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【戦えない特務司書と転生系文豪達 15】

全体公開 13256文字
2017-04-27 02:19:50

35人が出そろうのが一応本編なのでそれまでは書いていく感じ

5/2に追記

Posted by @akirenge

【戦えない特務司書と転生系文豪達 15】

徳田秋声は帝國図書館分館を出て、自室に戻ることにした。
文豪達の全員分の潜書は終わったし、今日の浄化作業は終わってしまったからだ。明後日は休みであるため、明日も浄化作業があるが、それよりも、
秋声にはやりたいことがあった。

(書かないと……

小説を、書きたいと想っているのだ。
兄弟子である泉鏡花も師匠である尾崎紅葉もまだ転生していないが、秋声は転生して少ししてから小説はずっと書き続けていた。たまに見せたりはしていた。
色々と愚痴りながらも書いていたのだが、今日は違う。

「秋声さん、どうしたの? お腹、空いた?」

……潜書で空腹になった分は今から食べてくるよ。図書館の方だけど」

国定図書館分館の玄関先で特務司書の少女が首を傾げている。時刻は夜になっていた。
全員分の潜書を終わらせたり、話し合いに時間を取ったり、今後の方針を決めて今日の処は解散だ。ん、と彼女は反応して、

「アイツが、大型アップデートをするとか言っていたし、あたしは明日のために休むよ」

アイツというのは加護者のことだ。
秋声は想い出そうとしてソレよりも先に今日のことが浮かんだ。特務司書の少女が朝食を食べていないだろうと弁当を持って行こうとしたら北原白秋と喧嘩をしたり、
『金色夜叉』の潜書を見ていたら、室生犀星に連れられたり、中島敦と話したり、谷崎潤一郎が特務司書の少女の着替えを大量に持ってきたり、食堂でかつてのことを
想い出して他の文豪達の話したり、谷崎が、自分や織田作之助や特務司書の少女をモデルにした小説を配っていたり、太宰治と三好達治が転生したり、
有魂書の潜書室で読書をしたり、

「今日は賑やかな日だったね」

「毎度のことじゃ無いかな」

「文豪達が増えてきたじゃないか。当面の目標は全員を揃えて、僕達が有碍書を突破していく、だろう」

自分と彼女と織田作之助しか居なかった国定図書館分館は……正確に言えば彼女を守っている加護者や他も居たようだが今は外す……人数も増えたが、
目標としては転生が確認されている残りの文豪達も転生させるのだそうだ。
芥川龍之介、泉鏡花、中原中也、萩原朔太郎、永井荷風、宮沢賢治、尾崎紅葉だ。小林多喜二達が持ってきた『金色夜叉』の浄化時に拾えた有魂書は明日、開けるという。
人数としては足りているのだが、名目上、成果は出さないと行けないそうで、目標の一つにしたのだ。
僕達とは第一開派、正岡子規、織田、秋声、菊池寛だ。明日はいよいよ『あらくれ』に潜書する。

「無理しないでね。成果はそこそこに出せばいいから」

「君は……かなりシビアなところはシビアすぎてネコが引いていたというか」

「職業病なんだよ」

特務司書の少女についてもいくつか聞けたが、聞けていないこともある。この世界では無く別の世界の出身で、その世界では刀剣から励起させた最強の付喪神である
刀剣男士を率いて歴史に攻撃を加えてくる歴史修正主義者と戦っていたという。一度は帰らないといけないそうだがその準備も加護者やその周囲任せだそうだ。
本人曰く術式は出されたものを使っているようだ。

「(職業、か)帰るときは織田でも、他の文豪達についてもらって帰るんだ。僕はやるべきことがあるから」

実際、彼女はシビアだ。
朗らかに振る舞っているようで中身は殺伐としているところがある、”事情説明”の時もその面が現れていてネコが引いていたぐらいだ。
初めて会ったときからそうだったが、彼女をよく知る加護者にしろもう一人にしろ、職業病で片付けていた。片付けるしか無かったとも取れるし、
ソレを使うようになっていた。

