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答えなき争い

全体公開 7675文字
2017-05-21 18:36:45

望さん奪還ゲーム・・・書館の戦闘が・・・・書きたかったんです・・・

今日はいい日だったとか、今日は悪い日だとか、そういった感慨は彼にはない。しいていうなら読みたい本が読めなかったとかそういったことに関して多少の心境の変化はある。だが、それらの心情の変化が突き詰められて、良い悪いの判断に行きつくことはない。
天気の良さも、彼には関係がないことだ。
何せ一日中、外へなど出ないのだから。
変わらない日常はぬるま湯のように過ぎていく。
進んでいるのかいないのか、それすらよくわかっていない。
しかし、文字列に常に目を這わせている彼にとってみれば、それこそ全くどうでもよいことだった。
進んでいようがいまいが、彼には関係がない。
彼の体は朽ちることもない。老いることもない。
あまり好きではない自分の赤子のような手は、きっと明日も変わらない。
劇的に変化することなどない。
成長も衰退もないのだと、彼自身が良く知っていた。
魔力が人体に有害かそうでないかについて研究を行う研究者が何人か彼の国にはいる。それらの論文を読んだ感想の如何はともかく、彼自身としては、魔力は善いものではないのだろうと思っていた。
魔力は自分の体には負荷が大きすぎる。
幼いころ、実験のときに手で魔法陣に触れていた。魔力が流れる文字列の円環。その流れに常に触れていた手は、発育不順で、体よりも小さく、己の体からしてみれば不自然なほどにちぐはぐだ。
この手は、将来的に自然にどうにかなるものではない。
成長しなかった、というだけだが、だからといってこれから成長していくものでもなかった。
彼の手は、奇形な手の形になってしまっている。
醜いとまではいかないが、人は人とは違う見た目を恐れる傾向にある。奇形な自分の手は、人にはさらすものではない。いくら情動の鈍い彼とて、それぐらいは弁えていた。
いくら自分が文字通りの『勇者』であるからと言って、すべてが受け入れられるわけではない。
それぐらいは理解している彼は、長い袖の下で、ゆるく拳を作った。
「ニーナ」
ささやき声に視線を向けると、赤く長い髪を後ろで束ねた男がこちらを見下ろしていた。
彼は観覧席で来賓用の席に座っているので、当然傍に立ったままの男は彼を見下ろすような形になっている。
とはいえ、彼は幼い少年だ。
もとから同じように立ったとて、目線は同じことなどはない。
「気分でも悪いか、それとも、飽きたか」
気遣う言葉に、ゆるく首を振った。
もともと面白くもない職員の戦闘訓練の視察だ。ただ座って見ているだけに、面白さも何もない。
自分が作り上げた人形や、義手や義足をしている者の戦闘訓練ならいざ知らず、とくに目ぼしい者もいない。
警備を担う司書の視察は、どれも肉弾戦が主で、単純な体の強度が焦点だ。
幼い体をした自分の体に取り入れられることなどない。
彼はどうあっても体は子供で、成人の大人には劣る。そこだけはどうしようもないのだ。
だが、彼が見ているだけで職員のやる気が変わるのだという。
彼はまったく理解できないが、自分が理解できない分野を理解している傍らの側近が言うのだから仕方ない。
彼とて、国の中で自分が象徴的な『勇者』という、偶像的な側面があることは十分に理解している。
憧れを抱くもの、自分を目標とするもの、恐れるもの。
人それぞれの思いをどうであれ、何かしらの想いを受けているのは彼自身わかっていた。
だからこそ、そういう側面を利用しているのだということも、側近から説明されて知っている。
