「深海電脳楽土 SE.RA.PH」におけるメルトリリスについて

@h2o2_178
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2017-05-08 00:25:16

結構な長さです

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 まず最初に、CCCでのアルターエゴ、メルトリリスのおさらいをごく簡単にします。メルトリリスはこの頃から恋多きAIというか、主人公であるザビやルートによってはエミヤに恋をして、しかしその間違った在り方を否定され、それが故に敗北します。
 間違った在り方とは、つまりあまりにも一方的で独善的な愛の押し付けです。自分が愛せればそれで良い。愛される対象がどうであるかは問題なく、愛せる器があるのなら心さえどうでもいい。対象をなんとも思っていない。自分の気持ちしかそこにはない。だからやっぱりそれは恋愛ごっこであって、誰かに愛される筈はない。愛されないのは怪物だからではなく、その在り方が間違っているからに他ならない。
 そんな風にして敗れていった快楽のアルターエゴです。

 今回のCCCコラボイベント、「深海電脳楽土 SE.RA.PH」のメルトリリスはどうだったでしょうか。先に断っておきますと、詳しくは後述しますが、「深海電脳楽土 SE.RA.PH」ストーリーにおけるメルトリリスと、カルデアに召喚されるメルトリリスは少し違った存在と私は捉えています。ですから今からお話しするのは、「深海電脳楽土 SE.RA.PH」におけるメルトリリスです。
 端的に申し上げれば、この物語は無残な終わりを迎えた恋を逆戻りして、綺麗な終わりを迎えさせる恋の物語でした。愛なき獣を愛によってねじ伏せる物語でした。

 思えばメルトリリスは、ストーリーの第一幕、二回目ぐだ達に出会った時から、既に満身創痍でそこに立っていました。彼女は既に何十騎のサーヴァント達を倒した後、キアラに打ち負かされ、両腕を壊され、パッションリップとの合体宝具によって、BBすら「A級サーヴァントだろうと霊基は使い物にならなくなる」と評した時間跳躍を行った後でのスタートです。最早戦える筈もない身体でずっと戦い続けていました。ただでさえそんな状態で、SG戦も経て、身体が動かなくもなりながら、少しばかりの休憩の後キアラと戦う為について来て、またヴァージンレイザー・パラディオンを繰り出すのでした。
 結局、ぐだには何も告げないまま。最後まで隠し通し、ひた隠しにして、その恋に殉じる事を良しとしました。
 彼女を支えたものはなんだったのか。

 初めてできたマスターという存在と共に戦い抜け、勝者となり、しかしキアラを前に無様にも完膚無きまでに敗北し、目の前でマスターを喪った、それでもマスターを救うと誓った、何を擲ってでも救い出すと決めた、戦えない身体で戦い続けた、それでも二回目のぐだには何一つとして告げなかった、あまりにも気高い在り方を、どうして貫き通す事ができたのか。そもそも、どうしてそんな事が、あのCCCにおけるメルトリリスと違い過ぎる行いが、可能であったのか。

 メルトリリスは一回目のぐだと、初期化された状態で出会います。つまりこの段階では、このメルトリリスはCCCにおけるザビと出会っていません。彼女の霊基に何かしら詰まっているかもしれませんが、言動から考えれば本当にまっさらな状態、本当の意味での空っぽの状態から始まります。
 何も知らなかった、何も持たなかったメルトリリスは自分の弱さを知っていて、マスターを力及ばぬ故に喪うのではないかと、夜ごとに泣いていたと回想にあります。そうしてアップデートされた彼女は全ての記憶を手に入れ、性能も元に戻り、性格も本来のものになり、それでも尚「弱かったメルトリリスも、醜かったメルトリリスも、私はずっと覚えている」と言います。ぐだと出会った、弱さを嘆き泣いていたメルトリリスも、愛の在り方を間違えたまま怪物としてザビに敗れ去ったメルトリリスも、全て抱えて尚、一回目のぐだにメルトリリスは語ります。
「貴方と過ごしたこれまでの経験を私は消去しない」

 一回目ぐだと、メルトリリスのふたりだけの聖杯戦争が、どのようなものであったかは知る術がありません。けれどぐだは確かにメルトリリスを信頼したのでしょう。ぐだはいつだって信頼ばかりで歩んできたような、善なる人間でした。
 だから、メルトリリスが得たものは、【信頼】に他ならなかったのでしょう。信頼されるという事。共に戦うという事。運命を分かち合うという事。それらは確かに、過去のメルトリリスは得なかったもの達です。だからすべてが輝いていて、誇らしかったのでしょう。
 キアラ戦の直前に、メルトリリスは二回目ぐだに「一番欲しかったものも、もう貰ってしまった」と言います。一番欲しかったものは、きっと信頼できるマスターであり、そのマスターからもらえる信頼だったのでしょう。
 疑う心があるからこそ、信じる事ができます。何一つとして秘匿する事がなく、何一つとして知らないところがなく、何一つとして判らない事がないのなら、信じる必要はありません。知っているのだから。どこか隠している事があって、知り得ない事があって、判り得ない事があるから、それでも生き物は信じる事ができる。見えなくても、そこにあると祈る事ができる。それは、自分とは別種の個体とだからこそできる事。ドレインし、一つになってはできない事です。
 メルトリリスはそれを知ったのではないでしょうか。