「はーい。お疲れ様でした。秋声さん」

――君こそ、お疲れ様」

彼女が笑う。
秋声の好きな心からの笑顔だ。秋声は明日の潜書のことよりも、まずは小説のことに集中することにした。谷崎の書いた小説のできばえに落ち込んだこともあったが、
書くしか無いのだ。
特務司書の少女と別れ、小説について考え事をしながら秋声が宿舎に帰ろうとすると誰かとぶつかった。

「徳田さん、ごめんなさい」

声に気がつく。新美南吉だ。

「新美か。別に怒っていないよ」

「僕、これから帰るんだ。徳田さんは……

「食事をしてから小説の執筆だ。書きたくなったからね」

頑張って、と新美に応援される。どれぐらい書けるかも、一晩で完成させられるかも分からないが、秋声はやってみることにした。



特務司書の少女は秋声と別れてから、図書館に戻り、本を借りておくことにした。新美南吉の童話が収まっている本は司書室に置きっぱなしであるが、
半分以上は読めた。短編が続いているので読みやすいのだ。
この図書館は本の貸し借りが出来る。国定図書館本館の方は閲覧しか出来ない。あそこは日本で扱っている全ての書物を取り扱っている場所であり、
元の世界で言うと国会図書館にあたる場所らしい。

(審神者の方の手続き関連は上手くいくらしいけど)

そう言ってくれたのは加護者の本質を抑えている封印者であり、封印者はあちらの時の政府でスタッフとして働いていたそうだ。
加護者が対価さえ払えばと言っていたが別に無くても手続きでどうとでもなるのだそうだ。
スタンスとしてはノルマさえ守ってくれれば他は良いと言うか、ある程度のモラルを守る必要はあるが、と言うか守らないとだが、他は自由と言えば自由だ。
連絡さえ取れればで、道は軽く繋げられたのでこれから分館を本改装しつつ、本格的な作業に入るそうだ。
予算などはあるようで、特務司書の少女も補修室のベッドをふかふかにしてくれとかいくつかの要望は送っておいた。
歩きながら谷崎潤一郎の棚の前に来ると、そこから『春琴抄』の文庫本を取り出して、ページをめくった。

「良し。読める日本語……

加護者が秋声が谷崎と『春琴抄』で揉めたらしいので読んでみることにしたのだ。アレが薦めてきた本はひとまず置いて置いて、しばらくは好きな本を読むことにする。
太宰治の『女生徒』を含めて手元に借りているのは三冊だ。分館ルールとして本は一人十冊、二週間まで借りられて、一回だけ延長が出来るという、
彼女が居た元の世界の図書館を模している。
読める日本語と言ったのはまだ意味が分かると言うことだ。尾崎紅葉の本とかは物に寄るが日本語? と問うてしまう。
心中で本を借りていくと言えば、貸し出しカードを書けという声が返ってくる。分館改装作業で忙しいとも言っていたが、他の文豪達も関わっていた。
志賀直哉や森鴎外や中野重治など改装作業に意見したい文豪達が居たのでそのままにしてある。
分館の誰も居ない貸し出しカウンターにあるラックから自分の貸し出しカードを出す。手書きにしてるのは手書きの方が文豪達的に安心というか、
石川啄木のカセットコンロファイヤー事件のことがあり、新しい文明はゆっくり安全なものから入れていこうと言うことになっているからだ。
一人で帰ろうとしたが秋声の忠告を守り、特務司書の少女は織田作を探すことにしたのだが、

「司書さん、誰か探しているの?」

……島村さん、織田作さんを探してるの。帰るときに秋声さんがついてもらってろって」

「織田君ならもう図書館を出ましたよ。佐藤さんと共に三好君と太宰君に宿舎について教えるようでしたから」

「江戸川さんも」

島崎藤村と江戸川乱歩と会う。この二人が共にいるのは珍しい。織田作を探していたのだが、彼は先に宿舎に戻っていたようだ。
三好と太宰は転生したばかりなので、記憶があやふやなところもあるが、図書館ルールは覚えて貰わなければならない。
本丸ルールを参考に、文豪が転生したら部屋が一部屋と蒲団かベッドどちらにするかの選択肢と支度金と家具セットがあたり、それでまず一通り揃えることとなる。
他は各々で揃えろということにした。文豪達には給料を出している。