だが、それでどうして彼が見ているだけで職員のやる気につながるのか、彼は全く分からない。
いっそ全員と自分が殺し合いでもしたほうが良いではないのかと思いさえするが、それでは職員全員を殺してしまうかもしれない。
そういった諸々は、彼には図りがたい。だからそこについては、彼は側近に一任していた。
こんな子供が見ているだけで、どうして職員の意識向上につながるのかと、彼は小さく息を吐く。
だが、側近が必要だというからそうなのだろう、と納得さえした。
紺色の短い髪は、ぐしゃぐしゃにはねていた。犬のようにひょこ、と立つ癖を治しもしないまま、彼は大きな空色の目を階下に向けている。
広い訓練用のホールのような部屋で、静かに戦いあう彼らを高い位置から見下ろす。来賓のために設置された椅子に座って考え事をしながらぼんやりとしていれば。
【ひひひひ】
と、笑い声が彼の耳に届いた。
その瞬間、静かに響いていた剣戟の音が止まった。
なにごとだ、どうした、なんだ、とざわめきが広がる。
【くすくすくすくす】【けたけたけた】【いひひひひひ】【あはははは】
いくつも重なる笑い声は、哄笑のように部屋に響く。
その音が不愉快だと、彼は側近を見上げた。
「ねぇ、アベ」
る、と呼びかけようとした瞬間。
びゅ、と空を切る音が走り、彼の目の前を白い閃光が走った。
「うぐ」
側近が、彼の座る席の後ろの壁まで吹き飛ばされる。視界から消えた姿を追えば、飛ばされた体を貫いた一筋の閃光はアベルの体の中心を抉っている。
ずる、と崩れ落ちるのと同時に、壁に赤い絵の具で落書きされていく。まるでこぼした絵の具を拭ったようなそのあとは、床に水たまりを作っていた。
「アベ、ル」
【いひひひひ】【あははははは】【くすくすくすくす】【けたけたけたけた】【うふふふふふ】
呼びかけた声を消すように、笑い声が大きくなる。
ああ、ひどく不愉快だと、ちりちりと苛立ちのようなものがくすぶった。それは確実に彼の少ない感情を焼き、怒りに変えていく。
「うる、さい」
小さくつぶやいた声は、ざわめく階下と笑い声に邪魔されて届かない。
いつもは声を上げればすぐに静かになるのに、と彼は日常を思った。今日は悪い日だとか、良い日だとかは彼は思わない。
今日もまた、ぬるま湯のような日常の一日だからだ。
側近を治さなければ、と頭を回しながら、壊されたことに手を握りしめた。
壊れたということは、壊した相手がいるということ。
彼の経験から、壊そうとする相手は、同じことをしていいと知っている。それは今日まで続く、ぬるま湯のような日々からの経験則だ。
殺すものは、殺される覚悟を持たねばならない。

「うるッさいなああああああッ」

吠えた声に、力がのった。
ご、と彼の魔力が波動のように広がる。意図しない力のこもった咆哮は、部屋内に響いた。
ざわめいていた人間の声が一斉に止み、ただ一貫性のない笑い声が、彼の耳に聞こえてくる。
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい」
癇癪を起したようにつぶやいた彼を慰めようと手を上げたのは、アベルだった。
「にーな、あのな、俺は平気だからな」
「うるさい」
ゆらり、と少年が立ち上がる。うつむいたせいで前髪に隠れ、その表情はわからない。
観覧席につけられた手すりの上にふわりと浮いて立つと、彼の足元の影から、魔物がするりと姿を見せた。
それはさながら、巨大な白い鳥のようだ。人の形をしているが、両腕は鳥の翼である。背に無数に生えた対の翼も、腕に劣らない大きさをしている。大きな爪が生えた足も鳥のそれであり、足首から膝にかけて茨が巻き付いている以外に特筆すべきものはない。
