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変わらぬ日常、望む未来

全体公開 2 3898文字
2017-06-11 09:49:29

FW3周年2次創作SS企画
「あれから3年経って」
咎人とアクセサリ。
最盛期にアク咎書いてましたので他のSSもよろしければ→http://privatter.net/u/YanagiSousaku

今日で3年だ。
ジュンは携行品の確認をしようと咎人管理メニューを開いてからそれに気付いた。
わけがわからないまま戦わされ、拘束され、記憶という最重要資源をロストしたのだと怒られよくわからないままに設定したアクセサリのアルーーアレックスと出会ったあの日から、3年。
もう3年も経つのかと思うと同時に、振り返ると長い道程だったなと感慨深い。
「ジュン」
記憶の海に沈み確認の手が止まったジュンにアレックスが呼びかける。
「過去の携行履歴から提案が必要ですか?」
「あううん、大丈夫。ありがとう、アル」
手早く確認を終えたジュンは、つとアレックスを見上げてボランティア協力申請を伝える。そしていつも通り笑いかけた。
「アル、今日も一日よろしくね」

***

最初の1年は激動だった。
初期の初期は碌に権利も解放されていなかったのでしょっちゅう刑期加算をくらい、する事なす事がPT法に触れるのではないかとアレックスにちまちま確認しながら行動した。ウーヴェやマティアス達と出会い、ベアトリーチェと出会い、皆でアーベルを倒し、カルロスに裏切られて刺された。フェロー達とガソリンで語り合い、敵対アブダクターを壊し倒して100万年の刑期を清算した。
最後は今だに続いていることではあるが、逆を言うと2年目以降はそれ以外特に何もなく平和なものだ。急激に力をつけて侵攻してくる他PTもいないし、天罰も頻度は変わらないし、サイモンからは何も言ってこないし、市民の席は空かない。
他PTと天獄はいい。そのままでいてほしい。サイモンもまぁ、いい。世界をひっくり返すようなことをしでかすのなら準備にも時間はかかるだろう。
問題は、市民の席だ。

***

『任務完了です。お疲れ様でした』
特殊T型の最後の脚をゴリゴリと溶断していると、アレックスから通信が入った。フェローが市民を搬送し終えたらしい。そこにいるので資源回収の為に(陽動も兼ねて)溶断していたが、本来の任務は市民奪還だ。
奪われた分だけきっちり奪還してしまうから自分の繰り上がる席も空かないのか、と考えなくもなかったが、そもそも二級市民の仕事について何も知らない。目の前の市民の奪還を失敗したからといって自分が座る辺りの席数に変動があるとも思えなかった。
自分はまだ咎人で、発行されたボランティアがある。なら、こなすだけだ。
と、ヘッドセットから嬉しそうな声が聞こえてくる。
『あっ、鉤爪ユニットの数揃いました!ありがとうございます!』
どうやらフェロー念願の資源が手に入ったようだった。
「それはおめでとう。頑張って溶断した甲斐があった」
『おめでとう!』
『おめでとー、じゃあ次はディオーネのWill'Oエンジンよろしく!』
口々に祝っていると、うち1人から次のリクエストが入った。隣まで戻ってきたアレックスに「だってさ」とマイクを使わずに言うと、フラッシュGの携行をお勧めします、と返ってくる。ジュンはそれにひとつ頷くと、帰還準備をはじめた。

***

今日共闘したフェローにも刑期を清算し終え、市民の席の空きを待つ咎人がいる。
打ち上げと称してガソリンで思い思いの飲食物を口にしていると、コーヒーでほんのりと頬を染めたその咎人が悩ましげに息を吐いた。
「いつになったら市民の席が空くんでしょうね
「ああ、そっちもか。うちのPTもまだ空かないよ」
ジュンはポテチをひとつ口に放り込みながら宥めるように肩を叩く。皿を相手に寄せて勧め、自分もコーヒーを飲んだ。
「まぁ、市民になったらこうして一緒に貢献に出ることもできなくなるんだけど多分」
「そうですよね。皆と貢献できなくなるのはちょっと寂しいなぁ。それに二級市民の仕事って何なんでしょうか。部屋が変わったらアクセサリも変わっちゃうみたいだしなぁ。それはイヤなんだよなぁ」
とりとめなく懸念事項を口から漏らす咎人は、すでにかなり酔いが回っているようだった。顔にあまり出ないタイプらしい。もう肴でなんとかなるものじゃないな、と介抱するためにジュンが手を伸ばすと、当人のアクセサリが寄ってきた。
「許容摂取量の限界です。独房へ搬送します」
そう言って咎人からコーヒーカップを遠ざけて抱え上げようとする。随分と甲斐甲斐しいアクセサリもいたものだと思っていると、咎人本人がそれを阻んだ。
「だーいーじょーぶ、自分で歩けますぅ。ごめんなさい、ちょっと飲みすぎたみたいなんで今日はこれで」
後半の自分達に向けられた台詞に気をつけて、と返したジュンはそのまま相手を見送る。多少ふらついていたが、自力で帰れはするようだ。
そのまま暫くそちらを眺めやったあと、残り少ないコーヒーを喉の奥に流しこんでアレックスを見た。
「ジュン、独房へ戻りますか?」
目が合ったアレックスは間髪入れずにそう問いかけ、モザイク街に長時間滞在するのは好ましくありません、と続ける。ジュンは咎人だろうが市民だろうが、過保護にも同じことを言われ続けるのかな、と苦笑いしつつ、わかったわかったと腰を上げた。
過保護ついでに自分まで搬送しますと言われないのが良かったのか悪かったのかは、判断がつかなかった。

