動物病院パロ第一弾。刀剣男士が動物病院で働いてたらこんな感じだろうな~という妄想を文章に起こしただけの産物です(´・ω・`)観察日記的なもので、恋愛要素は今のところなさそうかと…(予定は未定です)。※スクラブ→医者が手術の時に着る、青やら黒やらの半袖のあれです。
@ayame0601s
獣医さんは変わり者が多い。
春。太陽の日差しも温かく、冬の間に眠っていた蕾が花開くこの時期は、一年の中で最も好きな季節だった。外に出れば穏やかな風が肌を撫でるし、降り注ぐ太陽の光も柔らかいもので、それだけで心踊るものがある。
けれど、今年に限ってはそうも感じられない。
この春から、生活はガラリと変わることになる。頑張って勉強して、受かった国家試験。昔からの夢だった動物のお医者さんとして、やっとスタートラインに立てる記念すべき日。それはとても喜ばしいことだし、人生の大切な岐路を迎えることが出来て、気の引き締まる思いもする。
けれど何が憂鬱にさせるかというと、それは勤め先にあった。
勤め先となる、ほんまる動物病院。そこは地元でも有名な、イケメン獣医師が揃うホストのような動物病院だ。
だから憂鬱で仕方ない。話によれば、どうやらスタッフ全員が男性だとか。そこになぜ女の私が入社できたかというと、ただただそこの院長の姪という理由だけだった。
しかも私の意思は関係なく、ほぼ強制的に。
勘弁して頂きたい、と何度も断るも、さすが一病院を束ねる院長先生。圧力のかけ方は半端ないものだった。
今からストレスで胃が痛い。
私は、大の男性苦手症なのだ。
思春期を女子校で過ごした為か、男の人との接し方がいまいち分からない。大学は男性半分、女性半分だったため、もちろん接することもあったけど、進んで話しかけられないし、男性という存在が苦手だった。
そんな私を見かねて、ホスト病院の院長である叔父が、無理矢理私の勤め先を決定したらしい。
本来なら実習してから決めるという段階もすっ飛ばし、いきなり入社である。
そこに私の拒否権はない。
こんなことが許されるのかと抗議したいものの、ぺーぺーの新米獣医師は、権力の前では無力だ。
そんなことをぐだぐだ考えているうちに、指定された時刻になろうとしていた。スタッフ専用の裏口の前で、佇むこと数分。嫌だ嫌だと思っていても、いつかは必ず開けなければならない。それにこのままでは遅刻だ。
意を決し、私はその扉に手をかける。そしてスライド式のドアを、ガラリと開ければそこには。
パンツ一丁の男性が、室内をうろついていた。
ピシャリとドアを閉める。心拍数が一気に上がった。出鼻をくじかれたとは、まさにこの事。なんということだ……私はとんでもない所へ来てしまったらしい。
「おい」
「ぎゃあ!」
いきなり背後から声をかけられ、すっとんきょうな声が口から飛び出す。
弾かれるように振り返れば、そこには大層お顔の整ったイケメンさんが、大層不機嫌そうに私を見下ろしていた。
色黒で切れ長の目。少し長めの襟足を持つその人は、テレビ画面にいてもおかしくない程、整った顔つきだった。
「あんた誰だ」
不審なものを見る目つきで問われ、威圧感から恐る恐る自己紹介をする。し終われば「ああ、例の」とぶっきらぼうな答えが返ってきた。
「あんたがそこに突っ立ってたら入れない」
そして、どけと言わんばかりの口調でそう言い放ち、その人は自身を名乗ることもなくドアを開けた。
え、自己紹介してくれないんですか、と思うも、ドアにかけられた左腕を見て、物申したい気持ちを抑え込んだ。
左腕に刺青が入っている。
思わず凝視した。この人、本当に此処の、動物病院のスタッフなのだろうか。そっち関係の人ではなくて、本当に動物関係の人……?
そう思いながら、スタスタ入っていくその人を見送る。中の人がまだ服を着てなかったどうしようという懸念が、私の足をその場に留まらせる。
「おっ、伽羅坊。今日は早いな」
「おい、早く服を着ろ。新人が来てる」
「ん? ああそうか、今日だったか。ところで俺のズボン知らないかい?」
「知るか」
「なくて困ってるんだ。きみのスクラブ貸してくれ」
「……」
そんなやり取りが中で聞こえるけれど、話の内容からまだお着替えの最中らしく、入ることが出来ない。男性が苦手な私にとって、なかなかハードな出だしだ。もうすでに帰りたい。
「すまんすまん。待たせたな」
そう言いながら、つい先程までパンツ一丁だった男性は、室内からひょこりと顔を覗かせた。その容貌に思わず目を見開く。
それはそれは、綺麗なお顔立ちだった。
色素のかなり薄い髪は白くも見え、脱色してるのかと思いきや、眉毛も、睫毛すらも白かった。恐らく地毛、なのだろう。きめ細かな白い肌と大きめの目は中性的に見えるけれど、低い声としっかりした喉仏は男性を主張していた。
モスグリーンのスクラブを着るその人は、先程の無愛想な人とは対照的な笑みを向けてくる。あまりに眩しくて、思わず視線を落とすと「俺は鶴丸だ。きみは?」と問いかけられ、もう一度ゆっくり視線を合わせる。
恐る恐る自己紹介すれば、彼は人懐っこい笑みを浮かべた。
「話は聞いてるぜ。院長の姪っ子だよな?」
「はい。鶴丸さんは、獣医さんですか?」
「ああ。ちなみに此処では役者も兼ねている」
「え? あ、芸能の方でしたか」
「いや違う。この病院だけの話だ」
そう言って親指を立てられるも、言葉の意味がすんなり入ってこなかった。よく分からないけれど、この病院では獣医兼役者らしい。獣医兼役者……言葉を整理してみてもよく分からない。院内ムービーでも撮るのだろうか。
結局上手な返しが思いつかず「そうですか。よろしくお願いします」という当たり障りのない返事で終わらせてしまった。話を膨らませられなかったことにソワソワするも、彼はさして気にしていないようで「こちらこそ」と笑った。
「せっかくだ。今日は俺が案内しよう」
「ありがとうございます。あの、叔父……院長は?」
申し出は有りがたいのだけれど、こんなイケメンさんと時間を共にするなんて緊張で体が持たない。叔父が居てくれれば気持ちの面でも楽だし、普通、新人は始め、院長に着いて回るものだと思っていたのだけれど。
目の前の鶴丸先生は「院長?」と小首をかしげる。
「院長は、滅多に病院に居ないぜ」
聞いてなかったのかい? 俺らがきみの育成を任されてるんだ。と、彼は言う。
聞いていない。ということは、いきなり見ず知らずの男性集団の中に放り込まれたということか。それでいいのか大切な姪っ子を。
就職初日の朝。まだ仕事が始まってもいないのに、すでに辞めたくなった。