しかし、上半身と顔は、人間のそれだった。上半身の胸元には縦一文字に裂けた傷のようなものがあり、そこから足首あたりに巻き付いているのと同じ大きさほどの茨がいくつもあふれている。
幼い少年の背後に守護者のように控える魔物の姿はさながら親鳥と雛のようだ。
人間の顔をした魔物は、少年の敵は自分の敵なのだと同じように階下を睥睨している。
白い翼の魔物は触手のように伸ばした茨の一つで、アベルの胴体をつかんだ。
【いひひひひひひひ】【あっははははは】【けたけたけたけた】
「・・・うるさいなあ」
未だ笑い声を上げる魔物を視認した少年がそう零す。
その言葉に、壁際に避難した職員一同が青ざめた。
幼い少年のまわりだけ、ゆらりとした、濃度の違うものが漂っているのが、彼らにも見えている。
それは魔力という、目に見えないものの塊だった。
そう、本来目に見えないものが、目に見えるほど放出されている、という事実。
その事実だけでも十分に背筋が凍るものがある。
だが、きちんとした教育を施されている彼らにはよくわかっていた。
今の状態は、ただ魔力が意図せず漏れているだけであり、本人は少しも魔法を使っていない、ということが。
それはその幼い少年の魔力の保有量の莫大さを如実に表していた。

「しね」

舌足らずにつぶやかれた物騒な言葉と同時に、白い翼の魔物の茨が走る。
階下には、巨大な逆三角形の顔をした魔物が笑い声を上げていた。
逆三角形の頭には、にたり、と細められた三日月のような眼が、一つだけ浮いている。体は人間の体のようにあり、針金のように細いが、頭と手がつながっていなかった。手は六つほどがゆらりと体の周りを漂っている。
まるで手と頭と胴体がちぎれた、捨てられた人形のようだ。無惨にちぎれたがらくたが集まって、魔物の体をなしている。
その大きさは三メートルほどだろう。
自分の魔物よりも巨大だ、と彼は静かに見下ろした。走った茨が、逆三角形の魔物の体を貫こうと迫る。
けれどそれより早く、魔物の二つの手から白い閃光が走った。
ご、と焼き尽くすように走った閃光に、茨は焼かれてしまう。一つは彼めがけて放たれており、少年はちらりと後ろを見やった。
「かたいの」
と、それだけつぶやけば、彼の前に白い翼の魔物ともども覆うような硬質な宝石のような壁が一瞬で作り出される。
それは逆三角形の魔物の攻撃ですぐに壊されてしまい、彼はぱらぱらとガラスのような欠片が砕けて散ってゆく中、空色に光る双眸を瞬かせた。
紺色の髪の間から、爛、と青く光る眼。
幼い少年のその姿は、そこにいる職員を震え上がらせた。魔法陣もろくな詠唱も必要としない少年の魔法に、背筋を冷たいものが伝ってゆく。
少年は手すりから下へと降りた。
ふわりと着地した少年を追うように、白い魔物が巨大な翼で風を作り出して続く。白い魔物はアベルを己の後ろに降ろした。
逆三角形の魔物と相対すれば、白い翼と茨の魔物を従える少年は、ひどく小さな存在だった。
二匹の魔物の間にいる少年は、異質なほどだ。物理的に小さく、だからこそ放たれる魔力の強さが恐ろしくもあった。
「イリュドリョウスじゃ分が悪い」
平然とつぶやいた彼は、どう攻撃するかと次の手を考える。とりあえず攻撃をぶつけるか、と氷の柱を宙に作り出しながら、逆三角形の魔物にぶつけ続けた。しかしすべての攻撃が、その手から放たれる光線に砕かれていく。
『にーな!』『ニーナ』
どうしたものかと、考えながら攻撃をし続ける。そうしていれば、自分を呼ぶ声が影の中からいくつか響いてきた。
それは契約した魔物たちの声だった。
普段あまり呼び出さない彼らは、戦闘の気配を察知すると、喜々として自分を使えと主張する。
ニーナは一向に契約しているすべての魔物を出現させても構わないのだが、それは側近に怒られるので、普段は控えていた。
けれどこのときは、深く考えずにおいで、と、とんとん、と自分の影をつま先で踏んだ。
