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とある二組のバディの話(後編)

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2017-04-30 01:38:35

※実際の軍隊で人材交流なんてするのかどうかは知りません
※設定も適当言ってますので公式との齟齬があったらごめんねするしかない

※よそ様のキャラ同士の絡みについては二次創作はなはだしいしその方々の関係性を縛るものではないので、なにかあれば適当に処理して下さい




 出向の終わる三日前、の朝。戦場に部隊が配置される。私は通信班のひとつを任され、機材のチェックを行わせていた。
「1番、問題ありません」
「同じく、2番問題ありません」
 班員は若い(まだ幼さすら感じる)新兵たちであり、ベテランをもう一人配属してくれと言っても却下されたことに作為を感じる。私でもまだ若手に含まれるというのにこれは「期待」が重い、と少し笑えた。
 幸いなのは私が、作為の主はさておき、ある程度距離の近しい人間に対しては信頼を得る努力をしていたことだ。……一月で完全な信頼を得るなどということは不可能だが、信頼を得ようとしていると感じさせることは可能である。しばしばそれは、きちんと信頼を得た場合よりも効果的に働くこともある。
「少尉、本部からの通信です」
 証拠に、こちらへ受話器を差し出す兵士の表情は落ち着いており、浮わついてはいない。
「ああ。……こちらジョエル・ランツ少尉」
「五分後に作戦を開始する。くれぐれも気を抜かないよう」
「了解」
 時計を確認し、ひとつ深呼吸をする。
 五。
 四。
 三。
 二。
 一。
 作戦が、開始した。


 そうして作戦開始から数時間。中央での作戦行動とは勝手が違うが、今のところ大過は無い。班員たちは素直に動いてくれているし、通信状態にも問題はなく、戦況も安定している。
「テスラ班はどうなってる」
「指示に従っています」
 各自に割り当てた部隊の状況を確認しつつ、己の担当も忘れずにチェックする。……ラーゲルブラード班。班長はノア・ラーゲルブラード少佐。一月の付き合いで信頼関係を築くまではゆかずとも、意思疎通の速度は問題無いレベルに達していた。
「少佐、報告をお願いします」
「……あァ、問題ない。作戦の……」
 不意に。ぶつん、と、音声に混じって異音がした。それから少佐の声が聞こえなくなる。
「……少佐? ラーゲルブラード班、応答を」
 通信機の向こうは完全に無音。ノイズすら聞こえない。舌打ちをしてから別の受話器を手に取った。
「こちらランツ少尉。本部、聞こえるか」
「こちら本部、どうした」
「ラーゲルブラード班と通信が途絶。班長権限をランツ少尉からオールドマン軍曹へ委譲、その後、復帰のためランツ少尉が離脱する許可を」
「……少尉自ら?」
「機材の都合上私しか対応が出来ない」
 一瞬通信機の向こうで声が遠ざかり、それからまた戻ってくる。
「許可が出た。そのように」
「了解、ラーゲルブラード班と合流後にまた報告する」
 通信を終了してから部下の顔を見回す。一ヶ月では信頼関係などうわべだけしか築けていない、どこか不安げ……というより不信げな表情をしている者が多いようだ。
「聞いていたな。オールドマン軍曹、後は任せる」
「待って下さい、少尉自ら行かれるんですか? 俺たちの誰かに任せてくれれば、」
 腰に巻いているツールポーチを確認し、軽機関銃を掴んで振り返る。明らかに納得していない様子に、そりゃそうだよなあ、とぼんやり思う。お前たちに非常時の仕事は任せられないと言っているようなものだ。
「今回ラーゲルブラード班に配備されている通信機、あれは標準装備の三世代前のものだ。お前たち、若いだろう。現地で自分一人で対処できるか?」
 先日確認したときに気になってはいたが、今回の作戦において重要なのは機材の仕様ではなく人間同士の連携なのだろうと思い、放置した。判断は間違っていなかったと思っている。そもそも、私以外にベテランを一人配置してくれれば何事もなく済ませられていたのだ。
「行ってくる。報告は私から直接本部へ入れるし、戻る余裕は恐らくないだろうから、今後の判断はすべてオールドマン軍曹に任せる。お前たちが誇りに忠実であることを祈るよ」