「帰るならついて行こうか? 取材、したいから」

……取材?」

「司書さん、面白い人生を歩んでいそうだし、小説のネタになるだろうし」

「ワタクシも聞きたいですね」

特務司書の少女はあえて嫌そうな顔をしておいた。と言うか嫌だ。褒められる人生では無い。審神者業にしろ黒いことをしていたし、それ以前もそうだ。

「話すようなことじゃないけど」

……司書さん、死に近いよね。一度死んで転生した僕達より、死にどっぷり浸かっている感じ……それが聞きたいんだ」

唐突に言われた島崎の言葉に特務司書の少女は無表情となる。ならない方が良かったかとは想いつつ、指摘されたくないことを指摘された。
死にどっぷり浸かっているというのはあってはいるし、話し合いの時の会話の端々で察せそうな者は察せそうだが言われたくはないことなのだ。

「話せる範囲でいいですので。ワタクシとは刀剣男士との生活なども気になるので」

思考を纏めておく。生活関連について彼女は思案し、

「普通だったよ。本丸で一日過ごしてたまに報告書書いて庭の世話をしたり体を動かしたり、……開拓を手伝ったり」

「開拓?」

「荒れ地でもあったのですか」

「トラブルで本丸の制御装置が壊れたときに荒れ地になったところを倶利伽羅と山兄が開拓し始めたんだよね。どこかの農……アイドルみたいに」

開拓と言うが、審神者になってそこそこの時間が経過し、四十四本の顕現が確認されていた刀剣男士が殆ど揃ってきた頃のことだ。
本丸は特殊空間にあり、そこを制御装置というか術式道具を使ってヒトが住める空間にしている。感覚としては宇宙生活をしているようなものという例えもあるが、
島崎と江戸川だとその例えがわからない気がするのでしない。
刀剣男士の今剣と喧嘩した後で寝たら何かが起きたのだ。何が起きたのかは記憶に無いと言うか初期刀の山姥切国広に引っぱられたことは何となく記憶している。
目を覚ましたら本丸の制御装置が壊れて、一部が荒れ地となった。
操作をすれば荒れ地じゃ無くなったのだがそれを素で開拓を始めたのが大倶利伽羅と山伏国広で今では開拓がかなり進んだ。

……アイドルって……歌手? なんか、開拓と噛み合わない」

「噛み合うんだよ。それが」

「倶利伽羅と山兄、刀剣男士はコチラ以上に人数が多いようですからね」

開拓をするアイドルにして農家は本丸のケーブルテレビでも放映されているが非常に刀剣男士に人気だ。彼等は元気だろうかとなりつつ、あの時と近い時間軸に
戻すようにするらしいので今頃、彼等は戦い続けているのだろう。
話題が逸れてくれたし、島崎が聞いてきたら適度に返すことにして、特務司書の少女は本丸の話をしておくことにした。



帝國図書館分館の終わりは午後七時辺りだが予定が終わるまでやっているというか、開館時間と閉館時間は決まってはいるのだが、実は雑であることを志賀直哉は知っていた。
夕方の話し合いで改めて、各種の説明がされたのだが、国定図書館は大日本帝国が運営している図書館のことで、帝國図書館は国の全ての書物を取り扱っている図書館だ。
特務司書はアルケミストに与えられた役職で、国定図書館はいくつかあるがあちこちにアルケミストがいて、有碍書を浄化したり、研究をしていたりしているという。

「何人かは残ってるし、俺も残らないと……アレに任せっぱなしと言うのもな」

アレというのは特務司書の少女を守っているという加護者だ。志賀は彼女に背後からぶら下がられた。
会話をしてみて分かるが仕事はやることにはやるのだが、趣味が大量に入っている。大量だ。特務司書の少女も放置しているが仕事をしている他にも遊ばせておいた方が良いらしい。
そして想ったのは。

