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【IF話/鬱】審神者を辞めることにしました。

全体公開 5 6268文字
2017-06-17 13:19:36


検非違使ネタを考えたら鬱になりました。
本当はきちんと文章にまとめて投稿するべきなのですが、あまりにも精神的にしんどくなりこのようなお目汚しを晒す形になってます。
チラ裏でやれといわれればそれまでなのですが、まあ、こういう話も考えたことがあるんだよ、という意味で残しておこうと思いました。

*ー*ー*

 このまま、穏やかに日々がすぎると思っていた。
 このまま、静かに最後の日を迎えられると思っていた。
「大変です!」
 血相を変えて飛び込んできた短刀のその表情に、ざわりとした恐怖が私の身を包んだ。

 帰還した刀剣たちの姿を見て絶句した。軽傷で済んでいる刀剣は誰一人としていない。それどころか、和泉守以外は全員重傷という有り様だ。余裕の一切見られない大和守安定と同田貫正国、苦い顔をする堀川国広、苦痛に顔を歪めたままの岩融と薬研藤四郎。誰も彼もが、練度は十二分にあるはずなのにどういったことなのだろう。
「なん、で、」
 掠れた、情けない声だ。軽い舌打ちをした和泉守が、私の疑問に答えてくれた。
「検非違使とか言ったか。やたらと強い。」
 「検非違使」、正体不明の軍勢の話だ。詳細は何もわかっていないそれらだが、報告例が限りなく少ないため、対応策も何も用意されてないと聞いた。聞いては、いた。だがまさかそれが自軍と遭遇するなんて思ってもいなかった。いや、それは言い訳だ。いつ何時何が起こるかわからない、それが世の常だ。
……兎にも角にも、手入れをしましょう。」
 前とは違う、今はきちんと彼らに向い合って私はそう告げた。

* * *

 どのくらい、時間が過ぎたのだろうか。
大将、少し休んだほうがいい。」
 そう言ってくれたのは、たった今手入れの終わった薬研だ。大和守安定を最初に、次いで同田貫正国、堀川国広と立て続けに手入れを行った。そのあと岩融の手入れを始めた頃から、私は自分に異変を感じていた。いつもならば手の冷えだけで済んでいたのに、身体が火照りをもち重怠くなってきたのだ。だが、別段不調として訴えるほどのものでもなかったから無視をした。そして完治した岩融に薬研を呼んでもらい、彼の手入れを開始した。すると今度は、手足が酷く痺れてきた。何度も何度も打ち粉を落とし、懐紙を掴む手元が定まらない。明らかに、いつもとは違う自分の身体に戸惑いが隠せない。そしてそんな様子に薬研も手入れを受けながら気づいていたらしく、先の言葉へと繋がったのだ。
 いえ、大丈夫です。そう言いたいのに、胃液が逆流しそうな違和感に、何度も生唾を飲み込む。そうしてようやく絞り出したのは、とても震えたひどい声だった。
「早く、全、員、治して、あげ、たい。」
……わかった、でも本当にだめだったら教えてくれ。大将に倒れられたら俺が困る。」
 彼が、私の目をまっすぐに見つめながらそう言ってくれる。その言葉に、少しだけ心が落ち着いた。
 手入れ部屋を、彼が出て行く背中を見送った。すると、部屋の隅でじっとしていたこんのすけが、とことこと近づいてきた。彼の中身がどうであれ、その動きは完全に動物のそれだ。
……審神者様、審神者様、お具合が悪いのでしょうか。」
 その言葉に、私は首を振る。こんなの、具合が悪いうちには入れては駄目だ。私はまだ大丈夫、そう自分に言い聞かせる。倒れるのは、最後の一人を治してから、それまでは気力で耐えぬいてみせる、と変な意地が私の中にあった。
 す、と、引き戸が開かれる。
……おい、大丈夫かお前。」
人の、心配、してる場合じゃ、ないでしょう?」
 腹を抉られ、肩口を切り込まれた彼の足取りは、いまの私よりもしっかりしていそうだ。気遣いを無碍にされたと感じたのか、不満気に鼻を鳴らして私の前に座る。
 そのまま、彼は本来の姿に戻った。鞘におさまった刀剣を引き抜けば、先ほどまでの重傷の刀剣たちよりは比較的軽いが、それでもぼろぼろの刀身が現れた。
 鈍く濁った光を放つそれを、素手でそっと撫でる。今までの手入れで、そんなことをしたのは初めてだ。そもそも素手で刀身を触るなどご法度だろうが、なんとなく、そうしてみたかったのだ。
 ああ、嫌だ、酷く感傷的だ。
 ああ、早く、手入れを終わらせよう。
 いつもと違う身体に叱咤し、いつもと同じ手入れを開始した。

