@akirenge
「おにぎりって不思議だよね」
徳田秋声は特務司書の少女が司書室でおにぎりを食べているところを眺めていた。
「不思議?」
うん、と頷く少女は秋声の握った白米に梅干しを入れたおにぎりを頬張る。
「炊いた米を手で握っただけで料理だよ」
それが、と想ったが、
「これが西洋だと小麦粉に水かけたもんというか料理にならないから」
確か、にとはなる。おにぎりは単純だ。炊いた米を手で結ぶというか握るというかそれで出来る。
料理なんてろくにしない徳田秋声でも出来るのだ。単純明快だが奥の深い料理なのである。
余り食べなかった特務司書の少女に何か作ろうと厨房に行ったらさりげなくレシピが落ちていたのでそれで作ってみたが、
食中毒は絶対に出さないとか、手洗いしっかりとかそちらの方が重要視されていた。
衛生については転生していない兄弟子を思い出す。あれはなんでもかんでも火を通していた。
人の手で握ったおにぎりとか、食べられないだろう。
「美味しいかい?」
「美味しいよ。ありがとうね。秋声さん」
レシピを見て、食中毒に気をつけて、作ってみた簡単すぎると言えば簡単すぎる料理だけれども。
「ソレは良かった」
彼女が美味しいと言ってくれるならば、ほっとして、嬉しいと、想ったのだが。
「たすけて。ぼっさん! 鏡花さんが秋声さんがあたしのために作ってくれたおにぎりをガスバーナーでファイヤーして奪おうとして秋声さんと喧嘩になってるの!」
「よし。まずはお前さんは遠ざかって別の飯を食って落ち着くんだ」
ある日のことだった。
食堂はお昼休みで誰も居なくてご飯や一部の食材はあったので、秋声は久しぶりにおにぎりを作ってみたら鏡花に燃やされたのだ。
「君は普通にご飯をよそって食べればいいだろう!」
「あったものを食べて何が悪いんですか」
「お前等落ち着け。な。焼きおにぎり食べたかったら先に言えよ泉」
「後で焼いたので問題ありません」
「あるよ。これは君に作ったんじゃ……」
「あったから食べようとしました」
「……あのさ」
「それ食っちまえ。司書は別のもん食べようとしてるから」
「バターごはんにする。白米って凄いよね」
「……君、もっとこったものを食べようよ……」
食事の手抜きが始まりそうだったので、秋声は止めた。
終わり