天啓の泉〜水の恵み Part.1〜

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2017-07-27 20:19:53

私の心に湧き出す泉。
白司書ラブストーリー、第1話。

Posted by @natsu_luv

水沢歩美、20歳、桜川大学3年生であり、特務司書でもある。
帝國図書館の館長さんに声をかけられて、特務司書をしながら大学生活を送ることになった。
この大学の文学部教授の父も私が特務司書になったことを知っていて、私や文豪のみんなを応援してくれている。
今日の授業が終わり、私は差し入れを持って、父の研究室に向かった。
研究棟のエレベーターで3階に行き、研究室のドアをノックして父の所在を確認した。

「お父さん、入るよ」
「あぁ、歩美か。入っておいで」

父にそう言われて、研究室に入ると、相変わらず父は本に夢中になっていた。
本棚にびっしりと入ったたくさんの本は、私の小さい頃からあったものだ。
日本文学、主に詩歌が好きな父は、幼少の頃の私にたくさんの詩や和歌、俳句を教えてくれた。
そのことがきっかけで、私も詩歌と俳句に触れる機会が自然と多くなった。
すると、本を読み終わった父が私に話しかけてきた。

「歩美、授業が終わったんだね」
「うん、これから図書館に戻って司書の仕事だよ。その前にコーヒーとサンドイッチを渡しておくね」
「ありがとう。司書の仕事も順調みたいだね。ただ、図書館でドジをして怪我をしないようにね」
「もう、そんな心配しないでよ。お父さんったら!」

父に茶化されるくらい、私は自他共に認めるドジっ子。
真倫先輩や鈴ちゃんにも周知の事実だ。
私は研究室を後にして、図書館に戻ることにした。
大学のキャンパスも近代風情が残ったレトロな建物で、何処か私の配属された図書館に似ている。
私はいつも歩いて大学と図書館を往復しているのだ。
図書館にたどり着き、私は真っ先に文豪のみんながいる談話室へ行った。

広々とした部屋に大きなソファーとテーブルがある談話室。
文豪たちの憩いの場のひとつである。
そこに設けられている喫煙所から戻ってきた白秋先生を見つけた私は、先生の方へ駆け寄っていった。
白秋先生は私の大好きな先生。
先生の創った詩や童謡は、幼い頃から慣れ親しんできたもので、今でもたまに口ずさむことがあるくらいだ。

「白秋先生、ただいま!」
「お帰り。元気なのは良いけど、暑いから抱きつくのは止めたまえ」
「ごめんなさい、ついつい……
「僕に抱きついてくるのは、朔太郎くんや君くらいだよ」

白秋先生が私をたしなめながら、そっと頭を撫でる。
先生に頭を撫でられるのは日常茶飯事で、実は撫でられることが好きな私である。
先生には話してないけど、おそらく気付いているだろう。
太陽の光が談話室の窓に射し込む。
私は導かれるように外に出て、小さな泉の近くへ行った。

この泉は賢ちゃんと芥川先生が謎の生物を発見したと噂されていた場所でもある。
結局、謎の生物の正体はわからないままだ。
だけど、謎の生物の正体を明かすことよりも、私にとっては泉の水を取り込むことが大事だった。
水に触れないで1日を過ごすと、心身共に渇いてしまうからだ。

靴とストッキングを脱いで、泉の水に脚をつけてみる。
ひんやりとした感触が気持ち良い。
水面に光が反射して、虹のように輝いている。
その輝きに惹かれるように、私は泉の中へ進んでいった。
水が身体に取り込まれ、吸い上げられていく。
普通の人はずぶ濡れになってしまうけれど、私は全く濡れることはないのだ。
泉の水に浸かっていると、近くに来ていた白秋先生に呼び止められた。

「君、こんなところで何をやっているんだい⁉︎」
「あっ、白秋先生! 泉の水で涼んでいるの。気持ち良いよ」
「何を呑気に言っているんだい。ずぶ濡れになってしまうじゃないか」
「私なら大丈夫だよ」
「やれやれ、君は本当に変わった子だね……

泉から上がり、白秋先生の元へ向かう。
身体も服も濡れていない私の姿を見て、白秋先生は少し驚いた様子だった。
ストッキングと靴を履き、私は白秋先生と一緒に木陰で休憩をとることにした。
木の幹を背もたれ代わりにして、先生と隣同士になるように座る。
先生は相変わらず煙草を吸っていた。

「不思議だね……。何故、泉に入ったのに全く濡れていないんだい?」
「私、普通の人と違うんだ。身体が水を吸い上げるから、全然濡れないんだよ」

私は自分の特異体質のことを白秋先生に話した。
生まれた時から持っているこの体質、不思議に思わない人はいないだろう。
話を聞いていた先生は、私の姿をまじまじと見て考え込んだ様子だった。
そして、再び私の頭を撫でた。

「本当に君は面白い子だね。ますます知りたくなったよ」
「白秋先生……
「だから、僕の前ではありのままでいたまえ。そのままの君を知りたいからね」

私の頭を撫でながら、白秋先生が柔らかな微笑みを浮かべている。
その時、私の心に泉が湧き出した。
恋心に湧き出す泉の水面は虹色に輝き、その光は私の心に温かく優しい気持ちを与えてくれる。
縁結びの神様が創り出した恋心の泉。
その泉に「白秋先生のことが好き」という気持ちを沢山溜めていく。
幸せな気分になった私は、再び白秋先生に抱きついて、愛おしさを込めてぎゅっとしがみついた。


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