なんで、」
 なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで。
 何度、何度作業を繰り返しても一向に治らない。打ち粉を取り落としながら、懐紙を支えそこねて刀身で手を傷つけながら、それでも懸命に手入れ作業を繰り返しているのに。
 いつもの様に、刀身が治っていかない。
 じわじわと焦燥感が私の心に火をつける。鼓動が壊れそうなほど速くなり、身体の火照りは更に強まった。具合の悪さからか、この状況に対する恐怖からか、私の身体は先程から小刻みに震えている。
 不意に、私の手から刀身が掻き消えた。驚く暇も与えずに、目の前に傷だらけの和泉守が現れる。正座したままの私に目線を合わせるように膝をついて、不機嫌そうな顔を隠さないままに彼はこちらを見ている。
「やる気ねーのか。疲れてんのか?」
 違う、いや、違わない、けれど違う。違う。
 何も言えない。言葉を出してしまったら、全てを認めてしまう気がした。そんな私の異変に気づいたのか、和泉守が首をかしげる。
 なにか言おうと彼が口を開くより早く、私と彼の間に一つの影が飛び込んだ。
「そこまでです。」
「っ!」
 こんのすけだ。
 彼は和泉守に背を向け、私だけを見てそういった。
 私もこんのすけの顔を見つめるほかなかった。口から心臓が飛び出そうだ、腹の奥がぎゅぅと熱を持つ。嫌な汗が背を伝う、目が水の膜を張り始める、呼吸がやけに浅い。
 いやだ、いやだ、いやだいやだいやだ、聞きたくない。私はこんのすけの声を聞きたくない。耳を塞ぎたい、両手で固く抑えこんで彼から発せられる音を遮断したい。そう思う頭とは裏腹に、私の両腕は鉛でも仕込まれたかのようにだらりと垂れ下がったままだ。
 スローモーションのように、こんのすけの口が、動いた。
「今時点をもって、貴方は審神者ではなくなりました。」

