どストライクなリクエストありがとうございました!!珍しく付き合ってないところから始まる土銀です。色々ふわっとさせてるのでどうかふわっと読んでください……
@2ruk21r0s
「痛むか」
「ん、ちょっと、かな」
「……そうか」
嘘をつけ、何がちょっとだ。そもそも多少の痛みなら誤魔化しきれてしまうこいつが、声の表情を隠せない程に苦しみ、素直に痛みを認めているのだ。相当辛いのだろう。
「あと少しで、応援が来るから、それまで耐えろよ」
「…………」
「おい、聞いてんのか、聞こえてんなら返事」
「……聞い、てるよ、うっせェ」
とは言われたものの、ここで意識を失わせてはならない。
腕から流れていた夥しい血はスカーフで縛り上げて止め、コンテナ内にあった工具を借りて骨折しているであろう片足は固定した。俺の今出来ることはこれだけ、あとは、意識を飛ばさせないように話しかけることだけだ。
「ほんとにまあ、テメーはトラブルに巻き込まれてばっかりだ」
「…………」
「返事をしろってんだ」
「…………ん、ね、なんでかね」
うるさいと怒られてもなお話しかけたが、文句は言わなかった。恐らく俺がどうして話しかけているのかはわかっているのだろう。
「……俺、は、依頼うけてる、だけ、なんだけど、なぁ」
「そもそもの仕事が胡散臭ェってことだな」
「うるせ。まあ、そういう、仕事も、世の中には、必要ってこと、だよ」
「……それで死にかけてんだから世話ねェや」
「……お前も、似た、ようなもん、だろ」
まあ、斬られたのが俺かお前か、今回の違いはそれだ。だが俺は攘夷浪士を相手にする警察で、この男は一応一般人。その違いは大きいだろうに。
「……ふ、くぅっ……」
万事屋が大きく身じろいだので、近づいて様子を見る。微かな光しか入らないコンテナの中は相当薄暗い。酸欠になる恐れもあって日は使えず、今何より使えるのは触覚だ。
「万事屋」
声をかけて額に触れた。汗が酷い。触れていくと酷く顔を歪めているのがわかる。
「……っ、はっ」
「おい」
「ふ、っく……っあぁ、っぁ」
急に、もがくように身体をよじる。固定するのに添えた工具が、床に当たって、ガン、と鈍い音を立てる。
「はぁ、はーっ、は、っあ、」
「ちっ、」
異常な呼吸音、過呼吸にほかならなかった。酷い痛みのせいだろうか。落ち着くように背中をさするも、それで落ち着けるわけがなく。
「ちょっと、我慢しろよ」
あっちこっちへ、苦しさを逃がすように動く首を、髪の毛を引っ張って抑える。痛いだろうが、しばしの辛抱だ、と口を塞いだ。パニックになっている彼に唇を噛まれるも、構うものかと呼気を送り込んだ。銀時の呼吸が整うように、ゆっくり、ゆっくり。
「……ぅ、ぁ、はぁ、っはぁ」
暴れなくなった万事屋からゆっくり口を離すと、荒くも正常になった呼吸音が聞こえた。
「……うぇ、はげるかと、おもったわ」
「そっちかよ」
「…………だ、って、すげー、ひっぱる、から」
軽口を叩いてはいるが、そのレスポンスは随分遅い。
「寝んなよ」
「わぁってる、ってば、」
そうは言っても、彼の限界がすぐそこまで来ているのはわかっていた。ああ、早く。
「……ひじかた、」
「なんだ」
「おまえ、で、よかっ、たわ」
「あ?」
「だか、ら、おま、えが……」
「なんだ」
聞き返した。が、その後の返事がない。
「万事屋」
揺すっても、ただ身体が揺れるだけ。
過呼吸になると著しく体力を消耗してしまう。くそ、落ちたか。
「おい、起きろ、この馬鹿!」
強く顔を引っぱたいてやった。寝かしてやるものか、と必死に。しかし、いつもならすぐにやり返してくる手は出てこない。普段の喧嘩がこんなにも恋しいとは。
