言ってレンは俺の腹をゆっくりと撫でた。腹筋だって筋張っててバキバキで、細くもなくて、下には余計なものもついてるような男の腹を、いつまでも愛しげに撫でていた。
 今ほど、女なら良かったって思ったことない。でも、男でよかったって、この人の視界に入れてよかったって、思ったこともない。
「ばか……やめろ、そんな触り方……!」
「数、合わせるか?」
「は? 何を……
「ボトムの回数。1回足りなかったから」
 ちゅ、と首筋にまたキスをされる。ありえない。この、何が運動不足だよ、ドSのドイツ人め。
 そのままシーツに縫い付けられて俺は愉悦の声を上げる。日付が変わって日曜日、今日は卵を隠す日だ。
 いっそどっかの復活したオッサンみたいに、この腹のなかに命が宿る奇跡が、奇跡の復活に乗じて起こってくれないものかと、ぼんやりと頭の片隅で思ってしまった。


END

今年のイースターは4月16日ですってよ


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