 人は絶望に突き落とされるとどんな表情をするのだろうか。
 泣き叫ぶのだろうか、怒り狂うのだろうか、馬鹿みたいに笑うのだろうか。
 彼女はただ、呆然としていた。何も言わず表情も変えず、ただ目の間にいる狐を見つめていた。
は、どういう、ことだよ。」
 狐の後ろにいた和泉守が、訳がわからないといった顔でそう尋ねた。審神者ではなくなった、とはどういう意味なのだろうか。
 狐はくるりと振り返る。朱で模様を散らした狐の顔が、笑うこともなく蔑むこともなく、真黒の瞳で和泉守をひたと見据える。
「秘匿義務がありますのでお答えできかねますが、事実のみをただお受け取りください。
 彼女はすでに審神者ではなく、ただの人間となりました。和泉守兼定様のお手入れのほうは後任の審神者に当たらせましょう。引き継ぎを早めますので今しばらくお待ちください。」
「お、おい!」
 言いたいことだけ言って、狐はその場から走り去っていく。捕まえようと手を伸ばすが、受けた傷がギリと痛み急激な動きの妨げとなった。狐は器用に引き戸を開けて、部屋から出て行ってしまった。
 残されたのは審神者と和泉守の二人だけだ。何が起こっているのか到底理解できず、和泉守は今一度審神者に目を向ける。
 彼女は、口元に手をあてがって俯いていた。
おい、お前なんか知ってんだろ。教えろ。」
 目の前の細い肩を掴んで揺する。だが彼女は何も答えない。ただ弱々しく、首を横にふるだけだ。
 ぱた、と、彼女の膝に水が落ちる。
「な、んで、泣いて。」
「すみま、せん
 彼女の声は震えている。次から次へと彼女の目から零れた雫が彼女の膝を濡らしていく。何故彼女がそうやって泣くのか理解できない。ただ、なにか尋常ならざる問題が発生していることは理解できた。
 誰も答えを出さない現状に戸惑っていると、誰かが小走りに近づいてくる音がした。
 誰だ、と思案する間も与えられず、それは手入れ部屋へと無作法に入ってくる。
「主!」
 平素の瀟洒な振る舞いからは考えられないほどの粗雑に戸を開いて入ってきたのは、三日月宗近であった。その刀剣がここまで焦ったような姿を初めてみた和泉守は、ただ驚きで目を瞬かせるしかできなかった。
 一方で三日月は、現状を誰よりも正しく理解していた。泣いてうずくまる審神者の前に、傷を負ったまま呆然とこちらをみてくる和泉守。その二つの要因だけで、十分だった。
 足が、勝手に彼女の側へと近づいていく。小さく身を丸め、外から自分を守る子供のような審神者へ、ゆたりと腕を伸ばす。
 そして、その震える身体を、ただ抱きしめた。
「ああ、そうか、そうなのか、主。」
 いつも涼やかなはずの彼の声が濁って聞こえるのは、決して気のせいではないのだろう。
 三日月のその言葉は、なにか知っていることを匂わせるものだった。和泉守は彼の声がそうも濁ることが気にかかるが、いまはこの状況の説明を求めることが優先された。
 だから、問うた。
「おい三日月、お前なにか知ってるのか。」
 審神者を抱きしめその背を撫でる三日月は、和泉守を睨めつける。
そうさなぁ、爺は知っているかもしれぬし、知らぬかもしれん。」
 明らかに和泉守をばかにするような口調だ。それに反論する前に、三日月は、だがな、と言葉を続ける。
泣いてる女をただ見てるだけの稚児に教えることは何もない。」
 カッと、頭に血が上るのが分かった。

