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俺は恋愛小説が書きたいんだ!

新矢 晋@企画用
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2017-04-29 21:59:02



 その森には魔女がいる。

 日の光にきらめく金髪の青年が、森を歩いていた。腰には剣、額には星。魔女を討伐するべく遣わされた勇者である。森は真昼だというのに薄暗く、獣の気配はない。だが、勇者はその「気配」に気づいて剣を抜いた。
 ゆっくりと森の奥から歩いてきたのは、杖をついた娘だった。薄絹を頭からすっぽりとかぶり目元まで覆った、花嫁衣装の娘だった。
「……お客様ですか」
 娘が口を開いたが、勇者は答えなかった。どうやら娘は盲いているらしく、勇者よりはるか手前で足を止め、怪訝そうに首を傾げた。
 じりじりと間合いをはかっていた勇者は、次の瞬間、地面から染み出るように現れる苔を見た。
 その苔は見る間に勇者より大きくなり、むくりと立ち上がり、苔のマントを羽織った二足四腕一頭の人のような姿になった。目のない、巨人。
 ――めくらの巨人。
 その伝説を勇者は知っていた。森に棲み、森を統べる、目の見えない男。
「……不思議そうだね」
 男が口を開いた。その目のあるべきところには何もないというのに、明確に勇者のいる場所を見ながら。
「森の魔女は、森と契約することで生まれる。それは君たちも知っているだろう?」
 そっと背を丸め、娘の肩に頭を乗せた男はうるるぅと一度喉を鳴らした。
「森の魔女は、森と契約するにあたって、まずは目を潰す。そしてその目を……本当なら神木の根本に埋めてしまうそれを……僕が、もらった」
 ――僕が君の目になるから。
 ――僕の花嫁になっておくれ。
「彼女は森の魔女というより、森の花嫁だ。森を広げる呪いは使えないし、誰かを怨むこともない。だから……放っておいてくれないか」
 勇者は戸惑った。その身に祝福を受けている勇者という生き物は、他人の嘘を看破する。つまりはこの言葉に嘘がないということを本能で感じ取ったのだ。
 ……鬱蒼と閉ざされた薄暗い森の奥で、風が一度吹いた。

 その森には魔女がいる、とされていた。
 実際のところは、その森にいるのはただの花嫁だったそうだ。


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新矢 晋@企画用 @sin_niya_b
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