そうすれば、彼の足元から円形の魔法陣が広がる。鈍く赤い光から、ずるりといくつかの魔物が姿を見せた。
一匹は、蛇のような体に、ヒレを持つ青いドラゴンだ。巨大な体は、逆三角形の魔物を見下ろすほどである。
もう一匹は、巨大なトカゲのようだった。しかし、体はとげのような硬質なダイヤモンドのようなもので覆われている。背にある巨大な翼さえ硬質なものでできているが、不思議となめらかに動いている。このドラゴンも蛇のようなドラゴンと並び立つほどに巨大であり、部屋を圧迫していた。
最後の一匹は、人魚だった。金色の長く美しい髪に、下半身は魚のような尾を持っているが、上半身はやわらかな女のそれだ。
人魚の大きさはアベルよりも少し大きいかそれほどで、人魚は空中でふよふよと浮かんでいた。しかし、すぐに少年のもとへと近寄る。
人魚は首に腕を回して少年に抱き着くと、好意を示すように頬をすり寄せた。
『あら、シュトローム、あんた邪魔じゃないの?私一人で十分よ』
硬質なガラスのような体でできたドラゴンは、自分の横にいる蛇のようなドラゴンをにらみつけた。
『相変わらず口だけは達者だな、キオーン』
シュトロームにそう返した蛇のような体のドラゴンは、ふん、と鼻を鳴らした。
『はあ?ニーナが呼んだのは私ですけど』
『俺だ』
ぐるぐると喉を鳴らし合うドラゴンに周囲は震えあがっていたが、アベルは背後で頭を抱えていた。
「久しぶり、キオーン、シュトローム」
その間も氷の柱を作り続けていた少年の顔も向けない一言に、二匹のドラゴンは振り向いた。
『私のほうが先に呼ばれた!イエス!』
『おい、フィクス!いつまでニーナに抱きついてるんだ!うらやましい!』
呼ばれた人魚は振り返ることもなく、ニーナに顔を寄せている。
自由奔放なドラゴンたちに、さっさと戦えよ、とアベルは思っていたが、口にしなかった。
ドラゴンはもともと凶暴で、契約しているものなどほとんどいない。契約者以外の言うことは聞かないし、知能が高い分、余計なことを言えば殺されかねない。
『キオーンもシュトロームもはやくあれ倒して。ニーナが構ってくれない』
フィクスは尻尾をべちべちと床にたたきつけて頬を膨らませていた。
それを受けた二匹のドラゴンはす、と目の色を変えて逆三角形の魔物を見やる。
ごぁ、と口を開けて吠えたのは、キオーンが先だった。口から放たれた息吹は、鋭くとがったあまたの硬質な欠片を孕んで広範囲にぶちまけられる。
少年の作り出した氷の槍を破壊ために光線を作り続けていた手の二つほどが、それで潰された。
シュトロームもぐあ、と鋭い牙の生えた口を開くと、すう、と息を吸い込んでから息吹を放った。力強い流水が逆三角形の魔物の頭を吹き飛ばして、ついでに手を一つ潰していく。
二匹のドラゴンの攻撃の合間を縫って、ニーナが逆三角形の頭の魔物よりも高く飛んだ。
「しでん」
ニーナが己の頭上に手をかざすと、ばちばちっと紫電の塊ができた。
青い目をきらめかせながら、その手へ向かって大量の雷の雨を降らせる。
ぎゅう、と魔力の音がするほど、魔物が焼け焦げるまで、ニーナは紫電を放つのをやめない。殺意に揺れる幼い瞳は、何も考えていなかった。
ただ目の前にいる不愉快なものを消したくて仕方がないと、駄々をこねるかのように、ニーナはただ相手を壊すためだけに魔法を使い続ける。
もっと、もっとぼろぼろにしろ、と少年が力を籠める。魔力はさらに増大し、しっかりと少年の周囲が揺らぐほどになるまで濃度を増した。
びし、と空間にひびが入る音さえ走る。建物を揺るがすような強烈な見えぬ力を行使していた少年の体に、ぶち、と音がした。
ぶちぶちっと、何かが切れる音は、一本ずつ紐を切断しているかのようだ。