 から、と、また引き戸があく音がする。
 三日月の腕に抱きしめられているから、私は誰が入ってきたのか知ることはできない。けれど、いまここに入ってくる存在など、あれしかいない。
「おまたせいたしました。」
 こんのすけの、声だ。
「おい狐!てめぇちゃんと説明しやがれ!」
 激高したような和泉守の声がする。ぼんやりと、私の思考は霞がかかったようにはっきりしない。それでも、私の目からは次から次へと涙が零れていく。脳よりも体のほうが正しく現状を理解しているんだろうか。
「説明することはできかねるのです。ご容赦下さい。」
 あくまで彼の態度は義務的だ。それもそうだ、彼は動物などではない。式神という皮を被った高性能ロボットだ。
「番号110番。」
 こんのすけが、私のことを「審神者様」ではなく、番号で呼んだ。
 流石のこれには三日月も驚いたのか、ぴくりと彼の身体が動くのを感じた。
 呼ばれたからには顔を合わせなければいけないだろう。抱きしめられた腕から離れるために動こうとする私の身体を、ぎゅうと腕で押さえつけてくる。
「110番、聞いていますか?」
……はい。」
「110番て、数字?」
 和泉守が、困惑したように呟いた。
 110番は、数字だ。
 私に与えられた、数字だ。
 こんのすけは、三日月にも和泉守にも、その番号の意味を教えはしない。私も説明することはない。私とこんのすけだけが知っていればいい。ただ、「多くの審神者」を区別するためだけの記号なのだ。それを説明してどうするというのだろう。後任の審神者が来た時に、名前の代わりに番号を聞いたりするんだろうか。
「110番、明朝貴方を現世へと送り返します。」
……はい。」
「ご安心ください。
 こうなるのは貴方が初めてではありません。すでに前例が幾つかあります。万全とは言えませんがサポートさせて頂きます。」
 何がサポートだ。その言葉はぐっと飲み込んだ。
「現世、て、おい、まだ任期は残ってんだろ?」
「和泉守兼定様、大変申し訳ございませんが貴方様の手入れは明朝以降となります。どうぞそれまでは安静にお過ごしください。」
「ふざけるなクソ狐!説明しろ!何がどうなってやがる!!」
「ですので、秘匿義務があるのです。お察しください。」
……無駄に吠えるな和泉守。それは傀儡だ、何を問うても答えはもらえぬぞ。」
 叫ぶ和泉守を、三日月が諭すように言った。何も答えませんよ、と一言余計に言ってから、こんのすけが部屋を出て行く。足音で判断するしかないが、きっと出て行ったのだろう。
 しん、と、部屋のなかが静まり返る。
……じいさん、何知ってるんだ。」
「知りたいか?」
……だ、だめです、三日月。」
 和泉守の問いかけに三日月が応えるとは思わなかった。それを制そうとすると三日月が私の顔を彼の身体に押し付けるようにしてきた。息苦しさと強制的な沈黙を与えられて、私の身体は藻掻くことしかできない。
「無知は罪ではないが、知らぬでいることは罪だ。
 教えてやろう。」
 だめ、駄目、三日月やめて、お願いやめて。
 私は藻掻く、必死に藻掻く、彼に手を伸ばせばその手を掴まれた。ぎり、と、容赦の無い力の入れ方に骨がミシリと音を立てた気がする。
「教えろ、何がどうなってやがるんだ。」
 ああ、だめ、だめ、和泉守、聞いてはだめ。
 私の悲鳴はくぐもって三日月の衣に散っていった。私の抵抗を嘲笑うように、和泉守の無知を揶揄するように、三日月が言った。

「なあ、和泉守、不思議には思わなんだか?」
「な、何がだよ。」
「主が、どうして俺たちを治せているか。」
……それが審神者の力だからだろう。」
「その力がどこから来るかと、お前は考えたことはあるか?」
あるはず、ねーだろ。」
「そうか、そうか、ならば教えてやろう。」
「もったいぶってんなよじいさん、さっさと言え。」
「主はな、己の御魂を削って俺たちを治していた。」
……は?」
「分かるか?和泉守。
 彼女が審神者でなくなった、というのは、彼女の御魂が尽きた、つまり、もう死人となったからだ。」
なに、いって、だってそいつまだ、生きて、」
「死人なのだ、主は此岸へ帰ればそのまま散るだろう。」
「嘘だ、」
「嘘ではない。俺たちが傷つき帰るたび、彼女は御魂を犠牲にして俺たちを治していた。」
「嘘だ。」
「理解しているだろう、お前は聡い。」
「嘘だ!」
「俺たちが、彼女の御魂を喰らい尽くした。」
「やめろ!!ふざけるな!そんな話聞いてねぇ!!」
「言えるはずがなかろう!」

 声を、荒げているわけでもないのに、三日月の言葉が、脳を揺さぶる。
 怯んだように、和泉守の言葉が、止まった。
 なんで、なんで、なんで、言ってしまったの。
 私の心が、ぐちゃぐちゃになる。
 ゆるり、と緩んだ腕の中で、私は言った。
 涙で、嗚咽混じりに、私は言った。
「ごめ、ん、なさい。」
 誰に、謝っているんだろう。
 なんで、謝っているんだろう。
 私の口からは、それしか出てこない。
 それしか、出てこない。


* * *

もう無理いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
でもこれ吐き出さないと他のネタでてこなさそうだったんですううううう!!!
和泉守へのネタバレ話はまた後日きちんと書きますそっちも鬱だけどこれより断然マシですわああああああああああ。
おめ汚し本当に失礼しましたあああああああああああああああああああああああ



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