@twirl_rabbit
【Twitterでネタ振り頂いたので辞職系審神者ちゃんが花吐き病にかかったらどうなるか書いてみた】
【花吐き病とは】
→松田奈緒子様の漫画作品『花吐き乙女』に登場する病気。
【pixiv辞典より抜粋】
病の特徴
・正式名称は「嘔吐中枢花被性疾患」で花吐き病は通称。
・遙か昔から潜伏と流行を繰り返してきたらしい。
・片思いを拗らせると口から花を吐き出すようになる。それ以外の症状は確認されていない。
・吐き出された花に接触すると感染する。
・根本的な治療法は未だ見つかっていない。ただし両思いになると白銀の百合を吐き出して完治する。
彼と縁側で話をした。
彼は彼の考え方があって、思いがあって、それを私には伝えてくれなかった。私は私の考え方があって、思いがあって、それを彼には伝えなかった。どこかで意地をはって、勝手に思い込んで、お互いがお互いの仲をより険悪にしていった。風船のように爆発した私達の感情は、破裂と同時にどこかへ吹っ飛んで、散り散りに飛び散ったゴム片のように、感情の残りカスが心のあちこちに引っかかった。
しょうがないやつだな、しょうがない人ね。まだ信じることはできない、まだ信用することはできない。今までを許すことはできない、今までを忘れることはできない。そんな感情の残りカスを面と向かって言い合って、二人で馬鹿馬鹿しいと一笑した。そんな私達をみて、堀川はとても驚いていた。それはそうだ、会話していること自体一大事だ。内容は険悪一歩手前なのに、私達は笑みを浮かべている。
ああ、彼とはこれでいいんだ。信頼も信用もなくてもいい。
そう、思った。そう思っていたはずだった。
ぐぅ、と、喉が詰まる。なにか乾燥した物が喉の奥に引っかかった感覚に、生理的に喉の筋肉が動く。押し出されたそれは唾液を含んで、ぴちゃりと汚い音共に吐き出された。何が体内から押し出されたのだろう、恐る恐るそれを確認して、握りつぶす。濡れた感覚が手を通し伝わって、不快感をもたらした。げほ、と、まだ残っていたのだろう欠片を咳とともに吐き出した。
ひら、ひら、白い欠片が床に落ちる。
私はそれも、握りつぶした。
ある日から私は花びらを吐き続けてきた。何故そんなものを吐いてしまうのか、それがどのような意味をもたらすのか、この花弁がなんの花なのかも分からない。ただ分かるのは、「彼」のことをふと思った時にその症状が出る、ということだった。
この症状が彼と何らかの因縁があるのだろうけれど、このことを話す気にもならない。こんな、こんな花を吐くなんて異常な状態、誰にも見られたくなかった。
だから私は隠し続ける。吐いた側から花びらをかき集めて、とにかく廃棄する。一番の予防策は彼を考えないことだとわかっているけれど、考えないようにするのは考えることと同じことだと最近知った。だからもうその点に関しては諦めてすらいる。
けれど、ああ、けれど。
「大将、和泉守たちが帰ってきたぜ。」
「……そう、ですか。怪我は?」
「鶴爺の刀装が全部壊れたらしくて、途中で帰ってきたみたいだ。」
「珍しいですね。」
「びっくりしただろ、って言った本人が一番びっくりしてるとよ。」
くくく、と、喉で笑う薬研はどこまでも楽しそうだ。私はそれに、ぎこちなく笑う。
あの日以来、彼は無茶な行軍を決してすることがなくなった。そのせいか、部隊は軽傷すら負わずに帰ってくる。薬研曰く、以前よりも刀剣達は和泉守に信頼を寄せるようになったらしい。それはそうだ、誰だって無理な行軍などしたくないだろう。まあ、一部を除いて、だが。
「もうすぐ、ここにも顔出しに来るはずだぜ。」
「…そう、ですね。」
「良かったじゃねぇか……。辞める、前に、話せるくらいになって。」
苦く、苦く薬研が笑いかける。その顔を見ることもできずに、私は目を伏せた。
彼としては心中複雑なのかもしれない。己のエゴと我儘で仲を取り持てるはずだったのにそれをせず、拗れたままだった二人がいつの間にか出陣報告くらいはするようになっていたのだ。話しかけることはおろか、つい先日までは顔も合わせなかった二人が、だ。
だがその点に関しては私も驚いている。別に今まで通り薬研を通して報告してくれればいいだけなのに、彼は私の部屋に直接来て、今日はあそこにいった、今日は途中で帰ってきた、そういった報告を二、三と告げて去っていくのだ。本当にそれだけなのに、なんだろうか、心がむず痒くなる。
