X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

終幕:幸福を見守る彼らの話

全体公開 2 3442文字
2017-05-14 11:43:49

後日談的なあれそれ。菫青さんと粧飾さんをお借りした。

図書館の受付があるエリアは、たくさんの人間が行き来していた。このエリアでは受付カウンターや様々な手続きをするためのカウンターが大量に並んでいた。
本の数は少ないが、ホールのように大きな入り口や様々な部屋へとつながるためのドアが壁にあった。
また、少しもスペースを無駄にしないためか、壁にはぎっしりと本が詰まっている。
それらは高い天井のぎりぎりまで置かれており、壁には高い天井付近までの本をとるためか、壁に沿って廊下のような歩行スペースがあった。
一定の間隔で階段がつけられ、上へと登ることができるようになっている。
ぐるりと壁沿いに円を描くように伸びている廊下のようなそれには、落ちないようにか木製の手すりがついていた。
なめらかに削られた木製のそれは、とても手の込んだものだとわかる。
そんな壁際の歩行スペースで、二人の男が、図書館の受付でやり取りされているさまを遠くから眺めていた。
一人は、男というには少々幼さすぎる、空色の目に紺色の髪をした少年だ。白いワイシャツの袖は、長すぎて手が見えない。首元には赤いリボンをし、リボンの中央には彼の目に似た色のブローチがついている。
少年は手すりに壁側を背にして座り込んでいた。その全身はわからなくとも、投げ出された足の細さでその少年の小ささがわかった。
となりで手すりに肘をついて身を乗り出している男は、まるで藤の木の花のようにあでやかな男だった。
青年のような顔をしているが、その眼はまるでいくつもの時代を渡り歩いてきた宝石のようだ。すべてを知っているのに、何もかも知らない。硬質な宝石のような瞳は、青みがかった紫色で、同じ色をした髪の間から少年と同じところを見ていた。
かつん、と床を叩く音がした。靴が奏でた音に、少年も男も動かない。
「ずいぶん、遅かったね」
そう言って、少年は視線だけを、右手の、藤の木のような男がいる先に向ける。
「出遅れましたか」
そう零して、少年と男の先に視線を向けたのは、金色の髪をまとめている赤い目の女だった。
美しい、と表現してしまうことは簡単だが、その女はどこか人間味のない、ひどく作り物のような印象を与えた。人形が間違って動いてしまっているような、彼女の美しさは人とは違うところにあるそれだった。
「いや、ちょうどこれからだよ」
赤いドレスをさばきながら少年の背後を通って、左手に立った女は、人形のように感情のない表情で眼下を見下ろした。
三人の視線の先は、二人の青年がいた。
一人は白い白衣を纏った、中性的な青年だ。暗い色の髪を後ろに一つに纏めて青い目を輝かせながら、隣に歩く男に話しかけている。
となりを歩く男は、苦々しい顔をしながら、それでも顔を緩めて何かを言い返していた。
その二人の顔を何と言えばよいのか、三人は知らなかった。けれど言い表すなら、それはきっと、とっておきを食べるようだというべきなのだろう。
二人は学者に関する受付カウンターで、受付に何かを言っていた。
「・・・ずいぶんあっさりと祝福するんだね、あれだけ手を回していたのに」
青年が視線をそらさないままそう零した言葉に、人形のような女が少年に視線を向けた。
「君たちには苦労をかけた」
少年は視線の先で二人の男が笑いあっているのを眺めながらそう言った。
「ずいぶんと、あの猟人という方に、手厳しいのですね」
女も視線を戻し、二人の男が笑いあっているのを見やる。
まったくだよ、と苦笑する藤の木のような青年は、隣にいる少年の横顔を眺めた。
「おかげで僕は、あの勇者にえらい警戒される羽目になった」
「猟人の勇者に直接誤解だというより、彼の恋人に話したほうが早い。今度、リサに君を紹介しよう、菫青の」
菫青、と呼ばれた青年は、ありがとうと一応の礼を述べてから、視線を戻した。
視線の先で、二人は手続きを終えたのか、受付カウンターから離れようとしていた。
白衣の青年が目つきの悪い青年を引っ張って、別の方向へ向かおうとしている。
「・・・あんなに手を回さずとも、よかったのではないですか」