「アイツ、以外と不安定だよな」

特務司書の少女のことだ。
安定しているようで居て、感情が不安定な部類に入る。話の時にネコが地雷を何度か踏んでいてはそのたびに機嫌が悪くなっていたというか、
職業病の一言でどうにかなだめられていたというか、職業は何だと想ったがろくなものでは、なかったのだろう。
審神者についてのことも聞いたがそれ以外にもありそうだった。
”それを言ったらあの子が怒るわ”と言う囁き声が聞こえる。加護者だ。
フォローしているようで笑っているというか、性格が悪いとは感じている。
今夜で大まかな改装をしてしまいたいと言っていた。
そのために今、準備をしているのだと。
分館について改めて説明があったが、元々は帝國図書館の館長がアルケミストの実験をするために使っていた建物で、
加護者によっていくつかの操作が……そうできるように力を振り分けたとか言っていたが……されている。

――自分は”いい”で相手は”駄目”はどうにかするべきだ。多喜二が何とかしたがってるし、するだろうけど。俺は俺で……

志賀にとって特務司書の少女は妹というか、面倒を見なければいけない相手だ。強く聞いている。
姿を現さない加護者だが聞いているだろうし、志賀の発言だけを見ていれば何と話しているんだとなるのだが、文豪達は事情を聞いている。
特務司書の少女について心配だが何とかしなければならないのは別のことだ。
”俺は俺で?”とオウム返しに加護者が聞いていた。

「お前、とりあえずコレクション見せろ。な? 鏡花本とか持ってるんだろう。多喜二の本の初版本とか。分館について全部、把握する」

鏡花本とは泉鏡花の本の中でも文庫本では無い。明治頃に出された初版本だ。鏡花は非常に装飾残っている本を出していて、綺麗なのだ。
多喜二の本の初版というのは多喜二はプロレタリア関連のことで、本が発禁処分を受けたり、出たとしてもあちこちが墨で塗りつぶされたりしている。
分館に収められている本は分けられているようだが、それについて特務司書の少女は加護者に一任している。
把握はしておくべきなのだ。
万が一、加護者に何かがあったときに分館の全てが止まらないように、そしてこの説明過多で特務司書の少女に対して著作飽和を起こす加護者は
見ておくべきだと志賀は判断した。



織田作之助は司書室で沈黙していた。

「俺、司書に金を借りるのは不味いと想ったが手元にすげえありそうだし、返せる範囲で借りるべきかととりあえず当たってみることにしたんだけどよ」

「君は彼女から金は借りてはいけないよ? 光太郎君に借りたまえ」

「それもどうなん」

北原白秋の言葉に織田は想わずツッコミを入れてしまう。高村光太郎に被害が行ってしまっている。織田は特務司書の少女と話そうと夕飯後、とりあえず、
ティーセットにお茶を堀辰雄に淹れて貰って、分館から持ってきた余ったお菓子を盆に載せて司書室に来たのだが、そこに居たのは生前の自分が書いた詩の集めた
初心者向けの名詩全集を持った北原白秋であり、さらに来たのは他のおやつとお茶を持ってきた小林多喜二と新美南吉であり、最後に来たのが石川啄木だった。
場合によっては修羅場というか、織田としては一番注意するべきなのは多喜二だ。特務司書の少女と少し仲良くなっていた。

「司書さん、居ないの?」

「あの扉を叩いても反応が無かった」

「それなら帰ってきてへん。扉を叩いたら反応はあるし、そうやなかったら出てくるから」

司書室には扉があり、そこから特務司書の少女が使っているプライベートスペースには入れるが、織田は入ったことは無い。

「織田作、入ったことねえのか。お前なら入ったことが……徳田とか」

「徳田はんもないで。お司書はん、プライベートに入られるん。苦手みたいやし」

入っているとしたら加護者だろうが、加護者は特別だ。啄木が試しにドアノブを捻ってみているし何度か揺らしているが扉に反応は無い。
審神者業についても夕方の話し合いで聞けたが、プライベートスペースに入られる刀剣男士はそこまで居なかったというか、職業病でプライベート部分に入られるのは
苦手なのだという。
前にそれとなく秋声に聞いてみたが、秋声も入ったことはないし、昼頃に谷崎潤一郎が購入した洋服各種も、司書室までは運んだが居住区には
特務司書の少女が全部運んでいた。

