@akirenge
(ある意味スピンオフ:オリキャラ居るよ)
【置き換え】
加護者と彼女は呼ばれている。
他の呼び方は黒いの、とか妖とかチビだの色々だ。チビなのは今回の見た目が十代前半で身長も低めだからである。
「おはよー」
『おはよう』
いつの間にか朝になっていたようだ。
そう想ってしまったのはほぼ自分は眠る必要は無くて、時間が大量に有り余っているからである。
帝國図書館分館の整備と読書ぐらいしかやることはない。
闇の中で微睡むぐらいだろうか。
自分の宿主である彼女が分館に入ってくる。軽く彼女の行動を検索してみれば、
起きて食堂で朝食を食べてこちらに来たようだ。
「何を読んでるの?」
『十七八。小栗風葉の作品』
「尾崎四天王の一人だよね!」
本棚の上に座るように姿を出せば彼女が言う。
尾崎四天王は柳川春葉、小栗風葉、泉鏡花、徳田秋声だ。秋声は非常に馴染みが深く、鏡花はまだこの分館には居ない。
身内トラブルで飛ばされたこの世界は緩やかに近代が続く世界だ。
そう、と答えておく。
『読む?』
「……日本語?」
一ページ目だけを術式でコピーして彼女の前に落とす。受け取る。
『日本語だけど』
「読みづらい奴じゃん!」
『七月十五日首尾好く卒業試験を終へて、同じく二十日に可慶(めでた)く卒業証書を受けた』
「音声にすれば解るのにな」
なんて彼女が言ったのは、読み書きと話せることは必ずしもワンセットでは無いと言うことを
知っているからだ。落とした紙は文語調で、さらにいえば漢字は旧字体も使われている。
読んでいた本に栞を挟むと拡張空間にしまって、彼女の前に降りる。
『やることがないなら飲食室の部屋掃除でもして。仕事はいくつか残しているのよ』
「はいはい。やる。……風葉さんって紅葉さんの金色夜叉も書いてなかった?」
『書いているわねぇ。それで揉めたけど』
尾崎紅葉、『金色夜叉』。
侵蝕された文学書の一冊であり、尾崎紅葉の遺作にして未完の作品。
紅葉の死後、小栗風葉が完結編を書いている。揉めたというのはその時に使ったプロットが、
実は紅葉のものではなかったりしたことや、さらには別の出版社に出したことで某弟子と揉めたのだ。
「金色夜叉、面白い?」
『話としては普通だけど文体がね。尾崎紅葉の話は分かりやすいものが多いわ』
「解りやすいかぁ……日本語にしてよ。金色夜叉。読んでおく」
彼女は文体でまず挫折している。
仕方が無いことだ。彼女は口語文オンリーだ。自然主義が台頭してきたころに出て来た文ならどうにか読める。
日本語にしてよというのは読みやすい文章にしてということだろう
『やってはおくわ』
「掃除してくる」
そう言って彼女は飲食室に行く。
あそこも整備はしていた。最初の頃はカセットコンロを置いていたのだが石川啄木が、
火に掛けてはいけない保温ポットを火にかけてカセットコンロを駄目にして部屋が火事になりかけたのだ。
今は安全な家電だけを置いている。
『時間はたっぷりあるのだし』
有り余るぐらいにはだ。
彼女に言われたことをするための術式陣を起動させた。封印者たちや他は好きにカスタマイズしているが、
自分は円環型か長方形のもので枠をただ囲んだだけにしてある。
文語体なのだから朗読するという手もあるのだが、文字なのは、とある文豪にここで読んでいたら、
煩いと言われたからだ。以後彼女は自粛している。
具体的に言えば国民的詩人の彼だ。
プライベートスペースではゆっくりと借りてきた本を読んでいるようだが、体力も落ちている。
原因は自分ではあるけれども、
こちらでの生存を優先していると自分に封印が強くかかったのだ。
丸形の術式陣に尾崎紅葉の金色夜叉の定本を写してから、長方形の術式陣を起動させ、
合間合間を見て、文章を書き下すことにした。
「これ、泉鏡花が見たら紅葉先生の素晴らしい文章を! とか言われねえか」
『訳は頑張ってみたつもりなんだけど』
つもりになるのは自分の精度を落としているというか誰にでも届くような素晴らしい文章を書けるようなところまでは
力を振っていないからである。加護者は志賀直哉に言われて小首を傾げた。
抱いているのは彼女がかつて大切にしていた黒いテディベアを模したものだ。
姿を文豪達の前に現して、事情も説明されて改めて分館の整備をしようとしていた。
金色夜叉は地道に訳してたまに道草もしながらも一章分は訳して彼女に渡したのだ。
ソレを話したら志賀が内容を見たいと言っていたので出した。
「華美さが足りません」
『黴さね』
「おい。解ってて言ってるだろう」
谷崎潤一郎が口を挟む。発音を変えてみたら指摘された。
『あの子、春琴抄、借りていったわ。アレは何とか読めるはずよ』
「読んで欲しいですね。徳田さんは終盤の展開をこれはありかと言っていましたが」
『ありじゃないかな。耽美主義、とは答えそう』
志賀直哉の作品は彼女は一冊たりとも読めていない、谷崎潤一郎の作品も進めてみたがまだだ。
「どっちにしろお前を何とかしないと分館も何とかならねえしな」
『酷いわ』
「どっちがだ」
一晩で大体何とかしないといけないだろう。しかし以外と文豪達が残っている。
呼ばれた。そちらの方向に通す。
「俺も手伝うけど、一晩で治すんだろう」
『潜書室の本棚を増やしたり』
「安全第一で作るよ。俺が作って良いよな」
怠そうにしているのは花宮諫也と名乗っている封印だ。自分の本質を抑えている者である。
潜書室の本棚としているが本棚が媒体で術式の大元などは部屋に組み込んである。
アルケミストならば能力と洋墨と助手を置いて最低限力押しでも潜書が出来るがそれは避けていた。
どうぞ、と答える。
「司書はその手のことは任せきりなのですね」
「俺的には安全にやってくれればいいよ。下手に天才とかが下手に術式介入したりして面倒事になるのは勘弁だ」
「思いっきり実感こもってないか。お前」
『前のところがねぇ……、あら?』
諫也については把握しているが天才を嫌う。自身も才能がある方だが才能でやっていけるほど甘くはなく、
”出来てしまった”ことで起きることもあり前の時がそれの後始末を大体していたのが彼だった。
処理は出来ても面倒なのだ。
「どうし……館長が来たな」
『おっさん、来られないってネコが言ってなかった?』
「忙しい人だし、アレも別にいいやーにしただろう」
反応を確かめてみれば分館に館長が来たことが解る。仕事をしつつ引けないところは引かずにやることはしていた。
各々で投げ気味なのは慣れていると言うか根回しの方を大事にしているのだ。
「アンタ等の方が殺伐してるからじゃないのか」
「司書殿もそうでなくては生き延びられなかったのでしょうが」
『そうなのよね』
甘いところがないのは状況が今までずっとシビアだったからだ。話ながらも作業だけはしておく。
(今日の夜は長くなりそう)
どちらにせよ。暇を潰しているようなものなのだけれども。
加護者はこれからのことに、応対することにした。
【Fin】