「もうすぐ、繋いだ手は離れてしまうけれど。もうすぐ、この身体は崩れ去ってしまうけれど。――でも、繋いだ心だけは、離れないわ」
 メルトリリスにそうまで言わせる一回目ぐだは、きっと最上の信頼を彼女に置いたのでしょう。
 厳密に言えば、一回目ぐだと二回目ぐだは別物と言えるかもしれません。サーヴァントも連れずただひとりでやってきた一回目ぐだがどうしようもなく死んでしまった事は確かであって、二回目ぐだはサーヴァントを引き連れ、異なる運命を携えて現れたのですから。だからこそメルトリリスも二回目ぐだに説明をしなかった。最後まで隠し通した。

 これは根拠の薄い憶測ですが、二回目ぐだに対しメルトリリスが試すような物言いと言うか、わざとぐだを跳ね除けるような言い方をする事は、SG戦で迷いなくぐだが自分を倒せるように、という意味があったのかもしれません。
 一回目ぐだは優しくて、メルトリリスやパッションリップを倒しきる事ができず、彼女達がセンチネルのままだったから逃がす事さえできなかった、とあります。だから今度は優しいあの人でもできるやり方でキアラを倒すとも。
 優しいぐだであっても、信頼しているメルトリリスを傷付ける事を厭わないように、あえて多くの説明をせず、導く事ばかりをして、そうしてSG戦に臨んだ。

 全てがぐだの為だった。ぐだの為にあらゆる無理を通して、あらゆる策を巡らせ、あらゆる苦労をして、あらゆる自分を擲って、カルデアに行けない事も判っていながら、それでも彼女は「一番欲しかったものも、もう貰ってしまった」と言った。
 ここにメルトリリスの本質があるように思います。
 彼女はしかし、こうであっても、CCCの彼女と根本は変わらないのです。
 CCCのメルトリリスは、自分が愛せればそれで良いと考えていました。愛される必要はない。このFGO、「深海電脳楽土 SE.RA.PH」においてもやはりそうなのです。メルトリリスは二回目ぐだに愛されようとはしていない。

「私は彼/彼女にとってただのアルターエゴ。それでいい。それでいいのです」
「愛して欲しくて戦ったのではありません。私は恋をする為に、湖から飛び立ったのです」

 自分からの一方的な愛情である事は、何も変わりがない。CCCの彼女と、「深海電脳楽土 SE.RA.PH」の彼女を明確に分けたものはなんだったか。
 CCCのメルトリリスは、ザビに「世界をあげる」と言います。でも、世界に自分は入っていない。メルトリリスは、自分なら簡単に手に入れられる筈のそれを、簡単に差し出す事はできても、自分自身を差し出す事はできなかった。自分の中に吸収する事でしか愛を示せなかった。それはたくさんを持っているものの驕りであり、矜持であり、それはそれで完成された考えなのでしょう。
 けれど「深海電脳楽土 SE.RA.PH」でのメルトリリスは、何も持っていなかった。何度も無力を味わった筈なのです。だから夜ごとに泣いた筈なのです。だからキアラにマスターの命乞いをした筈なのです。それでも叶わなかった。マスターはどうしようもなく喪われてしまった。

 そこで彼女は負けなかった。決定的に敗北はしたけれど、それを認めなかった。その場からは逃げてでも、まともな霊基を保てなくなってでも、過去の自分を都合で自壊させてでも、何一つ大切な事を言わなくても、愛される事が決してなくても、彼女にできる全てで、ぐだという存在を守った。
 持たない者が、それでもほんの少しだけ残っているなけなしの財産を、彼女は惜しみなく擲ったのです。それも考えなしに擲つのではなく、ぐだが生き残る最大の可能性の為に、計算し尽くして無理を通して少しずつ擲っていったのです。
 だって彼女は信頼されたから。ぐだに、惜しみなく与えられたものがあったから。ただその為だけに殉じたのでした。

「自分の恋<ゆめ>は自分で守る」
 恋を夢と知っている。それが現実にならない事を知っている。自分が怪物である事を知っている。人と恋できない事を判っている。それでも尚、守り抜く。それが強さでなくてなんなのか。それが愛でなくてなんなのか。
 こんなにも高潔な、それでいてあまりにも愚直な積み重ねを奇跡のように、痛みを引き摺り過去を抱え歩んできた、プリマドンナの一撃が獣を殺す。

 パッションリップが言いました。「メルトを救ってくれてありがとう」。

 カルデアで召喚に成功したメルトリリスは、「深海電脳楽土 SE.RA.PH」の彼女とは違うのでしょう。それは「深海電脳楽土 SE.RA.PH」での彼女の核からできたメルトリリスであって、新しい彼女なのだから。けれど残るものがきっとある。何度だって恋をすれば良い。それはもう間違った愛ではないのだから。
 愛を知らぬ故に敗北したアルターエゴは、しかして愛を知る故に人類悪に勝利するのでした。
 
 願わくはカルデアでのメルトリリスの毎日が、もっともっと輝くと良いと思います。その恋の在り方は、もう間違っていないのだと知る日がくれば良いと思います。
 そうしていつか、愛する人の前でもう一度、プリマドンナに微笑んで欲しいと思います。

 ここまでお読み頂きありがとうございました。



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