「金目のものとかねえのか。ありそうな気がしないでも無い。……鍵とか」

「お司書はんと、徳田はんと、館長なら……

マスターキーについてはこの三人しか持っていない。徳田なのは金の管理もあるが、責任者よろしくと特務司書が押しつけたからだ。彼は律儀に守っている。
話題によっては一色触発であることを誰もが理解していて、話題を選ぶ中、新美がポケットをあさった。

「それってこれのこと?」

新美が、鍵を取り出す。
一本の鍵だった。

「それは」

「司書さんが使ってるぷらいべーとすぺーすのマスターキーだよ」

可愛らしい口調で言っている。沈黙が降りた。

……どこから?」

「まさか、アイツからすったのか? 出来たのか!?」

小林が問い、啄木が違う意味で驚いていた。特務司書の少女は体が今のところ弱いだけで運動神経はかなりのものというか、する、と言うことが難しい。

「たまたま徳田さんにぶつかったらたまたま鍵束がみえたから、たまたま手を伸ばしたら取れたの。食堂で鍵については聞いてたから」

「説明は、されていたが……

……たまたま?」

「小説を書くことに集中してるから気がつかないと想うよ!」

(たまたまやないやろ……

織田は言葉を心中に押し込めていたが、他もそうだっただろう。新美は困ったようにしている。徳田は恐らく鍵が無いことに気がついていない。
自信満々に話しているがこのことが徳田や特務司書の少女にバレたら、と想いながらも織田としても特務司書の少女の居住区は気になる。
コレを使えば見られるかも知れない。知れないのだが。

「良し。それなら俺様が見に行って金目のものがあるかどうか見よう。司書室にはなさそうだし」

……殺風景な部屋だよね。ここは」

突貫で始まった特務司書の仕事であり、特務司書の少女は司書室をかなり適当にしていた。アンティークの丸テーブルと椅子は織田や徳田が
部屋に来るようになってから出したものである。
北原が言うのも無理も無いし、石川もそう判断するのは無理も無い。

「お司書はん、誰も呼ばんし、来るんはワシや徳田はんぐらいやから」

「今度からボクや多喜二さんも行くもん」

は? となりそうだった織田だったが、それよりも先に新美から石川が鍵を奪った。

「良し。開けて入ってみるぞ。もしなんかあったら新美を盾にすればいい!!」

「アンタが盾になるんやないんか」

「俺が盾になってみろ。無言で攻撃されるだろうが、……もしも新美が攻撃されるなら俺が守りつつまず逃……まずは足止めが必要だな」

逃げることは標準というか逃げなければいけないというか、地の果てまで特務司書の少女は追ってくるとは言わなかっただろうか。
追いかけてきそうだが、石川は話ながらもさっさと鍵を開けて中を覗き込んでから、探して電灯のスイッチを入れた。
石川は入っているし、新美も追いかけているし、北原も本を持ちつつ追いかけようとしている。

……止めんの?」

「ちゃんとしたところに住んでるのか、気になる。司書は取り繕ってるようで、乾いてるところは乾いてる。徳田サンが言うには彼女がネコや館長に言ったのが、
機械でもぶち込んでおけだったし」

ちゃんとしたところと小林は返す。
乾いているところは乾いているというのは、織田も感じていたが小林も感じていた。得に今の状況に関しては厳しいというか、
その話については織田も聞いている。
聞いているなのはその頃、織田は転生していなかったからだ。
徳田秋声が転生したとき、ネコは文豪達は戦うことにムラがあると言っていて、特務司書の少女は……その頃は特務司書では無かったが……それなら機械でも
入れておけと言ったと言う。転生してすぐの記憶はあやふやだったが、それは記憶に刻まれてるという。
さらに小林は続けた。

