セリユリ第二弾。
時系列とかは深く考えてないけど6章終わりくらいとか。
相変わらずのふいんき全振り系SS。
温かい目で見てくださいませ。
@alussfon
『セリス、頼みがある』
初めて出会ったあの日から。
『悪いがしばらくこの子を預かってくれないか?』
心に生まれた、不思議な想い。
『僕が君を守るから』
知らないはずなのに、でもどこか懐かしいようで。
『セリス様・・・』
誰よりも、何よりも。
側にいてあげたいと。そう、思った。
レヴィンからユリアを預かって、随分と経つ。
だが、ユリアは一度も笑顔を見せることはない。
レヴィンは記憶を失っているらしいと言っていたが、その理由までは分からなかった。
「ユリア、焼き菓子を作ってみたのだけど、どうかしら?」
戦いの合間に、ラナが菓子を振る舞う。
「ユリア、一緒に出かけましょうよ。部屋の中にいたってつまらないわ」
元気のいいラクチェの声が、ユリアを引っ張り出す。
だが、どれもユリアを笑顔にする事はできなかった。
決して彼女らの事が嫌いなわけでは無いのだと思う。
心ここに在らずというべきか、何をしている時でも、何もしていないように見えるのだった。
「参ったな・・・」
セリスは珍しく、弱音を吐いた。
どんな過酷な戦況でも、人々の希望である彼は弱さを見せる事はない。
だが、そんな彼も一人の少女を笑顔にする術を知らないという事実に、思わずため息をついてしまうのだった。
ユリアは今も、木陰で一人本を読んでいた。
セリスが偶然手に入れたという「オーラ」の魔導書だが、懐かしい感じがするというので、暇さえあれば何度も繰り返し読んでいた。
だが、それがユリアの記憶を取り戻すきっかけになる気配はないようだった。
「隣、いいかな?」
セリスの問いかけに、ユリアはこくりと頷く。
僅かに距離を開けて、セリスはユリアの隣に腰掛ける。
・・・実は、このやり取りは今回が初めてではない。
だが、毎回隣に座ったまま時間だけが過ぎて、会話を交わさずに終わってしまっていた。
話したい事、聞きたい事、知りたい事。
いくらでも話題はあるはずなのに、一言も発する事ができなかった。
アーサーのような気さくさや、ヨハンの詩を謳うような言葉遣いが羨ましく思えた。
「・・・セリス様」
不意に、ユリアの方から話しかけられて、セリスは驚いた。
思えば、声を聞いたことすら久しぶりのように思えた。
「セリス様は、どうして私と一緒にいてくださるのですか?」
どうして。
改めて聞かれると、何故か返答に困ってしまった。
レヴィンに任されたからだろうか。
それとも、この子が「可哀想」だからなのか。
「どうして・・・かな。・・・ごめん、僕もうまく言えないけど・・・」
セリスは少しだけ思案して、ふぅ、と一息つく。
「ユリアが大事だから・・・かな。・・・勿論みんな大事だけど、ユリアは特別な感じがして・・・」
考えた割には曖昧な答えだな、とセリスは恥ずかしそうに頬をかいた。
そんなセリスの表情を、ユリアは何も言わずに見つめている。
「・・・初めて会った時から、不思議な人だなって思ったよ。だから、ユリアを見ていたいんだ。笑顔とかもね」
セリスが一通り喋り終えると、ユリアは俯いた。
表情に変化こそ無いが、明らかに落ち込んでいるようだった。
「ユリア?」
「・・・ごめんなさい」
ユリアの脳裏に、暗い何かがよぎる。
それが何かはわからない。
考えると、どうしようもなく背筋が寒くなった。
「きっと私は、セリス様が思ってくれるような人じゃありません・・・」
紅い何かが、黒く染まる。
白い何かが、紅く染まる。
何かとても大事なものを無くしてしまった気がした。
「・・・ユリア」
セリスは思わずユリアの手を取っていた。
ユリアは自分の手とセリスの顔を交互に見つめる。
自分でも気づかないうちに、ユリアは震えていたようだった。
「ごめん、辛いことを思い出させたかな・・・」
セリスの手が、ユリアの手を優しく撫でた。
心にあった不安が塗り潰されていくようで、ユリアの心が落ち着いていくのを感じる。
「ユリアの過去に何があっても、僕はユリアと一緒にいる」
セリスの手に、力が込められる。
だが、ユリアは不思議と痛みを感じることはなかった。
「これから、ずっとね・・・」
セリスの微笑みに、ユリアは答えることはできなかった。
やがて、照れ臭くなったセリスから手を離し、宿舎に戻るために立ち上がった。
ユリアも立ち上がるが、その場から動かずに、セリスの手が触れていた部分を何度も撫でていた。
その手の温もりが、全身に伝わる。
そんな気がしたから。
この時の会話は、きっと、始まりだったのだと思う。
この後彼らに訪れる苦難、大いなる運命。
その先に待つ未来に、彼らが見出した答え。
いや、それ以上に。
二人の間にあった、確かな感情。
愛と呼べる絆の、芽生えだった。