  ※  ※  ※


「こちらランツ少尉。本部、聞こえるか」
「こちら本部、どうした」
 本部への入電を受けたのは、エルウィン・クライネルト少尉だった。
「ラーゲルブラード班と通信が途絶。班長権限をランツ少尉からオールドマン軍曹へ委譲、その後、復帰のためランツ少尉が離脱する許可を」
 その内容は少尉の相棒による不測の事態を報せるものだったが、彼は少し目を細めただけで顔色ひとつ変えずに応答していた。
「……少尉自ら?」
「機材の都合上私しか対応が出来ない」
 きらめくあおの瞳が通信機から周囲へと向けられ、そして片手に受話器を持ったまま大きく一歩左へ踏み出し上官……つまりはテオ・アロンソ中尉へ向かって声をあげた。
「アロンソ中尉! ラーゲルブラード班と通信途絶、それにともないランツ少尉の他班員への班長権限の譲渡、及び班を離脱し復旧へ向かう許可を!」
「許可する! やらせろ!」
 迷いの無い指示に、少尉はすぐに通信機の向こうへと答えることが出来た。すなわちそれは、
「許可が出た。そのように」
「了解、ラーゲルブラード班と合流後にまた報告する」
 ……ジョエル・ランツ少尉を単身飛び出させることに、なる。
 他の部下への指示がひと段落ついたらしい中尉は少尉へ近寄り、地図を見下ろして何やら考え込んでいる彼へと声をかけた。
「心配か?」
「まさか」
 とん、と指で地図を突いて、そこから線を引くように滑らせてから納得したように頷く。聡明なあおは憂慮や焦燥の色を宿してはいない。
「本人が言い出したことです、不手際のある筈がありません。ラーゲルブラード班の声と耳を、少尉は必ず取り戻しますよ」
 ――彼はそういうひとです。
 静かに呟かれた言葉は、例えば、鳥は空を飛ぶものだと言うかのように淡々としていた。


  ※  ※  ※


 なるべく姿を隠しながら、だが出来る限り急いで作戦区域内を走る。この規模の戦場であれば、完全不通は三十分で復帰させたいところである。本来の私の部隊ではなく、一ヶ月しか仕事を共にしていない部隊であるということを加味しても四十五分か。とはいえ、徒歩ではかろうじて間に合うか否か。
 私はあくまで(軍人としては)標準的な身体能力しか持ち合わせていない。極端にひ弱でも、極端に頑強でもない。それが求められる立場ではないからだ。私「たち」がするべきことは、聞き分けること、伝えること、聞き分け伝えるための状況を整えること。そのために班員を率いるのが私の仕事で……ああ、だがやっぱりもう一人くらいベテランが欲しかった。そうすれば私はこうやって走り回る必要もなく、残って伝達に集中出来たのに。
 ふと、エンジンの音が聞こえた。四輪ではない、恐らく二輪だ。そっと木の陰からそちらを覗けば見覚えのある後姿が今まさにバイクをスタートさせようとしていた。これは日頃の行いが良い私に対する天の助けだとばかりにそちらへ向かって走り寄りながら声を張り上げる。
「軍曹! 後ろ乗せろ!」
「は……? ていうかアンタなんでこんなところにいるんすか!」
 いささかぎょっとした様子でこちらを見た青年、グラッド軍曹に反論を許さないように一気に捲し立てる。そもそも上下関係を考えればこちらが主導権を握ってしかるべきなのだ、強く出るための隙を与えなければいい。
「班長のところに行くんだろ、俺の足じゃ追い付けない」
「今日は物資運搬用のであって二人乗り用のじゃないんすけど。アンタ見た感じ5、60キロはありますよね?」
「『物資』を運ぶのがお前の仕事だろう、今の俺は修理用の工具みたいなものだ。10分で届けろ」
 じっと睨むように見つめ合う相手の瞳が、こうして改めて覗くと自分と同系色であることに気付いた。私より幾分赤みがかったアンバーは、飴や蜜の色ではない。
「……ああもうわかりましたよ! 落ちても回収しませんからね!」
 ――よし、押し切った!
 荷物をいくつか降ろして荷台部分に無理矢理乗った私をちらりと見てから、軍曹はバイクを駆った。