「なぁ、言えよ、俺でよかったってなんだ、最後まで言い切れ!こんなとこで死ぬ気じゃねェだろうな!」
息を殺して応援を待っているのも忘れて怒鳴ってしまった瞬間、コンテナの扉が開き、見慣れた隊服が入ってくる。任務の報告も遠回しに、重症人がいる、と言えば慣れた動作で万事屋を運び出してくれた。
もう助かるぞ、だから、まだその瞳、閉じきるんじゃねェぞ。何度も何度も呼びかけながら、驚くほどに青ざめていた顔を見つめた。
*
「あんときはほんと、お世話になりまして」
「本当だ馬鹿野郎、死ぬ手前だったのわかってんのか」
「わかってますわかってます、こんな美味しいお酒を飲めるのも土方くんのおかげです」
「そう言うくらいなら今日くらいテメェもちだろうな」
「一ヶ月まともに仕事出来なかったんだから金なんてあるわけないでしょ」
「そうでなくても金は年中ねェだろうが。何威張ってやがる」
あれから一ヶ月。驚異の生命力を持つらしい坂田銀時は、出血多量でそれはそれは生死の淵をさまよったらしいが、そんなのが嘘だったかのように見事回復を遂げた。リハビリも順調で、松葉杖の補助が今日からなくなり、一杯なら酒も飲んでいいと医者から許可が降りたらしい。俺はその祝いとして何故か駆り出された。もちろん目的が財布なのはわかっている。
「まぁ、いい加減に懲りて一般市民らしい人生全うしろってことだな」
「一般市民やってんだけどねェ、これでも」
どの口が。自覚のない阿呆はこれからも何かやらかすだろう、と思うと頭が痛い。
「まあでもね、素直に今回はやばかったし、お前さんにはほんと感謝してますよ。今度なんか奢るからさ」
と笑って言った。全くだ、もう。やばかったのだ、本当に。俺だって心臓が止まりそうなくらい動揺してたんだ。止まらない出血に、落ちそうになるお前を起こし続けたこと、まあ結局落ちたけど、そんで過呼吸になったお前を助けてやったこと……。
「……ああ、そう、そういえば、お前、覚えてんのか」
「何が」
「なんか言ってたろ。俺で、よかった?とか、なんとか」
「…………はい?」
「落ちる直前だよ。覚えてねェのか」
俺でよかった。その意味をはかりかねていた。だって、いつも喧嘩ばかりの、嫌いであろう俺の前で弱った姿を見せるなど、こいつにとっては屈辱に他ならないのではないか。あれからつい、そのときを思い出しては、妙な自惚れが頭を過ぎって、そして首を振った。そんなはずない、と。だから、この場で、確かめたかった。その真意を。
が、万事屋は返事をする前に立ち上がった。はて?
「おい?」
「……わり、まだ本調子じゃないみたいで、俺、帰るわ」
「あ?」
さっきまであんな元気に飲んでいたくせに。俯きがちにいうこいつの言葉が嘘くさくて、肩を掴んでこっちを向かせた。まだ体力が全快でないせいか、その身体はあっさりこちらを向いて。
「……ーーっ」
頬を真っ赤に染めた彼が見えた。
どくん、と心臓が跳ねる。おいおい反則だろうその顔は。まさかな、なんてしまい込んでた想いが、跳ねた心臓から溢れ出すように全身を巡る。なんだこれ。嘘だろ、勘弁してくれ。こんなマダオ相手にそんな。そういう否定したい気持ちもあった、けどあっさり溢れ出す想いに飲まれて、俺はもう万事屋から目が離せない。
逃げようとする彼の腕を掴んだ。
「……なら、俺が送るから、その顔が赤い理由を話せ」
「……た、ただの飲み過ぎ」
馬鹿野郎まだ一口くれェしか飲んでねェだろう。なのに耳まで真っ赤な彼の心はもう丸わかりと言っていい。ああ、こんな感情知らなかった。こんなにも、愛おしい、だなんて。
今度は別の意味で、寝かしてやるものか。