鱒二が文アルカフェにいなくて良かったなぜならば居たならば私が死んでいるからだ(萌で)
そんなこんなで個別ルートというか原稿の没ルート後というかそんなんで
おっさんぬまにおちたことに後悔はしていない
@akirenge
【貴方と盃を】
明日は休日だ。そのために特務司書の少女は思いっきり仕事をやった。具体的に言うと浄化作業やその他色々だ。
「お疲れさん、よく頑張ったな」
「はい。鱒二さんも、お疲れ様でした」
二人しか居ない帝國図書館分館で特務司書の少女は井伏鱒二に返事をした。これから徒歩で帰宅だ。
助手は日替わりにするようにしているが、ルールとして本日の助手が特務司書の少女を食堂か、司書室まで送り届けるというものがあった。
季節は六月となっていて、蒸し暑くなってきている。
「夏が近いな」
「ここの夏は……猛暑じゃないと良いけど」
「暑いのは苦手か」
「過ごしづらいのが苦手で。体調も崩しやすいし」
分館の鍵を閉めなかったのは帝國図書館分館の本来の管理者がこれから細々としたことをやり始めるかららしい。
涼しい風が吹く中で鱒二の隣を特務司書の少女は歩いていた。今のところは緊急潜書もないため、平和なものである。
「体が弱かったって聞いているが」
「今はそうでもないけど、気をつけないと」
かつては、特務司書を始めた頃は良く気持ち悪くなったり、倒れたりしたが原因が原因だった。鱒二は自分に歩調を合わせてくれている。
それが嬉しい。
今は健康体でいる自分だが季節の変わり目は体調を崩しやすい。のんびり歩いて司書室の扉の前に行き、鍵を開けた。
「……かなり変わってないか?」
「変えたんですよ」
司書室には術式が組み込まれた。錬金術やら他の技術をベースとした技術であり、具体的に言うとパーツを配置することで司書室の印象を
変えることが出来るというものだった。今回の司書室には縁側が着いている。
この手の術式には慣れていた。特務司書ではない別の業務でずっと使い続けていたのだが司書室限定で組み込んでくれたらしい。
井伏が驚いたのも無理はない。前は窓だったからだ。
「縁側とか好きなのか」
「のんびり出来るので。良かったらここ鱒二さんも休みます? ……太宰さんのこととかで大変そうなので」
ゆっくりすることは重要だ。鱒二は最近来たばかりの文豪で、転生年齢はとても高い。師匠である佐藤春夫よりも年なのだ。
太宰治は文豪の中でも問題を起こしやすいというか騒がしいというか悪い者ではないのだが、トラブルメーカーと言えばトラブルメーカーだ。
「酒とかあるのか」
「ありますよ。おつまみも」
特務司書の少女は答える。自分は飲まないが、冷蔵庫の中にはあるのだ。司書室を改造したときにプライベートスペースにもようやく、
ミニキッチンをつけた。一人暮らし用のものだ。酒もある。
「それなら、いただこうか。晩飯は出来るんだろう」
「出来るよ」
表向きは最近転生したばかりの文豪と彼を転生させた特務司書だった。だが、ある日を境に、それは変わった。
「少しだけ待っていてくれ。一回、戻る。オジサン、ちゃんと戻ってくるから」
そう言って、鱒二は特務司書の少女の唇に触れるだけのキスをした。そのまま鱒二は司書室を出る。特務司書の少女は顔を赤くしながらも、
夕食の準備に取りかかった。
井伏鱒二を有魂書の中で見つけたのは栞に案内された宮沢賢治だ。
賢治に連れられて転生した鱒二は自身の師匠と、自身の弟子とそして特務司書の少女と出会った。
外見は十代ぐらいの茶色い髪を長髪にした緑の瞳の少女、アルケミストだ。
太宰と似たような年頃であり、師匠である佐藤からも気に掛けてやって欲しいと言われて気に掛けるようにしていた。
それがこうなってしまったのは、
「惚れて、釣られたせいだな」
夕食を食べ終わり、鱒二は縁側でビールを飲んでいた。酒については特務司書の少女が用意したのか日本酒やビールなどもある。
飲酒を好む文豪は多いため、プライベートスペースの方に一応は置くようにしたらしいが、飲みに来るのは自分だけで良い。
鱒二は縁側でビールと枝豆で酒宴をしていて、特務司書の少女は鱒二の隣に座っている。