それは間違いなく少年の体から発せられた音だった。
じわ、と手の見えない長い袖に赤いものがにじむ。
けれどそんなことにも一切の脇目を振らず、ニーナはただ目の前の魔物を殺すためだけに力を使う。
【ひ、ひ、ひ・・・・】
やがて魔物の声が聞こえなくなり、どおおん、と一度、轟音とともに紫電を放つ。
「・・・しんだ」
そうしてようやく魔法の使用を止めたニーナは、ゆるりと手を落とした。
じわり、と腕や体に服の上から血がにじんでいた。彼はぶちぶち、といまだ体の中身が切れていく音を聞きながら、己の手を見やった。
『ニーナァ、おつかれさま~』
宙に浮いていた少年の小さな体に巨大な頭が顔を寄せる。キオーンがべろりと体をなめたので、ニーナはよしよしと鼻の頭をなでた。
ぶち、と体の何かをつるしている部分が切れていく。内臓や臓器がつぶれて出るのではないかと思っていると、ひんやりとしたものが体に触れた。
『あっずる、ニーナ!ほら、汚れ落としてやる!』
シュトロームはかぶり、と片腕を甘噛みした。水をつかさどるドラゴンだけあって、粘着性がない口の中でなめられながら、血が止まらない赤い己の小さな体を見やる。
今日は魔物を召喚しすぎた、と冷静に思う。
魔力を使いすぎた結果がこれだ。
魔力の負荷に、体が耐えきらない。
持っている魔力回路は人より強靭かもしれない。だが、そうはいってもしょせんは子どもの体だ。いくら保有魔力が莫大だろうと、こうしてはちゃめちゃな使い方をして耐えられなくては、力の持ち腐れだ。
魔力は自分の体には負荷が大きすぎる、と思う。
(だからどうして、と)
『にーなにーな、なんかイルが変なの見つけたよ』
血みどろのニーナを背後から抱きしめたフィクスに、イルドリョウスの茨が何かをこちらの目の前まで持ち上げてくる。
『うわっ』
キオーンが目を見張り、シュトロームも驚いたように顔を少し引く。
それは桃色の髪をした、幼い少年だった。人間の形をしているが、血の気のない青白い肌は鱗のようだ。頭には角が生えていた。片方の角は砕かれたように折れている。
うーん、と悪い夢でも見ているかのような少年に、正体を知っているらしいドラゴン二匹に目を向ける。
「二人は、それ、しってるの」
ぽた、と腕に伝う血の感触に、ばつん、と体の中で何かがちぎれた音が重なり、ニーナはぎし、と顔を軋ませるようにして笑った。
胃の中が、か、と熱くなる。流れ落ちるはずの食道から逆流してくる感触に、思わず口元を抑えた。
キオーンが目をそらす中、シュトロームはそんなニーナを眺めた。
『魔王だ』
シュトロームの言葉に、ごふ、と吐き出した血を掌で受け止める。
フィクスに抱きしめられるというよりは支えられるようにして、ぼた、と口の端からよだれのように血を滴らせる。
そんな状態で、小さな魔王を眺め、はあ、と息を吐いた。
血みどろの手元を見やり、自分は強くない、と冷静に分析する。
確かにあらゆる魔法を使えるかもしれないが、こうして戦いの場となれば、子どもの自分はひどく脆い。魔法など、本を読めば誰にでもできるだろう。
魔力の負荷が、自分の体には大きすぎる。その証拠にじくじくと痛む体を持て余して、ぼんやりとする。
『あーニーナの血はいいにおいねぇ』
『食べるなよ。ニーナを食べたら許さないからな』
『はあ?するわけないでしょ、ケンカ売ってんの』
キオーンとシュトロームが言い争うのを聞きながら、ニーナはとても久方ぶりに、思い出した。
ずっとずっと昔、自分の体をぼろぼろにしながら、この図書館を作ったときのことを。
何十年かぶりに、思い出していた。
(どうして、ぼくが)
己が、なぜ勇者なのか、と。




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