二人が笑いあうのを見ながらつぶやいた女に、まさか、と少年は肩をすくめた。
「獣究に『レディ』をつけ、かつ君を陽動として動かす意味はあったさ。菫青のことを獣究を狙う敵として認識する可能性も考えていたしね」
少年はあっさりとそうつぶやいた。
少年の隣にいる左手にいる女は、獣究の勇者の護衛としてともに連れ立っていた『レディ』に瓜二つの外見をしていた。違うところといえば、彼女には子供のような無邪気さはその顔になく、ただただ完成された芸術品のような『美』があるという点だった。
「君が獣究たちのいる街に合流したり、離れたりとしてくれたおかげで、猟人にはかなり分が悪い捜索となっただろう」
おまけに僕までいたしね、と少年も女にも視線を戻さないまま、菫青はつぶやいた。
「ひたすら情報を撹乱して痕跡を消す・・・ずいぶんと手の込んだ逃亡劇だ」
手厳しい、という言葉通り、猟人の勇者はかなり情報が制限されていた。おまけに次から次へと仕掛けられた罠をすり抜けながら獣究の勇者に追いついた。
それらを加味すれば、猟人の勇者の能力は称賛されるべきものがあるだろう。
「僕はリサの望みを叶えただけだ。恋も愛も、目に見えぬものはよくわからない」
だけど、と少年は他の展示の前にいる二人の男を遠くから眺めた。
二人の前には赤いドレスをきた、骸骨が椅子に座っている。白く美しい骨は陶器で作られたかのようだ。花のような白い指先が、ゆっくりと動く。
骸骨は、眼のない眼窩で遠くの少年を捕らえた。
彼の眼に、その骸骨に重なるように、左にいる女と同じ顔をした女性がわずかに映る。透明な姿の女性は少年に微笑むと、その口を開けて歌い始めた。
「だけど、愛ゆえに殺された彼女が、リサと猟人の勇者を『幸せだ』というのだから、これでいいのだろう」
「あいですか・・・」
少年の声に平坦な声で応じたのは隣にいる女だった。
少年は顔ごと、『レディ』によく似たそれに視線を向ける。
「その『体』はどうだい?よくできているだろう、粧飾の」
粧飾はこの体の手を見た。
まるで人のように、脈打つかのような肌。けれど美しさを損なわない白い陶磁器のような滑らかさは、どの人形よりも人間らしく、そして美しい。
「それが人形だっていうんだから、君はすごいよ、書館」
苦笑交じりに言われた言葉に、書館は菫青に向けて、首を傾げた。
「そうかな?僕はより人間らしい人形、を作ることにしか重点を置いていない。だから、僕が作る人形は人並みの能力しかないよ」
人にしか見えない人形を作り出してしまう少年の異常さに怯えるものはこの場にいなかった。
菫青もそうかあ、というばかりで、遠くから聞こえてくる歌に耳を傾け始める。
「だから粧飾」
呼ばれた人形は、書館のほうを向いた。無機質にさえ見える表情は、人形特有のものでなく、心の形そのものなのだろう。
「その体は、腕が取れれば血が流れて痛みが走る。感情が動けば、涙さえこぼれる。女の体であることが申し訳ないけれど、人並みでできていることは確かだ。よければ使ってくれ」
その言葉を聞いた『レディ』に瓜二つの美しい見た目の『彼』は片眉を上げてく、と口元を歪めた。
「世にこんなに人間のような人形があるとは知りませんでした。『俺』の見聞は、まだまだ狭いようです」
女らしからぬ表情と粗雑さは、その見た目と全く合わない。だがそれこそが彼の個性であり、非難するものなどこの場にはいなかった。
「僕よりは広いと思うけどな」
菫青のそんなつぶやきに、書館は呆れたように息を吐いて、歌う骸骨に目を向けた。
「いきなり薄汚れた人形が菫青を担いできたときは何事かと思ったよ」
「僕ははじめてここで僕が菫青なんだと知った」
二人のやりとりに粧飾は苦笑して目を細めた。
「君が勇者なのは間違いがない。同じように宝石の名前を冠する勇者を探してみたらいいよ。君の記憶の手掛かりになるかもしれないだろ、菫青」
まあ、と粧飾は二人のやり取りを抑えるように、骸骨に視線を向けた。
「今は、あの二人の祝福の歌を聞きましょう」
無言でうなずいた書館と、そうだねとはにかむように笑う菫青は、粧飾がするように、二人と歌う骸骨に目を向けた。
祝福の歌を聞く彼ら三人は、遠いところでたしかに幸福を祈っていた。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.