@akirenge
【鳥居、醤油、高騰】
「たーだいまー」
「おかえり。碧夏」
厳島に久しぶりに帰還する。
あたしを出迎えてくれたのは十六夜燐火だ。そのまま荷物を抱えて、本殿の方に燐火と向かう。
厳島警護隊の隊長でそれなりに偉いはずのあたし、村上碧夏が主である毛利元就様の命令で遠江で井伊軍に所属することになってかなりの時が過ぎた。
帰還したのは実家の墓参りとかそんな理由を付けて帰ってきたからである。
「落ち着くな。元就様は?」
「のんびりしてる。こっちはへいわ。むこうは?」
「騒がしいぜ」
向こうと燐火が呼んだのは東の方だ。日の本は大きく三つに分かれる。西、中央、東だ。厳島……あたしが所属している毛利軍は西に入る。
西は平和な方である。戦乱のさなかであってもだ。それぞれの領地を大きく治めている君主は居るが西の者たちは互いに争わないようにしているからだ。
話ながら右鳥居をくぐる。
「からす」
「神の遣いだな」
鳥居の上に鴉が止まっていたのを燐火が見つけた。厳島は鹿もそうだが鴉も神の遣いだ。厳島は鹿を大切にしているため、島内で鹿狩りはしない。
ここに来ると神聖な気分になるというか、平和だななんて思っていたら爆発音がした。
「なに?」
「何の音だよ。波瑠様のところか?」
波瑠様こと宗像波瑠は毛利軍の一員で医者であり、好きではないと言っているが火薬の扱いを得意としている人だ。燐火が走り出したので、
あたしも駆け出す。
たどり着いたところは台所だった。台所と呼んでるが、神に捧げる神饌を作る場所だ。
「何故、爆発したのだ」
「もとなりさま!」
「……燐火と……碧夏か……帰ってきておったのか?」
「村上碧夏、帰還しました。元就様、手紙の方に帰るって書いたじゃ無いですか。で、どうしたんです?」
金属製の黒い取ってだけをもちながら首を傾げているこの人が毛利軍の頭領であり、西の大御所とされている人だ。
竈が抉れている。
無事だったのは何故とは思わない。元就様と言うか……と思ったら杙奈様の武器の一つである鳳凰紅蓮置いてあるよ。炎の耐性が凄まじい武器だよ。
鳳凰紅蓮は巨大な羽根というか刀だ。
「杙奈を長曾我部の処に向かわせて暴れてこいと言った」
「……なんでまた?」
「いよこうのから、おてがみ。かいぞく、おかね、かせっていってきた」
杙奈様、世鬼杙奈は世鬼忍軍の頭領で元就様の隠し刀、懐刀だろうか。毛利軍でも強さは随一だ。燐火の言葉から推測するに
長曾我部軍が伊予河野軍に金を貸してくれと、どうせなんか変なものを作って赤字になったのだろうから、言ってきて陣代補佐である安成さんが元就様に
訴えたのだろう。伊予河野と毛利は従属関係のようなものだ。
「そうしたら、飯を作る者が居なくなったのだ。政定も着いていったし、縁もだ」
「で、自分で作ろうとしたと」
政定は世鬼政定で毛利陣軍の次期頭領、杙奈様に何かあったときの後継者だ。縁様は佐伯縁、厳島神社の巫女頭である。
状況は把握出来た。元就様は奇妙な者を見るかのような表情を見せ、
「見よう見まねでやってみたら竈が爆発した」
「……あたし、作りますよ。燐火も食うか」
「かまどつくるの?」
「ソレは後で何とかするから」
元就様は放置しておく。見よう見まねでやるな! と言いたくなった。
調べたことを元就様に押しつけて燐火も追いやってから作ったのはお焼きだ。元就様はぱんけーきというものをつくりたかったらしいが、
無理だ。残ったのは取ってだけである。フライパンという料理道具だ。異国の調理道具で政定が鍛冶師に頼んで作っていた。
お焼きを抱えて戻れば、元就様は書類仕事をしていた。燐火がごろ寝している。
良いのか? となったが許可は出ているのだろう。
「徳川は小規模ながら豊臣と対抗はしておるようだな」
「分かるんですね」
「品物の高騰などを見れば分かってくる。元北条領は無法地帯か」
「伊達が追い払ったけど伊達はそこまで手を伸ばせなかったし」
情報をかき集めて精査して対策を練っていくのが基本だ。井伊軍は以外とそこ適当だけどなっ、あたしの方が出来るってどういうことだよとかなった。
戦国武将の成り立ちなんて言ったら元々権力が無かった中央の足利幕府が衰退して、各種武将が出たとかだが、何かやっていたら敵を潰すことになっていって
こうなってしまったというのが大多数。天下を狙うなんてのは少ないがその少なさが目立っている。
元北条領は豊臣の北条攻めで壊滅状態だ。一次は豊臣軍が支配していたが伊達軍が豊臣軍を追い払った。
けれど、伊達軍もそこを支配し続けることは出来ずに放置というか、……それなり元北条領はバラバラだがやっていけている。
小さい生活ならばなんとかなっているのだ。
「こっちは? どうなんです?」
「豊臣が嫌がらせをしてくるぐらいだ」
「いつものことですね」
戦というのは大規模に始まる前に傾向は出てくる。元就様はソレを注視している。お焼きを元就様の側に出した。燐火にも渡す。
元就様は瓶から醤油を出して適当にかけて食べ、無言になった。
「碧夏。これは」
「遠江の土産の醤油です。あいません?」
「……政定の作る醤油は無いのか」
「あじ、ちがうんだ」
燐火が不思議そうにしているのはコイツには味覚がないからだ。元就様は頷く。
「食べることは出来るが」
「選べる楽しみ、ですね」
たかが醤油。されど醤油。たかが、高騰。されど高騰と言ったところか。
あたしは醤油を取りに行き、大鳥居を見やる。
「まだ井伊軍には居ろ」
「だと思った」
平和にしているようで実際の処は戦中。
それでも流れるほんの僅かな平和は主によって崩されそうになったけどどうにか確保。やっぱり今は、ここだけは平和なのだ。
【Fin】