「俺たちのことも大事にしようとしてるのは分かるけど、司書は自分のことは二の次になるから、それは辞めさせる」

「アンタ……

「おーい。一階は風呂とかぐらいしかないぜ。それと物置。アイツの持ちもんじゃねえよな」

「ここ、前に使うてたヒトが居ったって……

言いたいことが浮かんだが石川の声にかき消される。
話を整頓してみれば特務司書の少女はこの世界に来てしまったのだ。住処も無かったのでここに住んでいる。物置を織田と小林も覗き込んでみるが、
いらないものをとにかく押し込んだ場所と言った様子だ。

「寝るところとかは」

「二階のようだね。階段がある」

何処で寝ているかという疑問が浮かぶが新美と北原の会話により、二階と言うことが察せてきた。
顔を見合わせた文豪達は、二階に上がることにした。



特務司書の少女は食堂に移動していた。
江戸川と島崎が話を聞きたいと言っていて、本丸の話をしていたのだが途中で加護者が話すなら食堂で話せと言ってきたのだ。
分館の方の手直しに入るらしい。他の文豪達も一部分館に残ることにしたようだ。国木田独歩や志賀直哉である。何かあれば加護者が伝えてくれるだろう。
食堂については晩ご飯はシチューだった。昼頃にシチューにすれば良いと言う連絡が入ったらしい。シチューならば用意しておけば各自勝手によそう。
オムそばめしを食べて満腹だったが眠ったりしたら少しは空腹になったので胃には入れておくことにする。

「本丸ってところでずっと生活をしてきたんだね」

「審神者になってからね」

審神者としてずっと生活をしていたわけでは無く、本来の生活は別にあったのだが、帰ることは難しかった。と言うのも条件を揃えるのが苦労していたそうだ。
加護者を本気で使えば出来たかも知れないが代償が大きすぎる。アレも無料で願いを叶えてくれるわけでは無い。

「刀剣男士とどっちが強いの」

……今じゃあっちの方が強いよ。レベリングしてるし、文豪だったら……やりようによってはあたしは勝てるけど」

この辺は正直に答えておく。
刀剣男士が刀剣から励起された最強の付喪神で、夕方の事情説明の時に諸事情で戦闘というか運動というかそちらも出来ると言っておいたし、病弱の理由も、
その時に説明していたが一部の文豪達は、加護者を睨んでいた気がする。
今じゃと付けているのは極やら入れると向こうの方が強いのだ。文豪だったらとつけたが文豪達は有魂書や有碍書の文学の世界ではかなりの力を持つが、
こちらではそうでもない。森鴎外や吉川英治や中島敦の裏の方ぐらいは相手に出来そうだが勝つ自信はある。
何にとは言わない。仮定してしまうのは癖だ。

「彼等も貴方が最前線とか立とうとするから強くなろうとしたんじゃ無いですかね。妖殿が居ても、居るからこそでしょうが」

――それはありそう」

と言うか、あるな。と江戸川の言葉に頷いておく。

「秋声が司書さんに何かあると凄く心配する。織田もそうだし、みんなそうだよ」

「無いようにはしておくんだよ。秋声さんは小説を書くとか言っていたけど」

曖昧なのはどうなるか不明だからだ。

「アナタをモデルにした同人誌を出そうと言う話もありますからそれに載せるという手も」

「まずはどんな小説かだよね。谷崎さんの話は谷崎さんって感じだった(江戸川さんは江戸川さんって感じだったけど)」

転生しているのが文豪達だ。著作や逸話のイメージが入っている。江戸川は得に分かりやすいというか、怪盗のイメージだ。江戸川乱歩は日本における推理小説の
地盤を作った者と加護者から聞いていて、生まれ変われるとしたら? と言う問いに生まれ変わりたくないと生前の江戸川は解答したと言うが、
転生した理由としては文学の世界が心配だったからかもとかイメージが強いとか加護者はいくつか仮説を立てていたが、解答については江戸川本人には聞かない。