側には彼女が飲んでいる甘酒が瓶に入っておかれていた。健康のために飲んでいるらしい。
「……ほれて、つられて」
「司書にだ。他に誰が居る」
付き合っているというか、恋人通しではあるのだ。特務司書の少女は一連のことを想い出して、戸惑いを感じていた。
「あたしも鱒二さんにまさか告白されるとは、って、見た目とかつり合ってないのに」
「でも、受けてくれたな。嬉しかったよ」
見た目がつり合っていないというのは鱒二も気にしていたことではあった。特務司書の少女を好きになっていったが、
外見の問題もあったのだ。転生年齢とかややこしいのはおいておくにしろ、好きになって良いのかと、鱒二としては気持ちを抑えつけていたところは
あった。それを辞めたのは、ある事件があったからだ。
「本に埋もれたときに鱒二さん、凄く心配してくれて……」
ある事件とは帝國図書館本館で起きた。
特務司書の少女が本館で本を取りに行ったら、地下書庫に案内された。いくつかある地下書庫の一つはとても狭く、本棚の立て付けも悪かった。
彼女は地下書庫に入って、目当ての本を取れたものの、立て付けの悪い本棚が崩れて、地下書庫が崩壊同然となり、特務司書の少女は中に埋もれたのだ。
その時の助手は太宰で、太宰は真っ青な顔をして分館に戻り、司書が死んでしまうと叫んだ。
真っ先に司書を助けにいったのは鱒二だった。
生命自体は何とか保証されたものの、特務司書の少女は怪我を負った。本は紙の束だ。重い。それが本棚もそうだが大量に降り注いだのだ。
鱒二は特務司書の少女の左腕を掴んだ。
「オジサンはな。司書を失いたくなかったんだよ。アルケミストとか特務司書と言うことを抜かしても、だ」
そのまま引き寄せて、膝の上に座らせる。良い匂いがした。髪の毛を撫でる。
頭から血を流して意識不明の特務司書の少女を見たときに世界が冷え切った気がした。失いたくはないと、心底思った。
そして気がついたのだ。彼女を愛していると。
治療を受けている間、太宰では余計に混乱が広がると助手権限が鱒二に移動して、そのため、鱒二は彼女をしばらく一緒に居られたのだ。
怪我自体は治療に力を回したりしたこともあってか完治は速かった。
「目を開けたときに、鱒二さんがいてくれて、安心したし」
体の力を抜いて、特務司書の少女が鱒二に寄りかかる。鱒二は特務司書の少女の髪をかき上げると右の耳元の側に唇を押し当てて強く吸う。
咲いた赤い華を舌先で軽く舐めてから、なぞるように首筋に舌を這わせた。
「良い夜だな。酒も司書も美味いし」
「……あたしまで入れるのは」
声を抑え気味に言う特務司書の少女に井伏は笑いかけると特務司書の少女が目を伏せた。同意したとして、特務司書の少女の体を反転させて、
向き合うようにすると唇を吸った。角度を変えて何度も吸い上げる。
「良いか? 労るようにはするが」
唇を離して、鱒二が言う。これからのことを暗に伝えると特務司書の少女は黙った。
「頭撫でてからなら、お好きに」
「許されてるってことだな。オジサン、嬉しいよ」
鱒二は特務司書の少女の頭を撫でた。髪の毛をかき乱すようにすると特務司書の少女が鱒二の首筋に手を回してきた。
これから、互いに溺れてしまうようなことをしてしまう。
労るようにはしているが、たまにそれを忘れてしまうような。
「それと明日は買い物に行きたいな。ぬいぐるみとか欲しいし。……釣りは今度で」
「つきあうさ。それに釣りは今してるから良い。つり上げてから味わってるようなものだがな」
我が儘を伝えてきてくれて、それを受けて、互いにやりたいことをしつつも線引きをしたりして、そうやって過ごしていく。
そっと鱒二は特務司書の少女を床に押し倒す。
「私を、味わって」
「なら、遠慮無く。……と、その前に」
手を伸ばして、特務司書の少女が飲んでいた飲みかけの甘酒を鱒二は口に含んだ。そのまま彼女に口づけて口うつしで飲ませる。
「んっ……」
飲み干した彼女は唇を無意識に舌で舐めた。
それが余りにも扇情的で、鱒二はさらに味わいたいと深く彼女にキスをして、甘酒ではなく舌を入れる。
心置きなく、鱒二は彼女を味わうことにした。
【Fin】