***

独房へ戻る前にふらりとセルガーデンへ向かう。1日の終わりにこうして情報を漁りにくるのは、二級市民になってから始まった習慣だった。膨大な情報を解析して自分に必要な情報を探し出すのは、なかなか根気のいる作業だ。
探しているのは咎人から実際に市民になった時、アクセサリを咎人用から市民用に転換した前例だった。公式な前例があれば言うことはないが、おそらくないだろう。あるとするならあ非公式な前例だ。
戦闘に赴く咎人と頭脳労働に従事する市民なのだから、随伴するアクセサリの機能に差があることは判っている。別のアクセサリを用意するとなるなら、転換は非効率的なのだろう。それでもジュンはアレックス以外のアクセサリを持つ気はなかった。
ジュンにとってアレックスは、監視者である前に精密射撃のできる武器であり、PT法を教えてくれる先導者であり、常に隣を歩いてくれる相棒だった。人間としては見ていないので、どちらかといえば武器に愛着が湧いているのと近いだろう。それでも右も左もわからない中「先に行ってるね!」と置いて行かれた分だけ、常に傍にいてくれたアレックスが心の支えだった。たとえそれがアクセサリの役目だったとしても。
そんな愛着の湧いたアクセサリを市民になっても続けて使いたい。その考えに至るのはあまり不自然なことではなかった。
2年かけて調べてようやく、咎人用と市民用の具体的な差や、転換自体についてはアクセサリの改造に当たるだろうからユートペディアに履歴など残っているわけがない、というところまで明白になった。微々たる情報でしかなかったが、グレーゾーンだったところを白黒つけられたのだから、進捗といえば進捗だろう。自分の情報収集能力のなさに嫌気がさすのにも慣れた。
しかし、もし、だ。もしも、過去に自分と同じことを考えて行動し、痕跡なりヒントなりを遺してくれた人物がいたとしたら。
ジュンはその少ない望みにかけて情報を漁っていた。
100万年の刑期を清算して咎人から市民になる例自体が稀な上、アクセサリを邪魔者扱いする咎人が多数なのだから情報など無きに等しいだろう。でも皆無ではない筈なのだ。
アクセサリを恋人のように扱う人がいるのだから。愛用の武器があるように、アクセサリに愛着がある人がいるのだから。
とはいえ、砂漠の中からスクロースの粒を見つけるようなものだ。そう簡単には見つからない。その上連戦で貢献し、コーヒーで緩んだ脳みそでは効率が悪いにもほどがあった。
今日はここまでにしとくか」
2年かけて収穫がほとんどないということに気は急くが、あまり脳みそに負担をかけてまた記憶喪失になったら目も当てられない。
頭を軽く振ったあと、ジュンはセルガーデンをあとにしたのだった。

***

ジュンは独房に着いて早々に横になった。くたっとしているジュンにアレックスはお疲れ様でした、と声をかける。
「ん、アルもお疲れさま。今日はねぇ、アルと初めて会ってからちょうど3年だったんだよ」
「その通りです。去年も一昨年も、同様の発言をしていたと記録しています」
気付かなかったわけはないだろうと思いつつも話を振ってみると、アレックスはこくりと頷く。ジュンはふふ、と笑いかけた。
「変化がないってのはもどかしくもあるけどいいところもあるな。アル、これからもよろしくね」
「私はジュンの共汎者です。あなたと幸福希求を進めることが私の任務です。それは今までもこれからも変わりません」
当然、と言わんばかりのアレックスにジュンは願わずにはいられない。
どうかーーどうか、変化は手段が見つかってからでありますように、と。
そうこうしているうちに、眠気が疲労に後押しされて波のように押し寄せてくる。目も開けていられなくなり、ジュンはなんとか「おやすみ」とだけ言うと意識を手放した。

「おやすみなさい」
ジュンのバイタルから既に聞こえてはいないとわかりつつ、アレックスは言葉を返す。聞こえようが聞こえまいが挨拶の言葉を交わすのは、ジュンと3年間過ごしてできた習慣だった。そして3年間変わらず監視し続けた寝姿も変わらず監視する。
変わらないことが幸福だとーー失われてくれるなと。
より強く望んでいるのは、果たしてどちらだろうか。




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