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ほんまる動物病院 観察日記(2)

全体公開 1 2478文字
2017-04-13 19:47:44

動物病院パロ第二弾。今回は鶴丸先生の観察記録です。甘さはありません。ただ観察してるだけです。
※単語帳・ドパミン→薬の名前 ・会陰ヘルニア→お尻の筋肉が弱くなり、隙間からお腹の脂肪や内臓が出る病気です。つまりはお尻の病気です。

Posted by @ayame0601s



 院内が非常に眩しい。

 ドアを開けたらパンツ一丁の男性と遭遇するという、男性苦手症な私にとってはなんとも衝撃的な初日から、早1週間。
 あれから鶴丸先生に病院内を案内してもらったり、スタッフを紹介してもらったのだけれど……見事に男性社会だった。あっちを向いても男性、こっちを向いても男性、しかも全員美形である。とにかくその美貌が眩しすぎて、ついつい俯いてしまうのを何度も注意された。眩しい。しかし注意されては仕方ない。
 スタッフが多いためシフト制らしいけれど、1週間経てば全員との顔合わせは終了した。

 唯一、ほんの唯一救いがあるとすれば、看護師兼受付を担っている乱さんだ。彼女は、この病院で働く唯一の女性らしい。
 男性ばかりと聞かされていた私にとって、初めて乱さんを見た時はとても驚いた。そのお姿もあまりに美しく、失礼と承知の上で性別を恐る恐る問えば、

「ああ、……、彼女はこの病院で働く唯一の女性だ。院長が一目惚れしてアプローチかけたらしいぜ」

 と鶴丸先生が説明をしてくれた。その時の乱さんは大きな目をぱちくりさせ、その後にっこりと微笑んだ。その、なんとも華麗なこと。眩しい。けれど女性が居てくれて、それだけが今の私の救いだった。

 とにかく眩しすぎるし、苦手な男性ばかりでは仕事に差し支える。そう思い、まず目を慣れさせる為と、その人の人柄を知る為によく観察することにした。
 観察力と洞察力は、この職業では必要だ。喋れない動物が、何を訴えているのかその様子から汲み取らなければいけない。要はそれと一緒だ。観察して、相手のことを知る。これも仕事の一環だと、無理矢理割り切ることにした。

 そんな訳で、まずは鶴丸先生の観察から始まった。

 鶴丸先生は仕事中、髪を後ろにひとくくりにし、眼鏡をかけている。そしてスクラブに白衣姿。その姿はなんとも様になっていて、落ち着きのあるように見えるも「どうだい。知的に見えるだろう」とニカッと笑う彼は茶目っ気たっぷりだった。
 それにさすがパンツ一丁でうろつくだけあって、性格もなかなか大雑把というか、細かい所を気にしないタイプらしい。

 彼は、動物の名前を覚えない。

 手術後、傷の様子を見に行った鶴丸先生が「わん太郎、大丈夫か?」と声をかけているその姿はなんて優しいんだと思ったけれど、そのわん太郎はれっきとしたメスだった。ちなみに名前はハナちゃんだ。
 犬は全て「わん太郎」だし、猫は全て「にゃん吉」らしい。

「あ、伽羅坊。悪いがわん太郎の点滴を変えておいてくれ」
……どのわん太郎だ」
「肝炎のわん太郎」
「分かった」
「あと腎不全のにゃん吉の為にドパミン作っておいてくれないか」
「ミケ、黒」
「ミケ猫の方だ」

 別の日には、こんな会話もしていた。

「光坊、お尻丸の傷を見たいんだが、手伝ってくれないかい?」
「ええと……? あ、会陰ヘルニアの手術したアトムくんだね」

 これで会話が成り立っているのだから凄いと思う。というより周りのスタッフの汲み取り方が素晴らしい。さすがベテラン獣医師揃い。洞察力にたけている。
 鶴丸先生は、わん太郎やにゃん吉の他に、病気の所をあだ名とすることが多かった。会陰ヘルニアはお尻の病気だから、お尻丸。ある日、膝の皿が脱臼している子にもあだ名をつけていた。

「うわ!? おい大変だ! 膝丸がケージの中でウ〇コ踏み踏みにしている!」
「ありゃー。ダメだよ膝丸、兄として恥ずかしいな」
「兄者、こんな時だけ名前を……

 そんなやり取りを見ても、鶴丸先生は大雑把だし、院内のムードメーカ的存在の明るさを持っている。儚げで知的な見た目とはかなりのギャップがあった。しかしそれは "裏側" での鶴丸先生であり、患者の前に立つ "表側" では全く違っていた。
 診察を見学する為に、鶴丸先生の後をついて診察室に入るも、入った瞬間から先生の雰囲気がガラリと変わった。診察室に入ると、大雑把で明るい鶴丸先生は、一気に知的で落ち着いた鶴丸先生になる。ちゃんと動物の名前を呼ぶし、静かな口調で飼い主さんと話し、病状を聞き出している。

「いつから吐き気が出てるんです?」
「ええと……3日前からかしら」
「フードか、おやつを変えたり、今までと違う食べ物を与えたりしましたか?」
「あ、そういえばフードを変えました」

 そんな落ち着いた雰囲気で診察が進む。
 聴診器を当てる時、そっと動物の体を支えるその骨張った手も、軽く伏せられた長い睫毛も、その姿全てが洗練されているように見えて思わず言葉を失った。飼い主さんも老若男女問わず、見とれているのは明らかだ。
 鶴丸先生は、診察室では微笑む程度の笑みしか見せない。とても物静かな先生、といった印象だ。
 しかし診察を終えてそこから一歩出れば、途端に私へドヤ顔を向けた。

「どうだ。なかなかの役者だっただろう?」

 そう言って悪戯っぽくウインクしてみせる。あまりの変貌に頭が追いつかないものの、彼の言っていた "役者" という意味がやっと分かった。
 鶴丸先生は、飼い主から安心と信頼を得るために、役作りをしているのだと言う。

「この職は、動物だけ診てればいいって訳じゃない。飼い主との信頼関係がなけりゃいけないから、ある意味 "対人間" な職業だよなぁ」

 そうしみじみ言う彼は、いくら大雑把でもやっぱりプロなんだと尊敬した。最初の出会いがパンツ一丁だった為、その印象の上がり幅は大きい。

「という訳だ新米くん。頑張ろうな」

 とてもいい笑顔で激励の言葉をくれる鶴丸先生に、じーんと心を打たれた。しかし、ふと気付く。
 彼は、どうやら私の名前も覚えていないらしい。


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