 ……体感的には十分弱ほどの後、一時停車しているジープの元へと私は「配達」された。
「班長、お届け物です」
「あ? そんな予定、」
 振り返ったノア少佐は、私を見て一瞬口ごもった。
「なんでこんなところにいるんだ、少尉」
「通信機を」
「は?」
「通信機、不通になってるでしょう。確認に来ましたので渡して下さい」
 差し出された通信機をなかばひったくるように受けとり、電源を入れ直したり耳を当てたりした後、ドライバーを腰のポーチから取り出してネジを外す。露出した中身を確認するとやはり完全に断線しており、応急処置でどうにかなるレベルではない(直せなくはないが時間がかかる)。そのスクラップを放り投げ、自分の通信機で本部へと呼び掛けた。
「こちらランツ少尉、ラーゲルブラード班と合流」
「……こちら本部、現状報告」
「通信機の修理は不可能、私の通信機を譲渡する」
「……、……許可が出た。そのように」
「……状態が悪いな……少しこのまま通信を続行してくれ、調整する」
「了解」
 十秒と少しで調整を終えた後、ノア少佐へ通信機を渡す。
「今後はこれで。先程まで使っていたものとは少し癖が違うので、意識してはっきり喋るようにして下さい」
「ああ」
 少佐がそれを受け取り指示をあおぎ始めたのを見て、ふう、と息を吐く。時計を確認して目標時間には間に合ったことに気付き、ほっと息を吐いてから額に貼り付いた前髪を除けた。
「……ああ、グラッド軍曹。感謝する……8分か、素晴らしい」
「あ、はい」
 少し戸惑った様子で会釈した軍曹は、私と宙とに彷徨わせた視線を少佐へ向けて、
「……班長、荷物一部置いてきてるんで、回収してきます」
「おう」
 短いやり取りだけを残し、またバイクへと跨って去っていった。


  ※  ※  ※


 ジョエル・ランツ少尉がラーゲルブラード班と合流してから一時間ほど経った頃、作戦は終了した。
 本部にて他の通信兵から報告を受け、エルウィン・クライネルト少尉は静かにファイルを閉じる。
「ラーゲルブラード班が帰還したようですね」
 つまり、そこと合流していたジョエルも帰還しているということである。少尉は部隊が帰還するだろう位置へ向かい、……絶句した。
「あー……面目ない」
 少尉の相棒であり、けして粗忽というわけではない男が、……上半身を鮮やかな蛍光グリーンに染めていた。明らかにペイント弾が直撃した様相であり、つまるところ演習においての「KIA」、戦死相当である。
「じ、……ランツ少尉。どういうことだ」
「ラーゲルブラード班と合流した後、敵部隊と交戦状態になった」
 元々鋭い少尉の目つきが、厳しい表情が、どんどん険しさを増す。あおい瞳の奥でゆらりと揺れた炎に、ジョエルは指先から焼けるような心持ちになった。なにかを言おうとして開かれた口は、少し迷った末に閉ざされる。
「……後で報告書をあげるように」
「ああ」
 あくまで職務としての言葉だけが交わされ、労りも慰めもない。勿論、拳を合わせたり、抱擁を交わしたりもしない。相棒であるようにはとても見えない距離感で、私的なやり取りもなく、そのまま二人は別れる。
 ……だが少尉はジョエルの隣を通り抜ける瞬間、低く囁くように、相手にだけ聞こえる程度のボリュームで言葉を降らせた。
「今夜、部屋に伺います」
 その声はひどく淡白な色をしていた。


《幕?》


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