「…何故、彼はここへ来るのでしょうか。」
「さぁな。今更…今更、大将と話してみたくなったんじゃねえのか。」
大将はどうしたって、人の心を掴んじまう。
ふ、と、思い出すように薬研は目を泳がせる。あの日のことを、泣いた日のことでも思い出しているのだろうか。
別に好きで踏み込んでいるわけでもない。心を掴んでいるつもりもない。私は私のことで精一杯だ、他人を気にかける余裕なんて正直ない。彼らの話を聞いて、追い詰められて、自分を見つめなおして後悔して反省して、その考えを告げる、それしかしていない。
それが思わぬ方向に進んでいることもまた、事実ではあるのだけれど、いまはそれに関して考察している場合ではない。
どうしよう、彼が、来る。
そう思った瞬間に、ぐ、とこみ上げる違和感が喉を襲う。まずい、いまはまずい。薬研がいる。
「…大将、どうした?」
気遣わしげに掛けられた声に、私は黙って首をふり洗面所へと移動した。大将、と私を呼ぶ声を無視してドアを乱暴に閉める。
「うぇ……っげ、」
パラパラ、ひちゃ、洗面台に白が散る。目尻にじわりと涙が浮かんだ。ああ、まただ。彼のことを考えるとこれだ。
「大将、どうした。」
こんこん、と、背後で扉がノックされる。ああ、心配を掛けさせてしまった。
この状態で、彼に会ったらどうなるのだろう。そういえば彼に会う前にこんなに彼のことを考えたこともなかったし、彼に会う前に吐いたこともないことにふと気づく。いつもは薬研が来ることを知らせて、その後すぐに立ち去って入れ替わりのように彼が来ていた。薬研がその場に残って世間話のように会話を続けたのは今日が初めてだ。
どうしよう、怖い、会いたくない。ふるり、と身体が恐怖で震えた。
「…薬研、すみません、少し具合が…悪いので、しばらく人払いをお願いできますか。」
しん、と、沈黙が落ちる。その静けさに耐え切れず私は手早く洗面台に落ちた花弁をかき集め握りしめ、そこを洗い流すように水を流した。ジャー、と濁音が狭い浴室に響く。ユニットバスの縁に腰掛けて、薬研の言葉を待った。
「……もし、悪化したら。」
ぽつ、と落とすように彼が言った言葉は、私の耳にかろうじて拾えるようなものだった。心配してくれているんだ、と、少し面映い気持ちになる。
「いえ、ちょっと疲れただけなので…休めば大丈夫です。」
「そう、か…分かった。無理だけはしないでくれよ。」
「はい。お気遣い痛み入ります。」
きゅ、と、水道の蛇口をしめる。静かな足音が離れていくのを最後まで聞き届けてから、そっと戸を開け顔を出す。確実に気配がないことを確認して、私は自室へと戻った。
一度吐いてしまえば何の事はない、体調は至って普通なのだ。ただ、彼に会わなければいいだけ。それだけなのだ。
薬研が去ってから、私の自室はとても静かだ。
障子を開け外に出る。本邸の方も静かなもので、私は一息の安心を口から漏らす。
もう少し、もう少し落ち着いたならば彼に会うこともできるだろう。その時は本丸まで薬研を呼びに行こう。もう大丈夫だ、と告げたならば薬研はきっと彼にも伝えてくれる。自分から会いに行く勇気なんてない。ましてこんな状態だ、会いにいけるはずもない。
彼が報告してくるとき、私は彼の目を見ることができない。あの空色の瞳に見据えられると、何故だろうか、身が竦む。恐怖からでもない、嫌悪からでもない、不思議な心地がするのだ。彼の声が綺麗に響くのも苦手だ、前まではあの声に嫌悪や蔑みが混ざっていたはずなのに、いまはそんなもの微塵も感じさせない。堀川や薬研に話しかけているときのような気安さは微塵もないけれど、それでもどうしてかその声が耳に残る。そしてそれが不快に思わないのだ。
また、嘔吐感が襲ってくる。しまった、また彼のことを考えてしまった。庭の真ん中で思わずうずくまってしまう。
「…っぅえ、」
はら、はら、はらり。
私の口からまた、白の花が舞い散った。
もう嫌だ、なんでこんな。零れた花もそのままに、私は両手で顔を覆う。浮かんだ涙を止めることもできなくて、そのまま一人嗚咽を漏らす。にじり、と歯が何か変なものを噛みしめる。口の中に残った花弁でと気づくのにそう時間は要さない。ぺ、とそれを吐き出せば、噛んだことによる圧で醜く変色したそれが出てきた。