「僕が出そうとしていた本の原稿もいくつかアレが持っているらしいし」

「自然主義とか言ってたけど、島崎さんは何の話を書いていたの?」

「図書館の話だよ。具体的に言うと、君と秋声の話」

……ポエムチックで長い?」

「短い方だよ」

ポエムチックは否定されたが加護者が島崎の小説はそう表現していた。夜明け前とか超長いらしい。前に加護者が食べた原稿自体は出そうとすれば出せたり、
侵蝕者について書いたものも預かっているだけだそうだ。

「島崎さんは若菜集ならちょっとだけ読んだ。初恋は秋声さんが音読してくれたんだよ」

若菜集は島崎藤村の詩集だ。七五調の定型詩がメインである。たまに加護者の解説が入っていたが秋声には聞こえない。

「織田君とは読まないんですね」

「あたしは朝早くに行くことはあるんだけど、織田作さん、寝かせてるの。たまに徹夜で小説を書いていたりしてるし、体調には気をつけてるから」

秋声は体調の方を気をつけている方だが織田作は観察していると徹夜で小説を書いて居て眠そうにしているときがある。
特務司書になってからは早寝早起きになっているので早めに分館に出かけたりしていると秋声が来て読書をすることもあるのだ。今日は遅い方だったが。
最初に織田作と秋声の説明は加護者から聞いた。
片方は短命ながらも命を燃やし尽くして沢山の小説を書いた者、片方は長命で地味ながらも自然主義文学の大家と言われた者だ。
気をつけられそうなところは気をつけているが、無理なところは森に丸投げしている。

「司書も気をつけてるとか黒いののせいで体調が悪かったとか言うけど、治ったら無茶しない……?」

「先に釘は刺されてるから無理はしないよ。場合によっては無茶させるのはそっちだと想うから……

ため息はつきたくなってくるが覚悟はしていたことだ。浄化作業とレベリングをやり続けなければならない。ゆっくりしている時間は終わりだ。
あらくれを第一開派に突破して貰いつつ、後は地道にレベリングやら開花などだ。

「本当に無理しない?」

「しないから」

島崎が自分の目を見て問うてきたのでそれなりに答えては、おいた。



江戸川乱歩は特務司書の少女に興味を持っていたが、今日のことで興味をさらに深めた。この世界では無く別の世界から来て、別の世界では歴史を守っていた少女だ。
その時の経験を生かして特務司書もしていたのだろうし、システムは流用していたと説明していた者も言っていた。異世界トリップの常道だよねとか話していたが、
さらに言うと本来住んでいた世界自体も違うようだ。

(歪み、ですね)

ネコが引いていたというか扱いに困っているのは彼女は殺伐としすぎているのだ。準備を積み重ねるだけ積み重ねてもあっけなく壊れるときは壊れるし、
丸投げするところは丸投げで手を出しているところは手を出しているが、情が深いというか自分が感情に入りづらい。
刀剣男士達は刀剣から励起された最強の付喪神で人間のような思考をしているらしいが、彼女の歪み関連には手を焼いていたのだろう。

「僕の著作は読んでないとして、江戸川のは」

「前に生活していたときに江戸川乱歩ねぇ、鏡地獄とか芋虫とか踊る一寸法師とか読めと? みたいにアイツが笑ってたから手を出してない」

……黒いのが?」

そう、と彼女が言う。
審神者をやる前は学校に通っていたらしく、そこで教師がラノベ……それこそ軽めのと言うかジャンル説明が難しいらしいが軽めの小説……ばかりではなく、
夏目漱石の著作やかつての自分の著作を読めと言ってきたらしいがそこで加護者がそう話していたそうだ。

