好きな歌で短編小説みたいなのを募集したら芥司書が来たので
捧げられても困るかも知れませんが、薄緑様に捧ぐ
タイトルの通りモチーフは鬼束ちひろの私とワルツを
好きな曲が後ポップンとか他に暗いのばかりだったのでこれで
@akirenge
【私とワルツを】
特務司書の少女は自室で目を覚ました。
眠れない。
たまにあるのだ。かつての夢を見て、眠れなくなってしまうことが。そのまま彼女は上着を引っかけると階段を降りた。
司書室を通り抜けて出ると、外に出る。
(良い天気)
夜に言う言葉ではないかも知れないが、穏やかな夜だ。
散歩をすることにした。とは言うものの、行動範囲というのは決まっている。月明かりがとても綺麗だ。
歩き続けていると、帝國図書館分館へとたどり着く。加護者が……自分の魂に宿り、利害の一致で協力をしてくれる本来は邪悪なモノ……が
仕事をしているならば勝手にドアを開けてくれるのだろうが、今日は開けてくれていない。
忙しいのか、それとも彼女も彼女なりに寝ているかは知らない。
持っている鍵束でドアを開けた。
開けたら、勝手に電気がついた。
「いるなら居るって言いなよ」
独り言のように呟いても返答が来ない。まあいいかと、彼女は適当に散歩を開始しようとした。
「司書さん? いたんだ」
「りゅーさん」
背後から声をかけられる。振り向けばいつもの着物姿の、芥川龍之介が居た。
「もしかして、司書さんも眠れないの?」
「眠れないのって。りゅーさんも」
「僕は原稿を書いていたらこんな時間になって、眠れなくてね。散歩をしていたら建物に灯りがついたから」
夜中でも明るい帝國図書館分館である。司書は首肯した。眠れないという部分だ。原稿については違う。司書は文豪ではない。
芥川が煙草をくわえて火を付けようとしたので特務司書の少女は止めた。
「アイツに怒られます」
「厳しいよね」
芥川は煙草をくわえるだけにしておいた。そのまま近づくと、芥川は彼女を抱きしめる。
腕の中に閉じ込めるように柔らかく彼は力を入れた。
「……疲れてても、眠れない感じで」
「どちらかといえば、気持ちがはっきりしすぎているというか前に聞いたシュークリームと栄養ドリンクの組み合わせでも試してみようかな」
「危ないから辞めましょう」
シュークリームと栄養ドリンクの組み合わせは危険だ。芥川はしばらく特務司書の少女を抱きしめていた。
「抱くのは、次かな。今ここでは、嫌だよね」
「嫌です」
違う意味の抱くが来たので特務司書の少女は断る。芥川は軽く特務司書の少女に口づけた。特務司書の少女と芥川は付き合っている。
唇に口づけられた。
「それなら、踊らない?」
「踊る……?」
「社交ダンス、出来るって聞いたよ」
「……ワルツなら、出来ますよ。最近やってないけど」
唐突に言われた。踊るというと何だかいくつも浮かぶのだが、芥川が提案したのはワルツだった。
社交ダンスが出来るのは休業している本職の一環でたたき込まれたからだ。ピアノもヴァイオリンも同列である。
「司書さん、僕と踊って欲しいな」
いきなり言われて手をさしのべられた。特務司書の少女は唐突すぎる申し込みに慌てながらも、その手を取る。取ったときに、ワルツが聞こえた。
ヨハン・シュトラウスⅡ、美しき青きドナウだ。レコードをCDに焼いたものだろう。かけた相手は分かっている。
(淡々と作業しているな)
何の声も聞こえないのに、と特務司書の少女は加護者に向かい、想った。
「舞踏会を元にした話、書いたんだ」
「知ってるよ。それは読んだ。――私は花火の事を考えていたのです。我々の生やうな花火の事を」
芥川龍之介は踊り方を知らない。それでも踊りたいなと言ったのは帝國図書館分館がダンスホールのように見えたからだろう。
特務司書の少女がリードしてくれている。つたない踊りだ。芥川は生前、舞踏会という話を書いている。終盤のフレーズを彼女は言った。
「司書さんは、生を花火って想っている?」
「だらだら生きるよりは良いかと。老害は醜悪で」
何かを思い出したのか、彼女が言う。淡々としていた。特務司書の少女は薄暗い仕事を、それこそ特務司書以上のことをしていたという。
「そう。僕は、そんな司書さんが、好きだけどね」
「いきなり……」
「司書さんは、僕のことは嫌い?」
「――好き」
照れるように、彼女は言う。そこも好きだ。芥川は優しく、彼女にしか見せない微笑みを浮かべたが特務司書の少女は見ていない。
顔をそらせている。
「ねえ、司書さん」
「ん?」
「司書業でも、何でもしんどいと想ったら、僕の名前を呼んでよ。駆けつけるから」
芥川龍之介は知っている。
彼女は抱え込みやすくて偽悪主義で、優しい。悪役を倒すと僕も悪役になるのかな、と呟いたら、そうじゃないですか? 嫌なんです? と問われた。
正義よりも悪というか偽悪を好むのは正義を振るうものにろくな目に遭わされなかったかららしい。
酷く死にそうな。思いをして。
酷く死にそうな、目に遭いながら。
それでも世界は美しいと心に留め生きる、かつての自分は死を選んだ。彼女は、きっと選ばないだろう。
「来てくれる?」
「絶対に行くよ」
信じられないと想いながらも、信じようとしているのが嬉しくて芥川は共に踊っている彼女を引き寄せてキスをした。
「それなら、嬉しい」
笑った少女が、愛おしくて。
芥川は笑顔と共に彼女を抱きしめる。ワルツの音だけが聞こえる。気が済むまで抱きしめて、抱きしめ終わればまた踊ることにした。
――この夜が、明けるまで。
明けても芥川は彼女と共に、ずっと居たいのだ。
【Fin】