ああ、醜い、汚い。今の私のようだ。心の整理がつかないまま、訳の分からない状態にただ怯えることしかできない、私のようだ。不安が私の考え全てを後ろ向きにしていく。
「……何してんだ?」
「っ!?」
声掛けに咄嗟に立ち上がる。じゃり、と花を踏みにじるようにして振り返った。
驚いたように目を丸くしている男が、こちらを見て立っていた。私との距離は、まだ少し遠い。
彼を彼と認識した瞬間、じわりと身体が熱くなった。それに戸惑う余裕もなく、私は首を振る。
なんでもない、大丈夫。声がどこまでも乾いている。
「大丈夫なわけねーだろ。」
呆れたように言いながら、彼が一歩、私に近づく。
私は足を地面に擦りながら、一歩後ずさる。ざりり、と砂が擦れる音がした。足元に散らばる花弁に気づかれてはいけない。上手に隠せているか分からないが、視線を足元に落としたら目線でバレそうな気がして怖くてできなかった。
彼の目が、あの瞳が、私を真っ直ぐに見つめている。そしてそのまま、こちらへと近づいてくる。一歩、一歩、また一歩。私は足元が気になって、動くことができない。一歩、一歩、また一歩、私と彼の距離がどんどん縮まっていく。
鼓動が早まる、顔が熱くなる、涙腺が緩む。
なんだ、これはなんだ。どうなっているんだろうか。
いやだ、近づかないで欲しい、私を見ないで欲しい、私をこれ以上困らせないで欲しい。いやだ、こわい、いやだ、はずかしい、いやだ、いやだ。
「こ…、来ない、で。」
ぴたり、と、彼が止まる。あと一歩のところで、立ち止まった。怪訝そうにこちらを見下ろしてくる。私は咄嗟に顔を伏せた。伏せた瞬間足元が見える。白い欠片が少し見えていた。不自然にならないように、足を動かしてそれを隠す。
「……なに隠してやがる?」
「か、隠してない、です。」
あ、まずい、また吐きそうだ。
口元に手を当てて、咳でごまかすようにそれを吐く。手に当たる軽い感触に、やはりと思うと同時に最悪の展開に血の気が引く。
がし、と、手首を握られ顔から引き剥がされる。口元から手が離れた途端に、白の花が舞い落ちた。
それを見て、彼が目を見開く。私は見られたことへの恐怖から、身体が震えた。
「や…っ、みな、いで、見ないっ…ゲホッ」
否定の言葉も満足に紡げない。ああ、彼には見られたくなかった。彼にだけは絶対に見られたくなかった。自分の弱みを見せるのが嫌とか、情けない姿を見られたくないとか、そういうものではない。
彼が原因でこうなっていると悟られるな、気取られるな。隠せ、隠し通せ。私は噎せながら、絶対に顔を見られないように顔を伏せる。おい、と彼が声を掛けてきても全て無視だ。どうしてこんなにもタイミング悪く見つかるのだろう、我が身の不運を恨んだところでもうどうしようもない。
こみ上げてくる何かを堪え切れずに、また吐き出した。バラバラと、多量の花弁が吐き溢れる。駄目だ、我慢できない。逃げようと思って、掴まれている手から逃げようと藻掻く。けれど彼の手は私の手首をしっかりと掴んでいて、びくともしない。
彼の手が、私の両手首を片手で掴み直した。指だけの力で押さえ込まれるなんて思ってもおらず、私は必死に逃げようと身体を引く。
ぐ、と、顎に指がかかり、上へと強制的に持ち上げられた。上げた先に、彼の顔が、ある。
綺麗だ、と、思った。長い睫毛も、空色の瞳も、高い鼻梁も、薄くて形の良い唇も、全てが整い美しい。彼の目の中に、唖然とした自分が見える。ああ、そんなにも近づいているのか、と理解した瞬間、頬に熱が集まった。いや、おかしい、こんな、なんで、こんな感情。認めない、認めてはいけない、どうして。私の頭が混乱する。自分の中に生まれた感情を見ないふりをしたいと叫んでいる。けれど心は正直で、身体は素直に反応した。彼に見つめられて、触れられて、鼓動が変に乱れてくる。身体が変に熱を持つ。
「お前、」
「み…っ、見ない、で、お願、」
じわ、と、目に涙が浮かぶ。驚きから困惑へと表情の変わった彼の名を呼ぶ。
「和泉守、お願い、見ないで。」
ポロポロと、涙が頬を伝う。顎に触れていた指が、私の頬に触れる。涙を拭って、そのまま肌を撫でた。きゅぅぅ、と、心が締め付けられる。