「どんな話かは知らないけど、アイツ、怪盗系イメージ入りすぎよ江戸川乱歩……の後で谷崎で補填されたからいいわと話してたから……

情報はほぼ加護者頼りだがあえてそうしているようだ。江戸川乱歩と言えば推理物で有名だが、それ以外の著作も書いている。
と言うか晩年はそちらよりだ。

「ワタクシの書いた話を……ですか」

「ラノベって侮られてるところはあるし、真面目なのを読めみたいに言いたかったんだろうけどね」

……学校、今は……

「通えてないよ。勉強だけはしてる」

素っ気ないというか触れて欲しくは無い話題のようだ。加護者などの言葉からして内容は不明だが加護者が笑うようなものだと判断したようだ。
その機能があったらそれに自分を当てはめ続けて、歯車のようになろうとしているのが彼女というかそうやって生きてきたのだろう。
律しているというか、そんなところはある。
アルケミストとは言え審神者とは言え、彼女は人間ではあるのだ。
別の図書館の特務司書が壊れたと聞いて自分はそうならないようにし続けていただろうが、軋みは出ているし加護者もそこまで守ってくれるわけでは無い。

「一度、特務司書の仕事を忘れて何日か旅に出てみるというのはいかがでしょう。アナタは縛られすぎているところはあります」

「休みか……取れるかな……江戸川さん、旅が好きだっけ」

「そうですね。著作のモチーフにも使ったことがありますよ。汽車に乗った男が目の前の男が扁平な荷物を……

……トランクの中に薔薇乙女(ローゼンメイデン)の真……え? そっちのモデルが押絵と旅する男……?」

「黒いの、会話、聞こえてるんだ」

自分の著作を語ろうとしたら特務司書の少女が思い浮かべたのは自身が読んでいた本らしい。それを加護者が咎めたのだろう。
中野重治も言っていたが話しかけられているときは以外と分かりやすいし喋るときはこうして喋るのだ。
不機嫌な表情から驚いたような表情に変わる。感情自体はあるのだ。
アンバランスさがありすぎるのだが、だからこそ、

「押絵と旅する男にしろ、芋虫にしろ、ワタクシの推理物以外の著作でして、モチーフにされやすいのですね」

「ろーぜんめい……ってなに? 気になる」

「あたしが読んでいた漫画でアニメとかにもなっていて」

彼女が居た世界や知っている世界とこの世界は違うが江戸川乱歩の著作が影響を与えていることは嬉しい。
江戸川としては彼女の色々な表情が見て見たいとは想う。まだ食堂に他の文豪達は来ないため、しばらくは彼女の会話を楽しむことにした。



徳田秋声は自室に戻り、万年筆で原稿用紙に小説を書いていた。小説執筆の際にはいくつかの筆記用具も渡されたが万年筆が一番あっている。
夕食は後で取ることも出来るし、食堂で頼めば軽食は持ってきてくれる。まずは書きたかった。

(僕の、書きたいものは)

谷崎の小説を読んで打ちひしがれたりもしたけれども、あったのはこれは違う、だった。自分が表現したいものが分かってきたというか、

(彼女は別に、そこまで盛らなくてもいい)

ありのままに。
何も無く。ただ、徳田秋声は書いた。



小林多喜二は彼女の寝室を訪れた。
よく言えばシンプル。悪く言えば何も無い部屋だった。大きめの使えそうだったので使っているらしいクローゼットと側にはパイプベッド、
また文豪達の方が良いベッドを使っているというかそこそこのものは入れて貰うように舌と彼女は言っていたが自分の方は殺風景だ。
何よりも気になったのは、壁に掛けられている服だ。

「かみさまが、ずたずた」

新美が言うのも分かる。
ハンガーに掛けられていたのは黒を基調としたワンピースとブラウスだ。金色で十字架にかけられた人となった神がプリントされているが
スカート部分やブラウス部分が刃物で切られたように切り裂かれていた。

「何も無い部屋だね」

「僕の部屋は本がいっぱいで足の踏み場も無いけど司書さんのお部屋は……

「かろうじて寝るだけとかそんな感じで……

備え付けてあるアンティーク系の机の上にいくつかのものが置いてあるだけで本当にただ寝るだけの部屋のような場所だった。
殺風景すぎる。

「アイツ……

啄木がその様子を見て、声を絞り出す。

――金が無くて服がもったいねえからってそんな着られもしない服をかけてお……

織田作之助が言うより前に北原が自分の本で啄木の額をクリーンヒットさせた。


【続く】


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