この感覚は、知っている。どういう感情なのかも知っている。けれど認めたくはない、認めることなんてできない。
信じられない、という気持ちが今一番強い。
「……、ほら。」
「っ!?」
ぐっと、引き寄せられたかと思えば強く抱きしめられる。突然のことに驚いて彼の腕の中で暴れる。離れたくて腕を突っ張るようにしようとしても、ぐっと彼が抑えこむように、抱き込むように抱きしめてくる。
いやだ、やだ、離れたい、離れなきゃいけない。心臓がうるさい、止まってしまえ、そんなにうるさく鳴ったら彼に聞こえてしまう。ふわりと鼻を擽る彼の香りに、脳が心地よく痺れる。
駄目だ、身を委ねるな、拒め、拒め。そうやって意地を張る私の耳元で、彼が囁く。
「耳真っ赤だぞ。」
「っ…うるさっ、っ、カハッ、」
吐き出した花を、彼が一枚つまみ上げる。幾ら花弁といえど自分の口から吐出されたそれを見られるのは羞恥に耐えかねる。だが奪おうとしても彼の拘束は緩むことはない。
彼が指を離すと、ひらと白が風に舞った。
その後結局、彼に抱き上げられて自室へと戻された。恥ずかしいやら情けないやらで、もういっそ死んでしまいたい。そしてそうされている間にも、私の口からは花が吐き出される。
もう嫌だ、と泣き言を口にした時、彼が口元に笑みを浮かべた。
「おとなしくしてろ、薬研を呼んできてやる。」
彼の手が、私の頭に軽く触れて、そしてすぐに離れていく。
まさかそんなことをされるとも思わず唖然と彼を見れば、やはり笑ったままで、そのまま静かに部屋から出て行った。
一人取り残された部屋で、私は考える。
自分の中のこの気持ちを、考える。
いや、もう考えることもないだろう。
この気持ちの意味を、私は正しく理解できる。
「……嘘だ。」
そう呟いた私の言葉を、誰も聞いてくれはしない。
* * *
オシロイバナ:あなたを想う、信じられない恋
というわけで、「花吐き病」にもしも辞職系審神者が罹ったら、というネタを書かせていたd難しかったあああああ。゚(゚^ω^゚)゚。
ちなみに和泉守は「花吐き病」のことを知っています。
彼sideはキャプション参照で。両片思いってやつですね。どうだ!甘い話も頑張ればかけるんだぞ!!(乱心)
このネタはこれでもうおしまいです。おしまいにさせてください。
白銀の百合を吐く/一生完治しない、どちらの結末かは皆さんのご想像におまかせです。
最後に、素敵なネタ振りをしてくださり本当にありがとうございました。
設定を活かしきれておらず力不足を痛感しております。
ネタを提供していただきました方のために書きました。
よろしければご笑納ください。
* * *
【和泉守兼定の花吐き病】
「花吐き病」、正式には「嘔吐中枢花被性疾患」といっただろうか。その症状は、片思いをこじらせて苦しくなると突然花を吐いてしまうという。彼女が花弁をその口から散らすのを見た時に、心が痛いほどにざわめいた。誰を想って、誰を考えて、彼女はその口から白い花弁を吐き散らすのだろう。
彼女が吐いた花をひとひら、手にとった。これで自分にも感染したのだろう。幸いなことにその場で発症するようなことはなかったが、花弁をまじまじと見た。普通の、ただの白い花だ。それが、彼女から生み出されたものとは到底思えない。けれどそれは、現実に起こっている。
彼女を自室へと戻したあと、薬研に部屋へ行くよう指示して己の部屋へと戻った。ごろりと寝転がって、目をとじる。彼女は誰を想って、あの花を散らしたのだろうか。あの花に意味があるのならば、どんな意味だろうか。相手は薬研だろうか、三日月だろうか。それとも己の知らない第三者だろうか。つらつらと思考がめぐる。もしも自分も発症したならば、彼女のように誰かを想って、花を吐くことがあるのだろうか。もしそうならば、相手は誰だろうか。
脳裏によぎった人物の姿に、ふ、と自嘲した。いやありえない、第一彼女のことをそんな風に思う日が来るとは思えない。
そう考えた瞬間だった。
「…っ!?」
唐突に、本当に唐突に喉に異物感を覚える。
まさか、と思った時にはそれを吐き出していた。桃色の、小さな花弁だ。
「…はは、嘘だろ…?」
呟いた言葉に、誰も答えは返してくれない。
フロックス:あなたの望みを受けます